勢力戦勃発21
「加山さん!」
「どうしましたか?そんなに急いで」
場所は青側中央拠点。加山は難しい顔をしながら作戦室へ入ってきた部下を出迎える。
「北拠点陥落!颯太殿!銀二隊長はそのまま反転し、中央を攻めに行くとの伝令が入りました!」
「おお!!!やりましたか!!全部隊は!?」
「はい!ティア殿が今全部隊に反撃指令を伝え、全軍赤側を押し返し始めました!」
「勝てる…!!この戦、勝てますよ!!」
「それともう1つ知らせがあります」
「なんですか?」
「ユキナ殿、滉介殿がセイリュウ、ゲンブと相打ち。現在こちらに運び込まれて治療を受けています。なお、2人とも意識がなく、予断を許せない状況です」
「あぁ…そうですか……もし、2人が目覚めたらご苦労様とお伝えください……2人はこの戦いの英雄だ…」
「はっ!では、失礼します!」
加山は部下が下がるとテーブルの上で手を組み、祈るように目を閉じた。
「くそ!この僕がビャッコと相打ち!?」
「おいおい、テーブル壊れちまうだろ」
「レギュン!聞いた話によればどこぞやのテイムモンスターなんかに負けたそうじゃないか!偉そうな口を叩くな!」
赤側の中央拠点作戦室には、怒りの表情を浮かべるシンといつもどおり酒を飲むレギュンとおもちゃで遊ぶカレラとユーノの姿があった。あの男はいない。
「お前、あたいに口答えするってのかい?」
ギロリと睨んだレギュンにシンは口ごもり、もう一度テーブルを叩くと出て行ってしまった。
「ふぅ、四神と言うからどんな奴かと思えば期待はずれだったねえ。あれじゃ負けて当然だ」
「ね~レギュン。僕たちいつになったら遊べるの?」
「もうすぐだよ」
「そうなんだ。もうすぐ来ちゃうんだ。ここに」
「ユーノ、い~っぱい兵隊さんで遊んであげようね」
「うん!い~っぱいお姉ちゃんのお人形さんを作ってあげるよ!」
「あら、本当にユーノはお姉ちゃんに勿体無いくらいお利口さんな弟ね」
「うん!だって僕、お姉ちゃんのこと大好きだもん!」
「私もユーノのことは大好きよ」
「ん…おねえ……んちゅ…」
「ほらユーノ……もっと…」
「あ~ま~た始まったよ」
姉弟の愛を間近で見せ付けられるレギュンは心底気持ち悪そうにしながら酒を飲む。
「ホントうちのギルドにはイカれた奴しかいないねえ……ま、あたいもそうなんだけどよ」
レギュンはここ最近の記憶がなかった。自分が何故この世界に迷い込んだのか、何故自分の記憶がないのか。
しかし、彼女にとって記憶はさほど問題ではなかった。別に記憶がなくても生きていけるし、何より現実世界に戻った自分の部屋は荒れ果てていたからだ。何も失うものなどない。だから別に記憶がなくとも何の不自由もなかった。
「なぁ、お前ら」
「なぁに?レギュン」
頬を赤く染め、糸を引きながら弟の舌から自分の舌を離したカレラは、いつもと変わらぬ調子でレギュンを見上げた。
「お前らってここ最近の記憶はあるか?」
「記憶……?ん~……ないわね。どうしたの?急に」
「いや、何でもねえよ。悪かったな、邪魔して」
「別にいいのよ」
「お姉ちゃん続き…」
「はいはい、本当にユーノは甘えん坊ね…」
レギュンはグラスに入った酒を飲みながら記憶に耽った。
「………―――チッ!」
やっぱり何も思い出せない。病院など行く気もないが、何故か自分の記憶が気になった。何か大切なことを忘れているような気がしたのだ。
「レギュン様!!」
「おい、ノックくらいしろよ。燃やすぞ」
突然作戦室に入り込んできた自分の部下を鬱陶しそうに見ると、その部下は見るみる青ざめてオロオロしだす。カレラとユーノもその男を睨めつけており、大切な2人の時間を邪魔されたことに相当怒っているようだ。
「す、すみません!!」
「まぁいい。それで、なんだ?」
「ほ、報告します!!青側の第2勢力がこちらに向かってきております!」
「規模は」
「約200人程度の中部隊と思われます!」
「なぁんだ、それっぽっちなの?つ~まんない」
「いやユーノ違うな……―――おい、そこに誰がいる」
「はっ!現在確認されているのは神龍!混沌!氷帝!炎龍、戦神の5人です!」
「来たか……しかし、まさか神龍が来るとは思わなかったな。アンタの出番だぜ、ボスさんよ」
「………」
「あれ?ボスいつの間にいたの?」
「さっきから入り口付近に立ってたわよ。まぁ元から影薄いボスだけれど」
「そうだったんだ。声かければいいのに」
「うちのボスが全然喋らないのは皆知っていることだろ。おい、報告はそれだけか?」
「以上になります!」
「よし。お前はそのまま拠点内にいるプレイヤー達に戦闘準備させろ」
「はっ!では!失礼します!」
部下の男と共にグレイヴのギルドマスターも部屋を出て行き、それを見届けてからレギュンはグラスの酒を一気にのどの奥へ押し込んだ。
「カレラ、ユーノ。気をつけろよ」
「え?どういうこと?レギュン」
「どういうことかしら」
「あいつら、お前らの神器を壊しに来るぞ」
「それっていつものことじゃない?」
「そうよね。何も変わらないじゃない」
「今回のは少し訳が違う。ま、危なくなったら逃げることだ」
レギュンは赤いマントをなびかせながら作戦室を出て行く。残されたカレラとユーノはレギュンの言葉が理解出来ず、お互いに顔を見合わせるだけだった。
「銀二!見えたぞ!」
「グガアアア!」
ドラゴンと化した銀二に乗った颯太、クレア、竜也、伊澄の4人は他のプレイヤー達よりも先に赤側の中央拠点へやってきていた。
「降りろ、だそうだ。行くぞ!」
「はい!」
「あぁ!」
「うん…!」
クレアがゲオルギウスから飛び降り、颯太、竜也、伊澄と続いていく。
「コォォォォ…!!」
クレア達が無事敵拠点の屋上へ着地し、中へ侵入できたことを確認するとゲオルギウスはまたあのブレスの発射準備へ入った。
だが――――ゲオルギウスの翼に紫色の炎弾が直撃した。
「ガァ!?」
ゲオルギウスは下へ降りると自分を攻撃した人物を発見した。
「………」
「おやおや、これはこれはグレイヴのギルドマスターさんじゃないですか。いやはや、珍しい人物とあったもんだ」
龍化を解き、銀二はへらへらと歩きながら男と相対する。
「アンタとやりあうのは当分先だと思っていたんだが、どうやら運命っていうのは結構せっかちなもんらしい」
「………」
「まぁアンタのだんまりにも慣れたもんだが、まさかここにいるとはな」
「………」
「お?お前の方こそなんで来たかって?そりゃああわよくば中央を落としてやろうかと思っていたんだよ」
「………」
「お、やるってか。いいぜ、アンタくらいじゃないと歯ごたえがないんだ。来いよ、遊んでやる」
銀二は右手の人差し指でクイクイと挑発すると、拳を構えてグレイヴのギルドマスターと衝突した。
拠点へ侵入した4人は階段を下りると分かれ道があり、先行していたクレアが立ち止まる。
「ここからは2手に分かれる!いいか!絶対に生きて勝利を掴むぞ!」
「はい!」
「あぁ!生き残ってやるさ!」
「わたしは生きる…!」
4人の手の平を重ね、3人の視線はクレアへ集まる。
「勝利の栄光は我らにあり!行くぞ!!」
颯太とクレアは1階を。竜也と伊澄は最上階である5階からしらみつぶしに標的を探し始めた。
「くそ!どうやって来た!」
5階に穴を開けて落下してきた颯太とクレアを出迎えたのは50人を超えるプレイヤー達だった。皆、颯太とクレアの登場に驚いており、颯太はその隙をついて50人相手に襲い掛かった。
「退けええええ!!」
「悪いが先手を打たせて貰う。颯太、突っ込め!」
「もちろんです!」
クレアは氷の大剣を空気を切り裂くように突き出す。すると剣先から氷のレーザーが生まれ、颯太の眼前にいるプレイヤーに当たると大輪を咲かせる。
「うわああああ!?」
「散れ!!」
氷が砕け、その破片が隣にいるプレイヤーに当たれば次はそのプレイヤーが凍りつく。クレアが生み出した氷はまるで感染していくようにどんどんプレイヤー達を襲う。
「レーナ!素早さ重視だ!」
『双剣に切り替えるよ』
大剣を裂き、跳躍して敵のど真ん中に降り立ち―――
「飛翔!!行けえええ!」
双剣をアンダースロー気味に投げる。
「おらあああ!」
「―――ッ!」
「ぐへえッ!?」
斧を持った大男の攻撃を見切り、僅かに体勢を傾けて避けてからカウンターに握った右拳を大男の顔面に叩き込む。
「やっちまえ!!」
「ふッ!」
地に伏せるようにプレイヤー達の攻撃をかわし、颯太はお返しとばかりに掌底を鳩尾にめり込ませて混沌の支配をプレゼントする。
叩き込んだら颯太はすぐに頭を下げ、帰ってきた双剣を更に避けて後ろから颯太を攻撃しようとしていたプレイヤーを撃破した。
そこから颯太はしゃがんで同時に近くにいたプレイヤー達の足を払い、そこで帰ってきた双剣を手にとって転がるように飛んで無造作に敵を切り刻む。
「レーナ!頼んだぞ!飛翔剣!」
颯太は集まってきた敵を回転斬りで切り伏せ、敵とのスペースが出来るなり双剣を投擲した。
「貰った!!」
「くッ!」
クローを装備した敵の攻撃をまるでマトリックスのように避けた颯太は、そのまま後ろに倒れるようになりながらも敵の顎を蹴り上げる。その隙を見逃さなかった敵はここぞとばかりに颯太の背後から襲い掛かるが、颯太は勢いをつけて回し蹴りを放ち、ドミノ倒しのように敵の攻撃を封じる。
「レーナ!スキルキャンセル!」
遠くにまで飛んでいた双剣が一瞬で颯太の手元に戻ってくるなり、すぐさま大剣に戻して床に突き刺した。
「避雷針!!」
拠点の天井を引き裂いて凄まじい落雷がプレイヤー達を襲う。
「ぎゃああああああ!!!」
「あぢいいいいいいいい!!」
「おらあああ!仲間の敵だぁああああ!」
「麻痺を引けなかったか!」
颯太は床から大剣を抜いて背後からの襲撃者の攻撃を苦い表情で防ぐ。
「力じゃ俺の方に分があるようだなぁ!!このまま押しつぶしてやるぜ!」
「―――ッ!」
「ノールンスマッシャー!!」
「へ――――?」
颯太の真横にクレアは大剣を叩きつけながら彼にウィンクした。
拠点が壊れてしまうのではないかと思うほどの轟音と氷風が吹き荒れ、プレイヤー達は絶叫しながらポリゴンを四散させるて行く。
「大丈夫か?颯太」
「あぁ、助かりました」
「こ、こんなの敵いっこねえ!!!」
「に、逃げろおおおおお!!」
「俺もう他の拠点に移る!ここはもうだめだ!!」
クレアの一撃を見た残党は怯えながら一目散に拠点を出て行き、颯太は帰ってきた双剣を手に取りながらその様子を見ていた。
「1階は無力化出来ましたね」
「そうだな。今の敵を倒したことで拠点制圧は2割と言った所だ。上の階で伊澄達が暴れていることだし、私達も派手に暴れまわろうではないか」
ドオオオオン―――と竜也が大砲をぶっ放す音と伊澄のミサイルが拠点を破壊している音が聞こえてくる。
「あはははは、こんな室内でミサイルを発射する奴がここにいるとは。これは驚きだな」
「ええ、全く拠点が崩れたりしたらどうするつもりでしょうね」
「まぁ、その時は2人仲良く生き埋めになるとしよう」
「ええ、それは嫌ですよ」
「はははは!さて、先を急ごう!恐らくこの階にレギュン達はいない!2階へ行くぞ!」
「了解です!先行します!」
「後方のサポートは任せたまえ!」
「お願いします!」
ガチャン!という音と共に双剣を大剣に戻して颯太は走り出した。クレアは廊下に巨大な氷の塊を置いて後方の追撃の危険性をなくしてから彼の後を追った。
「デスペラードミサイル…!!」
ガンドレアと一体化した伊澄はミサイルのハッチを開けて遠くの廊下で固まっているプレイヤー達めがけてミサイルを発射した。
実は猫の目がついている可愛らしいデザインのミサイルとなっているが、威力は―――――
ゴオオオオオオオン―――――!!!!
辺りを火の海にするほど強力である。
「伊澄ちゃん!やりすぎて下の階にいる颯太達を殺すなよ!」
「あ……そうだった…」
「おいおい…」
丁度このときである。颯太が自分の身を案じたのは。
後書きの恒例となってしまっている(自分の中で)挨拶、どうもまた太びです。
最近ニコ動を回っていたら、何となくKey Medleyを元の曲に再現してみたというのがあって、試しに聴いてみたんです。
私はWIIUを使ってテレビでニコ動を見ており、作業BGMになればいいかな~程度に流してみたやばかったです。何がやばいかと言うと全然作業が捗りません。動画つきだから尚更捗らなく、気がついたら手が止まっていて目線はテレビ画面を向いていたんです。
こうしてKey全体の作品の曲を聴いていると、色々なことを思い出しました。その年代にあったことや何話で泣いたとか、本当に改めて時間の流れを感じることが出来ましたね。
ホントにKeyは良い作品が多すぎますね。クラナドに至ってはアニメでもゲームでも泣かされ、リトバスも泣かされました。
私は余り泣かないと思っていたのですが、そんなこと全然なかったです。
さて、Keyといえば今年の5月にビーツのゲーム版が発売されますね。皆さん、もちろん買いますよね?(挑戦的




