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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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消える命

「んじゃ、俺は千草ちゃんを送って行くよ。千草ちゃんのお母さんには既に電話を入れていたから、問題はないはずだ」


「あ、千草ちゃん待って」



香織と竜也は迎えの車で帰り、クレアは車で詩織を送っていくそうで、颯太は暗り始めたこの時間帯で小学生を1人で返すわけにも行かない。ということで、必然的に颯太が送って行くことになったのだ。



「はい?」


「これ、お家で食べてね」


「これ……」


「ラスクよ。お砂糖をフランスパンに塗って焼いたものなの。小腹がすいたら食べるといいわ」


「あ、ありごとうございます」


「それ、俺が食いたいから後で作ろうとしたものなんだが……」


「アンタにはいつでも作ってあげるわよ」


「いや…パンは実費……」


「小さい男ね~。千草ちゃん、気にしないで食べてね」



颯太と千草でコロコロ表情を変える母さんに颯太は眉を寄せる。



「まぁ帰りにでもまた買ってくればいいか。ほら、行くぞ」


「うん。お母さん、お邪魔しました」


「はい。いつでも来ていいのよ。レーナちゃん、いつも暇しているから」


「千草!今度ゲームしようね!クレアに勝つためにも練習相手が必要なんだよ!」


「分かったわ!私、こう見えてゲームは強いのよ」


「へえ?なら、泣いても文句は言わないでね」


「当たり前よ。そっちこそ颯太に泣きつかないことね」


「すぐ帰って来るよ。父さんたちもまだ帰ってこないだろ?」


「そうね。和彦はもうすぐだと思うけれど」


「了解。んじゃ、行ってくる」


「またねー!」


「ええ、また今度」



レーナと仲良くなった千草は笑顔で手を振って颯太と共に天風家を後にした。



「楽しかったか?」



太陽が沈みかけて空が真っ赤に染まる夕日の道を歩いている最中、颯太はそんな質問を千草に投げかけた。



「楽しかった」


「それは良かった」



短い返答だったが、彼女の表情は太陽にも負けないほど晴れやかなものだった。



「学校で料理の授業とかあるけど、今日のクッキー作りは何か違ったわ」


「皆千草ちゃんが作ったクッキーをうまいうまい言って食ってくれたからな。もしかしたらそれかもしれない」


「そうよ!それそれ!自分が作ったものを人に食べて貰っておいしいって言われるのがとても嬉しかったのよ、きっと」


「今日の母さんはやけに張り切っていたからな」


「颯太のお母さんはとてもいい人ね。優しいし、教え方がうまかった」


「実はうちの母さん、父さんと出会う前は保育士でな。子供の扱いにはそれなりに長けているんだ」


「そうなの!?あぁ、だから接しやすかったのね…」


「お前、ホントませているな」


「今更なによ」


「確かに今更ではある。なんか小学生と話している感じがしないんだが」


「ふふ、やっと私が大人のレディだと気付いたのね」


「あ、やっぱり子供だわ」


「なによそれー!」



自分のことを『大人のレディ』と言った瞬間颯太の中で千草の精神年齢が中学生から一気に小学生に戻った。



「自分のことを大人のレディっていう大人がどこにいる」


「ここにいるじゃない!」


「お前、子供だろ」


「むー!いいわよ、私が本当に大人になったとしても颯太のお嫁になってあげないんだから!」


「お、お嫁?やっぱり千草ちゃんは子供だな」


「もう頭をポンポンしないで!あの時千草の魅力に気づいていればなー!何て言っても知らないんだから!」


「はいはい。牛乳を飲んで大きくなれるように頑張りな」


「飲んでいるわ!既に!」


「わお、本当に頑張っているんだな。無駄なところで」


「最後なんか言ったかしら~?」


「いや、何も言っていませんよ、レディ」


「馬鹿にしているでしょ」


「全然」


「嘘ね」


「嘘をついて何の得がある」


「少なくともこの場をやり過ごせるわ」


「面白い見解だな」


「いいこと?世の中にはついていい嘘とついちゃいけない嘘があるのよ」


「小学生が何を言っているんだか……――――まぁ確かにそれには同意するが、千草ちゃんはまさに今この場で俺が言ったことが前者に当てはまると?」


「ぜ、前者?まぁ、とにかく颯太がついた嘘はついていい嘘なのよ」


「なるほど、俺は今ついていい嘘をついたのか。なら、千草ちゃんの怒りを躱すためにも自己防衛のために俺は嘘をついた、という事でいいんだな?」


「あなた、無理やり難しい言葉を使って話の論点を徐々にずらして行こうと思っていないかしら」


「それはどうだろう」


「今のがついていい嘘ね。ホント颯太は表情によく出やすいんだから」


「む、表情に出やすいとは誰かさんに言われたが、まさか俺は本当に表情に出やすいのか…」


「自覚なかったの?」



実はこの颯太の表情についての話しがまさに話題すり替えなのだが、千草は気付いていないようだ。



「あぁ、自覚はないんだ。もうこれは直しようがないと思うんだが」


「そうね。今までそれで生きてきたのでしょうし、今更変える事なんて意識しない限り無理よ」


「意識すると言ってもこれは無意識だぞ?無意識なんて直せるもんじゃねえと思うけどな」


「直せるとは思うけど、かなり難しいわね」


「まぁクレアさんもこれは俺の個性と言っていたからな。別にそこまで直そうとも思わない」


「クレア……あぁ、あの背が高い人ね。私、あんな大人になりたいわ」


「クレアさんは現役モデルだからな。そりゃあスタイルは良いに決まっている」


「モデルなの!?ホント!?」


「正真正銘のモデルだぞ。家に帰ったらクレア・フィールストンで調べてみるといい。どっさり画像が出てくるはずだ」


「凄い………なんで颯太はそんな人と友達なの…?」


「たまたまオンゲで知り合っただけだ」


「オンゲ…?なにそれ」


「オンラインゲーム。パソコンのネットゲームだよ」


「へえ、不思議なものね」


「あぁ、ホント不思議だと思っているよ」



颯太はそういう点ではランゲージバトルに感謝をしていた。あの不思議なゲームがなければレーナ達に出会えなかっただろう。

香織もランゲージバトルがなければ卒業まで微妙な距離感だっただろうし、詩織に至っては一生出会えなかったはずだ。



「ホント不思議なもんだよな~」


「え?なにが?」


「いや、人との繋がりを考えたら不思議だなって」


「急にどうしたの?」


「だってさ、今までろくに話してこなかった奴とか、昨日まで一度も自分の人生に関わりを持たなかった奴が明日には自分の友人だったりするんだぞ?そう考えたら凄いもんだよな」


「よくよく考えてみたらそうね。颯太も私の人生の中で今まで通行人Aくらいだったもの」


「…………―――うまい具合に出来ているもんだな、世の中って。だから、千草ちゃんも人との繋がりは大事にしろって事だよ」


「ふふ、なら私は颯太との繋がりを大事にするわ」


「俺が千草ちゃんの人生にどれほど影響を及ぼすのかは分からないが、今日出会った香織さん達も大事にしろよ」


「ええ、もちろんよ。皆、私が作ったクッキーを食べた人ですもの。絶対忘れないわ」


「いつも笑っていれば可愛いのによ。変にませているから友達作れないんだぞ?」


「んなっ―――!?」


「あ、やべ。思わず言ってしまった」



笑顔を浮かべた千草を見るなり、心で思った事が口から出てしまった。



「そ、颯太ああああああ!!」


「す、すまん!友達は禁句だったな!?マジですまん!」


「ゆ、許さないんだからああああ!」


「いてッ!あ、足を踵で踏むな!マジで痛いから!」


「うるさい!うるさい!こら!逃げるのはなしよ!」


「馬鹿!避けなきゃ痛いだろうが!」


「馬鹿って言ったわね!」


「いたッ!お前言葉の耐性なさすぎだろ!」


「悪かったわね!耐性低くて!」



その後颯太は千草を家に送るまで足を踏み続けられるのであった。



「それじゃ、またな」


「今日は楽しかったわ。またお邪魔するわね」


「あぁ、いつでも来い。レーナも友達が増えて嬉しかったようだしな」



千草が家の中へ入って行くのを見届けてから颯太はその場を離れた。



「あ?」



雑踏に紛れながら歩く颯太はふと路地裏に奇妙な影を見えた気がした。



「ん?」



立ち止まって路地裏を改めて見てみるが……――――



「……気のせい…?いや、一応左目を使ってみるか」



左目が紫色に染まり、覚醒した視界は颯太の違和感を確信へと導く。



「ッ――!?神器反応!?やっぱり気のせいじゃなかった!」



颯太の知らない神器がこの路地裏の奥にいる。



「…………」



生唾を呑み込み、ウエストバッグの中からレーナがくれた黒いカードを取り出す。

これは颯太が望めば瞬時に剣になる優れ物で、重さも金属バッド程度だと言う。



「…行くか」



颯太は人の波から外れて暗い路地裏へ進んでいった。



「……臭い…」



左目を頼りに突き進む颯太は鼻を突く臭いに顔をしかめる。



「なんだこの臭い……」



恐らくこの辺りに立ち並ぶ飲食店から出されるゴミが互いに混ざり合って刺激臭を生み出しているのだろう。

しかし、たとえそうだとしても嗅ぎなれない臭いが混じっている気がする。



「…………」



左手の袖で鼻を塞ぎ、颯太は道の曲がり角を右へ曲がる。



「この先か……」



こちらの世界で神器相手にどこまで通用するか分からないが、颯太は護身用としてカードから黒い剣を生み出す。


モノクロの視界で唯一色を持つ存在がこの先にいる。颯太は壁に張り付きながらそっと角から顔を出すと――――



「いやあああ!死なないで!やまと!」


「ッ―――!?」



颯太は剣をカードに戻して瞬時に張り付いていた壁から飛び出した。



「どうした!!」


「あ…!た、助けてください!!倭が!倭が!」


「分かった!うわ、これは酷い傷だな…」


「うぅ……誰だか分からねえが…すまねえ…」


「いいから喋るな…」



路地裏に横たわる大柄の男は左肩から斜めにバックリと切り裂かれていた。

暗いのでよく分からないが、男の服が真っ黒に染まって見えるほど出血が酷かった。



「救急車を呼んだ。もうすぐすればこっちに来る」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


「あぁ、それはいい。それで何があった?」


「あ……それは…えっと…」


「神器に襲われたんだな?」


「え!?な、何故それを!!」


「大丈夫、こちらに敵意はない」



緑の髪をした女性の神器は敵意を見せるが、颯太は首を左右に振って敵意がない事を示す。



「もしかして知りすぎたのか?」


「あ………はい…倭はそれで…」


「なるほど。運営が強硬手段に出るほどお前達は知りすぎたのか」


「おれは……こいつをあんな檻から解放してやろうしていたんだ……」


「倭!もういいから喋らないで!」



倭と呼ばれた男は地を吐きだしながら神器の頬を愛しそうに震える手で触れる。



「まずいな……この出血量は…」


「倭……」


「へへ、お前さんもなかなかランゲージの闇に足を突っ込んでいると見える……」


「あぁ、まだ殺されていないがな」


「お、お前は………どこまで知った…」


「神器は人間だったということくらいか」


「そうか……なら、あの部屋も見たんだな…」


「もう倭喋らないでよぉ…」


「もう喋らない方がいい…」


「その先は?」


「その先……?」


「知らねえみてえだな…」



確かに颯太はレーナの身体が入った巨大な試験管を見た後すぐあの場所を脱出してしまった。



「いいか、あいつらはとんでもねえ計画を企んでいやがる」


「それは……――――ッ!?神器が来るぞ!」


「え!?来るんですか!?」


「パラセクトソルジャーじゃない!これは!」



ドスン――――颯太の前に1体の神器が落ちてきた。



「まさか殺し損ねるとはな」



凶悪な威圧を放つ神器は口を開いた。まるでリザードマンのような体型をしている神器だが、顔はドラゴンそのもので身体には真紅に染まった革の鎧を着こんでいる。



「お、お前は…!」


「む?貴様、混沌使いか。なるほど、その左目でそこの神器を追って来たのか」



地面を打つ尻尾が砂を払い、龍人は背中に刺した剣と盾を手に取る。



「退け。一度見逃しているとは言え、貴様も殺すに値するプレイヤーだ。退かなければ斬り殺すぞ」


「くッ…!」


「退くもんですかあああああ!!」


「やめろ…!かおる…!」



倭の制止も聞かずに神器薫は戦闘服に変身して龍人へと突っ込んでいった。

詩織の琥太郎と似たような忍者の衣装を纏って薫は涙と雄叫びを上げ、苦無を握って龍人へ何度も何度も苦無を振るう。



「無駄なことを…」


「やらせない!!倭は私が守るんだからああああああ!!」



対する龍人は盾を器用に扱って薫の攻撃をいなし、カウンターで入った剣が確実に薫の身体を抉る。もう見ている颯太も辛かった。



「おい……お前…」


「なんだ…?」


「薫が時間を稼いでいる間にこれを……」



倭は震える手つきでポケットから小さな手帳を取り出した。



「これを……お前に託す………」


「これは……まさか」


「おれが知っている限りのランゲージバトルの情報だ…!頼む、神器達を救ってやってくれ…!」


「おい、まさかお前!」


「もうこの傷じゃおれはどの道死ぬ……なら、後を託せるお前に渡してしまった方がいいに決まっているさ…」



倭の息が荒いことに颯太も悟ってしまった。もうこの男は助からないのだと。



「ああああああ!!」


「はっ!?お、おい!大丈夫か!」



ごろごろと颯太と倭の下へ転がって来た薫はボロボロだった。衣服は破れ、コアも損傷しているのか薫の身体にノイズが走っている。



「く……うぅ…!」


「貴様……」


「倭は私が…!私が守る!」


「戯言を」


「やめろ――――!!!」



龍人は立ち上がろうとしている薫へ剣を突き立て、そして――――





ガキン――――!!!



「あ……」


「なにッ!!?」


「颯太の帰りが遅いから何しているんだろうな~って思ったら、急に左目使うんだもん。何事かと思ったよ」


「レーナ!!」



その剣をレーナは自身の黒い大剣を盾にして防いでいた。



「へえ、執行者のあなたが直接出てくるほどのプレイヤーだったんだ。その人」


「混沌貴様…!」



レーナは大剣を払って龍人を追い返し、龍人はレーナの登場に表情を歪ませる。



「颯太、表に救急車来ていたから、こっちに呼んでおいたよ」


「あぁ!ナイスだ!」


「そろそろ潮時か。だが、その男の命は貰っていくぞ」


「あっ!颯太!!危ない!」


「え?」



龍人は腰に差したナイフを颯太と倭に投擲した。颯太へ迫ったナイフはレーナが弾いたが―――



「薫!?」


「う……うぐ…倭、大丈夫ですか…」


「馬鹿野郎が…」



倭に飛んで行ったナイフは薫が身を挺して防いでいた。しかし、今の一撃で彼女のコアに罅が入り、もうすぐ彼女の身体は崩壊してしまうだろう。



「ふん、どのみちその男は助かるまい」



龍人は踵を返して暗闇へ消えて行った。



「颯太……もうこの神器は…」


「あぁ……分かっているよ…」



薫に走るノイズもより一層激しさをまし、今にも消えてしまいそうだった。だが、そんな中でも彼女は自分のご主人に笑顔を浮かべた。



「すまねえな……こんな馬鹿な男がご主人でよ…」


「いいえ、あなたは最高のご主人でした」



そう言って薫は血だらけの自分の愛しいご主人を抱きしめる。



「なぁ、そこのアンタ。名前を聞かせて貰っていいか…?」


「俺は颯太。天風颯太だ」


「颯太、礼を言うぜ。お前が来なかったらおれ達はとっくの昔にくたばっていた…」


「そんな、俺は…」


「それでも、アンタのおかげでこうして薫にちゃんと別れを告げられる…」


「倭、あなたには生きていて欲しい……」


「いいんだよ。やるべきことはやった。敗者はさっさとこの世を去るだけさ」


「あ……」



レーナが小さく声を上げた瞬間、薫の身体が足からどんどん消えて行く。



「そろそろ限界ですね……倭、あなたは生きてください。死んだら許しませんよ」


「おいおい……この傷で生き残れると思うのか…?」


「大丈夫ですよ。きっと、あなたなら」



薫は最後ににっこりと笑顔を浮かべるとポリゴンを散らしてこの世を去った。



「どこですか!負傷者は!」


「あッ!ここです!」



薫が消えると同時に担架を持って救急隊員がやってきた。そして颯太は薫がいなくなった悲しみに浸る暇もなく、救急車と共にやって来た警察に状況説明することとなった。

こんばんわ~い、ということでどうもまた太びです。


えっと、今回の話は少しシリアルな感じでしたね。

そろそろ物語が本格的に動き出す頃になってきた、という感じでしょうか。

あの場所にたどり着いたのは颯太とクレアだけでなく、他のプレイヤーもいた。

しかし、倭は颯太達が知った神器の秘密のその先へ進んでしまい、運営の手にかかってしまった。

これからの展開に書いている私もわくわくしてしまして、頑張って書き上げたいと思います。

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