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ビギナーズラック

城に戻った颯太とレーナは再びクエストカウンターに足を運んだところで、前に立っている人物を見て眉をひそめる。



「滉介……」


「リーナ…」


「ん?おや」


「あら?………――――あああああ!!レーナ!ここで会ったのが百年目よ!覚悟しなさい!」


「おい、俺は戦うつもりはないんだが」


「ええ!行くわよ滉介―――ってえええ!?ちょっと滉介!なんであんたはそんなにやる気がないの!?」



そう、それは滉介とリーナだった。



「よう。そんなに警戒しないでくれ。リーナはやる気満々だが、俺はこれっぽっちもやる気はない」


「滉介!」


「うるさいな……――――これからアンタはどこに行くんだ?」


「古城を周回中だ」



噛みつく勢いで抗議をしてくるリーナの頭を押しのけて滉介は気怠そうに颯太へ話しかける。



「ん?古城?あそこはドロップもおいしくないし、何をしに行っているんだ?」


「何でもいいだろ」


「それもそうか。それで参考までに聞いておきたい。アンタはどんなモンスターを仲間にするつもりだ?」


「タイガータイプだよ。ほら、レーナ行くぞ」


「う、うん。じゃあね」


「おう、気を付けてな」


「あ!ちょっと待ちなさ―――あべしっ!?」



レーナを追いかけようとして器用に自分の足を踏んで転んだリーナは、顔を上げると涙目だった。



「あ~あ……全く、お前は何をしているんだ。それになんだ、あべしって。お前は世紀末のモヒカンか」


「うぅ……滉介ぇ……」


「あ~もう面倒臭いな~……お前の好きなもん買ってやるから泣きやめよ」



いつもは滉介を引っ張っているリーナだが、やっぱり中身は見た目相応の女の子だった。




「面倒なのにあったな」


『うん』



ボロボロの古城の中を一人歩く颯太はレーナに話しかける。



「なんだか元気がないな」


『あの子を見るとなんだかモヤモヤする』


「モヤモヤ?どういうことだ?」


『分からない。でも、モヤモヤする……』


「同族嫌悪ってわけじゃなさそうだしなぁ………」



そんな話をしながら颯太は剣を振るう。

俊敏な動きで撹乱するソードタイガー達の速度をものともせず颯太は追いついて見せ、剣を一閃する。



「いっちょ上がりだ」


『お疲れさま』



リーナと会ってからテンションが低くなったレーナに颯太の調子が狂う。

どうしたものやら、と思っているとFDがメールの着信を告げる。



「お、香織さんと竜也とティアが魔物を仲間にしたみたいだ。一度アジトに戻ろう」



だがその前にもう1通メールが来ていたようだ。

香織からだったのだが、何か様子がおかしい。


『颯太くん!助けて!』


と、だけ書かれたメッセージに思わず颯太も首をひねる。



「とりあえず帰るか」



颯太は素早くクエストを終わらせると、急いでアジトへ戻った。



「オンッ!」


「うお!?」


「ひゃっ!?」



アジトの扉を開けた先に待っていたのは炎を纏うトカゲだった。

颯太とレーナに向かって短く吠えるといそいそとリビングへ戻って行く。



「な、なんだあれ……」


「サ、サラマンダーみたいだけど…」


「おお!遅かったじゃねえか!」


「竜也か。今のサラマンダーは一体…」


「あれは俺のモンスターだぜ!仲間にしてきたんだ!グラーノ、挨拶だ!」



150cmはある大型のトカゲは口から火を噴きだして颯太とレーナを出迎えた。



「触っていい?」


「おう!」


「わーい!グラーノ!よろしくね~!」


「オン!」



サラマンダーのことグラーノを撫でたレーナの顔をペロッと舐めたグラーノは尻尾を振っている。



「もう皆中にいるぜ。後はお前だけだ」


「俺が一番最後か」



リビングには巨大な鳥とボルケーノと並ぶほど大きなグリフォンがいた。



「あ、お帰り!見てみて!あれあたしのモンスターなの!」


「あぁ、ただいま。あのモンスターはなんだ?」



帰って来た颯太を見た詩織は、新しく買った家具である観葉植物の枝にとまっている鳥を指差す。



「えっとね、エビルクロウっていう鳥なの」


「あぁ~!やたらデバフをかけてくるあのカラスか!」


「ガー!!」



颯太の大きな声に反応したエビルクロウはカラスそのものの鳴き声を上げた。



「名前は?」


「レックス!かっこいいでしょ!」


「シンプルでいい名前だ」



そして颯太の目はクレアが興味深そうに見ているグリフォンへ注がれる。



「香織さん、悪い。メールに気付かなかった」


「あぁ、それは大丈夫よ。クレアさんが駆けつけてくれたから、何とかなったわ」


「しかし、見たことがないグリフォンだな……」


「颯太、これがレアモンスターだ」


「え?」



振り返ったクレアの口から『レアモンスター』という言葉が発せられた。



「颯太も一度は戦った事があると思うが、通常のグリフォンは茶色と白が混ざったそれこそ本当の鷹のような色合いをしている。だが、このグリフォンは違う」



そう、このグリフォンは茶色の部分が美しいスカイブルーに染まっており、首元にはプロテクターが装着されている。



「私も驚いたわ。普通のグリフォンの中に見たことがない色のグリフォンが混ざっていて、レベルも90で本当にクレアさんがいなかったら危なかったのよ…」


「私もひやひやしたぞ。通常のグリフォンとは違うアルゴリズムで動いていて、全く行動パターンが読めなかったからな」


「それでも捕まえられたんですよね」


「何とかな。香織はいい魔物に出会えたな」


「はい、これもクレアさんのおかげです」


「これがレアモンスターか……」


「ったくよ~。俺もレアモンスターの話しを先に聞いておくべきだったぜ」


「竜也さんじゃ無理でしょ~。絶対飽きると思うよ。そういう周回プレイ」


「うぐっ……確かにそうかもしれない…」


「颯太とクレアさんはレアモンスターを狙っているんでしょ?」


「あぁ、俺はソードタイガーのレアモンスターを狙っている」


「私は一度倒したスノーウルフのレアモンスターだ」


「もし出会ったら絶対呼べよ!捕まえるの手伝うぜ!」


「あぁ、その時は頼りにさせて貰う」


「その方がいいだろう。レアモンスターはレベルが固定なのか、必ず90レベルで遭遇する。颯太も自分の力を過信せず、出会ったら真っ先に私達を呼べ」


「クレアさんもですよ」



隣から香織にツッコミを入れられ、一瞬ポカーンとしていたクレアは次の瞬間『これは一本取られたな』と言って笑った。



「さて、やるべきことが山積みになってきたが、フリーエリアってのはなんだか分かるか?」


「あ~はいはい!それはね、言ってしまえば探索クエストだよ!」


「既に俺は行ってきた」


「ほう、どういう所だった?私と颯太はしばらく周回プレイになりそうだからな。そういうのは後回しになってしまう」


「なんかでかいマップをひたすらぐるぐるする感じだったぜ?クエスト目標がないっていうか」


「いつもの一本道のクエストじゃないみたいね」


「今の所あるのは森、火山、雪山、海、洞窟かな。人が多ければ多いほど敵がポップする仕組みになっているから、レベリングには最適みたい」


「なるほどな。それで、次はイベントについてだが」


「イベント情報の更新は月曜日になっているわ。恐らくそこで具体的なチームの人数と、組み分けが決定すると思う」


「了解。それじゃ、今日は各自解散だ。俺はまだ古城をぐるぐるするから、まだ落ちないけど」


「うっす。俺は落ちるぜ。んじゃ、またな」


「私ももう少しいたいのは山々なんだけど、勉強しないといけないから…」


「あたしは颯太のクエストに付き合うよ。この子のステータスも上げたいからね」


「サンキュ。皆また明日会おう」


「私ももう少し粘らせてもらおう。それじゃ、また明日」



そう言って竜也と香織はログアウトし、颯太と詩織はパーティーを組んで古城を回り、クレアは雪原を回る事に決めた。






「出ないね」


「香織さんがどれだけ運がいいのかを思い知らされたよ」


「ホント運が良いよね」



颯太は自分のリアルラックの低さを少しだけ嘆いた。


都市伝説かと思えばありそうで困るビギナーズラック。

いや、実際私もオンラインゲームをしていて初心者がいきなりレアを引き当てる、なんて場面に遭遇したことがあります。

ただ運が良かっただけ、と思うには余りにも運が良すぎるので、次の日車に撥ねられないか軽く心配しましたね。

もう、そういうレアを引き当てたとき『一生分の運を使い切ったな』なんて思うことがありますけど、次もまたホイホイ出されるとお前もう来世の分まで使ったんじゃね?と思います。

ホント運というのはどうしようもなく、見えない人間のステータスですよね。

幸運と不運は絶妙なバランスで保たれている、何て話を聞いたことがありますが、全然そんなことはない!と思う私でした。

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