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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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颯太の進路

「それじゃ、始め!」



そして遂に始まってしまったテスト週間。颯太は先生の声が耳に入るなりテスト用紙と解答用紙をめくり、問題をぱーっと確認する。



『どれも授業でやった奴ばかりだな。これなら健太と本田もいけそうだ』



と、自分のことよりも人の心配をしていた颯太は首を左右に振ってテストに集中した。



――――――――


――――――


―――――


――――


―――


――




「やめ!全員ペンをすぐに置け!解答用紙は後ろの人が回収するように」


「ふぅ、終わったね」


「あぁ、そうだな。健太と本田は?」



一番後ろの席の颯太と上条は解答用紙を回収しながら健太と本田の様子を見る。すると、2人とも清々しい表情で解答用紙を渡しており、どうやら手ごたえを感じている様子だ。



「大丈夫かもな」


「そうだといいね」



次の日からだった。健太と本田の顔色が悪くなり始めたのは。


火曜日――水曜日と日数を重ねるごとに顔色が変化し、最終日の金曜日には真っ青になっていた。



「皆!お疲れ様!これでテストは全部終わりだから、補修がない限り夏休みは約束されます!」



小町の数学が最終テスト科目となっており、それが終わると同時に健太と本田は机に突っ伏した。



「あれれ?健太くんと本田くん大丈夫?」


「大丈夫だと思いますよ」


「そう?2人とも私に数学を教わりに来たからびっくりしたのよ。いい点数だといいね。それじゃ、帰りのホームルームを始めるから皆すぐ帰る準備をして」


「へえ、健太と本田が小町先生に勉強を教わりにいったんだ……」


「雨が降るかもな」


「かもね」



颯太は筆箱を鞄にしまいながら適当に答え、上条もくすりと笑いながら同意してくれた。



「テストも全部終わって、これから夏休みに入るけれど余りはめを外しすぎないように。もちろん無断外泊も危険な場所に行ったりすることも禁止ですよ―――」



小町による夏休みの過ごし方を聴きつつ颯太は、ポケットの中で振動する携帯をそっと気付かれないように取り出す。



『誰だ…?』



顔は小町に向けつつ颯太は筆箱を壁にして机の携帯に視線をやる。

メールを寄越してきたのはクレアだった。颯太は慣れた手つきでメールを開く。



『授業が終わり次第私に連絡をくれ。以上だ』



急な用事なのか、クレアのメールにはそれしか書いておらず、颯太は疑問に思いながらも携帯をポケットの中へとしまう。



「高校生だから夏休みの宿題はないけど、学生の本分は勉学です。1日10分でも30分でもいいから、今期に板書したノートを見返すこと。今覚えていることを短期記憶から長期記憶にどう移せるかが覚える秘訣になるの。でも今勉強していることってさ、覚えたことの8割くらい社会に出ればほんとんど使わないような知識なんだよね」



小町は語る。



「先生のような職に就けば否応にも使う場面が来る。でも、皆はいつか仕事について学校で勉強したことなんかいずれ忘れてしまうんだろうね。それって悲しいことだと先生は思うんだ。もちろん勉強以外にもクラスメイトと過ごした日々や部活で汗を流したことなどいっぱい思い出はあると思う」



小町の声にいつも騒がしいクラスが今はしんと静まり返り、誰もが小町の声に耳を傾けていた。



「少しだけでもいい。少しだけもいいから、先生と一緒に勉強したこと忘れないで。だから、ノートを見返して先生とこんな勉強をしたな~って思い出しながら夏休みを過ごしてくれると嬉しいな。夏休み明けに小テストやるから、その時頭にハテナマークが浮かぶような子は広辞苑を叩きつけるぞ☆」



小町そう締めくくる。するとクラスはいつもの喧騒で溢れ帰り、小町は『今まで静かだったのになんでー!?』と嘆きを声を上げている。



「なぁ上条」


「ん?」



小町の話を聴きながら颯太は隣の上条に話しかけた。



「人の記憶に残るものって結局のところ相手に強い印象を与えるかで決めるよな」


「そうだね。今小町先生が言ったように、どうでもいいことは短期記憶という場所に脳内でまとめられてすぐ忘れてしまう。でも、これは忘れてはいけないことや、とても楽しかったエピソードとか嫌な出来事は自然と脳が長期記憶という枠に分けてしまうんだ。小さい頃の記憶が残っていたりするのはこれのせいだね」


「なんで上条知ってんだ?」


「塾の先生が同じことを言っていてね。興味深かったから僕のほうでも少し調べてみたんだ。まぁ、調べてみたら大学の心理学とかでやる授業らしいけどね」


「へえ……もし俺が行く大学にそういう心理学があったら選考してみようかな」


「単位うんたらできっと取ることになると思うよ」


「大学しだいだけどな」


「―――と、とにかく!それじゃ夏休み明けにまた会いましょう。補修がある子は事前にメールが行くと思うけど、きっと皆は大丈夫だと思います!」



小町は出席簿と解答用紙が入った紙袋をトントンと教卓の上でまとめる。



「皆、楽しい夏休みを過ごしてね。3年生になれば就職活動や大学を目指す子は学校に来ることになって夏休みどころじゃないから、思いっきり遊べるのは今年だけ。悔いのない夏休みを!」



そこで小町は皆を見渡し、最後に香織の方へ向く。そして香織は―――



「起立!!礼!」



1学期最後の役目をこなした。





「颯太くん」


「はい?どうかしましたか?」



携帯を持ってクレアに電話をかけようとしたところに小町がやってきた。



「あ、電話してた?」


「あ、大丈夫ですよ」


「ちょっと悪いんだけど職員室まで来てくれるかな?」


「ん…?分かりました。上条、先に帰っていてくれ」


「あぁ、了解。それじゃまたね」



上条と途中まで一緒に帰る予定だったが、待たせるのも悪いと思って颯太は上条を先に帰らせた。



「小町ちゃんまたねー!」


「はーい。夏休み中も勉強しっかりするんですよ」



小町の後ろをついていきながら颯太は改めて小町の人気に苦笑した。最初見た時は頼りなさそうな先生だと思ったが、実際授業や話を聞いてみれば見た目とは打って変わって情熱深い先生だと考えを改めさせられた。



「失礼します」


「どうぞ~」



テスト期間も終わったので生徒の出入りがある職員室に颯太は一度頭を下げ、そして小町の跡に続いて彼女のデスクへとやってきた。



「そこの椅子に座って」


「はい」


「それで話なんだけどね」



颯太が鞄を置いて椅子に座った時を見計らって小町は話を切り出した。



「今颯太くんって家庭教師しているよね」


「はい。あそこのバイト募集掲示板から」


「ホントあれ助かったんだよ~。先生ね、ここに来る前そこで家庭教師のバイトしていて抜ける時に誰か代わりの子見つけてきます~って言って安請け合いしちゃってさ……」


「人少なかったんですか?」


「そうなのよ……他の家庭教師のところは分からないけど、ここらへんの地域で家庭教師やってくれる人ってなかなかいなくて、この学校に呼ばれた時泣く泣くやめたの」


「俺、家庭教師を雇う学生や子供って少数だと思っていました」


「それはちょっと偏見かな。今の塾は個別指導とかやっている所が多いけれど、それでもやっぱり一番自分が慣れた環境で先生とワンツーマンで勉強することはかなり効果的なんだよ」


「あ~確かに周りの目を気にすることもなく勉強に専念できることは素晴らしいことですよね。実際俺が教えている子も学校で皆と勉強するより1人の方が遥かにやりやすいと言ってました」


「うん、颯太くんも家庭教師をやってみて色々分かってきたみたいね」



小町は颯太の言葉を聞いて満足そうに頷いた。



「おっと、少し脱線しちゃったね。えーっと……」



小町はそこではっと思い出したかのように机の引き出しを開けて何やら探し始めた。



「颯太くんは、もう進路先とかは大体決まっている?」


「そうですね……大学に進みたいとは思っていますが、どの大学に進もうと思っているかはまだ決まっていません」


「颯太くんの成績なら十分大学目指せるもんね――――あ!あったあった!」


「ん?」


「もし颯太くんがこれに興味があるのなら、先生この大学に推薦してあげようかなと思っているんだけど…」


「これは……?」


「教員資格が取れる大学。先生の母校でもあるね」



小町が取り出したタイトルには『教員資格を取るならここ!』と書かれた大学のパンフレットだった。



「最近颯太くん明るくなった気がするし、成績もぐんぐん伸びてきている。まだ時間があるから他の道も見つかるかもしれない。だから、これも1つの候補として考えておいて」


「教員資格か……」


「親御さんともしっかり相談しながら自分の道を決めてね」


「はい」


「それじゃ私の話は終わり。呼び止めちゃってごめんね」


「いえいえ、自分の進路を改めて見つめ直す良い機会になりました」


「それなら良かった」


「でも、どうして俺なんです?香織さんとかでも良かったんじゃ…」


「颯太くんの意見は最もだけど、さっき本田くんと健太くんが先生に勉強を教わりに来たって言ったじゃない?」


「ええ、はい」


「その時にね、あの2人が颯太くんのこと言っていたの」


「ん?なんてです?」


「教え方がとてもうまくて、俺たちが分からないと思う場所を予め教科書にメモっていたって」


「……あいつら…見てやがったのか…」


「ふふふ…―――それで私は颯太くんを推薦しようと思ったの」


「そういうことだったんですか…」


「まだ時間はあるし、ゆっくり考えてね」


「分かりました。今日はホントにありがとうございます」


「うん。それじゃまたね。良い夏休みを」


「はい、先生さようなら」



颯太はパンフレットを片手に椅子から立ち上がると、小町へ深く頭を下げて職員室を後にした。



「教師かぁ……」



鞄を教室に置いたままだった颯太は教室を目指しながらそんなことを呟くのであった。




「あれ?天風くんそれなに?」


「ん?まだ残っていたのか」



教室に戻った颯太は、いつもの3人組を見つけた。歩美は颯太の右手に握られているパンフレットに目をつけて近寄ってくる。



「ちょっと委員長の仕事が残っていてね」


「私と歩美は香織の仕事が終わるまで待っているの」


「なるほど」


「それは?」


「大学のパンフレット。小町先生から教師を目指さないかって言われてさ」


「教師!?」


「え、天風くん教師になるの!?」



歩美にパンフレットを渡しつつ自分の席の脇に下がっている鞄を手に取る。颯太の言葉にパンフレットを見ていた歩美は顔を上げ、千代も香織も驚いている。



「いや、まだ分からないけど、もし目指すのなら推薦してあげるって言われた」


「颯太くん、家庭教師やっているもんね…」


「天風くんが教師か~……なんか全然想像できないな」


「はは、同級生で教師を目指す人ってなかなかいないもんね」


「家庭教師の子を教えているうちに教師というのも悪くはないと思っていたし、一応候補として考えてみるつもりだ」


「でも、2年の夏で先生から推薦してやるって言われるのは凄いことだよね。確か、もう大学の推薦枠勝ち取ったのって上条だけでしょ?」


「そうだな。勝ち取ったわけじゃないが、確定されている。まぁ上条は元から分かっていたことだが」



颯太は机の中の教科書やノートを鞄に全部しまう。



「3人はもう考えているのか?」


「ん~私は専門学校かな。どこに行くかは決めてないけど」


「わたしも歩美と同じ専門に行く予定」


「私は……分からない」


「まぁ、まだ2年だしな。進学とか就職とか言われても実感が沸かないよな」



颯太はそう言って歩美からパンフレットを返して貰うとそのまま教室を出て行ってしまった。



「天風くん最近ホント変わったよね~」


「うん……なんだろう…颯太くんは先に行っちゃってる感じがして、私だけなんだか置いていかれているみたい…」



少し前の颯太は目標がないとか、そんな風に言って周りを気にし、どんどん先を行く周りを見てどこか焦っているような雰囲気が感じられたが、今は違う。



「元から天風くんはませていたけど、最近になってそれに拍車がかかったみたい。良いことなんだろうけど、ちょっとだけ寂しいかな」


「お?千代、それどういうこと?寂しいって?恋しいってことか?」


「ち、違うわよ!全く!すぐ歩美はそういう話に持っていくんだから!」


「はっはっは!すまんすまん!って香織どうした?」


「え?あぁ、何でもないわ」


「香織最近元気ないよ?天風くんの話をしてもどこか上の空だし、相談あったらいつでも乗るよ?」


「香織は色々溜め込んでしまうタイプだからな。いつでも相談してこいよ?」


「2人ともありがとう。もう少し自分の考えをまとめられたら2人に話すね」


「おう!」


「うん。待ってるからね」



香織は心配してくれている2人に笑顔を浮かべた。

どうもまた太びです~!


1週間ぶりの更新?ですかね。

えっと、最近草加せんべいにはまっておりまして、あの硬さと醤油の味がたまらないんですよねぇ……。

甘いせんべいは余り好きではなく、熱いお茶が合うようなしょっぱいせんべいが好きです。私の好物を母親に言ったところ、年寄りくさいと言われて『確かに』と自分でも頷いてしまったくらいです。

私の好物は『たい焼き』『ぼた餅』『醤油せんべい』など、餡子系を使ったお菓子が好きでして、姉は逆に『抹茶』系などのお菓子を好んで食べますね。

姉弟揃って和菓子系が好きなようですね。うん、最近洋菓子食べてないです。


まぁこれもお菓子の製造会社で働く父親のせいですね

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