勢力戦勃発23
「ぐうううう!!!」
「うまくガードしているな。一度でもレーナに触れれば終わるって事はさすがに理解しているか」
「お前ホントむかつく!!」
ユーノは気づいているのか分からないが、徐々にひびが入っていく神器に颯太は顔を歪ませる。
いや、頭に血が昇っていて気づいていないだろう。
颯太はわざとユーノにガードさせるように攻撃していた。あくまで颯太とクレアの目的は双子の神器の破壊。
「ほら、俺を倒せばお前の大好きなお姉ちゃんとやらに会えるぞ」
「お、お姉ちゃん……そうだ、お前を殺せば!お前がいなくなれば!!!」
「来いよ」
「あああああああ!!」
飛び上がってチェーンソーを振り下ろしてくるユーノの攻撃を避けながらハンマーに変え、颯太が避けたことによって地面に突き刺さったチェーンソーへハンマーを横から殴りつける。
ピシ――――…!
「さっきからちょこまか動きやがって!」
「………」
ガキイイイイイイイン――――ッ!!!!
大剣とチェーンソーがぶつかる。ユーノは怒りのあまり我を忘れているが、颯太は冷静だった。
「なぁユーノ―――」
「待たせたな、颯太」
「―――ッ!?」
そこへ颯太とユーノの間に割り込むように氷の大剣が地面に突き刺さった。
「クレアさ―――なッ!?」
「お、お姉ちゃん…!?」
クレアが左手で引きずってきたカレラは血だらけだった。意識がないのかユーノの声にも反応せず、服も血のせいで赤黒く染まってしまっている。
「ほら、お前の姉だ」
「お姉ちゃん!!」
クレアはゴミを捨てるようにユーノの近くにカレラを放り投げる。ユーノは武器を捨ててカレラに覆い被さるように姉の肩を揺する。
「クレア…さん……」
「颯太、今から私は君の師匠としてあるまじき行為をする―――………それを見たくなければ早々にこの場から立ち去ることだ」
「いや、ここにいます」
「そうか…」
真剣な顔で断った颯太に対しクレアは短く答え、帽子を深く被って氷の大剣を地面から引き抜いた。
「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!僕だよ!?ユーノだよ!?」
「あぁ………ユーノ…」
「お姉ちゃん!」
掠れた声で弟の名を呟いたカレラにユーノは顔を輝かせて抱きついた。
「お姉ちゃん!もう家に帰ろう!?ログアウトすればこんな嫌な場所から逃げられるから!」
「そうね………」
「ほ、ほら!一緒に言おう!?せーの――――うぐッ!?」
「あ……」
そんな2人をクレアは背中から串刺しにした。
「………」
「痛いよぉ……どうしてこんな目にあわなくちゃいけないの…」
「ユーノ……」
涙を流すユーノを無視してクレアはカレラから神器を奪い、ユーノの神器に重ねた。
「ユーノ……これは夢なのよ…」
「夢…?」
「ええ……目が覚めればいつも通りの日々に戻っているわ……だから、今は一緒に眠りましょう…」
「そう……だね…こんなの現実なわけないもんね……うん、僕お姉ちゃんと一緒に寝るよ…」
クレアは目を伏せ、2本目の氷の大剣を生み出し――――
「ノールンスマッシャー」
ひびが入ったウォータナトスへニヴルヘイムの最大火力を叩き付けた。
パキン――――!
「2人は本当にいつも通りの日々に戻ることが出来るだろう」
幸せそうな表情を浮かべながら消えていく双子を見ながら何も言わずに近寄ってきた颯太にクレアは言葉を零す。
「終わったな…」
「クレアさん…」
「……ん?」
下半身が既に消えてなくなっているカレラが今までの表情とは打って変わって穏やかな表情を浮かべながらクレアを呼んだ。
「ありがとう……誰にも届かない私の叫びがやっと……聞き届けられた…」
「……私はただ友の敵をとっただけだ」
「それでもありがとう……私とユーノは救われた…」
「――――………礼には及ばないさ…」
「出来ればレギュンも救ってあげて……あの人も苦しんでいる…」
「あぁ…分かった…」
最後にクレアの隣に立った颯太にカレラは微笑んで弟と共にランゲージバトルの世界を去っていった。
「あの双子は結局のところウォータナトスに精神を支配された被害者に過ぎない。たまたま私達の相手があの双子だっただけだ」
「そうですね……」
「幼子を手にかけるのは想像以上に辛いものだな…」
「クレアさん…」
クレアは振り返り、颯太を強く抱きしめた。颯太はそんな小さく震えるクレアを抱きしめ返す。
「すまない……もう少しだけこうしていてくれ…」
「…分かりました」
ランゲージバトルの戦場に冷たい雨が降り始めた。
「アイアントマホーク…!!」
「くらうかボケ!!」
伊澄は後ろに宙返りしながら胸部のハッチを開いてトマホークミサイルを発射した。それをレギュンはあろうことか着弾直前でトマホークを握り潰してしまう。
「貰った!」
「あめええ!」
炎の壁が竜也の炎弾を防ぐ。
「ブレードトルネード…!!」
伊澄はブレードを前方に展開し、回転して周囲の気流を巻き込みながら炎の壁に突っ込んだ。
「おっと!」
壁を突き破ってきた伊澄の攻撃をレギュンは右の手の平で受け止め、伊澄はぶつかった瞬間にその反動を利用し、宙返りしながら地上に着地するとブレードを広げて格闘戦を仕掛ける。
「あは!お前らやるな!」
「くそ!こっちは2対1なんだぞ!なんで突破出来ないんだ!」
「オラァ!!」
「圧縮ギガブラスター…!」
レギュンは拳から炎の衝撃波を生み出して伊澄を遠ざけると、拳を強く前に突き出してそこから強力な熱線を発射した。
伊澄は口をあけてギガブラスターを発射して相殺する。
「デスペラードミサイル…!」
相殺するなり伊澄はミサイルを撃ってレギュンを牽制する。
「おまけのアイアントマホーク…!」
レギュンにミサイルの雨が降り注ぐなか、伊澄は宙返りながら胸のハッチを開けてトマホークを発射し、再びブレードを構えてレギュンへ突撃した。
『竜也!伊澄を一人で戦わせるな!』
「わ、分かってるけどよ、あいつら速すぎて狙いが定まらないんだ…!!」
『そんなもの根性で何とかしろ!』
「強引過ぎるだろ!」
煙で視界がとてつもなく悪い。しかし、それでも竜也は長銃をライフルに変形させて構えた。
煙の中で拳とブレードが衝突する音が聞こえる。それを頼りに竜也はライフルを強く握りしめ――
「………見えたッ!!」
ガッガウンッ!!!竜也は蓄積弾と炸裂弾を同時に発射した。2つの弾は煙の中に吸い込まれ、そして――――爆発した。
「やったぜ!」
「竜也…ナイス…」
伊澄が煙の中から飛んできて竜也の隣に着地する。
「………」
煙が晴れるとレギュンはクレアが開けた穴から見える空を見ていた。
「……ん?どうしたんだ…?」
「気を抜かないで…」
「あ、あぁ…」
レギュンはしばらく空を見ていたが、息を吐きながら竜也と伊澄に向き直る。
「カレラとユーノが逝ってしまったようだ」
「なんだって!?」
「あっちは無事に成功したみたい…」
「はぁ…興が冷めたわ」
「お、おい!どこ行くんだよ!」
「あぁ?帰るんだよ」
突然レギュンは頭を掻きながら竜也と伊澄に背を向けて歩き出した。
「お前ら、このカリはでけえからな。次会うときは覚悟しておけ」
レギュンはそう言って1つ大きな欠伸をしてからペナルティも恐れずログアウトしていった。
「なんだったんだ…」
「とりあえず何とか助かったみたい……あのまま戦っていたら押し切られてた…」
ガンドレアを解いた伊澄はがっくりと肩を落とした。すると竜也も張り詰めていた緊張感が一気に解けたせいで膝から崩れるように床に尻餅をつく。
「あ~疲れたぜ…」
「竜也…一応ポーション飲んでおいて……まだ残党が隠れているかもしれない…」
「あぁ、そうだな」
自分のHPがいつの間にか2割を下回っていたことに気づき、竜也は慌ててポーションを飲む。
どうやらレギュンの炎の結界は予想以上にHP減少が早いようだ。
「レギュンの炎の結界は10秒にHPの5%を削る結界だから、HP管理には気をつけて…」
「そういうのは先に言ってくれよ…――――んお!?冷たッ!?」
「雨…降ってきた…」
レギュンが消えたことで炎の結界が消え去り、穴だらけの拠点に雨が降り注ぐ。
「………終わったか…」
「うん…」
竜也は雨に濡れることも構わず床に大の字になって倒れた。
「疲れたなぁ…」
「うん…」
床から響く足音は恐らく青側のプレイヤー達だろう。拠点を死守すべく最後の抵抗をしている赤側のプレイヤー達と戦っているのだろうか。
まぁ、あらかた竜也達4人が制圧してしまったため、青側の誰かが作戦室に辿りついた時点で制圧完了となるはずだ。
「なぁ伊澄ちゃん、拠点の耐久値12%だとさ」
「……ホントだ。まぁわたし達結構暴れまわったしね……当然かな…」
伊澄は大の字で寝そべっている竜也の隣に体育すわりで座ると曇天の空を見上げる。
「なんか…拠点奪ったのにあんま嬉しくねえな」
「そうだね……」
「なんでだろうなぁ…」
「……戦争は悲しいものだから…」
「そうだなぁ……ゲームなのに全然楽しくねえよ……なんだよこの感じは…!」
竜也は目頭に手を当てて顔を覆った。
イヤッホォォォオオイ!(国木ボイス)どうもまた太びです。
ついにランゲージバトルもお気に入り登録と評価を含めて300pt達しました!
日頃から読んでくださっている方には感謝以外の言葉がありません!
本当にありがとうございます!
さて、今回で北側と中央拠点の同時攻略に成功した颯太たち青側。ここでひと段落がつき、これから日常編に戻ります。もちろん勢力戦の話もちょくちょく入れていきますが、日常編のほうが多めになると思います。
皆さんがくすりと笑っていただけるようなそんな日常編を展開して行きたいと思っていますので、どうぞこれからもよろしくお願いします!




