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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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戦いの終わり

「よう、どうやらお前さんのとこの拠点が落ちたみたいだぜ」


「………」



銀二の声に男は燃え上がる赤側の中央拠点を一度だけ見ると構えを解き、銀二に背を向けて歩き出した。




こうして青側と赤側による大決戦は青側が勝利することで終了する。勝利とは言いがたい余韻を味わった颯太達4人であったが、青側はこの勝利に打ち震え、歓喜した。



「皆さん!本当に今夜はお疲れ様でした!」


「あれ?颯太くんは?」



加山の熱が入った演説の最中、香織は颯太の姿が見えないことに気づいた。



「お?さっきまで一緒にいたんだけどな」


「あぁ、颯太ならさっきアジトに行くって言ってた。宴が始まったら呼んでって」



そんな香織の疑問に詩織が答える。



「颯太は疲れていたからな。少し休ませてやってくれ」


「そうですね」


「そういうクレアさんは大丈夫なの?目の下にクマできてるよ~」


「大丈夫だ、問題ない」


「それ…大丈夫じゃないでしょ…」


「う~……ユキナは眠いから落ちるね…」


「ええ、ユキナちゃん、今日は本当によく頑張ったね」



眠そうに目蓋をこするユキナの頭を香織は優しくなでる。



「ふみゅ……またね~」



猫のように目を細めて香織に撫でられたユキナは、皆に手を振ってログアウトしていく。



「よくよく時間を見ればもう0時だものね。ユキナちゃんには辛い時間だよね…」


「ランゲージバトルに参加した以上仕方ない」


「あ、滉介目が覚めたんだ」


「さっきな」


「滉介もお疲れ様だったな。聞いたぞ、ゲンブに勝ったらしいじゃないか」


「あれはマグレみたいなものだ。2度目はないな」


「謙遜も滉介らしいな」


「別にそういうわけじゃ…」



クレアはくすくすと笑うと壇上に銀二が上がってきた。どうやら北に帰らず、今夜はこちらの宴に参加するらしい。



「まずはお疲れさんってとこだな。まだ戦いは続くが、赤側の中央を落としたのは大きい。これからは中央を起点にして波状攻撃を仕掛ける予定だ」



『しっかしまぁ』と言って銀二は一度言葉を切る。



「まさか泥沼化すると思っていた中央がこうも簡単に落とせるとは思わなんだ。ま、作戦を提案した混沌には感謝しておくか。ここにはいねえようだが」



銀二の言葉により、混沌に対する評価が変わり始めていた。



「さて、今夜は思う存分飲んだり食ったり大騒ぎするといい。最後は1人だけになっちまうゲームだが、今は仲間と掴んだこの勝利を存分に味わおうや。さぁ!宴の始まりだ!!加山!準備は出来てんだろうな!」


「はい!既に料理は出来ています!皆さん!運んできてください!」



加山が手の平を数回叩けば加山の部下達がテーブルと更に盛られた大量の料理が次々と運び込まれ、プレイヤー達は驚嘆の声を上げる。



「酒もある!うまい飯もある!これ以上に何を望む!?あとは食って喋って倒れるだけだ!さぁ!戦士達よ!飯に食らいつけー!」


『うおおおおおおおおお!!』



運び込まれたご飯へ一斉に飛びつくプレイヤー達を銀二は満足そうに眺めていた。



「さ!俺達も食いに行こうぜ!ほら滉介!行くぞ!」


「お、おい!引っ張るな!」


「あ、わたしも食べる…」


「それじゃ、あたしは颯太呼んで来るね」


「あぁ、頼んだぞ。颯太がいなければこの宴の意味がない」


「颯太くん寝ているの?」


「かもね~。眠そうだったし。でも、ログアウトしなかったのは颯太なりのリーダー意識なのかな?」


「そうだろうな。ああ見えて颯太は責任感を持っている。自分だけ落ちるわけには行かないと思ったのだろう」


「クレア…食べないの?」


「あぁ、今取りに行く。それじゃ、颯太は任せたぞ」



クレアは皿いっぱいに焼きそばを盛った伊澄を連れて食べ物を取りにいった。



「………」


「どうしたの?」


「香織って」


「うん?」


「颯太のことどう思っているの?」


「え……」


「それじゃ、あたし颯太のこと呼んでくるから」



詩織はそう言って人ごみに紛れながら去っていった。残された香織は身体が麻痺したように痺れ、詩織が放った言葉を理解できずに立ち竦んだ。



「いただきます」


「ねえ、最近レーナちゃん元気ないけど何かあったの?」


「いや?考え事でもあるんじゃないのか?」



次の日の朝、いつもどおり颯太とレーナが朝ごはんを食べていると洗い物をしていた母さんが話しかけてきた。


まさか人を殺してきたことに対して悩んでいるとは言えるわけもなく、颯太は恍けることしか出来なかった。



「ま、そういうのは本人の悩みだ。母さんも変に突っ込まないでくれよ?」


「ええ、そこは分かっているわ―――レーナちゃん、今日はどこか行く予定はあるの?お母さんこれから会社だからレーナちゃんを1人で家に置いておくわけにも、ね」


「今日もクレアのお家行って来る」


「なら、はい。お弁当」


「ありがとう」


「……――――それじゃ、俺も学校に行って来る」


「気をつけてね」



颯太はテーブルの下に置いたカバンを肩に下げ、椅子から立ち上がると向かいに座るレーナに近寄り頭を撫でる。



「レーナ、ゆっくりでいい。ゆっくり悩んで、自分が納得いく答えを見つけろ。もし道に迷ったら気分転換に外でも歩け」


「それで見つかる…?」


「分からない。無責任な言い方かもしれないが、これはお前の問題だ」


「うん…」


「お前に与えられた課題はとてつもなく膨大で、とても終わりが見えそうにない。だから悩むのも無理もない。だけど、物事には終わりというものが必ず存在する。だから今は霧で前が見えなくてもきっと終わりはそのうち見えてくるはずさ。それはまだまだ先かもしれないし、案外もう終わりかもしれない。だからな、大丈夫――ゆっくりでいい――しっかり悩むんだ」



颯太はレーナの頭を最後に優しくぽんぽんと叩いてから家を出て行った。



「なんだか最近やけに颯太が大人びてきたような……誰の影響かしら」


「クレアかもね」



颯太とレーナのやり取りを見ていた母さんは顎に拳を当てながら首を傾げていた。それにレーナは小声で答え――――



「お母さん、クレアのお家行って来る」


「あら、それじゃ行ってらっしゃい。車に気をつけるんだよ」


「はーい!」



晴れやかに可愛らしいショルダーバッグを肩に下げて家を出た。



「うごごごごごご…!!」


「おい、俺の机で何を唸っている」


「あぁ、颯太。おはよう」


「おはよう。なぁ、健太は何をしているんだ?」



学校に着くと自分の机で唸っている健太を発見し、颯太は眉間にしわを寄せながら自分の椅子に座る。



「それはね、来週からテストが始まるからだよ」


「あッ!?」


「あああああああ!!俺の近くでテストの話をするなあああ!!」



颯太の質問に上条が答え、颯太は目を見開き、健太は頭を抱えて首を何度も縦に振る。



「健太はともかく颯太は何で驚いているの?」


「か、か、完全に忘れていた…!」


「なッ!?え、嘘でしょ!?しっかり者の颯太がテストの日付を忘れていた!?」


「おお!!颯太もノー勉か!仲間だな!」


「お前と一緒にするなよ………―――きょ、今日は何曜日だ?」


「今日は木曜日。ちなみに来週の月曜日からね」



涙を浮かべて颯太の手を取ろうとする健太の手を跳ね除け、颯太は上条に日付を聞きつつカバンの中からファイルを取り出す。



「月曜日は何が…!」


「月曜日は数学と現代文だよ」


「数学と現代文か…!」



颯太がファイルからテストの予定表を取り出す前に上条が答えてしまう。



「えーっと…」



ファイルの中から予定表を見つけた颯太は慌てて科目の曜日を確認し始めた。



「しっかし颯太がテストの曜日を忘れるって何があったの?」


「ちょっと最近用事が立て込んでいてな。日付の感覚が狂っているんだ」


「あ~家庭教師のバイト始めたしね。そりゃ疲れて日付の感覚も狂っちゃうか」


「まぁそんなとこ」


「ようよう、どうしたよ?そんな辛気臭せえ顔揃えて」


「本田か……」


「おん?颯太、何見てんだ?」



そして本田も加わり、いつもの4人グループが完成する。本田は唸っている健太の背中を叩きながら颯太が持っている紙を見せるように言う。



「本田、後悔するよ?」


「あぁ?紙一つで後悔ってどういうことだよ。ほらほら、颯太見せてみ」


「俺は知らないぞ」


「僕も知らない」



粗方予定表を頭に叩き込んだ颯太はテストの予定表を本田に渡す。先ほどまでニコニコと笑っていた本田だったが、案の定その顔は凍りつく。



「あ…あぁ……」


「ほらね」


「お前もか。なぁ、部活している奴らって皆こうなのか?」


「そうじゃないと思うよ。ただ単に健太と本田が不真面目すぎるだけだよ」


「俺もやることはやっていたからな……」



棒立ちで腕をぷらーんとさせている本田から紙を奪いつつ颯太は言葉を零す。



「で、颯太。何とかなりそう?もしダメなようなら勉強教えてあげてもいいけど」


「あぁ、そこは大丈夫だ。平均点を取るだけなら問題ない。気を遣わせて悪いな」


「いや、大丈夫だよ。ほら、健太と本田もやれば出来るんだからさ。今からでも少し勉強しよう?」


「で、出来るのか…?」


「ほ、ほんとか…?俺、赤点取らないで済む…?」


「いや、そこは本人の頑張り次第だけど、2人なら大丈夫だよ」



顔に生気が戻ってきた2人は救いを求めるように上条へ近寄る。



「よし!今週の土日は勉強会を開くぞ!颯太!お前も参加しろ!」


「え!?お、俺も!?」


「学年主席の上条先生に教わることが出来んだぞ!?何が不満なんだ!」


「い、いや俺別に1人で勉強できるし」


「水臭いこと言うなよ!ほら、皆で頭を使えば分からない問題も解けるはずだろ!?」


「おいおい、さらっと自分を戦力に加えるな」


「って言っているけど、颯太はどうする?ダメなら無理には言わないけど」


「………シャーないな。いいよ、俺も参加するよ」


「おっしゃー!昼飯は全部健太が奢るからよ!ガンガン勉強しようぜ!」


「あぁ!?なんで俺が!?」


「お前最近彼女出来て調子乗っているからな!そんぐらい奢れや!」


「んだと!?お前こそレギュラー入りしてちょっと女子にモテ始めているって噂じゃねえか!」


「それにしても颯太、変わったよね」



醜い喧嘩を始めた2人を尻目に、上条は颯太に話しかけた。



「そうか?何も感じないけど」


「いや、変わったよ。前はどうも近寄りがたい雰囲気が出てて、誘ってもいつも断られるのがオチだったけど、なんだか最近の颯太は明るい感じがする」


「上条が変わったと言うのならそうかもな。いや、変わったんだろう」


「うん、良い方向に変わっているよ」


「そうか…」



颯太は窓の外に視線を移す。



『レーナ、お前だって変われるんだ』


「こらー!そこ何しているの!」


「や、やべえ小町ちゃんだ!」


「本田!覚えておけよ!」


「そっちこそ後でな!」


「2人ともホームルームが終わったらこっちに来なさい!」


『ひいいーー!!』



今日も騒がしい1日が過ぎていく。それを颯太は退屈だとは思わない。少し前までは退屈だと思っていた日常が今ではかけがえのない1日に変わっていた。

ほんの数ヶ月で颯太は数々の出会いを果たした。レーナ、香織、アルテミス、竜也、ボルケーノ、クレア、ニヴルヘイム、詩織、琥太郎、伊澄、ガンドレア、滉介、リーナ、ユキナ、ビャッコ、千草、倭、薫。

それは颯太の人生に大きな影響を及ぼし、彼をまた1つ大きな人間へと成長させたのだ。


少し前にクレアの受け売りで千草に言ったことを思い出した。『人との繋がり、出会いを大切にしろ』と。

それは図らずも颯太を成長させ、今では目標すら出来た。



颯太はそこで初めて自分の過去を思い出して後悔した。何故長い時間自分の殻にこもっていたのだろうと。



「でも、後悔先に立たずって言うしな…」


「どうしたの?」


「いや、何でもないさ。よし、今日も1日頑張るか」


「そうだね。今日は前科目テスト前のおさらいになりそうだし、しっかり聞いておかないとね」


「あぁ、もし書き忘れたら写させてくれ」


「うん、構わないよ」



颯太は1時限目の用意をしつつ上条にそう言い、対する上条は笑顔で応じるのであった。

おはようございます!またはこんにちは!それともこんばんは!どうも!また太びです!


北と中央を攻め落とした颯太達は前回話したとおり、これから日常編を多めに展開していくことになります。

珍しく何を書くのか決まっているので、一応あげて置きますと『恐怖のテスト習慣日』『皆で楽しい楽しいお泊り会』『レーナと遊園地へお出かけ』っとこんなところですかね。

もしかしたら改変されるかもしれませんし、物語の都合上やらないかもしれません。これはあくまで予定ですから、やるかやらないかは私の腕次第です。

えーっと後書きなので言ってしまいますが、今回の話を見て貰ったとおり、まず予定としてあげていた『恐怖のテスト習慣日』編に入ります。別にそんな長ったらしい話を展開する気などありませんので、さらっと行きたいと思っています。

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