表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/172

レアモンスター

「なるほど、しばらくの間颯太と氷帝が抜けるのだな」



コオロギやフクロウの鳴き声が響き渡る夜の拠点で、たき火に薪を放り込んだ滉介が香織を見ながらそう言った。



「ええ、私じゃ不服かもしれないけれど、しばらくの間私が指揮を執るわ」


「いや、別にお前で構わん」


「ユキナも香織の指示に従うよー!」


「うん、香織なら安心だね」


「頼んだぜ、香織」



颯太とクレアがいない今日のランゲージバトル。いないと言っても拠点にいないだけであって、メッセージを飛ばせば返事もしてくれるし、何かあったときは二人ともすぐに駆けつけると言ってくれた。

しかし、出来れば二人の邪魔をしたくない香織は何があろうとも連絡は取らないつもりでいた。



「で、どうするの?」


「とりあえず今日も資源集めになるのかしら……」


「その前に一度加山の所に行くぞ。お前達が来る前にこちらに顔を出せと言っていた」


「加山さんが?」


「あぁ、急ぎの用事じゃなかったみたいだが、とにかくログインしたら来いとな」



滉介は首をかっくりかっくりさせて眠そうなリーナをおんぶすると拠点の中へ一人行ってしまった。



「私達も行きましょう」


「あいつも単独行動好きだよな~」


「颯太より酷いと思うよ」



木の椅子から『やれやれ』と言いながら詩織と竜也は立ち上がり、香織の後に続いた。




「加山さん、輝光の騎士団の代理リーダーの香織ですが」


『あぁ!どうぞ入ってください!』


「失礼します」



相変わらず豪華な部屋には加山一人しかいなかった。



「おや?代理と言いましたが、颯太さんとクレアさんは不在ですか?」


「ええ、今ちょっと野暮用で――――それで、どうかしたのですか?」


「えっとですね。うちの拠点に配備される人数が来ましたので、それの報告をしたいと思いまして」


「お、決まったのか。何人来るんだ?」


「ざっと6000人程度ですかね。青と赤の領域に隣接しているところは、ここよりももう少し人数が回されるようですが、やはりうちのリーダーは中央突破してくる馬鹿はいねえ、何て言っていましてね。その油断が敗北を生む、と私も意見させて貰い、何とか6000人という数で落ち着きました」


「当初は何人送られる予定だったんだ?」


「4000人ですね」


「ギャンブルみたいな男だな」


「ええ、彼の性格には私も困ったもんですよ」



渋い顔をしながら言った滉介の言葉に加山も苦笑をしながら同意する。



「だが、正直6000人でも俺は少ないと思っているが」


「もちろんです。兵力が多い事に越したことはありませんし、中央を突破されればそのまま本拠地まで真っ直ぐなわけですから、だからこそ強固な守りにしたいのです。がしかし、うちのリーダーは攻撃こそ最大の防御とか思っている人ですからね。通じませんよ」


「落とされる前にこちらが落としてしまえってことね……」


「そう簡単に落とされるもんならあたし達もこんな悩んだりしないよ」


「そうですね。あちらの人員のデータが揃っていない以上何をしてくるか分からないのです」


「初日…か」


「初日?」



ぽつりと呟いた滉介の言葉を香織は聞き返す。



「あぁ、初日だ。初日でこれから先の戦いが決まると言っても過言ではないな」


「つまり、こちらの手札がバレてない同士の初日が一番やべえってことだ。こりゃ気を引き締めて行かねえと一瞬で落とされるかもな」


「皆さん、改めてよろしくお願いしますね。万全の態勢で木曜日を迎えましょう」


「こちらこそよろしくお願いします」



加山と香織は硬い握手を交わし、4人は部屋を後にした。




「6000人か~。辛い戦いになりそうだね~」


「楽な戦いなんてねえよ」


「これから来る人の強さも考慮しなければならないわ」


「あの男は最低限の守りがあればいいと言っていた。余り期待しない方がいいぞ」


「ならわたくしと滉介が頑張るしかないわね!ふふ、このリーナ様に任せなさい!レーナよりも活躍するわよ!」


「起きたか」



可愛らしくひょっこりと滉介の肩から顔を出したリーナはドヤ顔をしてそう語る。



「まぁリーナの対抗心は置いておくとして、これからどうする?」


「ええ!?置いておくの!?」


「そうね。とりあえず私たちは昨日と同じく拠点強化に励みましょうか。私と兄さんは皆が集めてきたポイントを使って拠点強化を。ユキナちゃんとティアと滉介さんは拠点ポイント集めをお願いするわ」


「了解した」


「よーし!頑張って集めるよー!」


「そっちは任せたよ。竜也さん、香織」


「おう!任せておけ!」


「皆、頑張ってね」



滉介の後に続いて行く詩織とユキナを見送り、香織と竜也が拠点に戻ろうとした時、竜也が立ち止まった。



「どうしたの?兄さん」


「いや、人が多くなったなって」


「確かに人が多くなったわね」



竜也が見つめる先にはここの拠点にやってきたプレイヤーで溢れかえっており、皆忙しそうに敷地を歩いている。



「これから忙しくなりそうだぜ」


「既に忙しいわよ」


「あ、そうだった。んじゃ、張り切って行きますか~!」


「そんなやる気のあるには兄さんはまず高台の設置の件を加山さんに相談してきてね。この紙に設置場所と使用目的が書いてあるから。これ渡すだけでいいわ」


「あいよ。で、お前はどうすんだ?」


「私は他のグループに挨拶してくるわ。これから一ヶ月一緒に行動を共にする人たちなのだから、顔だけでも知って貰わないと連携がうまく行かなくなるかもしれないわ」


「それもそうだな。んじゃ、挨拶の方頼んだぞ」


「ええ、任せておいて」



拠点に入って行った兄を見送った香織は『よし!』と言って自分の頬を叩く。



「第一印象が大事よね……挨拶回り、颯太くんの代わりに頑張らないと!」



香織はぐっと拳を握り、まずは目の先でたき火を囲っている6人のグループのところへ向かった。



「ん~……」


『どったの?』



古城周回中の颯太はソードタイガーの群れを倒した直後に顎に手を当てて唸り始めた。



「いや、俺の範囲攻撃って今の所紫電砲だけだろ?」


『そうだね。広範囲かつ高火力の薙ぎ払い攻撃』


「ソードモードでも何か出来ないかなって思ってさ」


『あ~確かにあると便利かもね。紫電砲はチャージに時間がかかるし、何より一度ソードモードからガンモードに切り替えないといけないもんね』


「そうなんだよ。それにAPの消費も馬鹿にならないからな。出来ればソードモードの時に使える広範囲技が欲しい」


『ん~……紫電砲と同じで大剣に雷でも纏わせてみれば?』


「なるほど。面白いな、それ」


『ダメージは期待しないでね。あくまでダメージ量を決めるのはシステム側だから』


「あぁ、それは心配いらない。広範囲で使えるって事が重要だからな」


『モーションはどうするの?』


「そこは頭に思い浮かんだ適当なモーションにする。レーナ、スキル記録に入ってくれ」


『あいあいさー!3秒後に開始するよー!』


「了解」


『ちなみに颯太が登録出来るスキル数はこれと既存の物を合わせてあと4つだから覚えておいてね。それじゃ、開始!』


「―――――ッ!!」



背中から大剣を引き抜くと同時に激しい紫電が大剣を包む。颯太はフィールドに立ち並ぶ柱目掛けて紫電を纏った大剣を上段から振り下ろした。

振り下ろされた大剣から紫電が広範囲に渡って蛇のようにフィールドを駆け抜け、そして颯太の視界に映る柱を全てとは行かなかったが、ほとんどの柱が紫電の一撃によって破壊された。



『記録しゅーりょー!』


「……結果は?」


『ん~溜めのモーションが短い分総ダメージ量が紫電砲より落ちているね』


「まぁそこは仕方がない」


『どうする?私の方でチャージ登録しようか?そうするとAP消費が若干増えちゃうけど、ダメージの面は解決できると思うよ』


「ならお願いしようか。もちろんチャージする場面は初期動作のタイミングでな」


『了解!あとチャージしながらでも動けるように設定しておくよ。あ、えっと、スキル登録名はどうする?』


「そうだな~……雷撃ってのはどうだ?」


『颯太がそれでいいのなら私は何も言わないよ~。んじゃ、それで登録しておくね』


「レーナ、今俺が登録しているスキル数は11で合っているよな?」


『うん。ソードモードで6つ、ガンモードで3つ、パッシブスキルで2つだね』



颯太が今使用しているスキルはほとんどが繋ぎのスキルばかりである。


新しく開発した『雷撃』。

大剣モードから柄を変形させてブーメランのようにして投げる『雷雲』。

大剣モードから素早く相手に近づいて強烈な5連撃を放つ『迅雷』。

大剣モードから大剣を地面に突き刺して相手の頭上に落雷を落とす『避雷針』。

太刀モードに切り替えて高速の連撃を放つ『燕』。

双剣モードに切り替えて双剣を投げつける『飛翔』。

銃モードに切り替えて全てを薙ぎ払う『紫電砲』。

銃モードに切り替えて相手に持続ダメージを与える炸裂弾を放つ『花火』。

ガトリングモードに切り替えて雨のように撃ち続ける『五月雨』。


モンスターのヘイト上昇率を底上げして自分に攻撃を向けさせる『スケアロード』。

一定時間動かずにいるとHPを徐々に回復していく『リジェネ』。



『今のところはこんなもんでいいんじゃないかな~?』


「そうだな。また足りないなと思ったら開発する形にしよう」



大剣を背中のホルターにしまうと、そこでFDがクレアからメッセージが届いた事を知らせる。



「ん?どうしたんだ?」


『クレア?』


「あぁ、クレアさんも俺と同様にテイム作業しているからな。一体どうしたんだろうか」


『メール見てみようよ』



レーナに促されてメールボックスを開いてクレアからのメッセージを確認した。


『やっとスノーウルフのレア種が出てくれたよ。颯太、援護に来てくれ』とのことだった。



『ありゃ、先越されちゃったね』


「まぁ、めでたいじゃないか。レーナ、行くぞ」


『はーい!』



今回もソードタイガーのレア種は現れず、颯太は走りながら雷撃を放って道中の敵を薙ぎ倒して行くのであった。




「クレアさん!」


「来たか」



フラッグファイトの時のような雪山の中を走って来た颯太はクレアを発見する。

彼女は腕を組んで前方にいる1体のスノーウルフを睨んでいる所だった。



「クレアさん、あれが?」


「あぁ、そうだ。普通のとは違うだろう?」


「はい、確かに…」



通常のスノーウルフは真っ白な毛並みに赤い瞳が印象的な1m弱のオオカミなのだが、前方にいるスノーウルフは体格が通常のものより二回り程度大きく、何より毛並みが青いのだ。

瞳はエメラルドのように光り、爪は宝石のように輝いている。



「レベルは90ですか…」


「当然だろうな。さて、颯太。君には私と一緒にスノーウルフのHP削りに協力して貰いたい」


「分かりました」


「HPが1割強減ったら下がってくれ。あとは私がこのテイムようの武器で止めを刺す」



クレアはアイテムストレージから黄色いおもちゃのようなナイフを取り出して見せた。



「エサは使わないんですか?」


「弱いモンスターならエサを使えばすぐ仲間に出来るだろうが、これから相手するのは私達より遥かにレベルが高いレアモンスターだ。悠長にエサで釣っている暇などない。このテイム用のナイフで止めを刺すとモンスターのステータスが若干下がるらしいが、私達が死んでしまってクエストエリアから追い出されてしまっては元も子もないだろう?」


「まぁ確実性を選ぶならテイム用ナイフですよね……それで、香織さんの場合は?」


「香織にもこのナイフを貸したよ。初めての近接戦闘がレアモンスターとは恐れ入る」


「あぁ…そりゃ大変だったでしょうね…」


「ま、そういう事で一つ頼むぞ」


「了解しました!」



クレアが氷の片手剣を生み出し、颯太は巨大な剣を構える。



「行きます!」



弾丸のように飛び出した颯太はスノーウルフに飛びかかった。



「グル!」


「反応が早い!?」


『颯太後ろ!』


「ちっ!」



パチリと目を開けたスノーウルフは颯太の攻撃をいとも簡単に躱し、そして背後に回って牙をむき出しにして颯太の腕に噛みつこうとした。



「流石レアモンスターと言ったところか!」


「ギャイン!?」



そこへクレアがスノーウルフの背後から剣を振り下ろして颯太への攻撃を中断させる。



「助かりました」


「礼はいい。しかし、颯太の攻撃を躱すか。ますます欲しくなったぞ」



ギルド随一の攻撃速度を誇る颯太の一撃を躱したことにクレアは大変満足しているようだ。



「コォォォオオオ……!」


「ほう、ブレスを吐くつもりか。オオカミなのに面白いな」


「感心している場合ですか!」


「む、そうだったな」


「ガアアアッ!」



颯太とクレアは左右に飛んで氷風を退け、二人同時にスノーウルフへと駆け出した。



「迅雷ッ!」


「アイスコフィン!」



クレアよりも早くスノーウルフへすれ違いざまに疾風迅雷の如く5連撃を繰り出し、颯太がスノーウルフから離れた瞬間頭上に氷の檻が現れてモンスターを閉じ込める。

あれは颯太に軽いトラウマを植え付けたスキルである。



「ガウッ!?」


「ふふ、逃がさないぞ」


「援護します!」



巨大な氷塊を生み出しているクレアを援護するべく、檻の中で必死にもがいているスノーウルフに向けてガトリングを乱れ撃ちする。



「ナイス援護だ、颯太」


「まだだ!」



クレアが巨大な氷塊を氷の檻に突き落とした瞬間颯太はガトリングモードから銃モードに切り替えて紫電砲のチャージに入った。



『颯太!氷塊のせいで見えないだろうけど、モンスターの位置はこっちで掴んでいるから気にしないで撃って!』


「サンキューレーナ!よし、いっけえええ!」



最大チャージした紫電砲は厚い氷の壁を突き抜ける。



「私の氷塊を突き破るか。颯太はまた一段と腕を上げたのだな」



クレアは風で帽子が飛ばされないように帽子のつばを抑えてにやりを笑う。



「しかし、これだけやって1割しか削れんとは」


「先は長そうですね」


「うむ」


「グルルルルル……」



煙を引き裂き歩いて来たスノーウルフは低いうなり声を上げる。

そして―――――


「オオオオオオオオ―――――!!!!!」


「くッ!」


「なんつう雄叫びだ…ッ!」



大地に降り注いだ雪を吹き飛ばす雄叫びを上げ続けるスノーウルフにクレアはある事に気付いた。



「いや、ただの雄叫びではないようだ」


「はい?……えっ!?」


『な、なんか敵集まって来てるよー!?も、物凄い数なんだけど!?』


「颯太、撤退だ。ここで多数の敵と戦うのは適切な判断ではない」


「同意見です。レア種を釣りながら逃げましょう」


「賛成だ。ふっ!」



クレアは手の平に氷のナイフを生み出してそれをスノーウルフに投擲した。

HPは全く減っていないが、それでも釣る事に成功したクレアは手の平でくいくいと合図して颯太とこの場を離れることを決めた。



「は、速い!?」


「これは驚きだ」


「いやいや、これからどうするんですか!」


「いや、なんだ。その私も予想外の出来事が続くと頭が冴えなくなってくるもんでな」



全力で逃げている颯太とクレアに対し、スノーウルフは確実に二人を上回る速度で追いすがる。



「呼び寄せた通常のスノーウルフも来ているんですけど!」


「あ、あれ…座標を決めた場所にしか集まらないと思ったが、もしかするとレア種そのものに集まっているのかもしれないな」


「くそッ!ここでやるしかないみたいですよ!」


「そのようだな」



逃げるのをやめて颯太とクレアはレア種とスノーウルフの群れをここ迎え撃つことにした。



「颯太、私がレア種を相手しよう。君は自分のパッシブスキルを生かして通常種を相手してくれ。出来るな?」


「もちろんです!レーナ!行くぞ!」


『あいあいさー!じゃんじゃんかかっておいでー!』


クレアの脇から飛び出した颯太はレア種の頭上を飛び越えて後方からやってくる通常種の群れに飛び込んだ。



「おっと、お前の相手は私だ」


「ガルゥ…!」



スノーウルフの顔に銃弾のような氷の礫が当たった。

ヘイトを颯太から奪ったクレアをスノーウルフはゆっくりと首をクレアへと向けて牙を見せる。



「来い!」


「ガアアアッ!!」



そしてスノーウルフはクレアへ襲い掛かって行った。

体調管理をしっかりしないせいか風邪を引いてしまい、しばらくダウンしてしまいました。

なんか前に自分で体調管理はしっかり!とか言っていたような気がしますが、もしそうなら盛大なブーメランですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ