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疾走

「あら?」



場所は移り変わり、拠点で挨拶回りをしていた香織のFDが点滅していた。



「クレアさん?」


『テイム完了した。しかし、テイムに付き合ってくれた颯太のために私はこのまま彼のテイム作業に協力する。そこで悪いのだが、もうしばらく拠点の方は任せたぞ』


「やった!クレアさんも自分のモンスターを手に入れたのね!」



自分の事のように喜ぶ香織は『おめでとうございます。メッセージの方、把握しました。颯太くんにも頑張ってと言っておいてください』というメッセージを飛ばしてFDをポケットにしまう。



「クレアさんも颯太くんも頑張っているんだわ。私も頑張らないと!」



香織は気を引き締めて拠点の廊下を歩いて行った。




「レックスー!下に降りて~!」


「ガーッ!」



詩織の相棒のカラスのことレックスの足に掴まって空から地形を見ていた詩織は、地上の森に戻る。



「どんな感じだ?」


「駄目。周り全体樹木ばっかで空からじゃ何も見えないね」


「ま~そうだよね~。この木だって壊しても数時間たてばまた生えてくるもん」


「ふむ…」



絶賛伐採中の滉介、ユキナは戻ってきた詩織に状況を尋ねていた。



「開戦時の空からの奇襲を考えていたんだが、地上の様子も分からずに空を飛び回るのは危険そうだな」


「撃ち落とされそうだもん」


「まぁ幸いうちのメンバーで空を飛べるのはボルケーノと香織くらいだもんね。あんまり気になくていいんじゃないかな?」


「俺達のメンバーは別にいいが、俺と同じ戦法を思いつく奴なんていくらでもいるだろう。ようは自分が思いついた案が自分だけのものだと思うなってことだ」


「ん?どういうこと?ユキナには少し難しいよ」


「あ、つまり味方も相手も同じ考えを持つはずだって事だよね?」


「そういうことだ。だが、たまに誰も思いつかないような奇策を思いつく奴がいることも忘れてはならない。まぁ、そこまで気にしてしまってはどうしようもないんだがな」


「頭の隅に覚えておくよ」


「それでいい。面倒なことを考えるのは基本リーダーの役目だ。俺達のような構成メンバーは大人しく従っていればいいんだ」


「なんか滉介って物事に対して消極的だよね」



剣で木を切り倒した滉介を見て詩織はそう呟く。



「そうか?」


「颯太と似た雰囲気持っているけど、余り人の前に立ちたがらないタイプっていうのかな」


「それは誰もが同じだろう。颯太も押し付けられた口だと思うが」


「ん~颯太はああ見えてリーダー気質あるから何だかんだで与えられた仕事は確実にこなすけど、滉介は何ていうのかな。色々思いつくけど、周りに言わずに心の中にしまっておくみたいな?」


『図星ね。ティア、あなたなかなかの観察眼を持っているようね。気に入ったわ』


「そりゃどうも…」


「お前がそう思っているのならそう思っていればいい」


『あ、逃げた。全く滉介は自分のプライベートの話しとなると急に素っ気なくなるんだから』


「あ、聞いちゃダメだった…?」


『いいのよ。まぁレーナがいないから言うけど、今回あなた達のギルドに加えて貰った事は本当に感謝しているわ。滉介はこの世界に来てからフレンドの一人も作ろうとしないから』


「おいリーナ…」


「あれ?そうなの?なら、あたしとフレンドパス交換しようよ!」


「はぁ!?突然なんだよ」


「いいじゃんいいじゃん!ほらほら」


「ユキナも流れで交換してあげるよ!感謝するといい!」


「勝手な奴らだな…」



流されるまま詩織とユキナとフレンドパスを交換した滉介の手元にFDが現れた。



「なんだこれ…」


「FDだよ。これで運営のアップデート情報や、リアルでフレンドと連絡を取る事も可能になる代物なんだ」


「へえ……」


『良かったわね』


「うるさい」


『全く素直じゃないわね。ティア、ユキナ。ありがとね』


「別に礼はいいって!フレンドが増えてあたしも嬉しいし」


「礼には及ばぬのだ!」


「ユキナちゃん…さっきから口調がおかしいよ…」



FDを早速弄り始めた滉介を見てリーナは『レーナに少し感謝しなければいけないわね…』なんて不覚にもそう思ってしまった。



「あれ?ちょっと滉介を真似てみたんだけど、違う?」


「俺はそんな口調ではない」


「ん?間違えたかな。まぁ面白いからいいや」


「面白ければいいんだ…」


「拠点ポイントの稼ぎを再開するぞ」


『はーい!』



自然と香織の代わりに指揮を執っている滉介に詩織は微笑みながら元気に彼の後に続いた。



「ガァアアアッ!!」


「お~強いですね」


『頼もしいね~』


「これは予想以上の強さだ」



ソードタイガーの群れに単身で突っ込んでひたすら蹴散らすフェンリルに颯太達は棒立ちしていた。



「もう俺達いらないんじゃ…」


「素晴らしい。素晴らしい戦闘能力だ」


『これ初めての戦闘なんだよね?レアモンスターってここまで強いものなの?』


「ふふ、どうだ。驚いたか?我が相棒バディの強さに」


「クレアさん、足震えていますよ」


「正直私が一番驚いている」


「ガウッ!」


「おお、よくやったな。ほら、おやつだぞ」



ソードタイガーを壊滅させてきたフェンリルは尻尾をはち切れんばかりに振りながらクレアの前でお座りをする。



「レベルはないんですよね」


「そのようだな。フェンリルを手に入れた事によって新しいステータスウィンドウが出来たわけだが、それを見ると戦闘した分だけパラメーターが上がって行くようだ。しかし、私が攻撃寄りのせいかフェンリルの攻撃上昇率が異常だな」


「でもクレアさんの神器ってチートなくらいにバランスがいいですよね」


「うむ、オールB以上だ。颯太は高速アタッカーだったか?防御もそれなりにあるように見えるが」


『ふっふっふ~ん!私は凄いんだぞー!』


「クレアさんの攻撃力には負けますがね」


『まぁ比べる対象がおかしいってもんだよ。ニヴルヘイムとかは1世代目の中でも一際おかしい化物だもん』


「とか?他にもいるのか?」


『いるよ~。イフリート、ゲオルギウス、ニヴルヘイム、タイタン、ラー、バハムート、ベヒーモス、フェニックス、四神かな。絶対避けなくちゃならない化物1世代目は』


「ボルケーノも大変だな。イフリートのカウンターとして生み出されてさ」


『ボルケーノは強いよ。1世代目だからこうやって限定しているけど、この中に入れてもいいくらい強いんだよ』


「へぇ……レーナがそういうのならボルケーノの強さは本当らしいな。今後の竜也の成長に期待ということか」


「ですね。炎龍逆鱗を手に入れてからというもの、俺も竜也とPVPするとき結構ひやっとする場面が増えてきましたから」


『私壊れちゃうかと思ったよ。もう、あの炸裂弾禁止―!』


「私もあの弾だけでHP3割がた持っていかれたよ」


「ホントあれ威力おかしいですよね。それに竜也はライフル射撃で全国大会優勝してますから腕がいいんですよ。それにまさか蓄積弾と炸裂弾の両方を同時に撃つとは思わなかったです」


「ピンチになると強くなる。まるで主人公のようではないか」


「竜也ならお似合いかもしれませんね。俺はそういう柄じゃないですし」


「どうかな?颯太も似合うと思うが」


「やめてくださいよ。ほら、次行きましょう」


『颯太照れてる~』


「オン!」


「うおお!?突然飛びかかってくるなよ!」


「はははは!ずっと話していたから暇だったのだろう」


「もふもふー!」



自分の身長を遥かに越すフェンリルを引きはがすとレーナがフェンリルの背中に飛びついた。

そしてそのままフェンリルの背中に乗って『さぁ!歩けー!』とか言ってフェンリルに命令している。



「あ、そう言えばフェンリルは騎乗可能なんですか?」


「あぁ、乗れるぞ。騎乗すると私の敏捷ステータスが100%上昇するようになっている」


「まぁ乗ればそりゃあ速くなりますよね」


「なかなか速いぞ~。颯太にも早くこの感覚を味わって貰うためにもソードタイガーのレアモンスターが見つけなければな」


「はい。協力の方よろしくお願いしますね」


「うむ、頑張って周回するとしようじゃないか」


「レーナ~!行くぞー!」


「はーい!フェンリル!あそこのゲートへ颯太達よりも早く飛び込めー!」


「オオン!」


「速いな…」


「だろう?」



城へ戻るゲートに飛び込もうとしている颯太とクレアよりも早く飛んで消えて行ったフェンリルとレーナを見て颯太は自然と言葉を発していた。そしてそれをクレアはドヤ顔で言うのであった。




香織や詩織達が落ちた頃、颯太は一人で拠点にやってきた。

クレアは――――



「私は少しアジトに寄ってから落ちるとする。明日また頑張ろう――というか、今日の夜また頑張ろう、だな」



と言って今は颯太一人で行動をしているわけである。



「人が多いな」


『賑やかだね~』



拠点の敷地を歩く颯太は楽しそうに談笑しているいくつものグループを見ながら森へと突き進む。



『それに大分拠点らしくなったよね。ほら、あそこにストーンゴーレムまであるよ』


「そうだな。香織さん達や他の皆が一生懸命頑張ってくれた結果だ」


『最初来た時はな~んもなかったのに』


「配置もちゃんと考えてあるな。加山さんと相談したのかな」


『だろうね~』


「なんだかほとんど出来上がっているようだが、皆に任せきりは良くない。俺達も少しでもいいから稼ぎに行くぞ」


『あいあいさー!』



袖捲り直し、革のグローブのバンドをしっかりと止めた颯太は夜の森へと入って行った。



「雷撃ッ!!」



颯太が生み出した稲妻が森を駆け抜けてどんどん樹木を薙ぎ倒していく。

まるで草刈りをするかの如く木を切り刻む颯太は足を止めない。



「ははッ!なんだか無双ゲーをやっているようだ!」


『楽しそうだね~』


「――――ん?」


『どったの?』



ブーツの踵で地面に突き刺すように足を止めた颯太は洞穴を見つけた。



『洞穴…?』


「みたいだな」


『どうするの?』


「掘れないかな」



大剣を地面に突き刺すとレーナも気になったのか人間の姿に戻って颯太の跡をついてくる。



「暗いね。颯太何か持ってない?」


「確かダンジョン用の松明があったはず………―――あった」



ストレージから松明を取り出してみれば先の見えない通路が広がっていた。



「ん……先が見えないな」


「なんだろ、ここ……モンスターとかいないよね…?」


「……分からないな…とりあえず先に進もう」


「剣に戻っておく?」


「念のためにもお願いするよ」


「りょーかい!」



再び大剣に戻ったレーナを颯太は背中のホルターにしまい、松明を持って先に進んだ。


奥へ進んだ颯太を待っていたのは行き止まりだった。



「あれ?ここまで来て何もなしか?」


『それはないと思いたいね……』


「調べてみよう」



ペタペタと壁を触って調べているとカチっとスイッチを押したような音が響いた。



「ん……――――ってうおおおおおお!?」


『そ、颯太!?』



底が抜けた。

そりゃあ暗い洞窟の中を真っ逆さまに。



「不意打ちすぎるだろおおおおおおお!!!」



颯太の絶叫が洞穴に響き渡った。




「ぐはッ!」


『颯太大丈夫!?』


「だ、大丈夫だ。死にそうだが大丈夫だ」


『早くポーション飲もうよ…』


「そうだな…」



最大落下ダメージである99%ダメージによって削られたHPを回復すべく颯太はポーションを飲みながら立ち上がる。



「松明っと」



ポーションを飲み干し、更にリジェネポーションも飲んだ颯太は松明を取り出した。



『颯太颯太、まだ奥に続く道があるみたいだよ』


「ん、まだあるのか……もう落下はやめてくれよ…」


『あはは……ないことを祈るよ…』



レーナにマッピングをして貰いながら颯太は松明を片手に真っ暗な洞窟を進む。



「最初この洞穴を見つけた時、俺は隠れられる場所を掘っておこうと思って入ったんだが、まさか落とし穴とは…」


『ただの洞穴っぽくはないけどね』


「これで何もなかったらただ俺が尻を打ってポーション飲んだだけになるぞ」


『何かあるといい――――颯太!後方にモンスター反応が!』


「なんだって!?さっきまで何もいなかったはずだろ!?」



颯太は振り返って松明をかざす。そこには紫色の霧が無数に蠢いていた。



「なんだこいつらは…!」



左手が塞がったままだが、それでも颯太は片手だけで大剣を背中から引き抜いて迎撃に移る。



「雷雲!!」



狭い通路で放たれた稲妻のブーメランは霧を引き裂く。



『颯太!まだまだ湧いてくるよ!先に進みながら倒そう!』


「俺もそうしようかと思っていたところだ!」



走り出した颯太は振り返らず帰ってきたブーメランを片手で受け止めて素早く背中のホルターにしまう。



『前方に3体!』


「邪魔だ!!」


『ギャアアッ!?』



飛んだ颯太は真ん中の霧を踏みつけてブーツの底に仕込んだ詩織直伝の隠しナイフで止めを刺し、踏みつけた反動で残りの2体を飛び越えながら背中の大剣を引き抜くと一瞬で銃モードに切り替えて敵の頭上から銃弾を叩き込んだ。


颯太が地上に足を着けた瞬間に敵は爆散し、彼は走り出す。



「弱いな。即死耐性なしか」


『でも何をしてくるか分からないから気を付けて』


「あぁ」



短く答えて颯太は前方の通路を塞ぐ無数の霧に銃口を向ける。



「紫電砲!」



ゴォォォオオオオオオ――――!!!!


眩しい光が通路を包む。そして颯太は徹底した動きで紫電砲が巻き起こした放電が消える前に双剣モードへ切り替える。



「松明が邪魔だな」


『雷の光で見えるかな?』



使い捨ての松明を通路に捨て、受け取りきれなかったもう片方の剣を空中で掴み先を急ぐ。



「数が増えて来たな」


『捌ききれる?』


「余裕だ」



飛び上がった颯太は敵の群れの中心に着地する。



「おおおッ!!!」



己のスピードを最大限に生かした高速の連撃。一太刀入れれば颯太は次の得物に食らいついた。



「レーナ!ロック頼む!」


『うん!』


「うおおおおお!!避雷針!!」



二振りの剣を合わせて大剣に戻した颯太は勢いよく地面に剣を突き刺した。

次の瞬間颯太の周りに出現していた霧の足元から稲妻の槍が沸きでて敵を貫く。



『颯太!』


「雷撃ッ!」



休む暇なく湧き出てくる霧へ最少チャージで繰り出した雷撃が道を作る。



『今だよ!』



颯太は走り出した。

飛ぶように走る颯太は、敵が地面から湧く前にその場を走り抜ける。



「出口か!?」


『そうかも!』



長い通路の先に見えた光。



「何があるのか分からないが、とにかく行くぞ」


『うん!』



そして颯太とレーナは光の世界に飛び込んでいった。

どうもまた太びです。

なんだかこの挨拶が最近恒例になりつつあります。まぁ、書き始めをどうすればいいのか分からないだけなのですが、連続で見てくださっている方はしつこいと思うかもしれませんね。


さて、今回はスキルについて話しましょうか。

神器があらかじめ持っている能力とはまた違ったスキル。

基本ランゲージバトルのスキルは自分で生み出す形になっています。神器のスペック、属性、武器によって覚えられるスキル。

与えられたスキル枠は全プレイヤー一緒の15個。大きく3つにスキルという存在を分けると攻撃スキル、防御系スキル、常に発動するパッシブスキルの3つになりますね。

攻撃スキルは神器が持つ能力と変形できる武器に大きく左右される。

武器変形を持たない詩織の小太郎は苦無と手裏剣しか使うことが出来ない。逆に豊富な武器変形を持つレーナは多くの攻撃スキルを生み出すことができる。

防御スキルも攻撃スキル同様に武器と神器の能力が関わってくるということは省略します。


そしてパッシブスキルですが、これはすべての神器に与えられた共通のパッシブスキル欄から2つだけ選ぶことができる特殊なスキルです。

颯太の場合前衛が防御に自信がない詩織の代わりに敵を引き受けていることからこのパッシブスキルを選択しました。

次にリジェネですが、これも前衛で仲間の壁となるために選んだというのもあります。まぁそれ以前にポーションを節約したいことと回復役がいないから選んだのが大きいというわけですね。

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