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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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颯太の日常

「いいですか?再来週からテストが始まるのですから、遊んでばかりいないでしっかりテストに備えて勉強していてくださいね」



小町から配られたテストの予定表を颯太はむくれ顔で見ていた。



『テスト勉強もしきゃいけないな………でも…』



勢力戦の件もあるし、家庭教師のことも忘れてはならない。それにレーナとのスキンシップを余りサボりすぎると彼女はあからさまに不機嫌になるのだ。

別に誰かに迷惑をかけたりするわけではないので、そこまで心配していないのだが、同じ部屋で暮らしている颯太の場合は違う。


例えば―――



「俺、そろそろテスト近いから勉強するな」


「そう」



物凄く素っ気ないのだ。

だが、素っ気ない程度ならまだいいだろう。



「……………」



カリカリとシャープペンをノートに走らせていると、レーナの気配が全く感じられない時がある。

その時は決まって――――



「な、何しているんだ?」


「…………」


「えっと……―――なんだ?」



そう、颯太の勉強姿を隣でじっと無言で見ているのだ。

颯太が話しかけても何も喋らず、自分が飽きるまでずっと見ているのだ。



「はぁ……」


「おや、苦手な教科でもあるのかい?」



そんなことを考えていたら隣の席の上条が話しかけてきた。



「いや…そういうわけじゃないんだが……」


「なんだか悩み多き時期のようだね」


「おい、便利な言葉使ってんじゃねえよ」



だが、上条の言葉を完全に否定できない颯太がいた。



「ただいま~」


「おかえり~」


「おかえり、颯太」



いつも通り玄関で靴を脱ぐなり2階へあがろうとした颯太の耳に聞き慣れてはいるけれど、家の中では決して聞き慣れない声が聞こえてきた。



「あ、クレアさん。じゃがいも切ってくれるかしら」


「分かりました」


「お母さん今日のご飯なに~?」


「今日はシチューよ。もう少し待っててね」


「ふむ、私が腕によりをかけて作るから楽しみにして待っているといい」


「クレアの料理は期待出来るかも」


「クレアさんにはいつも悪いわね。レーナちゃんのお昼ご飯作って貰って」


「お義母かあさま気にしないでください。私も好きで作っているものですから」


「お義母様!?」


「ん?なんだ颯太?」


「な、なんでクレアさんがうちに!?」



じゃがいもを切っていたクレアが振り返る。



「うっ…」



クレアのエプロン姿に見とれていると、それに気付いたクレアが颯太に向けて微笑んだ。



「どうかな?私のエプロン姿は」


「に、似合っています―――って!そ、そうじゃなくて!」


「あら、颯太は知らなかったの?レーナちゃんがクレアさんと遊んでいる日はいつもご飯のお手伝いをしてくれるのよ」


「あ、そうだったのか……」


「私いつも暇だからね~。クレアのお家に遊びに行くの」



そう言ったレーナは冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注いでいる。



「あ、まだ牛乳あるのか?」


「ん~?あるよ~?飲む~?」


「あぁ、俺のコップも出してくれ」


「あいあい~」


「ん?どうかしましたか?」


「いやなに、こういう賑やかなのは久しぶりだと思ってね」



野菜を切り終わったクレアは流しで手を洗いながらどこか楽しそうに颯太とレーナのやり取りを見ており、颯太は不思議そうな顔をしてクレアに尋ねる。



「私は一人暮らしだからな。家庭的な雰囲気を味わう機会などそうないのだよ」


「あら、クレアさんのご両親はどちらに?」


「両親はロシアにいます。日本に来てからは祖母の家に高校の時まで厄介になっていました。ですが、今はご覧の通り一人暮らしです」


「あれ?クレアのお婆ちゃんって日本人なの?」


「いや、生粋のロシア人だ。何でも若い頃に日本の魅力に取りつかれたらしくてな」


「へえ……」



颯太は牛乳を飲みながらクレアの話しを聞いていたが――――



「クレアさん、ビールはまだあったかな」


「あぁ、今日買い足しに行ったはずだからあるはずだ―――……うむ、これでいいのだろう?」


「それそれ」



颯太の隣に立ってクレアからビールを受け取る和彦や―――



「父さんも飲むか?」


「ご飯の前だが……まぁたまにはいいか」



クレアの存在に指摘を入れることもなくごく普通に和彦からビールを受け取る父親。

天風家がクレアの存在を認めている事に対して颯太は全く気付かず、レーナと仲良く牛乳を飲んでいるのであった。


ちなみに彼がクレアの存在に違和感を覚えるのはもう少し先の話しになる。





「ッ――――!!!!」


「くッ―――!!!」



金属が激しくぶつかり合う剣戟を繰り返しているのは、颯太と滉介だった。

拠点の中庭でお互いの剣を何度も何度も何度も競り合わせ、剣が衝突する度に大気を揺るがす衝撃を生み出して他のプレイヤー達の視線を釘付けにしていた。


レーナもリーナもお互いを意識していることもあってか、剣から黒色と白色の稲妻を迸らせていつも以上に張り切っているようだ。



「流石だね。あの2人は」


「うわぁ……あたしでもあそこまで見切れないよ」



その戦いを見ているのはひと段落ついて休んでいるユキナと詩織。残りの香織、竜也、クレアと言えば、クレアの指導の下1対2のPVPをしている。



「雷撃ッ!!!」


「アイギス!」



颯太の黒い稲妻の一撃を滉介は大剣を縦にするように構えた。すると大剣の柄に埋め込まれた赤い宝玉が輝きだし、滉介を守るように巨大な光の盾が現れた。

光の盾は侵食の稲妻と競り合いをはじめ、そして―――



「おおおおおお!!!」


「なッ!?え!?嘘だろッ!?」


『は、反射なんて聞いてないよおおおおお!!』



雷撃を跳ね返して見せた。跳ね返った雷撃はそのままスキルを発動した颯太に襲い掛かり、彼のHPを全て持っていった。



「え!?颯太負けた!?」


「あれれ……颯太負けちゃった」



今までクレア以外に負けたことがない颯太があっさりと自分のスキルを跳ね返されて負けたことに、詩織とユキナは驚きを隠せなかった。



「リベンジ成功だな」


「いつつ……まさか反射の盾とは思わなかった」



尻餅をついている颯太に滉介は手を差し伸べ、颯太は手を取って立ち上がる。



「やったわ!レーナに勝ったのよ!!」


「むぅ……悔しい…」


「リーナに少し聞いてな。レーナは攻撃に優れ、リーナは防御に優れているってさ」


「言われてみれば……――あぁ、そうそう。レーナはそういう盾が生み出せないらしくて、少し疑問に思っていたんだが、やっと謎が解けたよ」


「逆にリーナはレーナのような決め技を覚えない」


「カウンター型は厄介だな」


「この事に気付けたのはお前とレーナのおかげだ。感謝する」


「それはお互い様だ。カウンター型の神器もいるってことを初めて知ったよ。また相手になってくれ」


「あぁ、喜んで」


「むううう!!颯太―!!」


「え?なに―――いてええッ!?ひ、久しぶりの混沌流しだと!?わ、分かった何をすれば機嫌が直るんだ!?」



リーナに負けたことが相当悔しかったのか、レーナは後ろから颯太に抱き付くなり不満をぶちまけるように颯太の左目に混沌を流し込む。



「むうううううう!!」


「お、おい!喋ってくれ!これじゃただ俺が八つ当たりを受けているようなもんじゃないか!」


「いや、普通に八つ当たりだろ。それ」


「あらぁ?負けたのが悔しくてご主人にあたるのかしらぁ?」


「うううう!……―――うわあああああああん!!」


「ぎゃああああああ!!め、目がああああああ!」



レーナは泣きながらどこかへ走り去って行ってしまった。レーナが走ると同時に颯太は左目を抑えながら芋虫のように地面でうねうねともがき始める。



「おい、言いすぎだぞ」


「え~?でもわたくしもね、レーナに負けた時すっごく悔しくて―――」


「いいから謝って来い」


「ひうっ!?」



ゴチンと滉介から頭にゲンコツを貰ったリーナは涙を目に浮かべ、そして―――



「うわああああああん!!滉介のばかああああああ!!」


「あ!?お、おい!ちょっと待てよ!」



リーナもどこかへ行ってしまった。

取り残されたのは芋虫のように身体をくねらせる颯太とどうすればいいのか分からず途方にくれる滉介であった。



「なにこれ……」


「さ、さぁ……」



半眼で颯太と滉介を見つめるユキナと表情が引きつっている詩織はどうすれば彼らを救えるのかを至極真面目に考え始めた。

戦いばかりではなく、颯太のありふれた(非)日常を書いてみました。

なんでしょうかね。ほかのVRMMO系の話しって大体そういう世界に閉じ込められますよね。

まぁ現代の知識を持った主人公がファンタジーの世界で無双をするっていう話は結構魅力的かつ、なんだか人を引き付けるような面白さがどこかにありますよね。

私もそういう話を作ってみたいな~とランゲージバトルを書いていたら、いつの間にか普通にログアウトありの日常ありのコメディ小説になってしまったのでござる。

どこで道を間違えたんだか……w

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