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「颯太~入るぞ?」



颯太達がランゲージバトルで激戦を繰り広げている時、兄の和彦は颯太の部屋にやってきた。



「なんだ?部屋の電気を点けたまま寝たのか?」



和彦はそんな弟に嘆息したが、テーブルに水色のカードが置いてあるのを見つける。



「あぁ、ランゲージバトルに行ったのか」



ここ最近颯太はランゲージに出かけている際に和彦は何故かこのカードをよく見かけるようになった。

そしてお決まりのように彼が出かける度にレーナもいなくなる。



「一体どういう技術が使われているんだ……」



和彦はカードを手に取る。

その瞬間視界が真っ白に染まった。



「うわッ!」



眩しさの余り思わず手で顔を覆ってしまう。



『クレアさん!ここで攻勢に出ましょう!』


『そうだな、このまま隠れていては見つかるのも時間の問題だ』


「これは……」



目を開けるとそこは戦場だった。

魔法や剣や魔物が入り混じる戦いのさなかに和彦はいた。



「颯太の視界なのか…?」



目の前には少し焦げた軍服を着こんだ女性が颯太の言葉に頷いており、氷の大剣を構えて木の影から飛び出す。

それを見習って颯太も飛び出し、こちらに気付かず戦いを繰り広げる2人のプレイヤーをほぼ同時に襲う。



『なんだお前らは!?』


『不意打ちかよ!くそがッ!』


『遅い!』


『ふふ、颯太と訓練したかいがあったな。ある程度の速度の攻撃ならば楽に躱せるようになった』



電光石火の如く2人のプレイヤーを倒した颯太とクレアは、自分のポイントに目もくれず次の得物を求めて駆け出した。



「颯太はこんな事を毎日やっているのか…」



ゲーマーの血が騒いだ。


手に汗を握った。


頭のアドレナリンが溢れては弾けた。


やってみたい。自分もこんな世界に飛び込んでみたい。仕事なんてどうでもいい、自分も1プレイヤーとしてこの世界を満喫してみたい……―――――だが、そこまで思い至って和彦はその感情を押し殺した。



「ふぅ……」



指先からカードが零れ落ちると同時に視界は颯太の部屋へ戻る。

今の思考を吐きだすかのように大きな息を吐いた和彦は、しばらく呆然と部屋の中央で立ったままでいた。



和彦はテーブルに落ちたカードを見た。

まるで水が入っているかのように揺らめく水の波紋。



「まさか、これがレーナなのか…?逆にそうとしか考えられない…か…」



もう一度和彦はカードを手に取った。

すると―――



『ひう!?』


「あ?どうした?レーナ」


『い、いま身体触られたような気がして…』


「何を言っているんだ?インストール状態でお前に触れられるわけないだろ」


「どうした?颯太」


「あぁ、クレアさん」



戦いがひと段落ついたところで颯太とクレアは森の洞穴で身を休めていた。

クレアとは交代で見張りをしており、丁度交代の時間になったので戻ってきたようだ。



「なんかレーナが誰かに触られたとか言っているんですよ」


「ん?状況がよく分からないのだが」


『ひっ!や、やっぱり誰か触っているよ~!』


「って事なんですが」


「いや、全然分からない」


「クレアさんも分からないか。活動に支障は出ないんだろう?」


『ひいッ!も、もう無理!』


「え?」


「あ―――!颯太!」



颯太が目の前からいなくなった。

数秒目を白黒させていたクレアは慌ててフレンドリストを確認してみたところ、颯太はオフライン状態になっていた。


つまり、これは――――



「きょ、強制ログアウト………」



クレアは目頭を押さえながら苦しげに呟いた。




「うお!?」


「きゃっ!」



颯太はベッドから跳ね起きると上に乗っていたレーナがカーペットにゴロゴロと転がって行く。



「おいレーナ!どういうこ――――って兄貴!?」


「おお、戻って来たか」


「和彦でしょ!私の身体触っていたの!」


「あぁ、カードが気になったから、少しな」


「兄貴かよ!!おい!兄貴のせいで強制ログアウトしてしまったじゃないか!俺、大会出てたんだぞ!!」


「それはすまないことをしたな……すまん…」


「くッ!!!あぁもう!!」



憤りを覚えた颯太だったが、和彦は本当に申し訳ない顔をして頭を下げたため、颯太はギリっと歯を鳴らしてから部屋を飛び出して行ってしまった。



「で、なんで私の身体触っていたの?」



颯太が部屋から飛び出してから数十秒後、レーナが口を開いた。



「純粋に気になったんだ。一体このカードにはどんな技術が使われているのか。そして何故ランゲージバトルにログインすると颯太は深い睡眠状態に陥るのか」


「ふぅん……?何か分かったの?」


「いや、何も分からないままだ」


「だろうね」



初めから分かりきっている事を聞いたレーナは颯太の枕に顔を埋める。



「やめといた方がいいよ」


「何故だ?気になるじゃないか」


「このゲームの秘密を知って颯太に何かあったら私許さないからね。私はもう颯太の家族だから、和彦も大切だけど、本当は颯太しかいらないの。颯太だけいればいいの。勝手にゲームの秘密探って和彦が痛い目を見るのはいいけど、颯太に何かあったらどうするの?私、そんなことあったら和彦のこと真っ先に疑って殺すよ」



淀んだ瞳を向けられて和彦は思わず怯んでしまった。

思えば和彦がレーナの本性を見るのはこれが初めてだ。


何てドス黒い瞳なのだろうか。

颯太が言っていたレーナの近況をようやく理解することが出来た。


レーナがランゲージバトルで畏怖される存在である理由。



「それでも調べる?いいよ、私は。もう忠告したから、後はお好きにどうぞ」


「いや、颯太に危険が及ぶのならやめておく」


「そう、良い判断だね。でも、私の疑いが晴れたわけじゃないからね?和彦がやめると言っても所詮口約束だし、私はまだそこまで和彦を信用したわけじゃないから。そこのところ、よ~く覚えていてね?」


「あぁ、分かった」


「うん、ならもう行っていいよ。私は颯太呼びに行かなくちゃ」



ウサギのようにベッドから飛び起きたレーナは部屋を出て行く。

そして彼女が去ると同時に部屋を支配していた重苦しい重圧がふっと和らいだ。



「あれがレーナの本性か……あんな小さな子に一体何が詰まっていると言うんだ…」



呼吸を忘れていたかのように和彦は大きく息を吸い込んでむせた。



「少し…会社で調べてみるか…」



和彦は颯太の機嫌を考えながら自分の部屋に戻って行った。





次の日の夜、ギルドのアジトに集まった皆の顔色は優れなかった。



「もう!兄さんのせいで私も負けちゃったじゃない!」


「……マジですまん…」


「で、クレアさんはどうして自分からリタイアを?」


「つまらんかったからな。颯太が私の活躍を隣で見てくれない大会など、私が本気で戦う価値がない」


「あぁ、さいですか…」


「もうあのモンスター達鬼畜過ぎない?あんなに遠くにいても戦いの音で寄ってくるなんて、休む暇もないじゃない」



先ほどから兄を責めたてる香織と彼女にヘコヘコ謝る竜也。クレアは至っていつも通りなのだが、どこか不機嫌そうに見える。

詩織はモンスターの配置と聴覚能力についてずっと愚痴をこぼしており、颯太に構って貰いたいようだ。



「そう言えば颯太のあれの原因はお兄さんにあったのか」


「ええ、兄貴がカードを触っていたようでして」


「カード?」


「俺も実際の現場を見たわけじゃないですから分かりませんが、俺達がランゲージバトルにログインしている時は、疑似的に睡眠状態になって神器たちはカードになるようです」


「なるほど。それでカードと化したレーナをお兄さんが触っていたらレーナが耐えかねて強制ログアウトしたのだと」


「もう、ホントそういうの困るよね」


「兄貴もあんなに謝っていたんだし、許してやれよ。それに大会だってまだ1回目だ。切り替えて行こうぜ」


「ふむ、カードに触られたらログアウトしてしまうのか」


「あれは一種の緊急措置かな。現実世界にいるプレイヤーの身体に衝撃を与えたり、またはその逆でカードも同様の衝撃を与えたらログアウトしちゃうね。まぁどのくらいの衝撃でログアウトしてしまうのかはうまく説明できないけど」


「覚えておいて損はないかもしれないな。説明書に載っていなかった事項だからな」


「それも変な話ですよね。結構重要そうな内容なのに、全くその項目が載っていないなんて」


「余りこのゲームを疑うような話をしてしはいけないぞ」


「そうだった。すみません…」



クレアはチラリと壁に寄り掛かっている琥太郎、香織とアルテミスに叱られている竜也とボルケーノと最後に颯太の膝に座るレーナを見た。



「颯太、余り無茶はしないでね?」


「あぁ、分かっているさ」



心配そうに颯太の顔を見上げるレーナのさらさらの髪をすいた。



「颯太~、次はどうするの?」



そこで詩織は颯太に尋ねてきた。



「運営のイベント発表まで少し時間が空くな。各自レベリングに励む事にしよう」


「そうだな。次の大会ではどんなルールが課せられるか分からん。とりあえずレベルを上げておいて損はないな」


「そ、颯太!俺と一緒にレベリングしに行こうぜ!」


「ん?あ、あぁいいけど」


「兄さん!まだ説教は終わってませんよ!」


「ボルケーノ!」


「う、うぐ!?」


「まだ説教が続いていたのか」


「香織さんは根っからの真面目人ですからね」


「うわぁ、少しだけ竜也さんが可哀想かも」


「とりあえず俺達だけで行きますか」



颯太の所に逃げて来ようとした竜也は香織に襟を掴まれて連行されて行く。

ボルケーノもこっそり逃げようとしていたが、アルテミスが光の縄を取り出してボルケーノの身体を縛ってしまった。


それを見ていた3人は苦笑してクエストへ出かけて行った。

どうも!また太びです!

これにてフラッグファイト編は完結ですね。

なんだかすごいあっさりとした終わり方ですが、これには理由があります。

言ってしまうと何だか事情ありありで話の味がなくなってしまう可能性があるので言いませんw

基本私の話はテンポよくさらさらっと読めるような感じにしていきたいと思っていますので、ダラダラ話を引き延ばすようなことはしたくないんですよね。

だから、すぐ場面が切り替わったりしてしまうのですが、皆さんはどう思っていますかね、私のやり方にw


とと、これから新しい章に入っていきますが、当然の如く全然展開を考えていません。

まぁその場のノリと気分で進んで行っている話ですので、どうか皆さんもゆる~くランゲージバトルをお読みくださいw

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