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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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勢力戦勃発5

「颯太、今度海に行かないか?」


「はい?」



ふとクレアはそんなことを口走った。

ちなみに絶賛戦争中で、皆慌ただしく廊下を駆け巡っている

そんな中クレアはいつもと変わらぬ調子で颯太に微笑みかけながら言ったのである。



「突然なんですか……」


「いや、この前一緒に水着を見て回っただろう?」


「あぁ……そうでしたね…」



加山がいる作戦室は最上階にあるので、それまで無言で歩くのもなんだと思ったのだろう。



「いや…颯太だけとなると香織が妬いてしまうか…」


「え?なんて?」


「何でもない、こちらの話しだ。ふむ、やはりここは皆で行くことにしよう」


「車は誰が出すんですか?クレアさんの車は4人乗りですよね」


「よし、そこは和彦くんに頼もうじゃないか」


「ええ!?兄貴使うんですか!?」



ふたりとも同い年なため、結構気兼ねなく話しているようだ。実際先ほどの夕飯の時も話が合うのか、楽しそうに酒を飲んでいる光景も見られた。



「はっはっは、まぁいいじゃないか。彼もどこか休みは取れるはずだろう?」


「確かに休みはあると思いますけど……」


「では決まりだな。私から皆に話は通しておく。颯太は今のうちに私の水着姿を想像して興奮しているといい」


「んなッ!?」


「颯太はコスプレの趣味があるらしいからな」


「いやいやいや!俺は決してそんな趣味は!」


「おや、私のエプロン姿を見てぼーっとしていたのは誰だったかな?」


「いやいやいやいや!それはクレアさんが綺麗だからですよ!ていうかクレアさんって何を着ても目立ちますからね!?」


「颯太は嬉しい事を言ってくれるな。では、今度レーナと一緒にメイド服を着て颯太の帰りでも待ってみようか」


「やめてくださいよ……俺の精神がもたない…」


「おや?それは性欲的な意味での精神なのかな?やはりそこは理性がもたない、とすべきでは?」


「……ち、違いますから!」


「あははははは!颯太は正直者だな。一瞬言い淀んだだろう?」


「くッ……」


「まぁ冗談だ。私も流石に颯太の家でメイド服なんぞ着ていたらお義母さまに変な目で見られそうだからな。自重しておくよ」


「はぁ………別にクレアさんは怒られないと思いますけどね。むしろ俺が変な目で見られますよ」


「どういうことだ?」


「つまりですね――――」



颯太が言いたい事はこうらしい。


颯太が帰って来た→『おかえり颯太!』『おかえり、颯太』とレーナとクレアがメイド服姿で登場→母親に見つかる→『あんた…クレアさんとレーナちゃんに何て格好させてんのよ……』→颯太の地位は地のどん底に落ちる。



「ということになりかねません」


「なるほど、確かにそうなるかもしれないな」


「母さん、俺に風当たりが強いですからね」


「ふむ、それはどうしてだ?」


「ん~……まぁ多分俺が腑抜けたからですかね」



颯太は神妙な表情をしてそんなことを言った。



「前はああじゃなかったんです。むしろ黙々と仕事をこなす人で、母さんとはあんまり話す事はなかったんですけど、俺が足を痛めてから急に人が変わったようになって」


「颯太に発破をかけていたんだな」


「中学時代ぼけ~っとしているから母さんも見ていられなくなって、クレアさんの言うとおり、俺に発破をかけていたんですよ」


「良い母親を持ったな。普通の親ならば同情して終わりだが、君のお義母さまは颯太の気持ちを理解した上で、いつまでもへこたれているなと叱咤する側に立ったのだろう」


「まぁ反抗期もあってか、あの頃は母さんの言葉も理解しようと思わなかったのですが」


「確かに少しやり方が強引過ぎたな」



颯太の言葉にクレアは苦笑いしながら頷いてくれた。



「さて、お喋りもここまでだな」


「はい―――――失礼します、輝光の騎士団の颯太ですが」


『あぁ、どうぞどうぞ!』



颯太は作戦室のドアノブを捻り、中へ入ると今日も忙しそうに資料を片づける加山の姿があった。



「俺達のグループにどんな用事が?」


「えーとですね、今の所前線が安定していますので――――あ、これを見てください」



加山はテーブルに地図を広げる。



「今僕らがいる中央拠点からずーっと北にある拠点がなんだか妙な事になっていまして、少し偵察に行ってきて貰えませんか?」


「ん?今一つ理解出来ませんが、何故俺達が?」


「それは手が空いていて尚且つ強いプレイヤーさんがあなた達のグループしかいないもので…」


「なるほど。だが、我々全員がこの場を離れることは出来ないのだろう?」


「そうですね。颯太達さんの方で2、3人の少数のグループを作って貰えませんか?」


「了解しました。とりあえずグループの皆と話し合ってみます」


「はい。決まりましたら、お手数ですが、こちらまでお願いします」


「分かりました。では、失礼します」



作戦室を出るなりクレアが口を開いた。



「とりあえず私はここを離れる事が出来ない。そして加山の指示を受けた颯太はもう確定だ」


「そうなりますよね。となると、俺はティアを連れて行こうと思っていますが」


「妥当な人選だな」


「ユキナもありだと思いましたが、そもそも幼すぎる…」


「ふむ、物事を考えるにはまだちょっと幼いな」



颯太の苦笑にクレアも釣られて苦笑した。



「―――ということなんだが、俺とティアは一度戦線を離れることになる」


「確かに颯太と同じ敏捷数値を持っていて、プレイヤースキルも高いとなればティアしかいないな」


「そうね。私じゃついていけないわ…」


「俺も無理だ」


「ユキナは香織から離れたくないから別にいいや」


「あははは……」



颯太の言葉に滉介が納得し、香織が残念そうに落ち込んだ所にユキナが彼女の腕に抱き付く。



「えっと、とにかく俺がいない間の指揮権は全部クレアさんに任せる事になるから、皆よろしくな」


『了解!!』



皆にも説明し、クレアに指揮権を引き継ぎ、加山にも報告し終わった颯太と詩織は拠点の広場にいた。



「それじゃ、後の事はお願いします」


「あぁ、任された」


「それじゃあね~」



2人はシーザーに跨り、皆の見送りを受けて雷虎は駆け出した。



「加山さんの依頼を確認する。最北端に位置する拠点で何やら青拠点側で妙な事が起こっているらしく、俺達はその原因を探ることが目的だ」


「なんで他の拠点の様子なんか見に行かなくちゃいけないの?」


「それは最もな疑問だが、入ってくる情報だけでは伝わらないことって出てくるだろ?」


「まぁ、そうだけど……でも、わざわざあたし達じゃなくてもなぁ」


「加山さんも思う所があるんだろうな。北方拠点から来た報告書を読ませて貰ったが、どうも敵戦力の情報が鮮明じゃないんだ」


「鮮明?まだ始まったばかりだからそれは仕方ないんじゃ」


「いや……何て言うのかな……―――言っていることがあやふやっていうのか」


「あやふや…?」


「あぁ、結局何を言いたいのかさっぱり分からない報告書でさ、加山さんに尋ねてみたらそんな意味不明な文を書くような奴じゃないって言ったんだ。だからこそ加山さんは気になったのかもしれないな」


「なるほどね。こんな始まったばかりの勢力戦でいきなり問題起きたら困るもんねぇ」


「北方拠点は余り戦略的に価値が薄い拠点だが、それでも拠点は拠点だ」


「確かこれから行くとこって後ろの方だったよね」


「そうだ。まだ戦いも何も起きていない平和な拠点。だけど―――」


「加山さんは様子がおかしいから見て来てと」



詩織の言葉に颯太は頷く。



「報告書を読んでみて気になった点がある。まず、戦いが始まる前から常に辺り一帯に濃い霧がかかっているらしい」


「霧……」


「特にバッドステータスの付与もない至って普通の霧なんだが、幻覚が見えてくるそうだ」


「幻覚かぁ……それは少し厄介かもね……―――あ、でも、誰がそんなことを?敵ってことはないよね?」


「ないとは言い切れない。索敵網を掻い潜って密かに敵エリアに侵入したプレイヤーの仕業かもしれない」


「そういうのって一度戦いが終わればどうなるの?また自分の拠点からやり直し?」


「いや、自分の拠点には戻らない。確認するぞ。まず自軍エリアの拡大だが、それは敵エリアに一定の人数が入り込むことによって初めて塗り替えされて行くものとなる」


「うんうん、それはFDに書いてあった運営のお知らせで見たよ」


「あ、なら忘れているだけか。ほら、FDをチェックしてみな」



シーザーから振り落とされないように詩織は颯太の腰に左手を回し、右手でFDを操作する。



「あ、見落としてた…」


「敵エリアに侵入し、最前線エリアから10km離れることに成功した場合、特別ルールとして、そのプレイヤーは次回からも自分が最後にいた位置から戦いを始める事が出来る」


「颯太はこの事を言っていたんだね」


「もし俺の考えがあっていれば、北方拠点は大変なことになっているぞ」


「どうして?」


「既にその拠点は攻略寸前の状態かもしれないってことだ」


「えええええ!?」


「仮の話しだ。まだ人数的にも戦力的にも勝っているから拠点のマスター権限は青側にあるが、もしこれから人数が増えるような事になればあっという間に落とされてしまうかもしれない」


「確かに……幻覚で惑わされているうちにぱぱっと倒されちゃうよね…」


「その通りだ。俺の予想が外れてくれることを祈るよ」


「ガアアアッ!!」



シーザーは紫電を迸らせながら加速した。




森を抜けた先には海が広がっていた。

視界いっぱいに広がるエメラルドグリーンの海に光に照らされてキラキラと輝く砂浜―――……



「というのが本当の景色らしいんだが」


「………霧で何も見えないや…」



颯太と詩織の視界には景色を覆い尽くす白い霧で何も見えなかった。

3m先からは濃霧の影響で、先を歩くのも躊躇してしまいそうなくらいに視界が悪い。



「報告書通りの内容だな。それで幻覚だが……―――まぁ特に異常はないな」


「ん~?なんだろね、この霧」


「酷い霧だ」



シーザーの召喚を解除するなり、レーナが颯太の背中からひょっこりと現れて霧を興味深そうに眺め、琥太郎も同様に木の葉と共に詩織の隣に現れた。



「とりあえず隠れられる場所を探すぞ。俺達は極秘の任務で来ているからな。こっちの拠点の奴らにも気付かれちゃいけない」


「どこに行こうにもこの霧じゃ下手に歩き回ったりなんかしたら元の道に帰れなくなっちゃうよ」


「そうなんだが……でも、ここにいたら他のプレイヤーに見つかってしまう―――ん?レーナ、どうかしたのか?」


「ん~……」



先ほどからずっと目を凝らして先を見ているレーナが気になった颯太は、彼女に声をかける。



「んとね、この先に洞窟みたいなのない?」


「洞窟か……待ってろ。今地図を確認する」


「洞窟?なんのこと?」



颯太が地図を開くと詩織も地図を見るため隣に寄ってくる。



「あるな。えっと、コンパスコンパス……」



そして洞窟を見つけた颯太は、まず自分がいる方角を確認するためにストレージからコンパスを取り出した。



「ふむ、ここでは余り方角が宛てにならないようだ」


「そうみたいだな……」



しかし、コンパスは狂ったように回り続けるだけで、方角が全く分からない。



「颯太、どうするの?」


「運試しと行くか」


「え?運試し?」


「なら、私に任せて。なんかね、さっき薄らと黒い岩みたいなの見えたから、多分そこが洞窟だと思うよ」


「それじゃ道案内任せたぞ」


「うん!任せて!」


「ん~……やっぱりもう少し考えた方が…―――あ、あれ!?そ、颯太は!?」


「ん?おや、どこへ行ったのだ?」



自分で地図を確認していた詩織と琥太郎が顔を上げると颯太の姿は既になかった。



「え?え?あ、あれ?」


「先ほどから“一人で”ぶつぶつ何か言っていたが、まさか一人で行ってしまったのか?!」


「えええええ!?ど、どうしよう!?これ完全にはぐれちゃったよね!?」


「まずは落ち着け」


「そ、そうだね……深呼吸して一度落ち着こう」



詩織は胸に手を当てて深呼吸を何度か行うと、改めて自分が置かれた状況を確認し始めた。



「下手に歩き回っちゃダメだよね」


「そうだな。2重遭難だけは避けなければならない」


「でも、動かなきゃ自体は好転しない気がするし」


「だが、ここで待つという選択肢もないか?」


「いや、それはダメでしょ。だって、颯太が言っていたじゃない。ここにいたら他のプレイヤーに見つかるって。だから、探しに行くしかないんじゃないかな」


「ふむ、確かにここは動かなければならないようだ。では、どちらに進む?」


「颯太は洞窟がどうのこうの言っていたよね?」


「言っていたな。恐らく洞窟で身を隠すつもりだろう」


「んじゃ、洞窟を探してみようか」



詩織は再び地図をストレージから取り出して颯太が言っていた洞窟を地図上で発見する。



「あ、ここか。でも、どこが北で南なのかさっぱりだよ…」


「だから颯太殿は運試しとか言っていたのか」


「んじゃ、ここはあたしのリアルラックが試されている時なんだね」


「そのようだな」



詩織はしばらく唸っていたが、やがて道を決めたのか『こっち!』と言って先も見えない白い世界を琥太郎と共に歩き始めた。



「なぁ、本当にこっちで合っているのか?」


「うんうん、もう少しだよ」


「ならいいんだが……ティアともはぐれちゃうし、本当に困ったなぁ…」



そして颯太と言えば、レーナの案内の下で白い世界を歩いていた。

シャクシャクと音がする事から恐らく自分は砂浜を歩いているのだと思うのだが、前が見えないせいで自分がどこを歩いているのかさっぱり分からない。



「まぁレーナがいるからそこまで不安じゃないけど」



そう言って何気なく後ろ髪を掻いた瞬間、肘に何かが当たった。



「ん?」



その違和感を確かめるべく、背中に手を伸ばすとそれは自分がいつも握っている大剣レーナだった。



「あッ!?」


「どうしたの?」


「お前……誰だ!」



颯太は背中の大剣の柄を握りながら後ろへ飛ぶ。


ジャリ―――だが、大剣は鎖で巻かれているのか、背中のホルターから抜く事が出来ない。



「な、なんだこれ!?」


「あれ、気付いちゃったんだ」



レーナの顔をした何かはこちらへ振り返ると霧の世界に溶けて消えて行ってしまった。

どうも、また太びです。

なんかこれを読んでいる友人にふと『なんでランゲージバトルっていうんだ?』という話をされました。

いや、ほんとね、ぶっちゃけちゃうと意味なんかないんです……。ただ頭に浮かんだ言葉がこれでして、言いやすさと語呂の良さ?が気に入ったのでそのまま採用したんですよね。

それを言ったら『一番肝心なところを適当に決めたのかよ!』と言われまして、私としても『あ~確かに適当決めてしまったなぁ……』という反省が少しはあります。

でもですね、私って名前を付けるときって結構適当なんですよ。あまり言いたくはないのですが、この話の中で一番名前に頭を悩ませたのは颯太、レーナ、リーナだけですし、ほかは本当に思いつきでした。

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