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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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戦士たちの休息④

『礼を言う』


「絶対に自分の神器には言うんじゃないぞ。言えば間違いなく殺される」


『分かっている。それじゃ、夜も遅いから切るぞ』


「………」



颯太は滉介との通話を終え、携帯をゆっくりと耳から離してだらりと右肩を下げた。



「………」



彼は滉介に全てを話すことはなかった。話したことと言えば精々香織や竜也にも聞かせた程度の内容である。

もちろんあの神器の素体が保存された部屋の事などは一切話していない。彼だってまだ死にたくはないのだ。いや、まだ命をかけるべき時ではないと悟っている。



颯太は夜空を見上げた。



「………リーナ…か」



先ほどレーナに冗談のつもりで“姉妹”などと言ったが、颯太はあの2人は本当に姉妹なのではないかとどこか確信を持っていた。


データで作られたクローンという可能性が一瞬颯太の脳裏をよぎった。しかし、それはない―――と自分の考えを鼻で笑った。

まず神器を作成するには神器の元となる素体が必要という点。それを思い出して颯太はその考えを否定するに至ったのだ。

となるとクローン、またはコピーという候補は捨てていい。あと思いつくことは他人の空似か程度しかないのだが、レーナとリーナはお互いに意識し合っている。それが颯太の考えに確信を持たせた。



「あいつら、本当に姉妹なんだな……だから神器の能力も似ている…」



颯太はレーナにも言っていない隠しごとをしている。



「………」



彼が懐から取り出したのは手帳だった。

その中に書いてあることは、彼がランゲージバトルで知ったことの全て。無論倭というプレイヤーから貰った手帳内容を全てこちらに書き写している。

この手帳がレーナを含む神器の目に触れれば間違いなく颯太は殺されてしまう。


だからこそ颯太は誰にも言わずにただ1人でランゲージバトルの秘密を暴こうとしていた。


倭の手帳と自分の記憶を照らし合わせると自分の考えと合致する事がいくつもあった。

まず神器の性能について。

これは神器の元となった素体の性格や潜在能力が深く関わっている事が分かった。


1世代目、2世代目クラスの性能になる人間は純粋であること。それを見た時颯太の頭に疑問が浮かんだ。純粋だとすれば何故レーナは混沌なのだろうと。

しかし、純粋とは言いかえればどちらにも染まるということなのだ。理科の実験で中和された液体にアルカリ性、酸性のどちらかを入れれば瞬く間に染まるように、悪にも簡単に転がってしまう極めて不安定な存在。それが純粋というものなのだろう。


3世代目、5世代目は少し言い方が悪いが、今しがた言った通りの劣化版ということになる。

純粋ではあるが、自分の信念を貫いている人。つまり、どちらにもなかなか染まりにくいという人間だ。


次に4世代目は一芸に秀でた人間がここのカテゴリに属すらしい。それには颯太も納得が行った。



「結論を言えば神器になれる人間は相当限られているっていうことだな」



倭が残した手帳に目を通した颯太はある事に気付いた。

それは運営の目的である。


颯太はこのランゲージバトルを始めた時からどこか引っ掛かりを覚えていたのだ。

どこのゲーム運営会社もゲームは商品でありビジネスだ。必ずどこかに金策というものは生じる。

だが、このランゲージバトルに至っては秘密を知らなければプレイヤーにしか得がない事ばかりだ。

運営は一体どこでリターンを得ているのか。それが颯太は気になった。


そこで颯太は再びランゲージバトルの説明書を読んだ。自分が一体どこで違和感を覚えたのか、この喉に刺さった骨を取れる材料はないのか、と。


そして颯太は遂に違和感の正体を見つけた。それは――――



「俺達の願いを何でも叶える」



何故颯太はそれに違和感を覚えたのか。颯太は誰でも気付くであろう違和感に対し、自分が知りうる限りの知識を導入して考え始めた。

願いを叶える―――言葉にしてしまえば簡単なのだが、実行に移すとなるとそれはとんでもない話へと発展する。

ありきたりな願いと言えば『お金持ちになりたい』とかだろうか。その程度と言うのは少しおかしい気もするが、ランゲージバトルというとんでもゲームを作る運営のことだ。お金など簡単に用意してしまうだろう。

だが、『ランゲージバトルという世界が欲しい』とか『この技術を公表したい』などという願いはどうなるのだろうか。説明書に詳しく記されていない限り運営相手も断れないはずだ。その時シラを切るのか、それともやっぱり断れるのか、あるいは殺されてしまうのか。

ここまで考えておいて颯太は思考の袋小路に入ってしまう。



「過去に優勝したプレイヤーの声が聴ければ一番なんだが……」



実際そこに尽きる。しかし、ランゲージバトルが終わると参加していたプレイヤーは瞬く間に忘れていつも通りの日常に戻る。それは優勝者も例外ではないはずだ。


倭の手帳にも優勝者がどうなるかは書かれていなかった。


仮の話をしよう。例えばランゲージバトルで優勝して文字通り『お金もちになりたい』と願ったとする。

そしてその願いは運営に聞き届けられ、無事億万長者になりましたと。



「だが、記憶を失ったあとはどうなる」



戦いも終わり、日常が戻ってきたプレイヤーの手元には知らない大金。颯太ならば間違いなくパニックになるはずだ。

それに最近はネットの影響もあってそういう噂話は一気に広まる。余程金に執着しない者でない限り隠し通すことは不可能なはず。だが、金が欲しいと願っている以上金に執着していることは既に証明してしまっているというわけで、奮発して金使いが荒くなることは目に見えている。なら何故ネット世界のどこにも情報が落ちていない。ネットの情報隠滅は運営の十八番なのは分かっているが、それでも颯太は納得が行っていなかった。



「やっぱり引っかかるな……その願いごとについて…――――それに神器の数は増えて行っている。一体どこで人を………」



問題が解決すればまた新しい問題がやってくる。



「……レーナもそろそろ心配するだろうから中に戻るか…」



身体の冷えに気付いた颯太は、いつの間にか力んでいた身体の力を抜いて家の中に入ろうと踵を返す。



「………」



靴を脱いで静まり返ったリビングに足を運んだ颯太は、流石に月明かりだけじゃリビングは暗いので電気を点けようとスイッチに手を伸ばしかけて止まった。



「は……?」



2階に続く階段から黒い何かがこちらを見ている。

黒い粒子をまき散らしている影のような“何か”はまるで幽霊のようにすーっと颯太の方へ近寄ってくる。



「あ……あ…あ…」



手が動かない。とりあえず相手の正体を知るためにも部屋の電気を点けなければならないのに、右手はまるで自分の物ではないかのように動かない。


幽霊のような黒い“何か”は颯太の眼前に迫ると顔に穴が開いただけのような目で彼の顔を覗きこむ。



「………」



そしてボロ切れのような黒いマントからすうっと手が伸びて颯太の顔を覆う。



「あぁ……あ…!」



本能が自分の身の危機を知らせているのに身体は動かない。そして黒い“何か”が颯太の頭を掴もうとした――――



「なにしてるの」


「………ッ!?」



その瞬間黒い“何か”の腕が黒い大剣によって斬り落とされ、颯太の間にレーナが割って入って来る。



「――――ッ!!!」



レーナと頭の中で叫ぶが、声は全く出ない。



「とりあえず颯太喋れないから死んじゃえ」


「ぎッ!?」



レーナが勢いよく突きだした大剣は黒い“何か”の胸に突き刺さると同時に何かが砕ける小さな音がした。

黒い“何か”は短い断末魔と共にリビングの暗闇に消えて行き、颯太はその場にへたり込む。



「な、なんだったんだ…」


「レイス」


「レイス?」


「ランゲージバトルの秘密を守る番人の仲間。基本暗殺が得意でね――――って颯太何かした?」


「い、いや…心当たりはないが…」



めちゃくちゃ心当たりがある。



「そう?まぁこの前結構ランゲージバトルの秘密を知ったプレイヤーを守っちゃったし、隙あらば殺そうとしているのかもね」


「穏やかじゃないな……」


「恐らくこれは執行者自ら動いているかもね」


「あぁ……あのリザードマンか…」


「あれはトカゲとかそんなもんじゃなくて、れっきとした龍の戦士だよ」


「まぁトカゲも龍も似たようなもんだろ。それよりレーナ、身体はもういいのか?」


「うん、大分よくなったよ。こっちの世界でも武器出せるようになったし」



レーナは大剣を消すといつもの笑顔を浮かべて颯太に『問題ない』というアピールをする。



「でも、レイスが出てくるのはちょっとまずいかもね」


「どういうことだ?」


「さっき言ったでしょ?暗殺が得意って」


「そうだな…――――まさか分からないのか!?」


「うん。神器の反応を消せる唯一のステルス性を持った神器でね。正直颯太の帰りが遅いから見に行こうと思わなかったらやられちゃってた」


「あ、あぶねぇ………マジで助かった、レーナ」


「まだまだ颯太の悪運は捨てたもんじゃないってことだね」



そう言ってレーナは座り込んでいる颯太の頭を小突いた。



「いてっ」


「颯太、ランゲージバトルの秘密を探ろうとするのはいいけど、余り私から離れちゃダメだよ?」


「あぁ、分かっているさ」


「あっちの世界だと颯太は無敵だけど、こっちの世界じゃスペ○ンカーも同様なんだから」


「流石にそこまで脆くはないねえよ」


「どうだか。さっきだってレイスにやられかけてたし」


「そ、それは……」


「颯太はこっちだと戦えないんだから無理しちゃ嫌だよ?颯太は私の傍にずっといればいいの」



レーナはそう言って颯太を抱きしめるが、颯太は表情を濁す。



「流石にそれは約束できない……」


「え?今なんて言ったの?」


「ずっと傍にいる事は出来ないって言ったんだ…」



心苦しいが、運営の目であるレーナにはまだ知られるわけには行かない事がたくさんある。これからも1人で行動する機会は増えるだろうし、ずっとレーナを傍におくことは出来ないだろう。



「ふぅん」


「レーナ?」



颯太から身体を離したレーナの表情は冷たかった。



「颯太、最近私に優しいと思っていたけど、私の勘違いだったみたいだね」


「はぁ?そんなことはないだろ。今日だってずっとお前の傍にいたし」


「そうだね、それはそうだね。でも、なんか今の颯太は遠い。ねえ、これから好きな時颯太の視界覗いていい?」


「だ、ダメだろ!それはしないって約束だっただろ!?」


「………颯太、お部屋いこう?」


「あ、あぁ、そうだな。いつまでも玄関で座っているわけには行かないしな」



いつもは美しいスカイブルーの瞳に対し、今のレーナの瞳は光を失ったかのように黒い。

今颯太は恐怖というものを肌で感じている。



『まずい、このレーナはまずい。今下手に刺激すれば間違いなく動けない身体にされる!―――っていうか既に刺激してないか!?』



「颯太、先に入ってベッドに座って」


「あ、あぁ…」



先に颯太が部屋に入り、ベッドに腰掛けると同時にレーナも入って来た。するとレーナは何故か部屋の鍵を閉めた。



「え?な、なんで鍵をかけるんだ?」


「うるさい」


「う、うるさい?」


「ちょっと黙っててよ。今の颯太嫌いだから話したくない」


「………マジか…」



颯太の額に嫌な汗が浮かぶ。



「颯太、喋らなくていいから私の目を見て」


「………」



レーナは無表情でそう指示し、颯太はレーナの目を見た。



「ッ―――!?」


「身体、動かないでしょ。あと声も出ないよね」


「―――ッ!??!?」


「今の颯太嫌いだから、私の好きな颯太に戻って貰わなきゃ」



レーナはそう言ってナイフを取り出した。



「――――ッ!?(おいおいおいおい!?)」



そしてそれを―――



「よっと」


「――――――ッ!?!?!」



颯太の腹部に突き刺した。血は出ない。恐らくこれは香織とアルテミスの時に見せた痛覚だけを刺激する混沌の能力。



「よっと、ほいっと」



ナイフは腹部に突き刺さると同時に消え、颯太はリアルな痛覚にもがき苦しむ。だが、身体が動かないせいで身をよじる事も出来ない。



「颯太、大好き。私だけを見て…」



レーナは涙を目に浮かべる颯太の膝に座って一度抱き付くと、両手で颯太の顔を抑えて唇を奪った。



「―――――ッ!?」



そこから更に混沌を流し込まれ、颯太は再び怨念の叫びを聞く事となる。



「ん……んん…颯太……好き…」


「―――――ッ!?!?」



腹部の痛みを忘れてしまいそうな叫びに颯太は目を見開く。対するレーナは潤んだ瞳で颯太を見つめては目を閉じて何度も唇を重ねて混沌を流し込む。



「ねえ、愛してるって言って……そしたら許してあげる……あ、でも叫んだら許さないよ」


「―――ッ!!ぶはッ!?うぅぅうぅぅ……!!!」



声と身体の自由を取り戻した颯太は、すぐさまテーブルにあったタオルを手に取って噛みついて痛みの声を噛み殺した。



「早く言ってよ……早く!」



タオルから口を離した颯太はレーナを睨んだ。



「なにその目。私、そんなの求めてない」


「レーナ、間違っている」

最近パソコンが不調なので買い換えようと思っているまた太びです。


今かなり眠くてですね、ろくに後書き書けそうにないです…………。

では、さらっと今回の後書きを。


今回はランゲージバトルの秘密に少しだけ迫った話とレーナのヤンデレ回でした。

最後に颯太くんが『間違っている』と言いましたが、はてさてそれはどういうことなのか。次の話にご期待?ください!

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