委員長の怒り
『レベル80。厳しいかもね』
「今の敵か?」
現在位置、レーナによれば地下5階目。
颯太はポリゴンを爆散させるモンスターから剣を引き抜いてレーナの声に耳を傾ける。
『相手のマーカーが真っ赤のクリムゾン。普通戦ったら勝ち目がない相手だね』
「だが、そのおかげでここに来るまでに俺達のレベルは3つも上がった。香織さんに至っては7だ」
「もう!いつまで続くんですか!?このダンジョン!」
「早く終わって欲しいようだが」
『敵のAIが単純だからね。レベル差があってもPSがあれば切り抜けられる相手。それに私のスペックが凄いから、まだまだ十分切り伏せられる』
「レーナにはいつも感謝しているよ」
『えへへ~もっと褒めていいんだよ?』
「いててッ!お、お前!嬉しくなっても左目弄るのかよ!」
『わわ!ご、ごめんなさい!つい照れ隠しに』
「て、照れ隠しだと…!?」
「お前何やってんだ?」
「あぁ、レーナと話していたんだ」
「なんだか楽しそうだな~。ソウタとレーナちゃんは」
後ろで戦っていたタツヤがランチャーを携えながら颯太に話しかけてきた。
タツヤの背後にはご立腹な香織がおり、どうやら彼女の怒りから逃げて来たと思われる。
『そう見える?やっぱり私と颯太は相性がいいんだね』
「………そうだな」
「愛されてんな~。うちのボルケーノは寡黙もいいとこだぜ」
『タツヤの趣味について行けないだけだ。なんだあの人形は』
「人形?お前まさか……」
「フィギュアだ!誰もお人形さん遊びなんかしておらんわ!」
「あぁ、そっちか。すまんな」
『私、颯太の抱き枕と人形なら持っているよ。タツヤとは趣味が合いそうだね』
「お、お前まさかレーナちゃんに自分のを……」
「違う!!レーナが勝手に作っているんだ!やめろって言ってもやめないしな!」
『だって颯太が学校に行っている間はこれで遊ぶしかないんだもん。颯太とはね、色々なお話をしているの。楽しいよ、お人形さん遊び』
「……お前も苦労してんだな…」
「分かってくれたか……いつかレーナの性格を元に戻してやりたいと考えているんだけどな…」
「難しい問題だな…」
「全くだ。もしかすると願い事はそれになるかもしれない」
「それまでにお前の身体があるかどうか怪しいが」
「不吉な事言うなよ」
「ねえ!颯太くん!兄さん!まだ終わらないの!?」
「も、もうすぐだと思うぜ?」
「もうすぐだと思うよ。だろ?レーナ」
『うん、もうすぐだよ。多分この階層で終わりかな。現在ランゲージバトルに存在する最高レベルのモンスターだったし』
『そのようだな。降りる度に強くなるこのダンジョンもその消去法で行けば、もう時期ボスだろう』
話しかけられた情けない兄は妹にビクビクしながら答える。
颯太は正直香織の事は未だに苦手なので、面倒臭そうに答えてレーナに引き継ぐ。
「そう、ならいいのだけど。正直に言うと私その…モンスターが怖くて」
「それは無理もな――――」
「あははは!おいおい、モンスターはコンピューターだぜ?死にはしないし、どこが怖いん――――ぐっほお!?」
タツヤの顔に靴がめり込んだ。
これが俗に言うハイキックという奴だろうか。
「ふん!なに?颯太くん」
「それ下着は黒なのな。随分と大人な―――っと」
「な――――!!!」
「残念だが、俺はタツヤのように甘くはない」
「くッ!」
蹴りを躱された香織は弓を取り出して矢を撃つが、颯太はその矢を全て剣で叩き落とす。
「うううう!ずるいわ!」
「いや、反射的に」
『ねえ、颯太。あの人なんで怒っているの?』
「下着見られた事が相当恥ずかしいらしい」
『颯太は私の毎日見てるから驚かなくなったよね』
「見てるっていうか、見せつけられている、な」
「もう颯太くん最低!」
「そんな短いスカートで蹴りなどするからだろう。スパッツでも穿けばいいじゃないか」
「そ、そうするわよ!アルテミス、そういうのお願い出来る?」
『問題ありません。今すぐ実装します』
「ほら、お前もいつまで伸びているつもりだ」
平常心を保っているように見える颯太だが、内心はかなり焦っていた。
『や、やべえ…!委員長の下着見てしまった…!!くッ!し、心臓よ静まれ!』
『颯太?もしかして』
「いっでぇえええ!!わ、悪かった!俺が悪かったから!」
『あ、自覚あったんだ。もしここでシラけたら面白かったんだけど』
左目を抑える颯太は掴んでいたタツヤの腕を離してしまった。ゴチン!と嫌な音がしたが、今の颯太にそんなタツヤに構っている余裕もなく、膝を地面について必死にレーナに謝る。
「二人とも何をしているの?早く行きましょう」
「お、お前のせいだからな委員長…!」
「私?私が何をしたっていうの」
「な、何でもねえよ!」
「変な颯太くん」
「あぁ……俺はスルーなのね」
『お前はいつまで寝ているつもなのだ…』
立ち上がった颯太は脇を通り過ぎて行く香織を一度睨めつけてから、ボスの部屋を目指した。
オブジェクトダメージを受けたタツヤは痛む頭をさすりながらポーションを飲む。
「お、お前ら待ってくれよ!」
「あれ、兄さん先に行っていたんじゃなかったの?」
「お前いつまでそこで寝ているつもりだったんだ?置いて行くつもりだったぞ」
「ひ、ひでえ……」
『あはは!タツヤおもしろ~い!』
『この中での扱いが決まってきましたね』
『馬鹿ばかりやっているからだ…』
レーナはともかく、アルテミスとボルケーノには完全に呆れられていた。
歩くこと20分。敵に何度か遭遇するもの颯太が前衛でヘイトを取り続けていたため、比較的楽に対処する事が出来た。
流石に5体とか多数になってくるとヘイトを維持できず後方に何体か流れてしまうが、そこはタツヤが割り込んで一番防御力が低い香織に何とか行かせないようにする。
「ふぅ……終わったか」
『今の敵のレベルは83だよ。ちなみに状態異常完全無効、全属性に耐性あり………厳しいね』
「そうか。そろそろポーションも残り少なくなってきたな」
『もうこの階層に降りて来てから全部の敵が今の奴と同じ耐性持ち』
一度喰らえばこちらのHPバーが約4割も削れ、ポーションの摩耗が激しい。
「タツヤ、ポーションに余裕はあるか?」
「あぁ、まだまだあるぜ。お前が前衛で頑張ってくれているからな。何なら分けてやろうか?」
「いや、これから先の事を考えて取っておくんだ。後衛が無事なら俺も安心できる」
『颯太、空き時間があったから調べてみたけど、宝の地図ダンジョンはワンチャンスなんだって』
「リトライなしのワンチャンスか……」
『死んだらおしまいだね。仲間を置いて城に戻されるみたい』
「パーティーも即解除かよ。それだけ希少って事か。今になってようやくタツヤが言った事が理解出来たな」
『うん。この宝の地図が出る確率は物凄く低くて、敵も強い。でも、その分クリアした時の報酬金額と宝箱は凄いって』
「へえ、俄然やる気が出てきたな」
『正直このパーティーでここまで来れたのは颯太のおかげ。後ろの二人は初心者だし、よく引っ張って来れたもんだよ』
「他のゲームの知識があっただけだ。PSなら俺とあんまり変わらない」
『颯太は謙虚だね~』
「慎み深いって言うんだ。タツヤ、香織さん。そろそろ出発しよう。恐らく次のフロアを抜ければボスだ」
颯太が二人に呼びかけると香織は『やっと終わるのね』と安堵の息を漏らし、タツヤはボスという言葉に気合を入れ直した。
皆さんはニーソとスパッツ。どっち派でしょうか。
書いておいてなんですが、私はニーソ派でして、その中でも黒が一番好きです(迫真
縞々も好きですよ、ええ。
まぁなんでこんなどうでもいい話をしているかというと、毎度の如く後書き何書くか悩んでいるわけなんです。
だから、はっちゃけた後書きになっていることもあるし、真面目に語っているときもある。でも、ほとんど私どうでもいい後書き書いてますよね。