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神器の正体

「うおおあああ!?いてッ!」



勢い余って床を転がった颯太は壁にぶち当たってやっと止まる。



「ん?ここはどこだ?」


「颯太颯太」


「レーナか。あれ?なんでうちの制服着ているんだ?レーナも」



そこで颯太は現実世界で制服のままでログインした事を思いだす。レーナも自分と一緒の服がいいと言って普段から制服を着こんでいたことを思い出すが……―――



「なんでリアルの服が…」


「私もよく分からない。それにここ……」



ゴウゴウと静かな機械の音が響くフロアに颯太は目をぱちくりさせてから立ち上がって周りを見渡す。

薄暗い部屋を覆い尽くす機械が立ち並んでおり、今も静かに起動している。



「なんだ……ここ…」


「分からない……それにここだとインストールできないみたい…」


「マジか……と、とりあえず進んでみようぜ」



レーナは不安なのか歩き出した颯太の左手を取る。



「多分俺の推測通りの場所ならばここは現実世界だと思う。でも、それならここはどこだ?日本……だよな?」



近代的な白いタイルの通路を進んだ先の扉の表記に気になる文字が書かれていた。



「神器管理場……?」


「え…?私達…?」


「どういうことだ…?神器はゲーム上のデータなんじゃ…」



颯太は震える手で扉に手をかざすと自動ドアはあっさりと開いた。


そこは颯太が最初にランゲージバトルへやってきた神器選びの洞窟と似たような場所だった。

違う点と言えば試験管に入っている者達が“全員人間”であることくらいだろうか。



「おいレーナ!」



試験管に入った人間を見たレーナは颯太の手から離れて走り出した。



「あぁ…くそ!!」



彼女を見失うかもしれないと感じた颯太は慌てて追いかけ始め、裸で試験管に入っている人間を薄気味悪く思いながらも走る。



「レーナ!待てってば!」


「……ッ!」



颯太の制止の声にも反応せず、彼女はどんどん奥へ走って行く。



「えっ!?ちょっとレーナ!おい!これッ!」



彼が目を奪われたのは一人の美しい女性が入った試験管だった。

いや、女性の裸体を凝視するのは失礼なのだが、今の颯太にそんな思考を持ちあわせるほどの余裕はない。



「被検体名……アルテミス……これ、どういうことだよ…」



レーナは一人奥へと行ってしまったが、颯太は気付く気配がない。

彼女の頭に被せられた数々の機械など颯太には全く理解出来ないが、今も彼女が何者かに囚われていることくらい分かった。



「ここが現実世界なら…!あぁもう!もどかしい!」



颯太の予想通りポケットの中にはいつも自分が使う携帯が入っていた。



「FDじゃデータが消される可能性がある」



素早く携帯で写真を撮り、保存先はもちろんSDカード。そして次にすぐ電源を切り、念のためネット回線からの干渉をなくすためにSDカードを引き抜いて別々のポケットにしまった。



「レーナ!!」



アルテミスのことも気になったが、今はそれよりも先に行ってしまったレーナを追う事を優先する。





「これ……私…?」


「レーナ!」


「颯太…」



息を切らしながら走って来た颯太はやっとレーナを見つける事が出来た。



「だ、大丈夫だったか!?」


「うん、大丈夫だけど……やっぱり…ここは…」


「これは?レーナなのか?」


「うん……ここはね、多分神器の元となった人間の保管所……今も試験管の中で夢を見るようにランゲージの中で生き続けている」


「………やっぱりな。さっきもアルテミスの試験管があったんだ…」


「颯太、そこ」


「ん?あぁ……ボルケーノか…」



そこにはボルケーノが人間の姿になった時の姿で試験管の中に入っていた。



「なぁ、お前をここから出す事は出来るのか?」



レーナは静かに首を左右に振った。



「今の私は分かりやすく言うのなら幽体離脱しているような感じ。それに今の私たちはこの機械によって生かされているの。止めちゃったら…」


「あぁ……分かったよ…」



試験管の中には目を瞑って静かに夢を見ている金髪の少女が眠っていた。

ゴポゴポと水の泡が浮かんでは消えていく。そんな試験管をじっと見ているとレーナが颯太の目を塞いできた。



「おい、何するんだよ」


「駄目……見ないで…」



頬を赤らめて『恥ずかしい…』という彼女に颯太は慌てて後ろを向いた。



「もう、颯太はホントデリカシーに欠けるよね」


「す、すまん。で、でもさ、ここホントどこなんだろうな」


「それは分からない……もう昔のことで記憶が曖昧なの…」


「あぁ…そうか、レーナは50年前からここに…」


「うん……もうロリババアだね…」


「馬鹿、なに言っているんだ」


「あ、でも50年前ってことは颯太と結婚出来るよね?もう私50歳くらいだもん」


「結婚ってお前……」


「えへへ…」



自分で言っていて恥ずかしくなったのか、力なく笑ったレーナの頭を颯太は優しく撫でた。



「レーナは子供のままだな」


「子供じゃないもん。立派な大人のレディだもん」


振り返った颯太に抱き付いたレーナは嬉しそうに笑った。



「レーナ、ここを出よう。余り長居していい場所ではないようだ」


「だね。ほら、颯太」


「あぁ、変な奴らが徘徊し始めた」



ボルケーノの試験管に隠れてそこから様子を窺うとパラセクトソルジャーと似たような虫の生き物が必死に何かを探している。



「いや、探しているのは俺達か」


「ここは運営の最重要機密エリアだよ。多分見つかったら殺される……間違いなく」



レーナは制服のブレザーを脱ぎ、それを鋼の剣に変えて見せる。



「颯太、これ」


「あぁ、サンキュ――っと重いな。これが本当の重さなんだな。よくあっちの世界でこれ以上の重さのものを軽々と振り回せるもんだ」


「これでも軽くしたつもりなんだけどね。でも、ないよりはましでしょ?」


「そうだな。よし、行くぞ!」



レーナの手を引いて颯太は走り出した。



「くッ!片手で振れるか怪しいぞ!」


「両手で振ればいいじゃない」


「それもそうだな!」


「ギイイイイッ!」


「おおおおおッ!!」



ランゲージバトルの世界のようにうまくいかないが、それでも颯太は後ろのレーナを守るために剣を振るう。



「うおお!?」


「ギイイ!」



斬ったのはいいが、勢い余ってこけそうになる。



「グギャアアッ!」



そこへ肩から引き裂かれて深手を負った虫型の神器が襲い掛かる。



「颯太に触れないで!」


「ギ…?ギギギギ…!?」



だが、その前にレーナはいつも颯太が扱う黒い大剣を突き刺して虫に止めを刺した。



「た、助かった」


「もう、こっちの世界で同じ動きが出来ると思わないでね」


「あぁ、今ので嫌ってほど分かった」


「いこ?」


「おうよ」



レーナの手を借りて立ち上がり、颯太とレーナは自分たちが入ってやってきた入り口を目指す。



「ギイイイ!」


「またか!」


「ちょっと肩借りるよ!」


「うお!?」



颯太の肩を借りて飛び上がったレーナは空中から虫へ大剣を振り下ろして一刀両断してみせる。



「おお…頼もしいな」


「でしょ~?なら今夜家に帰ったら一緒に寝てね?」


「全くお前は……無事に帰れたらな」


「わーい!んじゃ頑張るよー!こんな4世代目の失敗作に負けるほど私は弱くないのだー!」



過ぎて行く数々の神器を見ながら皆を解放してやりたい。そんな思いに刈られるが、先ほどのレーナの言葉を思い出して思考を振り払う。



「レーナ……剣が重い…ホルターを作ってくれ」


「おう?もうしょーがないなー。ねえ、颯太。どこ脱いで欲しい…?」


「はぁ!?な、なにが!?」


「自分で使う分には体内のナノデバイスを回すだけでいいんだけど、他人に何かを作ってあげるときは自分が身に着けている物を変換しなきゃいけないの」


「あぁ…なるほど……」


「で、どこ脱いで欲しい…?スカート脱ごうか…?それともパンツ…?」


「もう何でもいいから早く作ってくれ!」


「ちぇっ、颯太のいけず」



レーナは黒色のニーソを脱ぐとそれを変換して革の肩から背負うホルターを作った。



「サンキュ。楽になったよ」


「それじゃお風呂も一緒に入って洗いっこしようね」


「…………」


「しようね?」


「はい…」


「等価交換だよ」



颯太はこの時こう思った『レーナに頼み事は余りしない方がいい』と。



「ささ、いこいこ」


「了解」



神器管理場を抜け、颯太が入って来たフロアにつくと一人の男が待っていた。



「やぁ、君達か。侵入者というのは」


「誰だお前は…」


「僕はランゲージバトルを運営している者なんだが、名乗ることは出来ないな。そうだな、仮にエニグマンとでも呼んでくれ」


「で、そのエニグマンは俺達に何の用だ?」


「ふむ、質問を質問で返すのは失礼に値するのだが、何故君達はここに来れたんだい?」


「さぁな」


「偶然か……またシステムの見直しが必要になるな……ホント面倒事ばかり増えて行く」


「用は終わりか?さっさと帰してくれ」


「あぁ、すまないね。でも、ここを見られたからにはただで返すわけには行かないんだ」


「颯太には手を出さないで」


「君は我々の目の上のたんこぶだよ。君はあの男の最高傑作にして最悪の失敗作だ」


「誰のこと…?」


「君が知らないのも無理はない。何せもう57年も前の話しだ」



暗がりでよく分からないが、目の前のエニグマンは初老の男に見える。



「ふむ…?レーナを扱う男というと君は天風颯太君か」


「あぁ、そうだが」


「君もなかなか不運な男だね。あのバグに襲われ、次はこんな知らなければ良かった場所まで来てしまった」


「別に心配もされたくもないな」


「確かにそうだね。見ず知らずの男から心配されても余計なお世話でしかない」



男の後ろに続々と集まり始める虫たちに颯太とレーナはじりじりと後退していく。



「一つ質問がある…」


「なんだい?僕でよければ答えよう」


「あ、あの試験管に入った人たちはなんだ」


「ふむ、それはもう分かっているんじゃないのかな?」


「ならやっぱり……神器の元となった…」


「そう、その通りだ」


「い、生きているんだよな?」


「生きているとも。ただ仮死状態にあるだけでちゃんと生きている。でもね、神器コアを破壊された神器だけはどうにもならないんだ」


「あ………やっぱりそうなんだね…」


「流石にあの時代を生きているだけのことはあるようだね。さて、まだあるかい?」


「ならもう一つ。ランゲージの覇者になれば本当に願いを叶えてくれるのか?」


「ふふ、それは是非君の手で掴んで確かめて欲しい」



エニグマンは不敵に笑う。



「それじゃそろそろお別れの時間だ。本当に惜しい人物を亡くしたよ。レーナ、君も主を失ったあとに色々調整しなければならないようだ」


「い、いや!颯太は私の最初で最後の理解者なの!」


「そうは言ってもね………―――なら一つ僕からとレーナに質問しよう」



襲い掛かろうとしていた虫たちを一度手で制したエニグマンは颯太とレーナを見る。



「レーナ、どちらにせよ君はこのランゲージバトルが終われば天風君とお別れになるんだよ?何をそんなに拒む」


「やだやだ!颯太とずっと一緒にいたい!もうあんな寒くて暗い洞窟に閉じ込められたくないの!」


「そういう事だ。俺はレーナのために行動する。こいつが嫌と言うのであれば俺はそれに全力で抗うだけ」


「理解出来ない……」


「レーナ、絶対に帰ろう」


「うん!颯太と一緒にいるためにも私は負けない!」


「流石にこの数は無謀なんじゃないかな」


「無謀?上等だ!正直俺は馬鹿だからな!足を止めて考えている暇などない!」


「やれやれ、根性論でどうにかなる話じゃないと思うがね」


「そうだ、だからこそ私はひたむきに頑張る彼を見て恋に落ちた」


「む?誰だね」



ヒールを鳴らしながら歩いてくる一人の女性。颯太とレーナの位置からは見えないが、彼が知る中で最強の女性の声である事は見るよりも明らかだった。



「この声は…!!」



虫たちの頭上を越えて颯太とレーナの下へ着地した女性は静かに『待たせたな』と言った。



「クレアだ!!」


「君も僕たちを探ろうとする邪魔な存在だ。それにニヴルヘイムのせいでこちらから神器を送っても返り討ちにしてしまうし、タチが悪いことと言えばニヴルヘイム本人も彼女に協力的なことだ」


「颯太、話は後で聞かせて貰うぞ」


「はい!」


「今はこの状況を打破する。颯太、レーナと手を繋げ」


「分かりました。レーナ」


「うん!」


「次に私の左手を」


「何をするつもりかな?」


「ふふ、私にニヴルヘイムを与えたことを後悔するがいい」


「何をするつも――――はッ!?まさか!?おい!何をしている!早く殺せ!」


「もう遅い!!」



クレアは氷の剣を床に突き刺し、そして――――



「ヘル・ニヴルヘイム」



ピシィ―――!!


空間が氷のように凍りついた。



「私と手を繋いでいる間はヘル・ニヴルヘイムの効果を受けない!このまま行くぞ!」


「は、はい!レーナ!走るぞ!」


「うん!!」


「ヘル・ニヴルヘイムの発動時間は1分だ!とにかく全力で走ってあのゲートに飛び込むぞ!」



飛び上がって空中で静止している虫たちの間を潜り抜け、更にエニグマンの脇も通り抜けて行く。



「これを土産に置いていこう」



クレアはジーパンの後ろポケットから何やら豆粒のような物を取り出したかと思うと、そのままポイ捨てしてしまった。



「なんですか?今の」


「発信機だ。多分すぐ破壊されてしまうだろう。だが、やらないよりはましだと思ってね」


「なんでそんなもん持っているんですか…」


「ふふ、秘密だ」


「颯太!もう入り口のゲートだよ!」


「さぁ、飛び込むぞ!」



渦巻きのような白いゲートに颯太達は飛び込んだ。




「いでッ!」


「あううう…」


「痛いな…」


「あれ、ここは…アジトの地下…」



颯太達が戻ってきた先はアジトの地下の扉前だった。

そしてあの開かないと嘆いていた扉は役目を終えたのか、ゆっくりと閉まって行く。



「颯太、今はとにかくすぐログアウトするのだ」


「あ、はい!」


「明日の午後に話を聞こう。今は自分の身の安全を確保するのが先だ」


「分かりました。クレアさんもお気をつけて」


「あぁ、私も君がログアウトをしたのを見届けたらすぐに落ちる」


「クレアも気を付けてね…?」


「うむ。さぁ、早く」


「クレアさん、本当に危ない所を助けていただきありがとうございました」



そう言ってレーナと一緒に頭を下げた颯太はランゲージバトルから去って行った。



「よし、私も落ちよう」



ガタン―――ッ!!!



アジトの入り口の扉が勢いよく開かれた。



『まずい!?もう追手が!?』



クレアは急いでログアウトの準備に入り、ログアウトまでのカウントダウンが始まる。



『早く!早く!』



そして地下へ通じる通路に入って来た神器はいつものパラセクトソルジャー系統の神器ではなかった。

2m程度の白い鱗を持ったドラゴン。だが、ボルケーノと違う所は背負われた大振りの剣。



「お前がクレアか」


『話せる神器……なるほど、こいつは幹部クラスの神器か』


「あぁ、そうだが」


「主からの伝言だ。『今回の件に関しては見逃してあげよう。僕らのシステムの管理が悪かったとも言えるし、クレア君の登場も誤算だったとも言える。ただ出来れば君と天風君の心の中だけにとどめておいて欲しいな』と申されていた」


「話したらどうなるのだ?」


「その時はオレがお前達を殺しに行く。今までのパラセクトソルジャーとはわけが違うぞ?覚悟しておけ」


「おお、怖い怖い。肝に銘じておくとするよ」



クレアはそう残してログアウトしていった。



「主が言っていた扉とはこの事か」



白いドラゴンは背中の身の丈以上にある剣に手を伸ばす。



「むんッ!!」



剣を一閃すると扉はジリジリとポリゴンを散らしながら消えて行った。

その扉が消えたことで空間が急に不安定になり、グニャグニャと歪みだす。



「もうここに用はないな」



白いドラゴンは背を向けると白い炎に包まれてその場を後にした。


ここ最近頑張っている、どうもまた太びです。

最近両足の親指の足の裏に豆が出来てしまって凄い痛いです。ですがね、まだ破けていないので風呂上りに絆創膏を貼っておくと床を歩いても全然平気なんです。

いや~絆創膏にこんな使い方があるとは思いませんでしたよ。

昔の自分なら絆創膏よりもテーピングでぐるぐる巻きにしていたでしょう。


さて、自分の身上の話はともかくとして今回の話ですが、神器について明らかになった話でした。

神器は生きている人間をもとにして作られたもので、仮死状態ながらも試験管の中で眠り続けているというものですね。

まだ神器の謎がすべて明らかになったわけではありませんので、今後もどうぞランゲージの方よろしくお願いします。

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