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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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勢力戦勃発6

「なんだったんだ……」



正体不明の何かが消えると同時に大剣を封印していた鎖が弾け飛び、颯太を襲っていた妙な気配も霧散した。



「ぷはー!もう!いきなりなんなのこれー!」


「レーナ!無事か!?」


「うわ!?だ、大丈夫だよ。んと、なんか颯太とリンクが途切れちゃうし、武器化も解けなくなっちゃうし、よく分からない状況だったんだよ」



今度こそ本物のレーナが現れ、颯太は思わず彼女を抱きしめてしまった。レーナは頬を赤く染めて颯太から離れながら自分の状況を語る。



「さっきのレーナは幻覚だったということか…?」


「そう見るのが普通かな。神器には特に影響ないみたいだけど、プレイヤーが幻術にかかっちゃうとリンクが途切れちゃう効果があるね」


「クレアさんの凍結みたいなもんか。あれか、リンクが切れてしまうのは神器が呼びかけさせないためか?」


「そうかもね――――……それで、これからどうするの?ティアとはぐれちゃったし、それにこの先に目的の洞窟があるとは思えないんだけど」


「そうだよなぁ……どうしたもんかな……」



白い世界を見渡しながら颯太は頭を悩ます。



「ここは海だよな……」


「そだね、ここ波打ち際みたいだし」



レーナはしゃがむと砂浜に打ち上げられた貝殻を突っついて弄ぶ。



「だとすると……地図的には本当に北の端まで来てしまったんだな」


「なら大体の位置は分かったね。それで、洞窟はここからどのくらい?」


「遠いな。とてもじゃないが、ここから歩いて正確にその洞窟まで辿りつけるとは思えない」


「そっかぁ……本当に困ったね」


「はぁ……見える敵ならぶっ潰してやるところだが、見えないんじゃ手が出せない」


「恐らくこの霧も敵の神器のスキルだろうね。でも、ここまで広範囲で尚且つ長時間発動し続けるスキル何て………」


「何かあるのか?」


「多分ね、多分だけどこれは……―――神器の覚醒能力かも」


「…ッ!遂に覚醒能力を解放した神器が出て来たか」


「それにしても覚醒が早い……」


「普通はどれくらいで?」


「普通なら早くても9月の中旬から10月の上旬。でも、私の場合関係ないけどね」


「あぁ…そう言えば既にレーナも覚醒していたか」


「1つだけね。あと1つは今まで一度も覚醒した事がない」


「……解放条件が気になるが、今はそれよりもこれからどうすべきか…」


「ふふ、暗黒大陸を使えばこんな霧、塗り替える事も出来るけどね」


「でも俺の身体がやばいんだろ?」


「そうだね~。でも、今の颯太なら私の混沌を受け止められるかも」


「そんな分からない状態で使いたくはない。違う解決策を練ろう」


「私はいつでも発動できるように準備しておくね」


「やめろ」



にっこりと笑うレーナに颯太は真顔で制止した。




「あ、これ洞窟じゃない?」


「おお、何とか道に迷わず来れたか」


「颯太いるかな…」


「ふむ……」



詩織と琥太郎は何とか道に迷わず目的である洞窟に辿りつく事が出来た。



「あれ?」


「ん?」


「霧が……」



洞窟の中へ入ると、驚くべきことに霧が洞窟にまで入って来ていないのである。



「どうやら建物内には入って来れないようだ」


「まぁ、これで一安心かな。幻覚に惑わされる心配もないし」


「ここまで幻覚にかからなかったのも僥倖と言えよう」


「はぁ、既にこの洞窟が幻覚で生み出されたものだと思ったら疑心暗鬼に陥って狂っちゃいそうだよ」


「だから拠点の管理者はおかしな報告書を送って来たのだろう?」


「既にやられていたんだね~。なら、拠点で殺し合いでも起きていたりして」


「物騒なことを言うのではない」


「あははは……ごめんごめん」



詩織は近くの岩に腰掛けながら話題を変えるべく琥太郎に話を振る。



「それにしてもあの霧は何なんだろうね」


「恐らくあの霧は覚醒した神器の能力だろう」


「え!?覚醒!?」


「それしか思いつかないのだ。ここまで大規模なスキルなど見たことがない」


「ま、まぁ…確かにそうだよね……」


「視覚妨害と幻覚を見せる程度の覚醒能力ならまだいい方だが、厄介なことに変わりはない」


「打開策を考えなくちゃね。このままじゃ帰れないよ」


「颯太殿も見つかっていない事だしな。しばらくここを拠点として活動する事にしよう」


「んじゃ、ここにマーキング付けておこうか」



詩織はストレージから黄色いフラッグを取り出すと近くの岩に突き刺した。

するとフラッグは淡く黄色い光を放ち始める。



「よっと、これでオーケーかな」



そして詩織は更にストレージから携帯端末を取り出して起動すると、フラッグから黄色いレーザーが放たれて端末のアンテナに突き刺さる。



「うん、ちゃんと起動してくれたね」


「これで迷う心配はないだろう」


「入り口にも設置してくるべきだったかな?」


「いや、他のプレイヤーに見つかる可能性を考慮すべきなら、設置しなくて正解だ」


「はぁ……それじゃ本格的にこのエリアから抜けられなくなったね」


「歩いていればいずれこの霧の効果範囲から抜けられるだろう」


「でも出た場所が見当外れな場所だったら戻るの大変だよね」


「しかし、脱出することは出来るだろう」


「この霧がそう簡単に逃がしてくれるとは思わないけど」


「この霧も閉じ込める事に特化した覚醒能力だと思われる。確かにそう簡単に抜けれそうにもないな」


「壁とかだったらいくらでも案が出そうだけど、見えない壁じゃお手上げだよぉ……」



うなだれる詩織は首を傾けて外の霧を眺める。まぁ眺めても何も見えないのだが。



「確かアウトドアセットって颯太が持っているんだっけ」


「そうだな」


「はぁ……コーヒーが飲みたい…」


「開戦中はFDが使えんからな。仕方があるまい」



詩織は琥太郎の言葉を受けて更にうなだれた。

そしてその瞬間――――



「ティア!?」


「え?」



ティアの背後から何者かが彼女の背中を切りつけた。





地図を頼りに歩き始めて1時間。颯太とレーナは遂に洞窟を発見した。



「おお!あったぞ!」


「ん~……これ本当に洞窟?」


「お、おい…流石にこれが幻覚だったら俺泣くぞ…?」


「颯太が泣いている姿は見たくないけど、ちょっと疑い深くなっているね」



武器化していると、いつレーナが偽物と入れ替わったのか分からなくなるため絶賛彼女とは手を繋いでいる状態だ。



「嫌な能力だなぁ……」


「ホントにね……―――颯太…!左目使ってみて!」


「ん?おう?」



レーナが小声で言った事に首を傾げながら颯太は頷くと左目を解放した。



「ん…ッ?!隠れるぞ!」


「うん!」



左目を使うと神器反応がある事が分かり、颯太とレーナは慌てて近くの岩陰に身を潜めた。



「ティア……じゃないよな…?」


「違うね」



颯太とレーナが隠れてから数十秒後、洞窟から人影が現れた。



「………ここの拠点のプレイヤーか…?」


「分からない……」



長い黒髪をだらしなく伸ばし、だらりと下がった長い手にはナイフが握られている。

瞳はぎらぎらと怪しく光り、くたびれたワイシャツから覗く胸板は痩せこけていた。

奇妙な男だと颯太は思った。



「どうする?」


「今接触するのは危険だ。しばらく様子を見よう」


「うん、わかった」



男はキョロキョロと周りを見渡すとゾンビのように歩き始めた。



「神器はあのナイフか……レーナは何世代だと思う?」


「ん~……あの形状のナイフは戦闘向きじゃないなぁ……多分…4世代目か、それとも一芸に秀でている6世代かな…」


「ティアもリーチが短い苦無と忍者刀だもんな。何をしてくるか分からないか」


「1世代目や2世代目と接触した時の反応がない事から、1世代目と2世代目の線は捨てていいね」


「あぁ、背筋が凍るような威圧は感じなかった」



2人は飛び飛びで物陰に隠れて慎重に男の後を追う。たまに男が背後を振り向いたりするので気が抜けない。



「ん~……何の神器か分からないなぁ……」


「少し仕掛けてみるか」


「どうやって?」


「シーザーをけしかける」


「あぁ、モンスターなら大丈夫だね。颯太のテイムモンスターを知っている人何て中央の拠点の人くらいだし」


「そういうことだ」



颯太はストレージからシーザーを封じた宝玉を取り出して、それを握りつぶした。



「グルルル……」


「行って来い…!」


「ガアアアッ!!」



シーザーは草陰から飛び出すと、長髪の男に襲い掛かった。



「うわッ!?な、なんですか!?て、敵!?ひいい!」


「ま、待てシーザー!」


「ルルルル…」



一瞬で男を組み伏せたシーザーは男の喉笛に爪を当てながら制止した颯太の声に振り返る。



「い、いきなりなんなんですか!?ぼ、僕は敵じゃありませんよ!?」


「シーザー」


「グル」


「よしよ~し」



再び颯太が声をかけるとシーザーは渋々男から離れてレーナに撫でられに行く。



「も、もうびっくりしましたよ……心臓に悪いなぁ…」


「すまない。何せこの霧だから敵も味方も分からなくて」


「いえ、僕も警戒が足りていませんでした」



颯太の手を借りて立ち上がった男は尻についた砂を払い、乾いた笑みを浮かべた。



「あなたはここの拠点の人ですか?」


「え?あ、あぁはい。この霧のせいで帰れなくなってしまい、途方に暮れていたんですよ」


「俺は颯太って言います。出来れば拠点で起きたことを教えてくれませんか?」


「あ、敬語はいいですよ。それで僕はイズルと言います。立ち話も何ですから、僕が見つけた洞窟に行きましょう」


「了解した」



イズルと名乗った男は颯太を連れて歩き出した。



「早速だが、何があったんだ?」


「そうですねぇ……初日の終わりごろでしょうか」



颯太はアウトドアセットを準備しながらイズルに話を聞いていた。レーナと言えば猫じゃらしでシーザーと遊んでいる。



「ここの拠点が戦略的にも優先度が低いのはご存じですよね」


「まぁ最前線から更に踏み込んだ場所に位置する拠点だからな。まだまだ攻略は先の話しだ」


「ええ、だから我々はこう言っては何ですが、余裕をこいていたわけですよ。それで何事もなく1日目が終わろうとした時、急に霧が立ち込めてきましてね」


「続けて」


「はい。その霧は拠点周辺を覆ってしまいまして、霧に触れた者はみ~んなおかしくなって殺し合いを始めてしまったんです」


「幻覚を見て味方が敵に見えてしまったか…」


「僕と言えば、見ての通り貧弱な神器ですから、命からがら逃げているうちに帰れなくなってしまったんですよ」



そう言ってイズルは薄紫で塗装されたナイフを颯太に見せる。



「それは4世代目か?」


「ええ、ピーキーで扱いづらいですよ」


「なるほど」


「まぁ僕が知っている事はこれくらいですかね。あの時は生きることに必死でしたから」


「ありがとう。大体状況は掴めた」


「それで颯太さんは?」


「ん?」


「ここの拠点の人じゃありませんよね?」


「いや、俺もここの拠点の者だが、初日は外せない用事があってログイン出来なかったんだ」


「あぁ、そうでしたか。見ない顔でしたので」



颯太は咄嗟に嘘をついたが、バレていないようだ。しかし、このイズルという男は混沌を知らないのだろうか。

いや、4世代目は意思疎通を取る事が難しい神器が多いという。もしかしたら神器と会話が出来ていないのかもしれない。



「それでイズルさんは拠点に戻ろうと?」


「そうですねぇ……拠点に帰らなければ指示も仰げませんし、この霧の中にいるといつ幻覚が襲って来るか分からないですからね」


「だが、見たところ洞窟の中は安全のようだが」


「ええ、どうしてか霧の効果範囲は建物まで及ばないようです。だから僕もこうしてこの洞窟は拠点にしているわけですし」


「ここにずっといるという考えは?」


「もちろんありましたよ。でも、僕は堪え性のない人間でして、何かしていないと落ち着かないんです」


「まぁ確かに理解出来なくもないが…」



颯太は2人分のコーヒーを作ると1つをイズルに手渡す。



「ですが、颯太さんに会えてよかったですよ」


「どうして?」


「いえ、やはり1人でいるよりは2人でいた方が精神的にも安心しますし」


「確かにこの霧じゃ心細くなるな。俺もフレンドとはぐれてしまったし」


「あ、そうなんですか?」


「いつの間にかはぐれてしまって、それっきりだ」



颯太は詩織のことを心配しながらコーヒーを飲む。



「心配ですね……ここじゃ味方も敵ですから」


「幻覚が厄介だ。早くこの霧を解除する打開策を考えなければな…」


「どうやらこの霧は結界のようですし、発動者を倒せばいいのでは?」


「視界も悪いし、いつ幻覚かかるか分からない状況で無闇に歩くのは危険だ。それにその発動者を見つけること自体至難の業だ。まさか出会ったプレイヤー1人1人にお前が発動者か?って聴き回るわけにも行かないだろ」


「それもそうですね」



颯太の言葉を聞いてイズルは自分が言ったことがいかに非現実的かを理解して少し笑った。



「この洞窟はどこまで続いている?」


「奥は行き止まりでしたよ。何もありません」


「そうか」



ようするにここはただ隠れるためだけの場所ということだった。

颯太の中央拠点にも洞穴があった事から、各拠点付近にはこういう場所がいくつもあるのだろう。



「ん~……少し歩き回ってみるか…」


「ここにいつまでもいる訳には行きませんもんね」


「それもあるが、何よりはぐれてしまったフレンドを見つけなければいけない。あっちも心配しているだろうし」


「そのフレンドが行く場所に心当たりでもあるんですか?」


「俺が行く場所は聴いていたから、多分あっちも洞窟を目指しているはずだ。なら他の洞窟をしらみつぶしに探すだけさ」


「危険ですよ」


「そんなこと百も承知だ。それより俺もここを拠点にさせて貰っていいか?」


「ええ、構いませんよ。丁度僕も話し相手が増えて嬉しいですし」


「そうか。なら、使わせて貰う」



颯太は黄色いフラッグを取り出すと、詩織同様に近くの岩壁に突き刺して自分の位置を把握する。



「なるほど……俺が目指していた洞窟はここだったのか……なら、ティアもここに来る可能性があるな…」


「フレンドさんの名前はティアさんと言うのですか」


「あ、あぁ。俺と似たような恰好をしている女の子なんだが、見なかったか?」


「さぁ?僕も颯太さんと出会うまでは一人でしたので」


「そうか。まぁそうだよな……」



颯太は地図を確認しながら少しだけ落ち込んだ様子を見せた。

どうも!また太びです!

まず言いたいことは私の話に満点の評価をつけてくださる方が!現れまして本当にありがとうございます!実は結構評価の方気になっていまして……本当に恐縮です。

この満点の評価に負けないような話をこれからも作っていきますので、どうぞよろしくお願いします!


えっと、それでは今回の話ですが、何やら不穏な空気が漂ってきましたね。

詩織はどうなってしまったのか!そして謎の人物イズルは何者なのか!

まぁ勘のいい方は色々わかってしまうのでしょうが『あ~なるほどね~』程度に思って次も読んでください。

きっとその勘は間違っていませんよw

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