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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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戦士たちの休息③

「今日はランゲージバトルに行けそうにないな……」


「ごめんね……」


「いや、レーナは悪くないさ」



颯太は申し訳なさそうにするレーナの頭をポンポンと優しく叩いてから、テーブルに置いた携帯を手に取る。



「クレアさんに連絡しておくよ」


「うん…」



携帯を操作してクレアに電話をかけると、クレアはすぐ出てくれた。



『颯太が私に電話をかけてくるなんて珍しいな。どうした?』


「えっと、レーナが高熱を出してしまってまともに動けない状態なんです。そこで悪いのですが、今日の勢力戦には参加できないそうにないです…」


『それについては滉介も同じ状況のようだった』


「リーナもやられたんですか」


『ふむ……ヘルヘイムの熱で神器コアがオーバーヒートしかけたそうだ。レーナもそうなのだろう?』


「はい。明日にはいつもの状態に戻ると言っていたのですが、申し訳ありません」


『謝る必要などどこにもない。戦力低下は否めないが、伊澄が来てくれたおかげで現状維持は出来るだろう』


「伊澄さんって強いんですね。今日竜也に聞きましたよ。ボルケーノの攻撃が全然通らないって」


『大丈夫だ。私の氷も跳ね返されるからな』


「敵じゃなくて本当に良かったですね…」


『その通りだな。さて、余り長話をするとレーナが嫉妬してしまうからな。今夜はしっかりと休むといい』


「はい、今夜の勢力戦は任せましたよ」


『あぁ、君の期待に応えよう』



クレアとの通話を終えると颯太は再びレーナの傍に座った。



「リーナもやられたんだ…」


「あのヘルヘイムの攻撃を受けたんだ。無理もないさ」


「リーナは私よりも防御が高いからね……壊れなくて良かった…」


「ん?レーナはリーナのこと嫌いじゃないのか?」


「別に嫌いってわけじゃないよ……でも、リーナを見るともやもやする」


「もやもや?」


「私にも分からない……でも、何か忘れているような気がする…」


「そう言えばレーナ達って神器になる前の記憶はないんだったか。もしかするとそれに関係することかもな」


「そうかもね……」


「案外姉妹だったりして」


「ふふ……どうだろうね…」



颯太の思いつきにレーナは小さく笑った。



「もしそうだとするとレーナは姉か妹なわけだが、どっちがいいと思う?」


「ん~……私は姉って柄じゃないと思うからなぁ…」


「んじゃ妹か」


「でもあんなお姉ちゃんは嫌だなぁ……」



レーナは眉間にしわを寄せてそう言った。




「滉介、水」


「はいはい」



リーナもレーナと同じく高熱に悩まされていた。しかし、レーナと比べてみると幾分かましなようで敷布団に横たわりつつも滉介を顎で使っている。



「ほら」


「ん」



テーブルに水が入ったペットボトルを取り、キャップを外しながらリーナに渡すと、彼女はゆっくりと体を起こして水を飲む。



「何か食いたいものはあるか?」


「別に風邪というわけではないのだから食欲はあるわよ。そうね……強いて言うのであればどら焼きが食べたいわ」


「お前ホントどら焼き好きだな……―――分かった。コンビニで買って来る」


「急がなくていいわよ」


「急ぐ必要もないだろう」


「それもそうね」



身支度を始めた滉介に目をやったリーナは可愛らしく欠伸をすると再び横になって布団を被る。



「あ~辛いわ」


「今日安静にしていれば治るんだろ?大人しくしていろ」


「こんな目に会ったのは滉介のせいよ」


「はいはい、その節は悪かったから寝ていろ」


「滉介は無愛想ね」


「よく言われる」


「直しなさい」


「直す気はない――――それじゃ行ってくる。他に食いたい物はないんだな?」


「なら羊羹も買ってきなさい」


「……了解」


「あなた今和菓子ばっかだなって思ったでしょう」


「………」



滉介は小さくため息をつくと無言で部屋を出て行った。



「丁度いい涼しさだな」



7月も中旬に入ったということで、梅雨明けした滉介の地域は心地のいい風が吹くようになった。

近くの田んぼから聞こえるカエルの声が夏の到来を知らせ、滉介は口笛を口ずさみながら夜の砂利道に自転車を走らせる。

滉介の住む地域は100人に聞けば間違いなく“田舎”と答えるであろうド田舎だ。今彼が目指すコンビニも20分少し自転車を走らせなければ見つからないし、学校だって自転車で山を昇ったその先にある。

何もかも不便に思える村なのだが、滉介はこの平穏な暮らしがとても気に入っていた。



「そろそろ山に釣りにでも行ってみるか…」



滉介は年がら年中ネトゲをしているというわけではない。まぁ大半はゲームなのだが、それでも夏になれば愛犬と共に山に出掛けて釣りを楽しむ趣味を持っている。


今年はリーナがいるので彼女も誘ってみようかと思っているが、果たしてインドアの塊のような彼女が釣りに興味を持つのだろうか。



「でも、その前にプールか……」



少し前にリーナは滉介に対して『プールに連れて行きなさい!』と言った。連れて行きたいのも山々なのだが、なにせ滉介自身もそういう施設に足を運んだことがない。完全に知識が足りていなかった。



「パソコンでググるしかないか。あ~金が飛ぶ」



言葉だけ見れば嫌そうに思えるが、しかし滉介の声はどこか弾んでいた。




「やっぱりどら焼きと羊羹は最高ね」


「それは良かったな」



笑顔でどら焼きと羊羹を頬張るリーナは幸せそうだ。対する滉介は小腹を満たすためのコッペパンをかじっており、うまいともまずいとも言えないような顔をしている。



「あ、そうそう。レーナも今日の勢力戦には参加出来ないそうよ」


「それは分かっていた事だろう」


「そうだけれど、一応クレアからの連絡だから伝えておこうと思って」


「メール来ていたのか」


「ええ、滉介が出かけてから数分後に」


「まぁガンドレアがいるから心配はいらないだろう」


「それに赤側も昨日の戦いで結構な被害を出したそうだし、今日はお互い様子見になりそうね」


「中央はそうかもしれないが、他はどうだろうな。勢力戦も残り半月となった事だし、そろそろどこかの拠点が落ちるかもしれない」


「戦いはこれからみたいね」


「この戦いで脱落するプレイヤーも多いはずだ。気を引き締めて行くぞ」


「ええ、もちろんよ」



滉介はヘルヘイムによって味方の神器が燃えて行く光景を思い出しながら、自分の気持ちを固めるように言葉を口にした。




「ん?どうした?」



コッペパンを食い終わった滉介は袋をゴミ箱に捨てるとリーナはガラス超しに見える庭を眺めていた。



「カエルの声って結構響くのね」


「田舎だからな。特に響く」


「セミもそうだけれど、カエルも季節の訪れを感じるわね」


「いきなりどうしたんだ?」


「この戦いが終われば後何十年とこの声が聞こえないと思うと、少し悲しくなったの」


「………」


「1年間という瞬きをすればあっという間に過ぎてしまうような時がここまで愛しいものだったなんて知らなかったわ」


「そうか。そう言えばこの戦いが終わればお前ともお別れだったな」


「ええ、あなたはわたくしの事を忘れ、あるべき日常へと戻る」


「お前はどうなんだ?」


「わたくしはあなたの事を覚えているわ」


「不公平だな」


「仕方ないわ。決まりだもの」


「決まり……か」


「滉介、変な考えは起こすものじゃないわよ?」


「分かっている」


「………」


「いいから寝ていろ」



滉介を心配するように見てくるリーナの顔に布団を被せて彼は立ち上がる。



「どこ行くの?」


「トイレだ」


「そう。早く戻ってきなさいよ?」


「あぁ、分かっている」



寂しそうにひょっこり布団から顔の半分だけ出したリーナの頭を撫でて滉介は部屋を出る。



「………」



滉介は外に出ると携帯を取り出した。そこから電話帳を開き、1人の男の携帯へ繋がる電話番号に掛ける。



「颯太、お前が知っているランゲージバトルの秘密を俺に教えてくれ」

7月のランゲージバトルももう少しで完結しますね(恐らく

私は先の話をあんまり考えない性格でして、その場のノリと展開を大事にして突き進んでいる感じです。


今回のお話しは主に滉介とリーナのお話でした。

今まで無視していたランゲージバトルの秘密と真正面から向き合う覚悟を決めた滉介は、前に一度リーナが言っていた颯太の願いを思い出し、レーナを救うことを決めた彼同様にリーナを救うため颯太からランゲージの秘密を聞き出そう、という感じで終わりました。


前にクレアが皆で海に行きたいと言いましたが、今のところ滉介の家に皆が押し掛けるという展開を考えています。もちろん伊澄ちゃんも一緒です。その代わり海ではなく、川になりそうです。

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