戦士たちの休息②
「始める前に1ついいかな……」
「お?」
拠点を離れ、一度カナリアの城へ戻ってきた4人はそのまま特訓を開始する事となった。
レギュンと戦う伊澄と竜也。それからカレラ、ユーノと戦うクレアと颯太。
そして伊澄と竜也は今現在PV専用クエストのフィールドに足を踏み入れていた。伊澄の希望で選ばれたフィールドは坑道を思わせる場所で、鉄板の床に投げ出されたままの採掘道具。周りの壁には基盤が埋め込まれ、今も電気が流れている。
「逆鱗状態はいつでも発動できる…?」
『今の竜也では無理だ』
「そう……なら、そこからだね…」
「え?お?どういうことだ?」
「あなたは逆鱗モードを解放する時何かの感情をトリガーとして発動している……これで合ってる…?」
「そうだな。ここでやらなきゃ危ない時とか」
「んじゃ…今からわたしが言うことを思い浮かべてそれをトリガーとして発動してみて…」
「よく分からねえが分かったぜ」
竜也が目を瞑った事を確認した伊澄はどこか思案するように顎に手を当て『確かクレアが言うには…』とか呟く。
「あなたは学校の教室にいます…」
「……」
「そして縄で縛られています…」
「ちょ、それはどういうことだよ!?」
「いいから黙って聞いてて…」
「わ、分かった…」
「近くにはあなたと同じ制服を着た男が囲むようにいます…」
「………」
「あなたの正面にいる2人の男は突然あなたの視界を解放するかのように左右へ退きます…」
「………」
「そしてあなたの視界の先には口を縛られ、下着姿で目に涙を浮かべている香織の姿が…―――」
「うおおおおおおお!!!そいつら殺してやる!!」
『竜也……我は物凄く納得が行かないぞ…』
「なれたね、上出来…」
「え?」
激昂した竜也の両手には真紅に輝く2丁の長銃が握られていた。
『確かに妹でなくてもその状況ならば誰もが怒り狂うだろう……クレアめ…恐ろしい女よ…』
「次からその状況を思い浮かべて逆鱗状態になろうか…」
「なんかすげえ嫌なんだけど…」
「なら別のパターンがあるよ…」
「お?参考までに」
「えっと……颯太とあなたがくんずほぐれ―――」
「だああああああああ!!なしなしなし!もっとないわ!!」
「ふむぅ……わたしの自信作だったのに………最後まで聴いてくれないの…?」
「聴けるかああああ!」
そんな絶叫する竜也を伊澄は小首を傾けて不思議そうに見ていた。
「颯太、レーナの具合はどうだ?」
クレアと颯太と言えばPV専用クエストに出掛けたところまでは良かったものの、どうもレーナの調子が悪いようだ。
「ん~……返答がないですね…―――呼びかけても全然ダメです」
「ふむ……このままでは始められんな…」
「そうですね…」
『颯太』
クレアと一緒に困り果てていた所へ頭の中に突然レーナの声が響いてきた。
「もう大丈夫なのか!?」
『大丈夫ってわけじゃないけど、自動修復も大分進んだから問題はないよ。ただ私の調子が戻っていないだけ』
「そ、そうなのか……とりあえずレーナの声が聴けて嬉しいよ」
『ふふ、颯太ったら、私がいないと本当にダメなんだから』
「レーナは使えそうか?」
「はい!何とか行けそうです!」
「よし、なら今日は少し軽めのトレーニングと行こう」
「よろしくお願いします!」
颯爽と大剣を構えた颯太だったが、クレアの“軽め”が彼にとって全く軽めではない事を知るのは後の話しである。
『あ~………』
「ど、どうしたの?颯太くんも兄さんも…」
次の日の食堂で颯太、竜也、香織の3人で昼食を囲んでいる時、3人分のお冷を運んできた香織がテーブルに突っ伏している2人を見て心配気味に尋ねる。
「クレアさんの特訓が辛いんだ…」
「おいおい…こっちの方がよっぽど辛いぜ…」
「えっと、颯太くんはクレアさんに稽古付けて貰って、兄さんは伊澄さんとよね?」
「前からクレアさんとは何度も手を合わせてきたが、今回はなんか雰囲気が違うんだ。まるで今まで手加減されていたような……そんな気すらする」
逆再生のようにぬるりと身体を起こした颯太は、香織に礼を言いつつコップの水を飲む。
「お前がそう感じたんだからそうなんだろうよ」
「もしそうなら自分の弱さに嘆きたくなる」
「それは俺のセリフだっつうの。俺なんか伊澄さんに一発も当てられねえんだぞ」
「そう言えばガンドレアってどういう神器なんだ?レーナは2世代目の中でも1位2位を争うと言っていたが」
「あぁ、ボルケーノも似たようなこと言っていたぜ。そうだな、まず遠距離武器が全く効かない」
「あれ?もう詰んでないか?」
「おう、詰んでいる」
「遠距離が効かないって……どういうことなの?」
「なんかな、小型の機械が浮いて網みたいなもん作るんだよ。それに俺の火炎弾やプロミネンスレーザーが当たると跳ね返って来るんだ」
「力を込めてゴリ押し出来ないのか?いくらバリアとはいえ、流石にボルケーノの最大火力は受け止められないだろ」
「いや、受け止められているから詰んでいるんだよ」
「マジか」
「大マジだ」
竜也は右頬を冷たいテーブルに寝かせて唸り始めた。
「まぁ全く成長しなかったわけじゃないんだけどな」
「おお、成長が早いな」
「とりあえず逆鱗モードがいつでも発動できるようになった」
すくっと起き上がった竜也はドヤ顔でそう語った。
「あれって怒りとか強い感情をトリガーにして変形するんだろ?ってことはその逆鱗モードを使う時何を想像しているんだ?」
「い、いや颯太それは……」
何故か急に焦りだした竜也に颯太は額に眉を寄せる。
「お前、何を想像している」
「な、なんでもいいだろ!?か、香織!飯はまだか!」
「まだかって…そもそも私達人が多いからもう少し空いてから行きましょうっていう話だったじゃない」
「あ…!そ、そうだったな!ははは!で、でもそろそろいいんじゃないか!?」
「あ、確かにそうね。颯太くん、行きましょう」
香織は竜也の焦りに気付いていないのか、それとも全く興味ないのか分からないが、颯太を促しながら席を立つ。それに続いて竜也も立つ。しかし、その前に颯太が彼の肩を掴む。
「竜也」
「な、なんだ?颯太?」
「俺がさっきトリガーとなる感情のことをお前に聞いた瞬間さ、視線が香織さんに向いたよな」
「―――ッ!?」
「まさかと思うが、自分の妹を使って逆鱗モードになった―――なんてことはないよな」
「お、おう!当たり前だぜ!ま、まさか香織が見知らぬ男たちに―――はッ!?」
「………………」
「ち、違うんだ颯太…!こ、これは!」
「分かっている。分かっているよ、竜也」
「待ってくれ!そんな目で俺を見ないでくれええええ!!」
颯太は小さく頷くと竜也の肩を叩いて香織と並んで食券を買いに行ってしまった。
「竜也のシスコンっぷりも大概だな……」
「え?シスコン?兄さんが?」
「あ、いや何でもない」
ジト目になりながら坦々麺の食券を買う颯太に香織が不思議そうに聞いてくるのであった。
「しかし、香織さんが見知らぬ男たちに……か…」
「私がどうかした?それより早く並びましょう。休み時間も無限ではないのだから」
「あ、あぁ…」
竜也の坦々麺も買いつつ颯太は香織の後に続く。
『か、香織さんが見知らぬ男たちに………香織さんが見知らぬ男たちに…――――』
「ぶふっ!」
「そ、颯太くん!?」
「だ、大丈夫だ、問題ない」
「そ、それ詩織に聞いたわ!全然大丈夫じゃない合図だって!」
鼻血を出しながら颯太は駆け寄ろうとする香織を手で制止、ポケットからティッシュを数枚取り出す。
「えっと、どうしたの…?」
若干疑い深い目をしている香織に颯太は目を逸らしてしまった。
「あの颯太くん……その、いやらしい妄想で鼻血が出るのはフィクションの世界だけよ…?」
「すまん……まさか出るとは思わなかった」
颯太はごく自然に謝ってこれ以上ボロが出ないように真面目な表情を作る。
「竜也が待っている。早く行こう」
「ええ、そうね」
再びツインテールがゆらゆらと動く香織の後に続く。
「………」
「………」
ツインテールが歩く動作に連れて揺れる。揺れる、揺れる揺れるゆれ―――そう言えば香織さんの寝間着可愛かった――――
「ッ―――!?ち、血が!?」
「颯太くんどうしたの―――」
「なんか委員長のツインテール見てたら血が噴き出た」
「え!?ど、どういうことなの!?」
「さ、さぁ…」
ティッシュを鼻に詰めつつ颯太は食券を食堂のおばちゃんに渡す。
「こんにちは」
「あら、香織ちゃん。今日も綺麗ね~」
「そ、そんなことないですよ―――」
颯太は何気なく香織と食堂のおばちゃんとのやり取りを見ていた。料理が出来るまで他愛のはない世間話に笑顔を浮かべる香織は何だかとても魅力的に見えて、今更ながら香織と普通に話している自分の立場を考えてぞっとした。
彼女とは中学からの付き合いだが、中学の頃はまともに話したことがないので普通に話すようになったのは高校1年生の時だろう。いや、言っておいてなんだが、ランゲージバトルと出会うまではろくな会話をしてないことに気付た。
確かその頃は林間学校があった時だった。
高校生活がスタートした始めにあるこの行事は、主に同級生の親睦を深めましょうという意味合いが強い。
実際そのおかげで地域の体育競技施設で行われた球技大会で実は運動が出来ることを本田と健太が知って気に入れられ、ゲーム関係の話しをしていたら上条がいつの間にか加わり、今の3人が颯太の良き友達となっている。
香織が颯太に話しかけてきたのは丁度その時だ。
自分のことを覚えているとか言ってきて、颯太は『覚えていない』と言ったところで強烈なビンタをくらい、泣きながら走り去られた記憶がある。
確かに今思えば酷い話である。中学時代足を痛めた颯太にひたすら話しかけてきた本人を『覚えていない』の一言で一刀両断されれば手の1つや2つ出たくなるものだ。
「うんうん、あれは俺の落ち度だな」
「どうしたの?颯太くん」
「いや、俺結構香織さんに悪いことしてたなって思い出して」
おばちゃんとの会話を終えた香織が『うんうん』と頷く颯太を不思議そうに見る。
「あ、え?ど、どうして?」
「ほら、林間学校の夜さ、俺いきなり香織さんにビンタされただろ?」
「あ、あれは…本当にごめんなさい…」
「いや、別にいいんだけどさ。あれってよく考えたら俺の方が悪かったしな」
「颯太くん、私のこと忘れちゃったんじゃないかなって思ったら、ついカッとなって」
「まぁ今も中学時代何をしていたか何て思い出せないんだけど、香織さんが俺を何とかクラスの輪に戻そうとしていた事は覚えているよ。今更だけど、ありがとな」
「はい!坦々麺2つ!」
「あ、俺です」
「2つも食べるのかい?」
「いえ、1つは席を取っている奴の分です」
「なるほどね。あぁ、香織ちゃんはもう少し待ってね」
「は、はい」
「ん?どうしたの香織ちゃん?顔が赤いよ?」
「あ、いえ!何でもありません!」
出された2つのトレイを受け取った颯太は先に竜也のいる席へ戻って行く。そしてその姿を香織は頬を薄く染めながら見ているのであった。
「ただいま」
「おかえり」
「母さん、レーナの様子は?」
「大分熱は下がったんだけどねえ……とりあえず部屋で寝かせているけど」
「そうか」
昨日のレギュンの一撃を受けてからレーナの様子はおかしかった。
神器コアが損傷したことで応急処置に入った事は分かったのだが、現実世界に戻ると彼女の身体は熱を持ち、酷い汗をかいていた。
「レーナ、大丈夫か?」
「あ……颯太、おかえりなさい…」
「あぁ、ただいま」
颯太は鞄を置くと寝ているレーナの近くまで寄って優しく髪をすく。颯太の顔が見れて嬉しいのか、レーナは力のない笑みを浮かべて見せた。
「身体は大分回復したんだけど……どうも…ヘルヘイムの熱が抜けないみたい…」
「そうか…」
レーナはオーバーヒートしかけたと言っていた。
「ヘルヘイムと戦闘したのは初めてだから……ちょっと、甘く見過ぎたかもね…」
「初めてだったのか」
「私……気に入らない主はすぐ殺すから……後半まで生き残れないの…」
その後すぐにレーナは『あ、でも颯太は好き…』と言って笑う。
「どれくらいで回復できそうだ?」
「ん~……明日には回復していると思うよ…」
「そっか、ならいいんだ」
颯太が一息つくとまだ17時にもなっていないというのに父さんが帰って来た。
「おや?」
「お父さんだ……早いね」
「大方―――」
レーナの様子が気になって早く帰って来たんだろう、という言葉の前に颯太の部屋の扉が開かれた。
「ノックくらいしろよ」
「大丈夫なのか?」
「うん……明日には治ると思う…」
「そうか」
「今日は早いんだな」
「む………今日はたまたま早かっただけだ」
一瞬狼狽えた父さんはすぐ踵を返して部屋を出て行こうとする。
「お父さん、ありがとうね」
その背中にレーナは笑顔と共に声をかけた。
「…………お前の好きなエクレアを買ってきた。あとで食べなさい」
「うん…」
そう残して父さんは静かに部屋の扉を閉めて下へと降りて行った。
「ったく、皆レーナに甘いな」
「皆……大好き…」
「あ~あ、俺もエクレア買って来たのに。父さんと被ってしまったか」
「やっぱり颯太はお父さんの息子なんだね……――考えること一緒…」
颯太は笑いながら鞄からコンビニで買ってきたエクレアを取り出して見せた。
「血は争えないな」
「ふふ、ホントだね…」
「それなら多分兄貴もエクレアかシュークリームを買って来るぞ」
「颯太の予想当たりそう…」
「あぁ、なんせ血は争えないからな」
得意げに颯太はそう言うのであった。
どうもまた太びです!
艦これのイベントが始まってしまい、少し日が空いてしまいましたね。
まぁ空いたと言っても数日なのですが、それでも私の中では結構な焦りを生み出しました。
『そろそろ書かねば!そろそろ書かねば!』と。しかし、その一方で艦これも大事なわけでして、今のところE-3突破したところですかね。
資材とバケツがマッハでなくなるので辛いのですが、うちの子たちには頑張ってもらいたいです。あのE-3の報酬で貰えるドイツの潜水艦は旗艦にすればビスマルクとか建造出来るんですかね?素朴な疑問です。




