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颯太とクレアの秘密

「か、帰って来れたか」


「そうみたいだね」



無事に自分の部屋へ帰ってこられた颯太は安堵の息を漏らす。



「神器……いっぱいあったな」


「そうだね……私の身体もあそこに…」


「絶対解放してやるからな」



レーナの頭にそっと手を乗せてわしわしと少し乱暴に撫でた。



「うん…っ!」



力強く頷いたレーナを見て満足した颯太は風呂に行こうと立ち上がった瞬間、満面の笑みを浮かべているレーナに手を掴まれた。



「ん?どうした?」


「お風呂」


「え……」


「颯太まだでしょ?はいろ♪」


「いやいやいやいや!!!」


「駄目♪」


「いっでえええええ!?ま、またこのパターン!?」


「よいしょっと!颯太重いね」


「や、やめてくれ!!また階段も関係なしに引っ張っていくつもりか!?」


「うん!」



混沌を抽入された颯太は目を抑えてその場にうずくまるが、レーナは颯太の左足を引っ張り始めた。



「ちょ!父さんたち起きるから!」


「あ、それもそっか」


「あだっ!?」



レーナはあっさりと左足を離したが、その拍子に左足をむき出しのコンセントに突き刺さる。



「ん~…どうしよ?」


「きょ、今日はもう遅いから、な?」


「う~ん…しょうがないなぁ……」


「ふぅ……」


「でも、颯太が1日入る時間を延ばしたからその代わり2日間一緒に寝ようね」


「まぁ…その程度なら構わないが…」


「やったー!んじゃ早く戻って来てね!」


「はいはい…」



頭を掻きながら颯太はレーナを部屋に置いて浴室に向かう。



「香織さん達には言えない……よな………うほおッ!?」



思考を巡らせていると突然携帯のバイブが着信を知らせて颯太は変な声を上げる。



「ク、クレアさんか。はい、もしもし」


『颯太か。こんな夜分遅くにすまないな』


「あ、いえ、それは構いませんが。どうしましたか?」


『そうだな。まずお互い無事に帰って来られたことの確認の電話をした』


「俺とレーナは大丈夫ですよ。クレアさんも大丈夫でしたか?」


『あぁ、私も大丈夫だ。さて、颯太に言わねばならない事がある』


「どうしましたか?」



そこから颯太がクレアに聞いた話はエニグマンからのメッセージだった。



「なるほど……今回は見逃すと」


『あぁ、今回はな。君が偶然あの場に迷い込んでしまったのとシステムの管理が行き届いていなかった事を含めて今回は見逃して貰えるようだ』


「上から目線なのが気に入らないな」


『しかし、あちらはシステムそのものを操る者達だ。下手に反感を買うのは賢明ではないな』


「そうですね……」


『私からの伝言は以上だ。ではな、良い夜を』


「わざわざありがとうございました」



クレアとの通話を終えると颯太はポケットからFDと携帯を取り出して洗濯機の上に置く。



「考えるのは風呂に上がってからにしよう……」



そう残して颯太は風呂へ入って行くのであった。




「あ、颯太おかえり!」


「レーナ、さっきクレアさんから電話があったんだが―――」



風呂から上がり、颯太は部屋にいるレーナに先ほどのクレアとの会話の内容を話した。



「ふ~ん……見逃して貰えるんだ」


「そうみたいだ」


「颯太はどうするの?」


「とりあえず今は大人しくランゲージバトルに参加しようと思っている。どうやら俺とクレアさんは運営側にマークされてしまったらしいからな」


「うん、私もそれでいいと思うよ」


「あの部屋を見て俺は何が何でも優勝しなければならなくなった。レーナのためにも、閉じ込められた他の神器のためにも俺は勝つ」


「私も協力するよ。自分の身体を取り戻すためにも、颯太のためにも」


「ありがとう。レーナ、これからもよろしくな」


「うん!」


「さて、もう夜も遅いから電気消して寝るぞ」


「そうだね」


「ん?なんで俺の……布団に潜るんだ?」


「なんで?一緒に寝る約束したよね?」


「はっ!?」


「おいで、颯太」


「……………」


「えいっ♪」


「ぎゃあああああッ!?目が!?目があああああ!?」



床にのた打ち回る颯太の脇を通り抜けてレーナは部屋の電気を消す。



「颯太~」


「ひいっ!?ひ、引っ張らないでくれ!」



ずるずると自分の布団に引っ張られて行く颯太は必死にもがく。



「ふふ、今夜も明日も一緒に寝れるね」


「はぁ………俺のこと蹴るなよ」


「私、寝相悪くないもん」



諦めた颯太はレーナに背を向けて充電されたままの携帯の電源を点ける。



「颯太と寝るの久しぶりだなぁ…」


「あんまりくっつくな。暑苦しい」


「颯太照れてる~可愛い」


「いいからもう寝ろ」


「は~い」



静まり返った部屋で颯太は画像フォルダに保存した画像を開く。

それは試験管に入った数々の神器の元となった人々。



『絶対…助けてやるからな…!』



新たな誓いを立てて颯太は眠りについた。




次の日である7月8日水曜日。

学校帰りに颯太はクレアとの待ち合わせ場である近くのフードコートへやって来ていた。



「クレアさん、こんばんは」


「お、やってきたか。こんばんは」



先に来ていたクレアは颯太の姿を認めるとにっこりとほほ笑んだ。



「すまないな、学校帰りに」


「あ、それは構いませんよ。それで話しっていうのは恐らく昨日の事ですよね」


「そうだ。あの場所について詳しく聴きたい。ニヴルヘイムは記憶に靄がかかっていて思い出せないそうなんだ」


「あれ?ニヴルヘイムって喋れるんですか?」



颯太が不思議そうに言うとクレアはメモ用紙をテーブルに出してみせる。



「これは?」


「まぁ見ておけ。ヘイム、挨拶だ」



するとメモ用紙に青い氷が突然浮かび上がり、その氷は『こんばんは、天風さん』と文字になっていた。



「お、おお?こんばんは」


「彼女は身体を持たないためこういった風にしかコミュニケーションが取れないが、最古参の神器として知識は豊富なんだ。彼女にはよく助けて貰っているよ」


「女の子なんですか?」


『はい、一応女の子です。多分…』


「ははは、身体を持たないで何十年も過ごしてきたせいか、自分が男なのか女なのか記憶が曖昧になってきたらしい」


「そっか……ニヴルヘイムのためにも早く皆を解放してやらないとな」


「颯太、その解放とやらについて知るためにもあの場所で何を見たのか説明してくれるか?」


「分かりました。まず俺はクレアさんと違った場所から入ったのですが、あの入り口から来たことに変わりはありません」


「どこから来たんだ?私はアジトでコーヒーを飲んでいたら突然封印していた地下から轟音がリビングまで響いて来てな。そして飛び込んだら颯太達がピンチだったというわけだ」


「俺は拠点でポイントを稼いでいたら、いい感じに隠れられそうな洞穴を見つけて進んでいったら何故かあの場所に…」


「ほう……今夜ログインしたらその場所に連れて行って貰えるか?まぁ恐らく何もなかった事にされているだろうがな」


「でしょうね……」


「一応確認だ。話を続けてくれ」


「はい。それで通路を進んでいったのですが、神器管理場という部屋を見つけて……クレアさん、これ」



颯太は携帯の画像フォルダから神器達の画像をクレアに見せると、彼女は目を見開いた。



「やはりか……だから神器達はあれほどまでに感情豊かなのだな…」


『天風さん、私の身体はありましたか?』


「あ、いえ……あの時はいっぱいいっぱいで…」


『そうですか…』


「きっとヘイムの身体もあるはずだ。何も心配はいらない」


『ありがとうございます、クレア様』


「いい加減“様”を付けるのはやめて貰えないか…」


『いえ、これは私の忠義の証なのです。やめるのというのは少し難しい話ですね』


「仲がいいんですね」


「お、嫉妬か?」


「ち、違いますよ!」


『クレア様は取らないのでご安心を』


「だから!」


「あはははは!さて、颯太を少しからかった所で話を進めようか。あの男は何か言っていたか?」


「すみません…余り話す時間もなくて名前だけ…エニグマンと名乗っていました…」


「エニグマン……また奇妙な名前だな」


「仮の名と言っていましたから」


『今まで運営は全てコンピューターが手掛けていると思っていたのですが……まさか人間が管理していなんて…』


「全てを機械で補う事は出来ない。私は最初から人間の存在を疑っていたがな」


「俺もクレアさんと同じ意見です」



そんな話をしているとフードコートに2人の女子が通りかかった。



「ねえ歩美、あれ天風くんじゃない?」


「あ、ホントだ。早く帰ったと思ったらこんな所にいたんだ」



それは千代と歩美だった。



「でも、天風くんの向かいに座っている人誰だろう…」


「うっはー!すっげー美人――――ってまさかああ!?」


「え、歩美?あ、ちょっと!!」



歩美は千代の制止も聞かずに鞄を放り投げて颯太とクレアの下へ走って行ってしまった。



「ですから俺は今のところ大人しくランゲージバトルに参加するつもり―――ん?」


「ク、クレアさああああああん!!!」


「うお!?歩美さん!?」


「クレアさんですよね!あのクレアさんですよね!本物のクレアさんですよね!」


「お?おお?おお、そうだが」



颯太を吹き飛ばしてクレアの手を取った歩美の目は輝いていた。



「きゃー!覚えていますか!?あの!一度だけお電話で話したことがあるんですけど!」


「あぁ、君はあの時の私のファンの子か」


「ちょっと歩美……ごめんね、天風くん」


「いてて……一体何が…って千代さんもいたのか」


「たまたま買い物に来ててね。それで歩美がジュース飲みながら休憩しようって言ったからフードコートに来たんだけど…」


「あぁ…なるほどな…」



椅子を直しながら立ち上がった颯太の隣に申し訳なさそうにしている千代がやってくる。



「なんだか大事なお話してたっぽいから歩美を止めようと思ったんだけど、無理だった」


「いや、俺とクレアさんもこんな所で話をしてたから歩美さんは何も悪くないよ。しかし、変装をかねて帽子とサングラスまで付けているクレアさんを一発で見破るとはな」


「それだけクレアさんの事が好きなんだろうね…」



クレアの手をぶんぶん振っている歩美を颯太と千代は微笑ましく見守っていたのであった。



「ありがとうございました!!」


「天風くんごめんね」


「あははは……まぁ仕方ないな」



その後歩美がクレアを連れ回して服選びをしているうちに日はすっかり沈んでしまい、会えた記念として買った服にサインをしてもらった歩美は上機嫌で帰って行った。

そんな彼女の行動をずっと見ていた千代は先に行ってしまった歩美を気にしつつも颯太とクレアに頭を下げて彼女を追う。



「ふう、まさか変装を見破られるとは……私もまだまだ甘いな」


「クレアさんの変装はもう一種のファッションですから、分かる人には分かってしまうんでしょうね」


「それはもうどうしようもないな……」


「逆に何でも着こなすクレアさんが凄いんですよ。俺なんか到底真似できません」


「ふむ、颯太は顔立ちもいいのだし、それなりの格好をすればかなり見違えると思うのだが、どうやら君はファッションに興味がないようだな」


「何を着たらいいのか分かりませんからね」


「颯太、次は私の服選びに付き合って貰おう。そのお礼として君の服も選んであげるぞ」


「いや、俺は別に―――」


「ええい!いいから着いてこい!」


「うお!?ちょっとクレアさん!?服ってどこ行くんですか!?め、目の前にあるじゃないですか!」


「ふふ、服と言っても私が選ぶのは水着だ」


「は…?」


「さ、颯太の好みを知るためにも早く行くぞ」


「ええええ!?む、無理ですってばあああああ!!な、なんでこんなに力が強いんだ!ニヴルヘイムか!?主の暴走を止めるのも神器の仕事じゃないのかよ!?」



クレアは颯太の手を無理やり引っ張って水着売り場へ行く中で、颯太は突然吹雪いた氷風がどこか笑っているように思えた。


どうもまた太びです!

ちなみに2話投稿になっていますので、とりあえず後書きは省略させていただきますw

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