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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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颯太とレーナの選択

「ねえクレア」


「ん?どうした?」



クレアの家でお絵かきをしていたレーナは、コーヒーを飲みながらパソコンを操作するクレアを呼んだ。



「颯太にね、悩めって言われた」


「悩め…?一体何を悩んでいるんだ?」


「皆知っているけど、私はランゲージバトルでいっぱい人を殺しちゃった」



レーナは颯太の似顔絵を描きながら言葉をポツリポツリと漏らす。



「そうだな」


「やっと、自分のしていたことが間違いだって気づいたの」


「あぁ、それで?」


「だからね、私はこれからどうすればいいのか分からなくなっちゃったの」


「なるほどな、大体の事情は読めた」



クレアは眼鏡を外し、静かにケースにしまうと椅子に背を預けた。



「レーナ、颯太は君に課題を与えているようだ」


「うん。まだ終わりが見えない課題だけど、そのうち終わりが来るって」


「そうだな、いつか終わりは来る。でも、終わらせるのはレーナ、君自身だ」


「どうやって終わらせるの…?」


「ふむ、このままではレーナが余りにも可哀想だ」



クレアはコーヒーカップに口をつけながら考える素振りを見せてからレーナと向き合った。



「私も神器を壊してしまった。神器は人だ。どうしようもなかったとは言え、私は図らずにしも人殺しやってしまったわけだが、レーナの場合はもっと深刻だ。レーナ、君が殺した人の顔は覚えているかい?」


「ううん…ご主人だけ」


「そうか、ならそのご主人は笑っていたかい?」


「私の前では笑わなかったけど、おばあちゃんとおじいちゃんの前では笑ってた」


「なら、どうすればいいかもう答えは出ているんじゃないのか?」


「え?」


「…………ふむ、ならもう少しヒントを与えよう。レーナ、今君は笑っているかい?」


「ううん?」


「そうだな。今は笑うどころか悲しみに浸りきっている。さて、今君は思考の袋小路にいる。きっとここを抜け出せるまで笑う日は来ないだろう」



クレアはコーヒーカップを置いて立ち上がり、キャンバスノートを手にとってなにやら描き始めた。



「さぁレーナ、ちょっとした問題だ。この袋小路をどう抜ける?」



クレアがレーナに見せたのは文字通り袋小路の絵だった。



「壊すのダメ?」


「ダメだ。ちゃんと正当な方法でこれを攻略するんだ」


「むぅ……」


「難しいか?でも考えて貰うぞ」



クレアは考えるレーナに微笑み、床に腰を下ろす。



「ねえ、これ前に進めないよね」


「あぁ、袋小路だからな」


「なら後ろしか道はないんじゃないの?」


「そうだ。それで正解だ」


「え?」


「レーナ、さっき私は今笑っているかいと言ったな?」


「うん?」


「で、レーナは今笑っていないと言った」


「うん……」


「私はレーナが笑っている姿が大好きだった。颯太もレーナの笑顔が好きだったはずだ。レーナ、君の前のご主人は笑っていたそうだな。そこでその笑顔を見たとき何を感じた?どう思った?」


「とても幸せそうで……明るい笑顔だった…」


「うんうん、ならレーナはどうすればいい?」


「えっと…私も笑っていなくちゃ…」


「でもレーナ、強制された作り笑いほど冷たいものなどない。だからね、君は悲しみを振りまく笑顔ではなく、日輪のような明るい笑顔を浮かべなきゃならないんだ」


「私に…できるかな…?」


「出来るさ。私が保証する」



クレアはキャンバスを閉じて下に置く。



「笑いなさい。どんな辛いときもどんなに悲しいことがあっても笑顔を絶やしてはいけない」


「うん…!」


「悲しみを笑顔に変える。それがレーナがなすべき課題であり、罪なのだ」


「ありがとう、クレア」


「そうそう、その笑顔だ。私はその笑顔が大好きなんだ」


「えへへ、そうかな?」


「あぁ、レーナは笑うととても可愛いぞ。君の武器は混沌ではなく、笑顔だな」



クレアに頭を撫でられてレーナは日輪のような笑顔を浮かべた。



「さて、買い物に行こうか」


「うん!行くいく!」


「そろそろ颯太達も夏休みに入るはずだ。そこで前々から計画していたのだが、皆でこの夏どこかキャンプに行きたいと思っていてね」


「キャンプ?」


「あぁ、外にテントを張ってそこで皆と寝泊りをするのだ」


「それって楽しいの?」


「楽しいはずだ。昼は魚釣りや川遊び、海ならばビーチバレーやスイカ割りもある。夜になれば肝試しや花火もする。もう遊びつかれて動けなくなるくらい遊びつくそう」


「凄く楽しそう!それで今から準備に!?」


「あぁ、そうとも。では、行くぞ」


「うん!キャンプ♪キャンプ♪」


「はははは、まだ気が早いぞ。これから皆予定と合わせながら計画せねばな」


「買い物レッツゴー!」



すっかり元気になったレーナを連れてクレアは車に乗り込む。



「よっと」


「それは私のサングラスだが?」


「いいのいいの」


「ふふ、そうか」



クレアのサングラスをかけたレーナは慣れた手つきでシートベルトを締める。それを見ていたクレアは少しだけ微笑んでアクセルをゆっくりと踏み込むのであった。




「一度休憩しよう」


「は~い」



木曜日と言えば家庭教師の日であり、来週からテストがあったとしてもそれは変わらない。

千草の勉強を見ていた颯太は、休憩時間になるなりバッグからノートを取り出して復習を始めた。



「なにしているの?」


「来週からテストがあってさ、少しでも勉強しておかないとやばいからな」


「来週からテストなんだ?私の勉強見ている暇あるの?」


「バイトなんだから仕方ないだろ」


「ふぅん…まぁ私の勉強を見ているのはお金のためだもんね…」


「ん?なんだって?」


「べ、別に何でもないわよ!」


「何をそんなに怒っているんだ…?」



颯太は千草が何で怒っているのか理解出来ず、むくれ顔になりながらも千草から目をノートに戻す。



「ねえ、最近レーナの元気がないみたいだけど、何かあったの?」


「あったが、多分もう少ししたらいつものレーナに戻すはずさ」


「そう」


「いつもレーナと遊んでくれてありがとな」


「え?べ、別に礼を言われるようなことじゃないわ」


「あぁ、それでもレーナは嬉しがっていた。千草ちゃんと遊んだ日は毎度のことのように何をして遊んだとか、ゲームで何回勝ったとか、そんな話ばかり聞かされる」


「全くレーナったら…」



呆れながらも満更じゃない様子の千草は口元を吊り上げる。



「いつか、レーナも学校に行かせてやりたい」


「え?レーナって学校行ってないの?」


「あぁ……ちょっと事情があってな」


「何かの病気?」


「まぁそんなところ――――千草ちゃんと同じ学校に行ければきっと楽しい毎日が待っているはずだ」


「そうね。私がいれば退屈な毎日なんて過ごさせないわ」


「もしレーナが学校に行けるようになったら友達として良くしてやってくれ」


「ええ!私に任せなさい!」


「あぁ、頼んだぞ」


「それにしても急にどうしたの?そんなこと言って」


「いや、特に意味はない。ただ何となくな」


「そうなの?」


「あぁ、そうだ。それじゃ、そろそろ再開するか」


「あ!トイレ行って来る!」


「すぐ戻って来いよ」


「分かってるわ!」



颯太との会話に夢中になっていた千草は慌てて部屋を飛び出していった。



「俺は負けられない……負けられないんだ…」



自分にそう言い聞かせるように呟き、顔を伏せる。

そして颯太は銀二のゲオルギウスの一撃を思い出す。あの拠点を一撃で破壊した光のブレスを。



「勝てるのか…?いやいや、勝たなくちゃいけないんだ」



負けるつもりは一切ないが、それでも相手は自分よりも遥かに格上なのだと頭では分かってしまっている。



「どうすればいいんだ…!」


「颯太お待たせ!ってどうしたの!?」


「あ、いや…なんでもない。ほら、勉強を再開するぞ」



暗い表情で俯いている颯太を見た千草は慌てて近寄り、彼の顔を覗き込むが、それを颯太は跳ね除けて立ち上がる。



「ホントに大丈夫なの?今日の颯太、少し変よ?」


「大丈夫だって」


「颯太、リラックスリラックス。肩に力が入りすぎているわ」


「あぁ、リラックスだな。ありがとう」


「良いってことよ」



颯太は今は考えるべきではないと思って思考をクリアし、千草の勉強を再開させた。




「ただいま」


「颯太おっかえりー!」


「うお!?レーナ!?」



バイトが終わり、家の玄関の扉を開けるとレーナが颯太の下へ飛び込んできた。



「今まで心配かけてごめんね。もう私は大丈夫!答えを見つけたから!」


「クレアさんにヒントでも貰ったか?」


「うん。過去のことに悔やんでももう仕方がないし、殺してしまった人たちの分まで笑顔で全力で生きるって決めたの」


「それでいいんだ。過去の過ちは一生自分に憑きまとうものなんだ。だからそれをどう受け入れて、これから生きていくか。それが大事なんじゃないかなと思う」


「颯太、早く着替えてくるといい」


「クレアさん。レーナの件、ありがとうございました」



リビングから顔を出したクレアに颯太は頭を下げる。



「ふふ、私は颯太の重荷を減らせることが出来て満足だよ。さぁ、和彦君もお義父さまも帰ってきている。あとは君だけだ」


「はい!」


「お腹減っているから早くねー!」


「了解だ!」


「言っただろう?颯太はレーナの笑顔が大好きだと」


「うん!颯太なんか元気なかったけど、いつもの颯太に戻ったみたい!」



階段を駆け上がっていく颯太の後ろ姿をクレアとレーナは見ていた。





「なぁレーナ」


「ん?」



下でクレアと和彦と父さんが酒を飲んでいる最中、颯太は自分の部屋で勉強していた。



「俺、もっと強くならないといけないと思うんだ」


「ん~まぁ確かにこの先武器変形と混沌支配だけじゃちょっと辛いかもね」



レーナは今日クレアに買ってもらった1000ピースのパズルに挑戦しており、『う~ん…』と唸りながらパズルと格闘していた。



「混沌支配だって触れなきゃ判定が起こらないし、武器変形だってただ器用になっただけだ」


「でもさ、どうするの?現在一番火力が出るスキルと言えば雷撃だけど、それ以上求めるとなると流石に厳しいよ」


「ん~そこなんだよな……」



颯太はペンを回しながら思考に耽る。



「あッ!」


「ん~?」


「なぁ、今からとんでもない事を言うかもしれないが、何も言わずに聞いてくれるか?」


「ん?いいよ?」


「覚醒能力を扱えるようになりたい」


「颯太、それ本気で言ってるの?」



それを聞いたレーナの手が止まり、ジロりと颯太を睨む。



「本気だ」


「ねえ、使った後自分がどうなったか覚えているよね?」


「もちろんだ。それを承知で頼み込んでいる」


「………はぁ…」



レーナは呆れて頭を掻くと、パズルをやめて颯太の前に立つ。



「颯太、どんな苦痛も耐えると約束出来る?」


「あぁ、出来る」


「そう…――――今颯太の左目には私の力が備わっているよね」


「混沌の目だろ?」


「うん。肉体共有によって私から颯太に移植した左目。でも、戦いが終わればちゃんと元に戻るんだけど…」


「だけど…?」


「颯太がこれ以上私の力を望むのなら本当に身体の一部を貰わなくちゃならない」


「え…!?」


「今は私の力を借りている状態だけど、今度のは違う。本当に私を取り込む肉体共有をするから、生半可な気持ちでやると取り返しのつかないことになるよ」


「ちなみに左目をささげると言ったら…?」


「失明するよ」


「あぁ……マジか…」


「ランゲージバトルが続いている間はちゃんと左目は颯太の一部として機能するけど、ランゲージバトルが終われば……」


「なくなるって事か……やっぱり力を求めるってことは何かを犠牲にするってことなんだな…」


「うん……でも、代償にした価値は大きいよ。颯太が暗黒大陸を自由自在に使えるようになれば間違いなく”勝てる”」



颯太はレーナの『勝てる』という言葉に反応し、生唾を飲み込む。



「どうする…?この力が欲しい?」


「俺は俺は……―――――!」

どうもまた太びです!


感想を何通かいただき、その中で私も前々から気になっていたことがあり、それを指摘されたので皆さんに聞きたいなぁ…と思ってここで書かせていただきます。


えっと、その感想には『あらすじが長い』とありまして、私もこんな長ったらしく書いていいのかな~何て思いながらゴーサインだしてしまったんです。

ということで、今回新しくあらすじを書いてみたのですが、短いですかね……?

出来るだけシンプルに、そして分かりやすくを重点的にしてみたのですが………。


あらすじは人を呼び込むものですから、本当に気が抜けません。

もし『ここをもっとこうしたらいいかも!』とかありましたら気軽にご感想をください!

本当にお待ちしておりますから!(迫真

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