勢力戦勃発16
颯太と竜也が猛特訓をしている最中、赤側の中央拠点に密かな動きがあった。
いつも通りテーブルに靴を乗せて赤ワインを飲むレギュンの下へ1人の男がやってきた。
「おお、随分と遅い到着だねえ」
「………」
「ん?カレラとユーノかい?あぁ、あの子達なら今ここにはいないよ。どうせアジト帰って絵本でも読んでいるだろうさ」
双子の自由気ままな行動に慣れているのかレギュンは大した興味もなさそうに言う。
「今のところは順調だよ。別にアンタが来なくてもあたい達ですぐ落とせるけどねえ……――――あ~はいはい、分かってるから。油断大敵ってね」
レギュンは男の言葉に顔をしかめながら答える。
「そのあたい達の油断を取り除くためにアンタが来たってことだろう?」
そしてレギュンがにやりと笑うと男は小さく頷いた。
「いっつも思ってんだけど、アンタ正直うちのギルドに向いてねえよ―――幹部のあたいが言うのもなんだけどさ、こんなろくでもないような神器使いを集めて何をしようっていうんだい」
レギュンの言葉に男は瞑目するだけで答えない。それを見たレギュンは小さく舌打ちしてテーブルから足を降ろして椅子に深く腰掛けた。
「アンタが謎めいているのは今に始まった事じゃないが、あたいの邪魔だけはしないでくれよ?なぁ、ボス」
男はレギュンの言葉を聞き届けると静かに踵を返して作戦室を後にした。
「けッ!いけすかねえ奴だよ、全く」
そんな自分のボスにレギュンはワインを飲み干す事でイライラを鎮めるのであった。
「よう」
「あぁ、竜也か」
次の日のお昼休み、なんとなく屋上のベンチに座って購買のパンをかじっていたら弁当箱を携えた竜也がやってきた。
「上条に聞いたら屋上にいるかもしれないって言われたからよ」
真ん中に座っていた颯太は何気なく端にずれてスペースを作るとそこへ竜也がどっかりと座った。
「俺に用なら携帯かFDで言えばいいだろう?」
「いやいや、そんな携帯で話すのも何か味気ないだろ?それにせっかくの飯の時間なんだ。お前と食いながら話すのも悪くないと思ってよ」
「…まぁ確かにそうかもな――――それでどうした?」
「今夜の作戦、颯太は成功すると思うか」
先ほどとは打って変わって真剣な表情で聞いてきた竜也に颯太も気持ちを改める。
「成功するしないの2択で言えば、成功するだろう。100パーセントと言えないのが辛いが、それでも極めて高い確率で成功すると思っている」
「だな。俺もそう思う」
「竜也がそう聞いて来たからには俺が次何を言うか分かっていると思うが、あくまで成功するのは北側の拠点制圧の話しだ――――」
「問題はその次の中央制圧作戦って所だよな」
「―――あぁ………中央制圧作戦は逆に限りなく成功率が低い…」
「はは、弱気なお前も珍しいな。初めて見た気がするぜ」
「そうか?まぁ、このことはクレアさんと竜也にしか話していない。こんなこと言えば間違いなく士気に影響するからな」
「香織も柄にもなく張り切っていたしよ。こんな話聞かせらんねえよな」
颯太は頷きながら紙パックに入ったコーヒー牛乳にストローを突き刺す。
「どうも嫌な予感がしてならないんだ」
「それはどういう意味だ?」
「いや、予感がするだけで言葉には表しにくい……ただ、本当にこのまま中央を攻めに行っていいのか分からないんだ」
「おいおい、今更止める訳にもいかねえだろ?なるようにしかならねえって」
「そうなんだけどな……」
肩を叩く竜也に颯太は苦い表情を浮かべる事しか出来なかった。
「皆!颯太くん達が北を攻め落としている間は何としてでもここを守りきるわよ!」
「よーし!あたしも頑張るよ!」
「守りなら得意だ。任せろ」
「ん~ユキナは攻める方がいいんだけどなぁ…」
その日の夜、青側中央拠点には総勢1.5万のプレイヤーが集結していた。南側が落とされ、こちらに流れてきた者達や、加山が銀二に無理を言ってかき集めてきた防衛に特化したプレイヤー達が今静かに開戦の時を待っている。
恐らく青側が出せる最大の勢力に皆の士気が最大まで向上しており、誰もが『これならやれる』と口にしていた。
その中で香織達のグループには約100人程度のプレイヤーが加えられていた。
「香織さんは俺が守るっす!」
「いやいや!この私が香織さんの盾となりましょう!」
「おい!香織さん直々にお声をかけて貰ったのはこの俺なんだぞ!新参者は引っ込んでいろ!」
と、その約100人全員が心より香織を慕って集まった者達である。
それは何故かというと、一重に颯太が香織にリーダー権限を言い渡したときにやった挨拶回りが大きい。
皆、香織の天使のような笑顔と健気に頑張る姿を見て心を打たれた者達がこぞって加山に『是非我々を香織さんの部隊に加えて欲しい』と進言して来たのだ。
まぁ中にはクレアや詩織のファンもいるのだが、それでも圧倒的に香織の人気が高い。
「あははは……凄い人気だね…」
「う、嬉しいんだけどこれはちょっと恥ずかしいかな……」
「盾が増えるのは良い事だろう。それに中には強力な神器を持った奴も多い。きっと今回の戦いで存分に力を奮ってくれるはずだ」
流石の香織もこれには苦笑いを浮かべるしかない。
「それで香織、俺達はどう動けばいい?」
「えっと、私たちは壁の役割をこなしてくれるプレイヤーさんの援護と可能であれば反撃に転じる部隊ね。その反撃の際に先陣を切って貰うのがユキナちゃんと滉介くんにお願いするわ」
「了解した」
「お~分かったよ」
「あれ?あたしは?」
「ティアさんの神器はとことん足止めに向いているみたいだから、とにかく罠を設置して貰う感じになるのかな。あぁ、えっと、反撃の際には滉介くんとユキナちゃんの部隊に加山さんが選んだ精鋭30人付けることになっているから、その部隊の指示は滉介くんにお願いするね」
「あぁ、分かった」
「ちぇ、あたしは罠設置かぁ~。まぁ今回は防衛戦だしね。仕方ないか」
「ごめんね、本当はティアさんも反撃部隊に加わって欲しかったんだけど、罠師の能力はとても魅力的だったから…」
「あぁ!別に香織を困らせようと言ったわけじゃないんだよ!?大丈夫!ちゃんと与えられた役割はこなしてみせるから!」
「そ、そう?こんな大人数を指揮するなんて初めてだから、至らない点もあると思うの。何かあったらすぐ言ってね」
「いや、お前はよくやっている。颯太に香織のフォローを頼まれたが、これなら心配はいらないな」
「あははは、颯太も心配性だね~。竜也さんは何か言ってた?」
「颯太と全く同じ事を言っていた」
「もう兄さんと颯太くんったら、そんなに私が信用ならないのかしら」
むくれた表情をした香織に詩織と滉介は笑い、ひとしきり笑った後香織達は気持ちを切り替えた。
香織は後ろで控える100人の仲間に振り返る。すると今まで喧嘩をしていたプレイヤー達が一斉に静まり返り、香織の言葉を待つ。
「すぅ………―――――皆さん!今夜は大事な一戦です!北側でこれから行われる電撃戦の間、私たちはひたすら赤側の猛攻を耐え忍ぶ戦いとなりましょう!とても辛い戦いになることは既に目に見えていますが、きっと皆さんならこの試練に打ち勝つことが出来ると強く!!強く!!強く信じています!!」
『おおおおおおおおおお―――――!!!!!』
「耐えて耐えて耐えて耐えて……!そして北側が陥落したその時、私たちは反撃に出ます!赤側にあっと言わせてやりましょう!ど肝を抜いてやりましょう!」
『うおおおおおおお――――!!!』
「それでは皆さん準備がいいですか!赤側に私たちの底力を見せつけてやりますよ!―――――すぅ…!!全部隊!進めえええええ!!」
『おおおおおおおおおお――――!!!!』
香織の魂の叫びにプレイヤー達は大地を震わせる声を挙げながら一斉に森へと走り出した。香織の部隊ではない者達もその声に魂を打ち震わせ、雄叫びを挙げる者達もいる。
今、青側の士気は最高潮にまで上り詰めていた。
「凄いカリスマだね…!!」
「こいつは驚いた…!」
「うおおおお!なんだかユキナ!凄いやる気出て来たよ!」
後ろで香織の演説を聞いていた詩織達も彼女の声に力を感じ、本能が戦いを求めていた。
「皆!私達も行くわよ!」
「あいよ!」
「あぁ!やってやるさ!」
「おーし!ユキナ頑張るよ!」
香織は輝く弓を。詩織は鈍く光る苦無を。滉介は白銀の大剣を。ユキナは猛虎の爪を。
4人はそれぞれの武器を構え、戦場へと走り出した。
いや~!やっと忙しい時期を切り抜けました!どうもまた太びです!
そして忙しい時期を切り抜けた瞬間、気持ちが抜けたのか今流行の胃に来る風邪にかかってしまい、ダウン中です……くっそ~どこで風邪を貰ってきたんだか……。
最初は親に花粉症にでもかかったのか?と言われたんですが『いや~www花粉症にかかる奴なんておらんやろwwww』なんてスカしてたんです。
そしたらその日の夜ひどい鼻水から始まり、咳も出て『あぁ、これはどうしようもねえな?』と思ったんで、私が重宝している風邪薬『葛根湯』の力を借りてその日は寝たんです。
今朝になったらまぁ鼻水は収まったんですが、それでもまだだるくて、今回の話しも何とか書き上げた感じです……。




