勢力戦勃発9(続)
ファレルと名付けられた香織のテイムモンスターであるグリフォンは頭を下げ、香織の眼前に次第に大きさを増す青い魔法陣を幾重にも生み出す。
「行くわよ」
香織はファレルの背中に立って光の弓と青白い光の矢を構えた。
「私と一緒に行くわよ!」
「ピエー!!」
「よし!行って!ジャロウファランクス!」
撃ちだされた矢はファレルが生み出した1つ目の魔法陣を通り抜けると散弾に変わり、2つ目を通り抜けると数はさらに増し、3つ目、4つ目、5つ目と合計7つの魔法陣を通り抜けると数えるのがアホらしく思えるほどの散弾へと生まれ変わって前進を続ける近接部隊の足を地に張りつけた。
「俺も範囲系のスキルが欲しかったな…」
『なによ!それはわたくしに対する文句かしら!?』
「そ、そうじゃないが……―――まぁ、今更すぎるな」
『そうよ!無い物ねだりはするものじゃないわ!』
「そうだな!」
香織が近接部隊の足を止めた瞬間滉介を含む他のグループが一斉に攻勢へ出た。
後方へ引き込んで一気に片を付けるはずだった敵側は颯太達の常識ハズレな攻撃によって、その作戦は完全に瓦解していた。
戦争は士気を高く保ち続けた者が勝つ。それは古来より伝わる必勝法であり、たとえ数で負けていたとしても戦争に勝利したという話はよく耳にする。
「一気に攻めるんだ!!」
『おおおおお!!!』
雪崩の如く攻め立てる青側に押され始めた赤側は完全に戦意を失っていた。
「はは、このまま相手の拠点を包囲出来てしまえそうなくらいの勢いだな」
『皆、燃えている。なんだろう、目には見えないけど、皆燃えているよ…!』
「あぁ!今俺達は最高にノっている!」
颯太は眼前に迫る3人のプレイヤー達を一瞬で切り伏せる。
「がは…!」
「当たらねえ…」
「どういうことだよ…」
「颯太さんの後処理ですよーっと!」
「オラァ!さっさと自軍の所へ帰れや!」
「退け退けー!!」
斬られただけで身体が動かなくなった3人は、混沌を初めて受けた戸惑いとこれからやってくる死を理解出来ないままこの戦場を去った。
「うっ!?こ、この悪寒は!?」
『颯太!上だよ!』
「皆下がれ!!」
「へ?」
「お?」
颯太は咄嗟に足を止めて後方に飛ぶ。そして颯太がその場を離れた瞬間に巨大な炎の塊が彼のいた場所へ落ちて回避が間に合わなかったプレイヤーは一瞬でHPバーが持っていかれた。
『この炎……ヘルヘイムだ!!』
「ヘルヘイム……まさか、それはクレアさんが言っていた!?」
「おやおや、避けられたか」
女の声がすると同時に森は炎に包まれる。その原因は今も絶えず颯太が避けた火球が青側のプレイヤー達に降り注いでいるせいだ。避けられなかった者は一撃で死ぬ。颯太は剣を持つ手に汗を握る。
「よう、混沌。初めまして、あたいは赤側の指揮なんかやっているレギュンっていうもんだ。ランキングで名前くらいは知っているだろう?」
「颯太!皆どうすればいいか分からなくなっちゃってるよ!」
「ティア!今すぐ撤退命令を全員に出せ!殿は俺と滉介で務める!」
「えっ!?颯太死んじゃうよ!?」
「いいから早く行け!これは命令だ!」
「ッ!?わ、分かった!撤退命令出してくるね!」
「颯太、こいつがクレアさんが言っていた奴か」
詩織と入れ違いで白い大剣を携えた滉介がやってきた。
「滉介、勝とうと思うな。今の俺達じゃ絶対に勝てない」
「だろうな。俺もこれは無理だ」
「部屋にずっと籠っていてストレス溜まってんだ。お姉さんが少し遊んでやるよ」
にっこりと笑ったレギュンは右手に炎のエネルギーを集めると―――――
「とりあえず1発な」
ゴオオオオオオオ―――――!!!まるでマグマの中に叩き込まれたかのような強烈な熱線が放たれた。
『無理無理!!!こんな炎受けられないよ!!颯太!私このままじゃ壊れちゃう!!!』
「――ッ!?」
レーナが焦った声を上げて颯太は咄嗟に大剣を傾けながら地面を転がって熱線を受け流した。
『滉介!!!次受けたら殺すわよ!!!!!』
「すまん…」
滉介の方は受け切れたようだが、リーナは涙声混じりにキレていた。
「おお、受け切ったか。やっぱ普通の神器とは違うわな」
「フルチャージの紫電砲クラスの一撃をあんな数秒で生み出すのか……やばいな」
「颯太、どうする」
「元から俺達に受けるという選択肢は用意されていない。攻めるぞ」
「了解」
滉介は短く返答し、それを聞き届ける前に颯太は走り出した。
「お、来るか」
「しッ―――!!」
颯太は鋭く息を吐いてレギュンの正面から大剣を振り下ろす。だが、竜也が生み出す炎の壁より強力な壁が出現して颯太は慌てて剣を引っ込める。またあの炎に大剣を接触させたら今度こそ彼女は壊れてしまう。
「避雷針!」
後ろに飛びながら大剣を地面に刺してレギュンの頭上から雷が降り注ぐ。だが、レギュンの頭上に炎の渦が現れて雷を吸い取ってしまう。
「返すぞ」
「なッ!?こいつも反射持ちなのか!?」
「颯太!!アイギス!」
吸い取った雷を纏った炎の渦が颯太に迫るが、間に滉介が割って入って炎の渦を跳ね返した。
「おお?これは面白いな」
反射炎の渦はより強力な炎に包みこまれるとレギュンは右手を軽く振った。
「滉介!伏せろ!」
次の瞬間巨大な炎の剣が伏せた颯太と滉介の頭上を通り抜け、樹木を水平に焼き切って行く。
「お前達凄いな。まさかあたいの技がここまで避けられるとは思わなかったよ」
「遊ばれているな…」
「悔しいけど、仕方ない。俺達はあくまで時間稼ぎなんだ」
「んじゃ、こいつはどうだ?」
レギュンの右手が颯太と滉介に向けられた瞬間、彼らを囲むように天すらも焦がす火柱が立ち並び始めた。
『颯太まずいよ!この火柱に閉じ込められている間はHPが減り続けるみたい!』
「状態異常は無効化出来るんじゃないのか!?」
『これは毒沼やマグマの上を歩いているようなもんなんだよ!レジスト不可能なスリップダメージ!』
「なら、俺の浄化の光も意味がないな……」
「さぁさぁどうするよ。このままじゃ焼け死ぬぞ?」
自動回復が間に合わないほどの強力なスリップダメージに颯太と滉介は焦り始める。
回復ポーションを飲んで何とか今の所凌いでいるが、このままでは間違いなく死ぬ。
「神器でのゴリ押しは無理だ。そんなことしたらレーナが死んでしまう」
「俺も同じく先ほどの一撃でリーナが限界の一歩手前にまで来てしまった」
「滉介のトライデリートじゃ無理か?」
「無理だ。持続ダメージ持ちのスキルには競り負けるに決まっている」
何でも壊せる青い三角形が無理となるとどうしたものか。
「オブジェは破壊出来てもスキルの競り合いには弱いんだ……あのスキル」
「オブジェ……」
「ん?オブジェがどうかしたか?」
「それだ!!滉介!この地面を破壊して火柱の下をくぐって抜けるぞ!」
「なるほど!思いついたな!」
滉介はトライデリートで地面を破壊し、颯太と滉介は穴に飛び込んだ。
「トライデリート!」
地面の壁に向かって放たれたトライデリートは地中を三角形に切り抜きながら突き進む。
『颯太!スリップダメージが止まった!』
「ここだ!滉介!」
「了解!トライデリート!」
剣を頭上に突き刺して放たれたトライデリートは地上へ戻る穴を作り上げ、颯太と滉介は火柱を何とか攻略した。
「よう、なかなか苦戦していたみたいだったな」
「なッ!?」
「なにッ!?」
地上へ戻った颯太と滉介を出迎えたのは巨大な炎の龍だった。龍は森に移った炎を集めて身体をどんどん大きくしており、今これが放たれれば颯太と滉介に打つ手はない。
「まずい!逃げるぞ!滉介!」
「くそッ!」
「おいおい、本当に逃げられると思っているのか?だとしたら相当おめでたい頭してやがるな、お前ら」
少しだけ冷めた様子で呟いたレギュンは炎を纏う右手で颯太と滉介を指差した。
「行け」
静かに命じられた龍は巨大な口を大きく広げて颯太達を――――
「大丈夫か?2人とも」
突然氷風が吹いたかと思うと、たちまち燃えていた森は凍てつき、颯太と滉介に迫った龍も例外なく凍りついて崩壊を始めた。
「クレアさん!!」
「アンタか!」
「クレア……」
「久しぶりだな、レギュン」
カツカツと氷の森を歩いてくるクレアは帽子を深く被っていた。そしてクレアの隣には見慣れないプレイヤーが並んで歩いている。
まるで機械で出来たヒョウのような姿のプレイヤーは全身に数々の兵器を携え、前の両肩にはレーザーを発射する砲台と足首の爪には小さなミサイルが装着され、背中には巨大なブースターとそのブースターのサイドに折り畳まれたソードが取り付けられている。
そして後ろの両肩にはミサイルポッド。そして尻尾にはスナイパーライフルなのか、長い銃が尻尾の先端部分に装備されていた。
「私が来たからにはもう大丈夫だぞ。後は私と伊澄に任せて後方に下がるといい」
『ガンドレアだ……』
『これが戦神ガンドレア……なのね』
「この威圧からして1世代目か2世代目の神器か……」
「なるほど、この人がアンタのフレンドさんか」
ガンドレアを操る伊澄というプレイヤーは颯太と滉介を全く見ようとしない。彼女が注ぐ視線の先はレギュン、ただ一人だ。
「さぁいけ。皆が心配していたぞ。リーダーとサブリーダーがいないんじゃ誰が指揮を取ればいいのか分からなくなるからな。まぁ一応指揮は香織に預けてきたが」
「分かりました。クレアさん、どうか御無事で」
「任せたぞ」
「あぁ、任された」
颯太はシーザーを召喚して滉介と共に急いでこの場を離れた。
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