颯太と香織の関係
「ふわぁ……あぁ…眠い…」
「お疲れの様子だな」
「まぁな…」
ランゲージバトルと家庭教師をかけ持ちしている颯太は、知らないうちに欠伸をする回数が増えている事に気付いていない。
そして颯太は机に頬杖を突きながら携帯のアプリで詩織とチャットをしながら適当に上条へ返事をする。
『ソードタイガーの事はどうするの?』
と、詩織に聞かれた。
「モンスターの事もあるしなぁ……」
『諦めていない。出来れば勢力戦が始まる前に見つけたいところだ』
『だよね~。あるなしで言えばいた方が心強いし』
『クレアさんもまだみたいだしな。そこまで焦っているわけじゃないが、早く見つけたい』
『ん~……なら、今夜の拠点強化はあたし達に任せて颯太は古城を周回しなよ』
『人手が足らなくならないか?』
『大丈夫大丈夫。何とかあたし達で回して見せるから、颯太は安心して行ってきていいよ』
『そうか……んじゃ、留守中のリーダー権限は誰に任せるかな』
『香織でいいんじゃないの?クレアさんにも見つけて欲しいから抜けるよう言うつもりだったし』
『分かった。こっちで香織さんに今夜頼めるよう言ってみる』
『んじゃ、あたしはクレアさんにも同じこと言うね』
『あぁ、よろしく頼む』
『あいあい!それじゃあね!』
颯太はFDをポケットにしまうと席を立った。
「香織さん、ちょっといいか?」
「え?うん、いいわよ?」
いつものメンバー2人と話していたところに颯太が話しかけると、香織は少しだけ驚いた様子を見せてから頷く。
「ここじゃ話しづらい。廊下でいいか?」
「分かった。ごめん、ちょっと行ってくるわね」
「おお?天風くんが香織を誘うなんて珍しいこともあるもんだね~」
「ここ最近あの2人よく一緒にいるよね。香織のお兄さんとも天風くん仲良いみたいだし」
「おやおや…」
「その顔……おじさん臭いよ」
廊下に出て行った2人を歩美と千代は目で追っていた。
「で、どうしたの?」
「あぁ、さっき詩織と話していたんだがな」
「颯太くんって詩織とよくメールするの?」
「まぁ休み時間の大体は詩織かクレアさんとランゲージについて話し合っているかな」
「あ…そうなんだ……」
「ん?どうかしたか?」
「あ、ううん!なんでもないわ!」
「ん?まぁそれで、木曜日から勢力戦が始まるだろ?」
「そうね。そこまでに拠点強化を万全なものへと仕上げるのが私達の目的よね」
「あぁ、そうだ。だが、俺とクレアさんには足りないものがあってな」
「足りないもの?」
「俺とクレアさんは自分のモンスターを持っていないんだ」
「確かに颯太くんとクレアさんはまだだったわよね。モンスターも戦力になるわけだし…」
「そこで詩織が見つけに行ったらと提案してくれてさ。それに乗る事にした。で、悪いんだが、しばらく香織さんにリーダー権限を渡したいんだ」
「ええ!?わ、私に!?」
「悪いとは思っている。だが、滉介はそういう柄じゃないだろうし、竜也に至っては頼りがいがない。詩織もリーダー向きじゃないしな。そこで香織さんに白羽の矢が立ったわけだ」
「私…出来るかな…」
「あぁ、やれるはずだ。何もないとは思うが、周りには滉介も詩織も竜也もいる。それに何かあったら俺かクレアさんにすぐ連絡をくれ。すぐ駆けつけるから」
「うん…」
颯太の『すぐ駆けつける』という言葉にドキっとしてしまった香織は、頬を少しだけ染めて小さく頷いた。
「ありがとう。ソードタイガーを連れてすぐ戻る」
「分かったわ。待ってる」
「あぁ、しばらく頼んだ」
言いたいことを全て言い切った颯太は、眠そうに欠伸をしながら居室に戻って行く。
「で、なに話してたの?」
「きゃあ!?千代と歩美!?」
「私は止めました」
「ごめんね~。ちょっと気になったもんで」
「二人ったら全くもう……―――別に、二人が期待しているような話はしていません」
「ちぇ~つまんないの~」
颯太がいなくなった頃合いを見計らって出てきた二人に香織は嘆息しながら言葉を吐きだした。
「なに話してたの?」
香織と颯太のやり取りが気になった上条が本田とゲームをしながら話しかけてきた。
「ゲームのことだよ」
自分の椅子を引いてどっかりと座った颯太は眠そうに眉間のしわを掴む。
「お?委員長ってゲームできんのか?」
「ジャンルは限られているがな」
「へえ、委員長ってこういうゲームには縁のない人に見えたけど、違ったか」
「竜也先輩も昼休みになるとここに来るよな。ゲーム機持って」
「ここ最近やけにうちのクラスに来るが、竜也には同級生の友達がいないのか?」
次の授業で使う教科書をどさりと机に置きながら颯太はFDを起動する。
「それはないと思うぜ。あの人かなり顔が広いらしいしな。俺んとこの部長とも仲がいいとか言ってた」
「んじゃなんで毎日俺のところに来るんだ」
「さぁ?俺にはさっぱりだ。つうかむしろ、この学校の有名人をごく普通に呼び捨てしているお前と竜也先輩の関係が気になるわ」
「だから前も言っただろ。ネトゲでフレンドだった人が竜也だったというだけだ。それに呼び捨てでいいと言ったのは竜也だしな」
「どんな奇跡だよ……ありえねえ…」
「自分が一番驚いている」
「ふむ…」
「お?どうした上条」
「いや、颯太はなかなか面白い星の下に生まれてきたのかもしれないなってふと思ってさ」
「お前はクレアさんみたいな事を言うな……」
「あぁ、確かその人もネトゲのフレンドさんだったっけ?何て言ったんだい?」
「タロットカードで毎回塔を引き当てているんだとさ」
それを聞いた上条はツボにはまったらしく、ゲーム機を机に置いてゲラゲラと笑った。
対する本田はタロットカード自体知らないのか『なんのことだ?』と言った顔をしている。
「そんな面白い事を言ったつもりはないんだが」
「いやいやすまない。つい笑っちゃったよ。まぁここ最近の颯太の近況を見る限り、余り良い出来事が起こっているようには見えないからね。なかなか的を射ているかもしれない」
「あ~確かにお前最近やけに忙しそうだよな。目から流血して倒れるわ、授業途中で抜け出して保健室行くわ。ホントお前ついてないな」
「やめてくれ、ただでさえ自分の疲労っぷりに嘆いているんだ。余り思い出させるような事を言うな…」
「委員長に蹴られたり――――あぁ、これはいつも通りか」
「いつも通りであって欲しくないが」
上条は流し目で楽しそうに千代と歩美と談笑する香織を見る。
「お前と委員長と歩美って中学時代からの付き合いなんだろ?」
「まぁな。正直余り中学時代の記憶はないが」
「そうなの?まぁ確かに僕は帰宅部だったからね。学校生活での思い出は少ない」
「でも颯太は陸上部だったんだろ?俺と同じ部活仲間じゃねえか」
「まぁ陸上に打ち込み過ぎて他の記憶が残らなかっただけだよ」
颯太は二人に自分の足の事を説明したことはない。言ったところで変な同情されるのも困るし、何より既に自分の過去に折り合いをつけている。
まぁ完全に折り合いをつける事は出来なかったが、それでも日常会話の中で陸上の話題が出て来ても普通に対応できる程度までには回復した。
「分かるぜ。俺も部活ばっかで中学時代なんか何も思い出せねえからな」
「それは本田の頭が残念なだけじゃないかな。健太でももう少し思い出せると思うよ」
「健太と本田を比べたところでドングリの背比べだ。比べることに意味なんかない」
「なんだと!?俺が健太より馬鹿だっていうのか!?」
「いつもクラスの底辺を争っているのは誰だ……今一度自分の成績を見直すべきじゃないのか?それにお前、スポーツ推薦で大学行く言ってもそれなりの頭がないとダメなんだぞ」
「わ、分かっている……だけど勉強が苦手なんだよ!」
「なんか魂の叫びみたいだね……」
「俺を呼んだか?」
「別に呼んでねえよ」
今まで机に突っ伏していた健太が颯太の席までやってきた。
しかしまぁ、本田と健太が並ぶと上条がやけに小さく見える。流石サッカー部と排球部と言ったところだろうか。
「このあとの授業なんだっけ?」
「現代文だよ。この前健太に時間割表渡したよね?なくした言ったからさ」
「ん?あぁ……そうだったな」
「全く健太ったら…」
「その次は?」
「体育だ」
苦笑いを浮かべる健太に続いて本田が聞いて来たことに対して、肩を落としている上条の代わりに颯太が答える。
「おお!確か今日は5組と合同だったよな!」
「なんでそんなにテンションが高いんだ…」
「馬鹿お前!5組って言ったら女子のレベルが異様に高いクラスだろうが!」
「あぁ…そう…」
「僕はそういうの興味ないから」
「俺もだ」
「上条と颯太が男好きなのは今に始まった事じゃない。で、いつも真っ先にこういう話題に乗ってくる健太が反応しない」
「あぁ、それは健太が彼女持ちだからでしょ」
「………なん…だと…?」
ゲームをしながら上条が口にした言葉により本田の身体が凍りついた。
「いやぁ……まぁね?」
「くそー!!てめえ裏切ったな!あの日俺達は彼女を作らない同盟を掲げた仲間だろうが!」
「お前ら何してんだよ……」
「えっへっへ、やっぱ彼女はいいぜ!ん?何なら見るか?」
「俺がお前の彼女のレベルを判断してやる!見せろ!」
「なんで俺の机に携帯を置くんだ」
「まぁまぁ颯太も見ておけって」
嫌そうな顔をする颯太に上機嫌な健太がうざったらしい笑みを浮かばせながら彼女と撮ったと思われる写真を見せてきた。
「うお!?お、お前この子今年の1年の中で上位にランクインする花崎千尋ちゃんじゃないか!」
「誰だ?」
「あぁ、サッカー部のマネージャーだよ。彼女、結構人気者でね。本田が言う、男子生徒の中で勝手にランキング付けされた女子のランキングでかなりの上位に入っていた子だったかな」
全く女子とのかかわりを持たない颯太に上条が興味なさげに答えてくれた。
「どうだ~?可愛いだろう~?」
「健太がいつしなくうざいが、確かにこの子は可愛いな」
「お?女子に興味ないと評判の颯太からそんな言葉が聞ける日が来るとは。やっぱり千尋は可愛いんだな」
「俺の評価も地味に気になる言葉だな」
「お前……いつこの子に手を出したんだ…」
「言い方が酷いよ、本田」
「まぁ出来たのはついこの前なんだがな。向こうも俺のことを多少なからず気になっていた様子で、あっさりOK貰った」
「くそおおおおお!!!!」
「そう言えば本田、君のとこのバレー部のマネージャーも1年生の女子だよね」
「ん?あぁ、そうだな」
「彼女もランキング高くなかった?」
「高い。確かに高いが……告白した男子が3日再起不能になると有名なんだ…」
「なんだそれ?こっ酷く断られるのか?」
「あぁ………実際俺のとこのバレー部の奴らも突撃していったんだが、酷い奴で10日学校に来れなかった奴もいた…」
「お前のとこのマネージャーどうなってんだよ……千尋は優しいぜ?」
「ボール磨きとか休憩のドリンク配りとか、仕事は出来る子なんだが……」
「性格がきついわけか」
苦い顔で語る本田が颯太の言葉に頷く。
「お前は告ったのか?」
「いや……怖くて行けない…」
「まぁ本田の話しを聞いた後だと理解出来るものもある」
「ちなみに委員長は2年生の中で1位だよ」
「な、なんで香織さんの名前が出て来るんだ」
「いや~?最近やけに仲がいいから気になっていると思って」
「え?お前委員長狙ってんの?」
「狙うってなんのことだよ!ほら!そろそろ授業が始まるからさっさと自分の席に戻れ!」
「はっはーん…?ま、颯太も頑張れよ」
「なに訳知り顔で肩を叩く。戻れって言っているだろ」
「颯太、俺は信じているぞ。俺とあの日誓いを交わした同盟仲間だろ?」
「交わした覚えもない。本田も戻れ」
健太の手を払いのけ、本田の懇願するような眼差しを視界から外すことで躱す。
「颯太も素直じゃないね」
「素直も何もあるか。言っておくが、俺と香織さんはそういう仲じゃない。大体俺なんかのどこがいい。釣り合わないだろ」
「はぁ……颯太も分かってないねえ」
「お前はいつからそういうキャラになった」
「さぁ、いつからかな?」
颯太は小さく舌打ちをすると机に突っ伏してしまった。
「だってさ、香織」
「うん…」
あれだけ騒いでいればそれはまぁ本人の耳にも当然届くわけで、香織は少し傷ついているようだった。
「あちゃ~……天風くん完全に脈なしだね。もうこれ香織が直接告白するしかないんじゃいの?」
「え?ええ!?わ、私が!?」
「天風くん、ああ見えて結構人気あるからね。香織もうかうかしていたらいつの間にか天風くん取られちゃっていた、なんて事態になりかねないよ」
歩美と千代にそう言われて香織も何だか焦りを覚えてきた。実際いま颯太の周りには詩織とクレアがいる。
クレアは大丈夫だと高を括っているわけだが、若干香織は詩織をライバル視しているところがある。何かと気が合う様子で、先ほども休み時間になればしょっちゅう会話をするような仲だと聞いた。
「4時限目体育のバレーボールでしょ?5組と合同だし、ちょっと他の女子の目でも観察しておきなよ。いつも健太と本田の影に隠れちゃっているけど、天風くん結構人気あるんだからね?」
「だよね~。それなりの顔立ちしているし、中学の頃ずっとスポーツをしていた事もあって筋肉バリバリあるからね。香織が天風くんのこと好きじゃなかったらうちが告白している」
「ちょっと歩美…」
「あ…じょ、冗談だよ。香織の天風くんは取らないからさ」
「べ、別に私の天風くんでもないわ…」
香織の泣きそうな顔を見た歩美が慌てて言い直すと同時にチャイムが鳴った。
「はい、授業を始めますよ。皆さん席についてください」
定年も近くなってきた現代国語教師の清水が教室に入って来た事により、皆は適当に会話を切り上げて席に戻って行く。
「それでは前回の続きから行きましょうか」
香織は先ほどの歩美と千代の言葉が気になって、授業中清水の話しを聞いておらず盛大なミスをやらかすことがあったことは清水教師もクラス全員も予想外の出来事だった。
すみません、少し時間が空いてしまいました。
ポケモンの新作が発売したことにより、少々こちらがおろそかになってしまったことに対しては深くお詫び申し上げます。
さて、今回は久しぶりに学校でのお話でしたね。
颯太と香織の関係はこれからどうなるのか!と、自分で書いていて先が書きたくなるような思いで仕上げました。
私が何故体育の話でバレーを持ってきたかというと、まぁ現役でバレーボールをやっていたからでしょうね……。やっぱりやっているとその状況を思い出してすらすら書けるんですよね。
サッカーも6年間やっていましたし、バレーボールも中学高校と6年間やっていました。あれ、なんで中学の時はサッカーやらなかったんだ~?という話になりますが、それはまぁ中学にサッカー部がなかったからです……。
田舎の中学校だったので、部活が少なかったんですよね。吹奏楽部、野球部、バレーボール部、女子卓球部、女子バスケットボール部。
この5つしかなくてですね。吹奏楽部は女子しかいませんし、必然的に男子は野球部かバレーの2択に迫られるわけです。
そこでまぁ、サッカーをやっていた先輩がこぞってバレーをやっていまして、自分らもなんだか流れるようにバレーボール部に入りました。入部当時はサッカーの未練が強くて辛い筋トレにも身が入りませんでしたが、今ではいい思い出ですね。
中学当時が一番楽しかった世代だと思っています。
って、また書きすぎて途中で切れちゃってるし!バレーの話し関係ないじゃん!w