勢力戦勃発18
「颯太」
燃え盛る敵拠点に流れ込んでいく味方のプレイヤーのなか、ゲオルギウスの圧倒的な火力の前に動けずにいる颯太にクレアが声をかけてきた。
「何を呆けている。我々はこれから大事な一戦を控えているのだぞ。リーダーがしっかりせねば部下が不安になる」
「そうですよね…」
颯太は両頬を手のひらで叩いて気持ちを入れ替えた。
「よし!いけます!」
「うむ、それでこそ私の颯太だ」
「クレアさん、伊澄さん。予め呼びかけていた中央拠点のプレイヤーを集めてください」
「心得た!伊澄!行くぞ!」
「うん…!」
クレアはフェンリルに乗り、伊澄は素早くガンドレアに変身するとそのまま颯爽と戦場の中に飛び込んでいった。
「シーザー。お前は先に香織さんのところへ行って作戦開始の合図を告げてくれ。さぁ、行け!」
颯太はシーザーを召喚し、背中を軽く叩くとシーザーは天高く雄たけびを上げて稲妻のように走り去った。
「くぅッ!皆!もう少し頑張って!!」
「香織!」
香織の目の前に砲弾が着弾して土が顔にかかる。それを香織は手で払いながら仲間のプレイヤーたちに激励を飛ばす。
すると、前衛部隊と共に罠の設置を行っていた詩織が香織のすぐ隣に降り立つ。
「前衛部隊の疲弊が激しい!このままじゃレギュンの攻撃で一気に崩壊するよ!」
「え!?レギュンの相手はユキナちゃんと滉介さんが取っていたんじゃ!?」
「それがね四神のセイリュウとゲンブがやってきてそれどころじゃなくなったの!」
「え!?」
「ユキナちゃんはセイリュウ。滉介はゲンブの相手していて、レギュンがノーマークなの!」
「やられた…!まさか相手もここで決戦を仕掛けてくるなんて思わなかったわ…」
「どうする!?このままじゃ前線を維持できないよ!」
「………」
轟音が響き渡る戦場で香織は苦しげな表情を浮かばせる。
「分かった…」
「香織…?」
そして香織は顔を上げて決断した。
「私がレギュンを止める」
「え!?む、無茶だよ!!」
「でもやるしかない!悩んでいてもこのままじゃ突破される!ティアの罠がなければ他の歩兵部隊が一気に流れ込んでくる。動けるのは私しかいないわ!」
「でも香織は司令塔なんだよ!?司令塔がやられたとなれば次は誰が指揮を執ればいいの!?」
「そのときはティア、あなたにお願いするわ」
「え!?あ、あたし!?」
「ええ、きっとティアなら出来るわ」
「ちょ、ちょっと!香織ーーー!!!」
香織はファレルを呼び出して跨ると燃え盛る戦場の奥深くへ飛び込んで行った。
「シン!邪魔!!」
「ははは、これも戦場というものですよ。まさかこんな形で四神がぶつかり合う日が来るとは」
白虎の爪を青龍刀で受け止めたシンは涼しげに語り、ユキナは自分の足元から突き出た水の槍を後方に飛んで躱す。
「ユキナ怒った!ビャッコ!あれ使う!」
『……いいだろう』
ユキナは地面に手をつき、まるで猫のように構えると叫んだ。
「虎王獣神化!!」
「まさかユキナも使えたとは驚きです」
ユキナの身体は荒れ狂う突風に包まれ、空は曇天へと変わり、戦場に風が吹き始める。
「ガアアアアアア!!!」
ユキナを包んでいた風が消滅し、現れたのは巨大な虎だった。全身は白と黄金の炎で形成され、虎の王はセイリュウを睨む。
「なるほど、よっぽど僕とガイエンが来たことが気に食わないようですね。ビャッコもそれを許した以上、四神の仲は壊滅のようです」
『ユキナは怒っている。セイリュウ、悪いがここで消えて貰うぞ』
「あなたがコントロールしているのですか?ビャッコ」
『貴様に語る言葉などない』
「やれやれ……――――さて、このままでは僕も負けてしまいますし、本気を出すとしますか」
シンは青龍刀を地面に突き刺す。
「龍王獣神化!!」
シンの身体は青い炎に包まれる。
「グルルルル……!」
ビャッコが低くうなり声を上げ、青い炎を睨む。炎が消えて現れるのは15メートルはあるであろう胴の長い東洋の青い龍。
長い髭に白い鬣。そしてセイリュウの周りに浮かぶ4つの宝玉。赤には『炎』、青には『水』、黄には『雷』、茶には『土』と書かれていた。
「グギャアアアアアアッ!!!」
「グルルルル……ガアアアアアア!!!!」
セイリュウが威嚇するとビャッコは一瞬で飛び上がり、セイリュウの首に食らいついた。
「オオオオオオン!!!」
大地に叩きつけられたセイリュウはビャッコの首を尾で締め上げ始め、ビャッコも負けじとセイリュウの首に炎の牙をより強く突き立てる。
セイリュウが顕現したことで空は曇天から雷雨に変わり、ビャッコの心情を表すように暴風が吹き始める。
「我らのユキナ様も頑張っておられる!俺たちも負けるわけにはいかねえぞおおおおお!!!」
『おおおおおおおおおお!!!!』
どしゃ降りの雨を全身に受けながらユキナの部隊に配置された精鋭達も雄たけびを上げてシンの部隊にビャッコの如く攻め立てる。押され気味だった戦線が徐々にだが、ユキナの活躍によって押し返し始めた瞬間だった。
「はっ!はっ!はっ!」
「おいおい、逃げてばっかかよ。つまんねえなぁ」
「くっ!」
ビャッコとセイリュウの顕現によってもたらされたどしゃ降りの雨によってぬかるんで来た戦場を香織は走っていた。
レギュンは雨のせいで炎の威力が下がっているのか、時々顔をしかめる動作を何度も取っている。いつもの馬鹿みたいな火炎放射が飛んでこないのは幸いだが、それでも直撃すれば一瞬で死ぬことは免れない。
「リフレクトアロー!!」
「ちっ!」
香織は地面を滑りながら矢を3発射る。レギュンは鬱陶しげにスレスレで矢を躱すが、矢は近くの木に当たると反射してもう一度レギュンに襲い掛かる。
「なんだその矢は!?」
レギュンは慌てて炎の壁を構築して矢を無効化し、香織へ向けてクレアのような巨大な炎の塊を天空から落とした。
「ファレル!」
「ピエッ!」
一瞬で現れたファレルの足に香織は捕まって炎の塊を上空に逃げることで躱すと、そこで手を離して落下しながら矢を高速で何度も何度も撃つ。
「遠距離はやりづれえなぁ……あ~だりい」
必死な香織と打って変わってレギュンのほうはいつもと変わらぬ調子攻撃を防いでいた。
「グレイテスアロー!」
地面に着地した香織は泥と化した地面も気にせず膝をついて青く輝く矢を放った。その矢はレギュンが構築する炎の壁を貫通して、その奥にいるレギュンの腹部を貫いた。
「なッ!?お、お前マジかよ!?」
「あまり舐めないで欲しいわ。あなたそれでもクレアさんと互角なの?これならクレアさんの方が遥かに強い!」
「3世代目如きが図に乗るな!!」
レギュンが怒りの声を上げると樹木が燃え始め、香織とレギュンの辺りだけ雨が降らない灼熱の大地と化した。
「くぅ…!あ、暑い…!」
香織はチラりと自分のHPバーを確認すると数秒ごとにメモリが減り始めていることに気づいた。ステータス画面には炎の状態異常マークが出ており、どうやらこれはレギュンが生み出した炎によってHPが減らされていることが分かった。
簡単に言えば軽い毒状態に近いのだろうか。しかし、長期戦を仕掛けている香織のとってこのスリップダメージはかなりの痛手だった。颯太たちが来るまで香織はこの戦線を維持しなければならない。
ポーションを飲めばいい話なのだが、相手はあのレギュンだ。飲んでいたりなどしたら一瞬でやられることが目に見えている。どうにかしてポーションを飲む隙を見つけなければならないようだ。
「ふぅ……」
「あたいを挑発したんだ。やられる覚悟、出来てんだろうなぁ!!」
「くっ!」
レギュンが拳を地面にたたきつけた瞬間香織は素早く転がってその場を離れた。すると香織が先ほどまでいた場所から火柱が立ち上り、あと数秒遅れていたら死んでいただろう。
「オラオラオラオラオラオラ!!!まだまだ行くぞ!!」
『香織、空に逃げなさい』
「ええ!ファレル!」
飛んできたファレルの背中に掴まって香織は空へと逃げる。空から地上を見ると戦場はひどいものだった。
「オオオオオン……」
「グギャアアアア……」
虎の爪が龍の身体を引き裂き、龍の牙が虎の身体を食いちぎる。
「ユキナちゃん…」
その彼方には巨大な亀と一人で戦う滉介の姿があった。
「滉介さん…」
『香織、今は目の前の敵を』
「ええ…そうね。早く、この戦いを終わらせなきゃ」
香織はレギュンがいる地上へ向けて一際輝く光の矢を振り絞った。
「アーダーペイン」
静かに放たれた矢は地面に突き刺さると凄まじい爆発を巻き起こした。
どうも!また太びです!
久しぶりの投稿になりますかね。えっと、実家から自分の家に帰ってきたことで問題が発生しました。
他の話で誤字があったので、直したところ7000文字以上あったその話はうちのくそ環境によって最後らへん文字化けしてしまいました。
え!?ちょ!なんだこれ!?って感じになってしまいまして、絶賛混乱中です。
ホントマンションはダメですね……最新のPCを買ってもネット環境がくそだとPCのスペックが全然生かされないです。
はぁ…ホント困ったものです…




