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開戦前日

「今日がソードタイガーを掘れる最後の日か……無駄にはしたくないな…」


「そうだな。拠点強化に努めてくれた香織たちのためにも手ぶらで帰るわけには行くまい」



フェンリルがソードタイガーの群れを蹴散らす様子を見ている二人は、若干疲れ気味だ。

それもランゲージバトルにログインしてからここ2時間ずっと休みなしで周回しているため、疲労が見えるのは仕方がない事だろう。



「オン!」


「颯太、いないと言っている」


「はぁ……今回もダメか」


『颯太大丈夫…?』


「あぁ、大丈夫だ。まだ頑張れるよ」


「颯太は私よりも周回している時間が長いからな。そろそろ表情にも出てくるようになったか」


「そりゃこんだけやって1匹も出て来なかったら顔にも出てきますよ」



フェンリルの後に続きながら颯太とクレアはどんどん古城の中を進んでいく。



「出来れば今日中に見つけたい所だな。それに捕まえた後もステータス強化しなければならない」


「そうですよね。捕まえたやった~で終わらない。実践レベルで使えるように鍛えなければな…」


「先は長そうだな」


「全くです」


「オン!」


「ん?あぁ、行って来ていいぞ」



前方に休んでいるソードタイガーを発見したフェンリルは一度クレアに『襲ってきていい?』と聞いてから飛んで行った。



「フェンリルは優秀ですね。俺もソードタイガーを捕まえたら一度手合せをしてみたいです」


「テイムモンスターだけの決闘か。それは面白そうだ」


「素早さでは負けそうですが、パワーでは負けないと思います」


「いや、それはどうだろうな。前も言ったが、私は若干攻撃寄りのせいかフェンリルも攻撃寄りのステータスに出来上がりつつある。颯太の場合高い敏捷補正を受けたソードタイガーが出来上がりそうだが?」


「あ…そう言えば俺ってクレアさんに攻撃ランクで負けていたんだった……」


「だがな、モンスターにも個体差がある。私のフェンリルは通常のスノーウルフよりも優れてはいるのだが、どうも防御力のステータスの伸びが悪い。恐らくFランク程度だろうな」


「低いですね。攻撃に特化している感じですか」


「だろうな。攻撃と敏捷の伸びが恐ろしい」


「まぁウルフタイプのモンスターですし、逆にそれで防御力もあったら強すぎますよ」


「ソードタイガーは防御力に期待できそうだな」


「見た目からして鎧装備していますからね。そこそこあるんじゃないでしょうか」


「我がギルドは壁となれる者が私と颯太しかいない。防御力の高さなら竜也も候補に一応上がる。しかし、彼は遠距離職だからな。前に出てくることはあるまい」


「でも俺ってなんだかんだ言ってもCランクですからね?ここ最近モンスターのレベル上限も解放されてからタンクの役目はほとんどクレアさんに任せきりですよ」


「Bランククラスじゃないと安定しなくなってきたな。ティアは罠を設置して無理やりタンクの仕事をこなしてくれるが、やはり安定しない」


「前衛で尚且つ防御力に秀でた人が欲しいですね。あと出来ればヒーラーも…」


「このゲームに回復専門の神器はあるのか?」


『見たことがないですね』



と、地面に氷の文字を描いてニヴルヘイムが答える。



「いないのか……」


「ポーションが私たちの命綱というわけだな」



フェンリルが全ての敵を壊滅させて颯太とクレアのストレージにクエストの報酬金が入っていく音がする。



『いないね』


「そうだと思っていたよ」


「気を取り直して次に行こう」


『私達も付き合いますよ。だから頑張りましょう』


「ふふ、今まで人前で喋らなかったお前がどういった心境だ?」


『え…あ、いえそれは…』


『私もね、ニヴルヘイムって喋る事が出来ない神器だと思っていたんだけど、どういうことなの?』


『しかった……』


「ん?なんだって?字がかすれて読めないぞ?」


『恥ずかしかっただけです!』


『ニヴルヘイムって相当な恥ずかしがり屋さんなんだね』


「今は颯太とレーナの前でしか喋れないみたいだな」


『私を弄っても何も良い事はありませんよ!ほら、無駄口叩いていないで周回を続けたらどうですか!?』


「おお、怖い怖い。さ、行こうじゃないか」



含み笑いを浮かべながらクレアはクエストエリアを抜けて行く。



『なんだかんだでうまくやっているんだね。皆さ』


「そうみたいだな」



その様子を見ていた颯太も一つ笑うとクレアの後を追ってクエストエリアを抜けて行った。




「皆さん、今日は会議に集まりいただきありがとうございます」



拠点の敷地の壇上に立って加山は声を上げてグループリーダー達に呼びかけた。

そう、この場にいる者はグループのリーダーのみである。



「今日は皆さん方に明日の勢力戦に備えての配置図をお渡ししたいと思います。地図をお配りしてください」



加山に命令されて部下のプレイヤーがグループリーダー達に紙に書かれた地図を渡していく。



「ありがとうございます」



代理リーダーである香織も例外ではない。

彼女も颯太とクレアに任された立派なリーダーとして今この場に立っている。



『私たちの配置はどこでしょうね』


『待ってね。今確認するから』



周りの邪魔になると思い、香織は脳内でアルテミスと会話する。


渡された地図は前に銀二から貰った地図をこの周辺の地域だけに特定して拡大したものだった。

加山の演説が続く中で香織は地図の端から順にグループ名を見て行くと、やっと自分たちのギルド名を発見した。



『あったわ』


『ここですか………ど真ん中ですね』


『やっぱり私達のグループは他のグループと違って神器のレベルが高いからここに回されたみたい……』


『休む暇もなさそうですね』


『そうね……これは軽い戦争みたいなものだから…』


『戦争ですか……余り耳にしたくない言葉ですね』


『私も嫌だけれど、これはゲームだから…』


『そうですね……皆のためにも頑張りましょう』


『ええ、あなたの力に期待しているわ』


『はい。私はあなたの神器ですから』


「短いですが、ここで〆させていただきます。皆さん!この中央エリアを死守して共に勝利を掴みましょう!!」


『おおおおおおおおお!!!!』



加山が拳を空高く掲げると他のプレイヤーも彼の熱気溢れる演説に影響されて雄叫びのような声を上げる。



「以上です!皆さん!今夜は早めに休息を取って明日のこの時間にまた会いましょう!」



ゾロゾロと帰って行く中で香織も同じく帰ろうとした時に加山に呼び止められた。



「どうかしましたか?」


「あなた方のグループを最前線に置く配置になってしまって申し訳ございません」


「あ、いえ、加山さんは私達のリーダーなのですからドンと構えていてください」


「すみません、どうも僕は人の上に立つような人物じゃないもので、今回の配置決めも相当悩んだ結果でして…」



香織にそう言われた加山は力なく笑った。



「それだけを言うためだけにお声をかけてくださったのですか?ホントわざわざ気にかけてくれてありがとうございます」


「それもあるのですが、実はあなた方のグループには他の指令を下したいと思っていまして」


「はい?」


「悪いのですが…颯太さんとクレアさんも呼ぶ事は出来ますか?」


「ええ……一応呼べますが」


「これはあなた方のグループだけに出来ることなので、是非皆さんに参加していただきたいのです」



今まで見たことがないような加山の真剣な表情に香織は自然と『分かりました』と答えてしまっていた。




「あ、颯太くん、クレアさん」


「どうしたんだ?」


「メールを見た。加山さんからの呼び出しと言っていたが、私と颯太を呼ぶほどのことなのか」



しばらくすると作戦室前に颯太とクレアが現れ、扉の前で待機していた香織たちがこちらを向く。



「さぁ、あたしにもさっぱり分からないよ。でも、加山さんいつしなく真剣な表情だったよ」


「余り面倒事じゃなければいいが…」


「そうはいかないだろうな」



滉介は颯太の言葉をあっさり否定して扉に手をかけて中に入って行った。



「行こうぜ。話を聞くのが先だ」



竜也に背中を叩かれて颯太も作戦室へ入って行く。



「すみません、わざわざ皆さん方に集まっていただき…」


「いや、それは構いません。それで俺達に何を?」


「これを見てください」



加山はテーブルに勢力図を広げた。



「今我々がいる拠点は中央エリア。つまり、赤の領域に隣接している場所でもあるわけです」


「だからあの男は一番泥沼化する場所と言っていたわけだしな」



クレアの言葉に加山が頷く。



「そうなんです。均衡状態のまま泥沼化し、そして戦いが終わるまでずっと争いが続く場所でもあります。ですが、その均衡状態を崩す事が出来たらどうしますか?」


「そしたら戦いはあっという間に終わっちまうな」


「だが、中央エリアは俺達も敵も最も防御の網を厚くする場所でもある。そう簡単に行くもんじゃない」


「滉介さんの言うとおりです。それは私も重々承知しています」


「加山さんはどうしたいんですか?」


「私はあえて中央から道を切り開きたいと思っています」



颯太達が押し黙った。それこそまでに加山の言葉のインパクトが強すぎたのだ。



「本気か?」


「ええ、本気ですよ。でも、この作戦はまだその時じゃないです」


「いつやるの?」


「銀二達の部隊である右端が赤の領域の拠点を攻め落とそうとしている時か、それとも逆に赤の領域の陣営がこちらの拠点を攻め落とそうとしている時ですね」


「つまり部隊が動いた時ですか。なるほど、俺達のグループメンバーの高速アタックで敵の中央拠点にダメージを入れに行くわけですね」


「別に落とせなくてもいいんです。ダメージを入れ、他の拠点からプレイヤーの数を回さなければいけない状況を作り出せればいいんです」


「兵を動かせて陣営に穴を作るつもりなんだな?面白い、私は乗ったぞ」


「いいですよ、その作戦。俺達輝光の騎士団が引き受けました」



加山は颯太の手を取って握手を交わした。



「ありがとうございます……!あなた方を危険な位置に回し、更にこんな作戦まで引き受けてくださるなんて……この戦い、絶対に負けるわけには行かなくなりました」


「加山さん、必ず勝ちましょう。俺達も全力を尽くします」


「私も全力を尽くします。それで終わったら皆で宴をしましょう」


「いいですね。そのためにもまず明日の戦いを勝ち抜きましょう」


「はい!」



颯太達は作戦室を後にした。

そしていつもの敷地内にやってきて滉介が手慣れた手つきで薪を組み、そして薪に火を放つ。



「あの男、なかなか面白いな」


「マジかよ……てっきり固定砲台やっていればいいと思っていたんだが、まさか敵陣に突っ込む事になるなんて…」


「ユキナは敵をぶっ潰せればそれでいいよ」


「ん~敵陣に突っ込むのはいいけど、速さが命だよね。どうするの?颯太」


「そこは改めてメンバー編成をする。まず最前線で戦う俺達なんだが、ここで更にメンバーを分ける。クレアさん、メモ用紙とペンを持っていましたよね」


「あぁ、持っているぞ」



颯太はクレアから紙とペンを受け取って紙にペンを走らせる。



「近接戦闘が得意なティア、ユキナ、俺、クレアさん、滉介。そして遠距離が得意な香織さんと竜也。ここから2グループに分ける。前線で戦うティア、ユキナ、滉介、クレアさん。そして後方で戦う俺、竜也、香織さん」


「颯太後ろなの?どうして?」


「それは俺が香織さんと竜也さんに指示を出すからかな。前方の指揮はクレアさんに一任するつもりだけど」


「なるほど。それに遠距離職だけだと近接が迫って来た時対処しきれなくなるからね。1人くらい後ろにいた方が安全かも」


「ユキナは前か~……颯太、香織のことユキナの代わりにちゃんと守ってよ」


「了解だ。俺が生きているうちは香織さんにダメージの1つもつけさせない」


「お、俺は?」


「竜也は俺より防御力が高いだろう。別に守らなくていいと思うが」


「ひ、ひでえ……この扱いの差…」


「あははは!竜也さんの扱いはいつも通りだね~」


「竜也が弄られ役だっていうのはユキナも分かって来たよ」



大砲の姿になってボルケーノの姿が見えないが、いつも通りの竜也にため息をついている姿が見えた気がした。



「それで颯太。次のあの作戦だが、もちろん敵陣営に殴り込みに行くメンバーは決まっているんだろうな」


「もちろんですよ。それでメンバーですが、出来れば全員で殴り込みに行きたい」


「だがそれは敏捷からの関係で全員揃って殴り込みに行くことは出来ない」


「はい、そうなんです。ですから、殴り込みに行くときのメンバーは、俺、ティア、クレアさん、ユキナの4人で行きます」


「まぁ妥当だな。リーナはレーナのステータスが真逆になった神器だからな。敏捷には自信がない」


「あの…私敏捷ならBランクだけど………それにうちの子もいるわ…」


「香織さん達は俺達が殴り込みに行ったら最前線を離れて拠点に戻ってくれ。その後は―――」


「拠点を守るんだな?」


「それもあるが、一応殴り込みに行ったと加山さんに報告してほしい。そして加山さんに周りの拠点の近況と増援があるのかないのかを聞いてすぐに俺たちのところまで戻ってきてほしい」


「分かったわ。私の足ならすぐ戻れるはず」



そこまで喋ると颯太は息を吐いた。



「まぁあくまでこれは俺が思い描いている行動例でしかない。多分実戦になればこうはうまく行かないはずだ。今香織さんがすぐ戻れると言ったが、木曜日以降は味方敵入交のまさに戦争になるんだ。いつ敵の妨害の妨害に会うか分からないし、死んでしまえば蘇生待ちに時間がかかる」


「つまり臨機応変ってことだよね?」


「そういうことだ。その場に合わせて対応して行かない奴から先に死ぬ」


「だが、幸運なことにこのグループには優秀な指揮官さまが2人いらっしゃる」


「滉介少年、こんな話がある。ある軍の部隊にそれはもう百戦錬磨で優秀な指揮官が2人いたんだが、ある日その部隊は壊滅してまったそうだ」


「な、なんで?どうしちゃったの?」


「優秀な指揮官2人の意見は合致し、そして下された作戦を兵たちは疑いもせず敵に突っ込んであっさりと敵の罠にはまって壊滅してしまったんだ」


「その話と今の話しに何の共通点がある」


「つまり何の考えもせずに指揮官に従うだけでは駄目だということだ。自分でも考えを持ち、必要であれば指揮官に意見をして指揮官が見落としている点に気付かせなければならない。優秀とは言え、所詮人なのだ。完璧な人間など存在はしない。だから間違いもする。それに気付かせてやるのも周りの役目なのだ」


「俺とクレアさんで一応指揮は執る。だけど、気になった事があったらすぐ言ってほしい」



クレアが言い終えた後に颯太は皆を見渡しながら言った。それに皆はこくりと頷く。



「よし、今日はこれで解散だ。俺とクレアさんは少し森で調べたい事があるから各自解散ってことで」


「分かったぜ。古城の周回、頑張れよな」


「颯太も頑張ってね。あたし応援してるから」


「あぁ、まだ時間はあるから最後まで粘るよ」


「颯太くん、私も森についていっていい?」


「え……?いや、えっと……」


「すまんな、香織。少し颯太と話す事があるのだ」


「あ、そうですか……すみません…」


「ごめん、香織さん…」



そう言ってクレアと颯太は森の中へ入って行った。



「大丈夫?香織」


「うん、大丈夫。迷惑だったのかな…」


「もう!別について行くくらいいいじゃない!あの2人最近よく一緒に行動しているけど何しているんだろうね!」



香織の顔を覗くユキナとその隣でぷんぷんと怒っている詩織。



「ティアの言う事も最もだな。颯太とクレアさん何話しているんだ…?」


「余り詮索しない方がいいと思うぞ」


「お、おい!それどういう意味だよ!」



そう言って滉介は欠伸をしながらログアウトして行った。



「ったくあいつも謎な奴だな~」


「ちょっと竜也さん!香織の兄として颯太にガツンと一言言ってやりなよ!」


「え!?お、俺!?」


「そうだそうだー!」



そして竜也に飛び火するのであった。

というわけで、前回であとがきで語らなかった理由はまぁ毎度恒例の後書き悩みです。

んじゃ話の内容でも語ろうかなと思いましたが、なんか自分で書いといて何も語ることが思いつかなかったのであんな形になりました。


それで今回は勢力戦前の話になりますね。

ここからとにかく戦いの連続になりますので(タブンネ)日常編の会話は少なめになるかもしれません。

そしてコロコロ場面が入れ替わると思いますので、どうかご了承ください。

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