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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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勢力戦勃発10

「来ると思ったよクレア!!」



レギュンが叫ぶと同時に彼女の隣に小さな双子の姉弟が現れた。



「あはは、伊澄お姉ちゃんだ~。こんなに早く会えるなんてカレラ嬉しい」


「伊澄お姉ちゃん、いつも戦わないから僕嫌いだな~」


「いつもの双子も健在か。カレラ、ユーノ」


「あ~この子達は可愛いからね。いつも傍においているんだよ~」



クレアが睨むと2人はわざとらしく『クレアお姉ちゃんこわ~い』と言ってレギュンの後ろに隠れる。

このお嬢様のような黒いドレスを着た少女の名はカレラ。グレイヴの中でも指折りのPK趣向者で、この姉の人形遊びで殺され、既に何十人ものプレイヤーがランゲージバトルの世界から去っている。

そして次はお坊ちゃまのような紳士服と半ズボンを着た少年の名はユーノ。姉同様にグレイヴの中でも玩具で遊ぶ感覚で神器破壊を好む。クレアが最も倒さなければならないプレイヤーの一人だだ。



カレラとユーノの神器はとても珍しいもので、2人で1つの神器を操っている。つまりカレラとユーノは2人で1つの神器を使い、2人で1つの参加枠を得ている事となる。

その神器の名はウォータナトス。レギュンの周りを今もぐるぐるとメリーゴーランドのように回るカレラの手にはチェーンソー。ユーノの手には震動ノコギリが握られている。



「伊澄、毎度同じ事を言うが、絶対にあのチェーンソーとノコギリに触れるなよ。即死とは行かないが、精神が汚染されるぞ」


「………」



機械のヒョウとなった伊澄は無言で頷いた。



「あれれ?今回は伊澄お姉ちゃん逃げないの?」


「逃げないの?逃げないんだ?」



カレラはきょとんとした表情をしてレギュンの周りを回るのを止め、ユーノも姉と全く同じ表情を見せる。



「ウォータナトスを破壊する…」



今まで口を開かなかった伊澄が静かに怒りを露わにしながら緑色に光る眼光で双子を睨む。



「………」


「え~?伊澄お姉ちゃんに出来るの~?」


「出来るの~?」


「で、あたいはどうする?」


「無論。お前のヘルヘイムも破壊する」


「そうかそうか!なら、あたいもお前のニヴルヘイムを破壊するしかないねえ!ユーノ!今日は思いっきり壊しちゃいな!」


「やったー!レギュンから許可貰ったよ!」


「良かったわね、ユーノ。お姉ちゃんは伊澄お姉ちゃんで遊ぶことにするわ」


「ちょっぴり斬って泣き叫ぶのを見るのがいいんだよね!」


「あら、ユーノも分かって来たのね。お姉ちゃん嬉しいわ」


「始末します…」


「行くぞ!」


「ひゃっはー!」



レギュンの手から颯太達に浴びせたあの熱線が放たれた。威力は先ほどとは段違いであり、その熱線を伊澄は前足の爪から発射した機械が空中に展開すると、緑色のシールドを作り出し、熱線を跳ね返した。



「クレア…」


「アイスコフィン!」


「わわ!?」


「あらあら?」



レギュンが自分の熱線を受け流している間にクレアは双子を氷の檻に閉じ込める。



「まずは一撃貰うよ…」


伊澄は地に足を突き刺して場を固定すると、両肩に備わっている砲台からレギュンの熱線を超える威力のレーザーが放たれた。



「あはは!」


「伊澄お姉ちゃんって強いんだ!」


「そうだぞ、伊澄はやる時はやる女なのだ」


「あれれ?」



カレラとユーノはレーザーが着弾する前に氷の檻から脱出していた。しかし、それを読んでいたクレアは双子が逃げる道を先回りしてユーノの腹部を氷の大剣で抉った。








「颯太くん!」


「颯太!!」


「滉介!」


「あ、帰って来た」



拠点に戻ると皆が緊迫した状況で待っていた。



「皆、無事だったか」


「颯太くん!クレアさんは!?」


「いや、任せろって言って…」



シーザーから降りると香織が詰め寄ってクレアについて颯太に尋ねる。



「あの人なら大丈夫だろう。今はそれよりも加山の所に行くべきだ」


「そうだな。被害状況を聞かなければ」



滉介の言葉に颯太は同意し、颯太は皆を連れて加山のいる作戦室へと向かった。



「皆……さっきのレギュンの攻撃に怯えてしまっているな…」


「仕方がないわ……あんな攻撃で動じない方が無理よ…」


「一体何があったんだよ…お前らの前線で…」



拠点の中庭では動揺の声が広がっており、レギュンと出会う前までの活気はどこかへ行ってしまったようだ。



「レギュンっていう前回のアリーナで2位だったプレイヤーが出て来たんだ」


「そして1撃で皆やられちゃったの」


「まぁ初見だったという点もあるが、まさか司令塔直々に出て来るとは思わなかったな」


「マジかよ……確か俺らが配属された前線は選りすぐりのプレイヤーばっかだったよな……?」


「あぁ。だが、それ以上に相手が強かった。レーナもレギュンの炎を受けて神器コアがオーバーヒート一歩手前まで来てさ、今冷却するため休んでいる状態なんだ」


「俺のリーナも一緒だ。お互い危うく神器を失う所だったな」


「大丈夫なの…?2人とも」


「大丈夫だと思うが、2度目はないと言われた」


「あぁ、次あの炎を受けたら間違いなくリーナとレーナは壊れる」


『ヘルヘイムの一撃を受けられただけでも評価に値すると思うが』


「ボルケーノは何か知っているのか?」


『もちろんだ』



竜也が背負っている大砲からボルケーノがヘルヘイムについて語り始めた。



『あの神器はニヴルヘイムと並ぶ凶悪な神器の1つだ。あやつは元から狂乱の極みにある神器でな。神器使いとなったプレイヤーは漏れなく狂ってしまうことで有名だったのだ』


「狂乱……か」


「レギュンはまともに見えたが…」


「おい、PKギルドの幹部を担っている時点でまともじゃないだろう」


「それもそうか…」



颯太の呟きに滉介はすぐにツッコミを入れる。



『狂人となってしまうが、その代わりプレイヤーは絶大な力を得ることが出来る。過去にあの神器の手にかかったプレイヤーと神器は数えきれない。我の友もヘルヘイムに壊されたからな』


「お前の友人って……」


『ニルヴァーシュという炎を操る天使だ。2世代目の神器だが……―――おっと、話が脱線してしまったな。話を戻すが、ニヴルヘイムとヘルヘイムは険悪な仲だった』


「まぁ氷と炎だもんねえ…」


『ニヴルヘイムは争いを嫌い、ヘルヘイムは争いを好む。2つの神器が衝突するのも無理はなかった』


「止めようとしたのね?」


『そうだ。だが、狂乱の極みにある者に言葉が心に届くと思うか?』


「届くわけないだろ。元から聞く耳なんか持ってないもんな」



ボルケーノは『うむ』と力強く頷く。



『なら後は分かるな?止めることが出来ないのであれば……―――壊すのみ』


「あ………」



颯太の口から間抜けた声が漏れ出した。神器を壊すということは、人を殺すという意味である。



「まぁ仕方ないよね。その神器を壊さなければ琥太郎とかも壊されちゃうんでしょ?そんなの嫌だもん」


「それもそうね……アルテミスが死ぬのは嫌だわ…」


『だが、ヘルヘイムも伊達に凶悪な1世代目の神器として名を連ねたわけではない。かつて数多の神器使いがヘルヘイムに勝負を挑んだが、返り討ちに会い、そして神器を破壊された』


「まぁそうなっちゃうよね。ユキナも壊しに来られたらお返ししなきゃ割に合わないもん」


『1世代目と2世代目の時代は暗黒の時代であり、負けた者には死あるのみ、がごく普通に行われていた世界だったのだ』



ボルケーノは話を続ける。



『こんな時代もあった。我を含める1世代目と2世代目神器使いが徒党を組み、PK集団を一掃する作戦などあったぞ。もちろんカナリアで行われた戦いだ』


「なんだよそれ……」


『街は燃え盛り、NPCは逃げ惑い、一般プレイヤーとPK集団との戦いはまさにこの勢力戦のような領土を分けての戦争だった。その筆頭として一般プレイヤーからは聖龍ゲオルギウスとニヴルヘイム。PKギルド集団からは魔龍バハムートとヘルヘイム』


「あ、ビャッコも一般プレイヤー側として参加したんだ?」


『うむ、四神4体も我ら一般プレイヤー側として腕を奮ったぞ』



ユキナがふむふむと小首を振っている事からビャッコからも話を聞いているようだ。



「で、その戦争はどうなったの…?」



先が気になる詩織はボルケーノの話しを催促する。



『結果は一般プレイヤー側の勝利となった。PKギルド側のバハムートとゲオルギウスが3時間にも渡る激闘の末にゲオルギウスの拳がバハムートの神器コアを破壊したのだ』


「ログアウトして逃げなかったのか?」


「あ、それあたしも思った」



颯太の素朴な質問に皆が同意する。



『したくても出来なかったのだ。もし自分が途中で逃げるような事をすれば次は自分の仲間が敵に蹂躙される。次にログインした時には自分を残して皆、このランゲージバトルを去っている事だろう、とな』


「あぁ、なるほど。本当に決戦だったんだな」


『あぁ、悪しき者を挫くため誰もがこの戦いに本当に命を懸けていた。神器達も同様にな』


「でもさ、PK集団もよく頑張ったと思うよ。数では圧倒的に負けていたんでしょ?」


『そうだな。だが、1世代目と2世代目の神器達に数で押し切るという概念は存在しない。颯太達は見たのだろう?ヘルヘイムのあの炎を』


「あの隕石か……」


「確かにあの炎はずるいよね…」


「ええ……皆いなくなるんですもの…」


「つまり火力のインフラって言ったところか。よくそんな時代を生き抜いてきたな、ボルケーノも」


『ふ、今頃我の強さを理解したか』



竜也はボルケーノを褒めると彼は誇らしげに言った。



『PV判定なしのデスマッチ。HPバーなど存在しない。神器が壊れるまで我らは戦い続けたのだ』


「とんでもない世界だったんだな……レーナもそんな世界で生きて来たのか…」


『いや、混沌は主殺しとして有名だったからな。この戦いが起きた時期は覇者が決定する12月中旬だった。その頃にはもう混沌は舞台から降りている』


「あぁ、そうだったのね……でも、参加しなくて良かったと心からそう思うわ…」


「俺もそう思うよ。一体いくつの神器が壊れたのか分からないんだ。ボルケーノだって一歩間違えば壊れていただろうし、本当に参加しなくて良かったよ」


『そうかもしれぬな。我は後方支援部隊だったから何とか生き延びたが、出撃した前衛部隊の約9割の神器とプレイヤーは帰ってこなかった』


「だから1世代目と2世代目の神器は数が少ないんだ。ビャッコもよく生きていたね」


『あの戦いで1世代目の神器のほとんどが消滅し、2世代目の神器も同様に消えた。そして残った神器はもちろんその戦いを生き抜くだけの力を持った強力な神器達だったのだ』


「だから1世代目と2世代目の神器は皆強いんだね…」


『たまたまその日ログイン出来ず、幸運にも生き延びた神器もいるだろう。だが、凶悪な神器の方が絶対的に多い事は否めない』


「ヘルヘイムはどうして生き残ったんだ?」


『ヘルヘイムとそのプレイヤーは卑怯にも仲間を見捨ててログアウトしたのだ。ふん、皮肉にもだから我らはバハムートを破壊出来たのだろう』



滉介の問いにボルケーノは吐き捨てるように答えた。



「狂っているからな……味方も何もなかったんだな…」



颯太達は加山の所へ行くことも忘れてボルケーノの語りに耳を傾けていた。



『我らは2度とこのような争いが起きないためにも、どうにかしてランゲージバトルの歴史にこの事を刻もうとした』


「だけど、戦いが終わったら皆記憶が…」


『そうなのだ……我らが覚えていてもプレイヤー側は忘れて行く。たとえ紙に残していようとも記憶を失った自分がその紙を見ても何のことか分からないだろう』


「悲しいね……」



詩織が視線を地面に落としたまま呟く。



『1世代目と2世代目の時代が終わり、3世代目の時代が訪れた時、我らはやっと戦いから身を引く事が出来た』


「ん?どういうことだよ?」


『我らは運営側から封印を施されることとなったのだ』


「あ、それって鎖か?レーナには鎖が巻かれていたんだが」


「それボルケーノも一緒だったぜ」


『うむ。それはプレイヤー側の視界から我らを隠すためのものなのだ。しかし、たまに竜也や颯太やユキナのようなプレイヤーは何故か我らの声を聞いて封印を解くのだが、原因は分かっていない』


「颯太ってレーナさんに呼ばれたの?」


「あぁ、なんかレーナの声がするなって思ったらいつの間にかレーナの前に立っていた。竜也とユキナは?」



詩織の質問に答えてから颯太も2人に視線を投げると、2人も同じようだ。



『データである我がこんなことを言うのもおかしい気もするが、いい加減休ませてほしいものだ。一体いつまでこの戦いは続くのだと』


「…………そうだよな」


『ん?颯太よ、何も深く捉える必要はない。ただの戯言だと思って聞き流すがよい。データではあるが、今もこうして人の世に触れられる機会を得ているのだ。そこは評価しているつもりだぞ』



そう言ってボルケーノは小さく笑った。







「被害状況は深刻だね」



ボルケーノの話しを聞いた一行は、本来の目的である加山がいる作戦室へとやってきていた。

颯太達の他にもプレイヤー達が来ており、結構窮屈な思いをしている。



「一番の問題はヘルヘイムの攻撃で神器を破壊されてしまったプレイヤーかな…」


「何人破壊されたんですか?」



部屋の中ですすり泣く声が聞こえるのは恐らく破壊されたプレイヤーの名前が自分のフレンドだったのだろう。



「現状確認されている時点では100人……」


「え!?あの攻撃でそんなに!?あ、あたし達のグループの5割もやられちゃったんですか!?」



颯太達は目を見開いて加山の言葉が本当なのか信じられずにいる。



「それよりもクレアさんと伊澄さんはどこにいるんだい…?まさか彼女も…!?」


「……今クレアさんは赤側の司令塔であるレギュンと交戦中です。恐らく、その伊澄さんっていうプレイヤーさんも同じかと…」


「だ、ダメだ!今すぐ彼女たちに退却の命令を出さなければ!!今この状況であの2人を失う訳にはいかないんです!」


「で、ですが!あの炎の中をもう一度突っ込めと!?」


「あ…!!そ、そうですよね……」



香織の声に加山は我に返り、悔しげに机に拳を叩きつけた。



「クレアさん……無事でいてくれ…」


「私と伊澄は無事だぞ」



その時作戦室の扉が開いた。そして彼女の登場に誰もが言葉を失う。



「クレアさん!!!」


「良かったぁ!!生きてた!!」


「クレアさん…ご無事で…」


「クレア!生きてた!」


「おっと、危ないぞ」



涙を浮かべて詩織とユキナがクレアに抱き付いた。クレアは笑顔を浮かべて2人を受け止めて同じく涙ぐんでいる香織の頭を優しく撫でる。



「………」


「レギュンとカレラとユーノは倒せなかった。戦況が悪くなると見ると一目散に逃走していってな。追撃も考えたが、流石に2人じゃ厳しい」



先ほどから扉付近の壁に背を預けている少女の名が伊澄というプレイヤーなのだろうか。

肌は褐色に染まっており、白い髪は腰まで伸びているが所々跳ねている。眉は少し垂れ下がっているせいか、どこか眠たそうな印象を与え、瞳は透き通る緑色でまるで宝石のようだ。

服装は結構ラフであり、猫耳のような黒い帽子。首元に毛皮がついたジャケットにTシャツと首から下がる銀色のネックレス。下はホットパンツと縞々のニーソだけという出で立ちであり、先ほどから颯太達の会話に興味がないのか目を瞑っている。



「良かった……もうクレアさんと伊澄さんを失ったりなどしたら僕は銀二にどんな顔をして会えばいいか…」


「はっはっは。なに、私と伊澄はこう見えてグレイヴのトップ達と何度もやり合っている。そう簡単に死にはしないさ」


「え、あのレギュンとですか?」


「そうとも。ボルケーノ、そこのメタリックなヒョウは見たことあるだろう?」


『あぁ、ガンドレアだろう?』



伊澄の足元で綺麗にお座りをしている機械の獣はボルケーノの声に少しだけ反応した。



「さて、被害状況はどんな感じだ?私の見立てとしては前衛部隊の大半がペナルティを負うか、神器コアを破壊されたか、だが」


「どちらも正解です……」


「ふむ、思った通りだったな」


「あの、クレアさん。こちらの方は?」



香織が恐る恐る手を挙げるとクレアは『おお、そうだった』とどこかわざとらしく言った。



「あの見るからに寡黙そうな少女は伊澄だ」


「クレア……」



少し失礼な紹介に伊澄は少しだけ眉を寄せて反論の意を込めてクレアの名を呼ぶ。



「はっはっは。彼女は他の拠点にいたのだが、グレイヴの幹部のカレラとユーノを追って今日付けでこちらに配属された新しい仲間だ。ちなみに私の唯一のフレンドでもある」


「ちょっとクレア…」


「ここで1ヶ月共に戦う仲間だぞ。いつまでも1人でいるわけにもいかないだろう」


「………」



伊澄はぷいっとそっぽを向いてしまった。



「ま、そういう事でしばらくは私達のグループに入る事となった。それでいいな?加山」


「ええ、構いません。伊澄さんの希望もクレアさんのグループでしたから」


「加山、被害状況が全て確認次第集会を開こう。このままでは士気に影響する」


「はい……分かりました」


「行くぞ。いつまでも加山のデスクワークを縛るわけにもいかないからな」



颯太達は作戦室を退出して、そのままブリーフィングルームへとやってきた。



「改めて紹介しよう。彼女は伊澄と言ってな。皆も気になっていると思うが、彼女の肌が褐色なのは日本人とブラジル人のハーフだからなのだ」


「あぁ、なるほど」


「ちなみに17歳だったか?」


「16歳…」


「おお、そうだったな」


「あら、んじゃ私と一緒なのね」


「あたしとも一緒!よろしくね!」



詩織は元気挨拶をしたが、対する伊澄は小さく首を縦に振るだけだった。



「とにかく人見知りが激しい性格でな。最初は素っ気ない態度しか取らないが、慣れてくれば口数こそ少ないものの、普通に話してくれるようになる」


「まぁよろしく頼むぜ」


「よろしくな」


「よろしく頼む」


「………」


「伊澄は照れ臭くなるとそっぽを向く癖がある。覚えておくといい」


「あ!んじゃ、今照れているんだ」


「むぅ……」


「可愛いわね」



今まで顔色一つ変えずにいた伊澄だったが、詩織と香織のせいで頬染めて後ろを向いてしまった。



「あらら」


「まぁ余り苛めてやるなよ」


「大体クレアのせい……」


「なに、これもスキンシップだ。さて、そろそろ本題に移ろう」



今まで笑っていたクレアが真面目な顔をすることによって、自然と颯太達も気持ちを入れ替える。



「今回現れたレギュンだが、もう彼女のことは大体知っているだろう」



クレアが皆に問うように見渡し、颯太達は無言で頷く。



「皆知っているようだ。なら、カレラとユーノについて説明しよう」


「確か前回のアリーナで4位だったプレイヤーですよね…」



香織は口元に拳を当てながら呟き、今度はクレアが無言で頷く。



「奴らは双子で1つの神器を操る特殊な神器使いであり、その神器は―――」


『まさかウォータナトスか!?』


「流石にボルケーノは知っていたか」


『馬鹿な…!奴は我が破壊したはず…!!』


「ウォータナトスは神器コアを2つ持っているのだ。恐らくボルケーノは2つあるコアの1つしか破壊しなかったのだろう」


『……我の落ち度か…』


「なんだか名前からして不気味だな……戦争と死か…」


「うむ、ウォータナトスの能力はダメージを与えたプレイヤーを操る事が出来るのだ」


「実際わたしとクレアと行動していたプレイヤーはウォータナトスにやられて双子の操り人形になってしまった…」



クレアの言葉を補足するように伊澄が語る。



「ニヴルヘイムによればウォータナトスを神器に選んだプレイヤーはヘルヘイム同様に精神に異常をきたすという事が分かっている」


「だからわたしとクレアはウォータナトスとヘルヘイムを破壊しなければならない……たとえ、神器が死ぬこととなっても…」


「まさか伊澄さんは…」


「颯太、その話はまた今度だ。そして次にカレラとユーノだが、見た目は小さなお嬢様とお坊ちゃまと言った感じなのだが、ウォータナトスに精神を侵されている事から性格が捻じ曲がってしまっている。趣味がPKと神器破壊と来るのだ。あの双子は早急にこのランゲージバトルから解放してやらねばならない」


『最悪ですね。私達は玩具じゃないんですよ』


『その通りだ。たとえ1世代目の神器だろうとそのような輩に負けるわけには行かぬ』



アルテミスと琥太郎が怒りを露わにした。



『ウォータナトスはそういう神器なのだ。だからこそ我の手で潰したかった』


「まさか神器コアを2つ持っているなんて普通思わねえよな~」


『うむ。まさか神器コアが破壊されたと同時にログアウトするとは。あのプレイヤーも相当技量が高かったのだろう』


「そしてランゲージバトルが開催中は最後まで出てこなかった。うまく逃げ切ったんだな」


「ウォータナトスがそう仕向けたのかもしれん。ランゲージバトルが終了するとプレイヤーは神器とこの世界について全ての記憶を失うが、神器は回収され、次の戦いに臨む事となる。もちろん完全に修復されてな」


『ウォータナトスはずる賢い神器だ。十分その可能性はあるな』


「次に神器の破壊方法だが、これがまた厄介なのだ。ボルケーノは1つ神器を破壊しても死なかかったとそうじゃないか」


『ふむ、今もこうしてあいつが現れたという事は死ななかったのだろう』


「ニヴルヘイムに聞いたところ、実は2つの神器コアを同時に破壊しなければウォータナトスは倒せないのだ」


『なに!?』


「わたしはカレラが持つ武器を一度破壊している……でも、破壊直後にすぐ再生した…」


「厄介なことにカレラとユーノは2人で1つの神器を使う神器使いだ。破壊方法は、2人が持つそれぞれの武器を同時に破壊するしかない」


「アリーナ4位を相手するだけでも辛いのに神器破壊とまでなると……」


「問題あるまい。カレラとユーノは私と颯太が相手する」


「え!?お、俺ですか!?」


「レギュンはわたしとそこの人…」


「ん?俺?」


「そう……炎龍使いのあなた…」


「えええええ!?」



伊澄に指を刺されて竜也は椅子から転げ落ちるんじゃないかと思うほど驚く。



『ふむ…出来れば我がウォータナトスを倒したかったが、仕方があるまい』


「あ、あたし達は?」


「残念だが、ティア達では太刀打ちできん相手だ……」


「そう…よね…」


「それは俺も賛成だ。次あの炎を受けたらリーナが死んでしまう」


「なに!?あの炎を受けたのか!?」


「あぁ……だから先ほどから神器コアの修復に入っている。応急処置しか出来ないようだが」


「あなた……神器の頑丈さに感謝すること…」


「そうだぞ!一歩間違えればリーナは死んでいた!」


「それは本当に申し訳ないと思っている…」



クレアの激昂に皆は驚き、滉介は申し訳なさそうに顔を逸らした。



「颯太は!?まさか―――」


「俺は少しだけ……でも、それだけでレーナが臨界点一歩手前に…」


「あぁ……本当に幸運だったな…」



クレアは安心したのか、脱力してテーブルに突っ伏す。



「いいか、これから戦う1世代目の神器は全て神器コアを一撃で破壊出来るような者達ばかりだ。絶対に攻撃を受けようと思うな」


「肝に銘じます…」


「分かりました…」


「レーナの一件で身に染みたよ…」


「でも…竜也……あなたは大丈夫…」


「あれ?俺は大丈夫なの?」


「うん……ボルケーノは頑丈…レギュンの攻撃なら余裕で受けられる…」


『いや、ヘルヘイムの炎ならば逆に吸収してやろう。竜也、何も臆する必要はない』


「お、おう。お前ホントすげえな」


「だからあなたは絶対にヘルヘイムのコアを破壊して…」


「分かったぜ。これ以上被害を増やすわけにはいかねえ!」



竜也は拳を作った右手で強く胸を叩いて決意を露わにした。



「よし、今夜の会議はここまでにしよう。颯太と竜也はこれから私と伊澄が徹底的に鍛える。一度カナリアの城に戻るぞ」


「はい!」


「よろしく頼むぜ!」


「うん…」


「他の皆は各自解散だ。すまないが、香織はこのことを加山に報告しておいてくれ」


「分かりました。颯太くん、兄さん。特訓頑張ってね」


「あぁ、頑張る」


「おう!やってやる!」



クレアと伊澄は颯太と竜也を連れて部屋を出て行った。



「これからどうしよっか。相手側もこっちも痛手受けただろうし、今夜はもう来ないんじゃないかな~」


「ユキナはお団子食べたいな~」


「俺はもう落ちる。リーナが心配だ」


「そっか。お疲れさま。ゆっくり休んでね」


「お疲れさまでした。リーナさん、早く元気になって欲しいわね」


「ビャッコも大丈夫言っているからそこまで心配しなくてもいいと思うよ」


「3人ともありがとな。それじゃ、お先に」



滉介は少しだけ微笑んでからログアウトした。



「滉介、最近笑うようになったね」


「え?そうなの?」


「うん。あ、大笑いするとかじゃなくて、少しクスって笑う程度なんだけど」


「よく見ているわね。私気付かなかったわ」


「ユキナも気付かなかった。というか、滉介はいつも皆の後ろにいるから表情分からないよ」


「まぁ本人も知らないだろうね」


「なんだか颯太くんみたいね。颯太くんもレーナさんと出会ってから笑顔が増えたから」


「いや~香織もよく見ているもんだね~」


「え、あ!ち、違うのよ!たまたま目にしたから!」


「はは~ん。その反応怪しいですな~」



詩織の言葉を受けて急に焦りだした香織に詩織はにやにやするのであった。



「ん~?なんのこと?」



一方ユキナは何のことかさっぱりという様子である。

頭痛がするは…吐き気もだ…くっ…ぐぅ。な、なんてことだ…このまた太びが……気分は悪いだと?このまた太びがあの睡魔に侵されて…立つことが…立つことができないだと!?


というわけではありませんが、どうも最近疲れがたまっているまた太びです。

今回の話は新しいキャラ伊澄ちゃんです。

彼女は日本人とブラジル人のハーフということで、私が一番出したかった褐色肌のキャラです。

フルネームとしては普通の日本名なんですが『神崎かんざき 伊澄いずみ』こんな感じです。まだ本編ではフルネームで紹介がされていませんが、それは後々の話ということで。


アホ毛猫耳白髪褐色肌とか色々盛り過ぎだと思いますが、可愛いは正義だと思っている私ですので、全然オーケーです。

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