乱舞
「ゴバァアアッ!!!」
吐きだされたブレスを詩織は受けた。だが、受けた瞬間煙と共に詩織の身体は消え、ドラゴンが頭上を仰ぐと彼女は回転しながら勢いに任せて、既に稲妻を纏う刀を振り下ろしている所だった。
「グギャアアッ!?」
「―――ッ!!!」
稲妻の軌跡を走らせ、詩織は地上に足を着くなり身を伏せる。
丁度そこへ片目をやられた事により、怒り狂ったドラゴンの爪が通り抜けて、その返しに詩織はブーツの踵についた刃で腕を切りつける。
まだ彼女の攻撃は終わらない。
詩織はドラゴンの股を通り抜けると共に腹へ赤色の苦無を次々と突き刺していく。
尾を振るわれるが、また身代わりで避けてドラゴンの頭上へ現れるなり踵落としを食わらせた。
「ゴアッ!」
「ごめんねッ!」
踵落としによって地面に叩きつけた詩織は、ドラゴンの頭を踏み台にして空中へ飛ぶと、また赤色の苦無を頭から尾にかけて無造作に投げつけた。
「ふッ!」
起きあがろうとしたドラゴンの頭へまたスタン効果のある踵落としを浴びせ、その反動でクルリと1回転した詩織は身を捻り、ドラゴンの背中を回転切りを放ちながら駆け抜けた。
雷の属性を持つ忍者刀のエフェクトによって凄まじい雷撃をまき散らしながら、詩織は踊り続ける。
足が止まった時、それは彼女の最期を意味する。
「グルガァ!!」
「起きちゃダメだよ!爆陣ッ!発火!」
背中に突き刺さった苦無が爆発した。
弱点である炎がドラゴンを襲うと同時に爆風によって、また冷たい雪の地面へドラゴンは叩きつけられる。
「はッ!」
APゲージを常に限界まで使用する戦い方をしている詩織にとってテンポこそが命だった。
彼女のAPゲージ回収のリズムが遅れた瞬間、彼女は瞬く間にリタイヤしてしまうだろう。
ドラゴンが起きようとする度に詩織は身体のどこかに刺さった爆炎苦無を発火させていく。
レベルの差で苦無が弾かれる事が多いが、それでも何本かはその防御の網を通り抜けて美しい氷の鱗に傷を付ける。
それが故に、詩織は苦無が全く刺さらないパターンという名の外れくじを引いてしまうことが怖かった。
ドラゴンを怯ませるのに必要な苦無の数は5本。
そして詩織が1回の投擲で苦無を投げられる本数は6本。更に苦無が弾かれる平均本数は実に2本。
途中でのAPゲージ回収を考えると綱渡りも良い所である。
だが、それでもやるしかない。
「発火!」
大丈夫、まだ自分の集中力は切れていない。
そう自分に言い聞かせて詩織は踊り続ける。
もう相手のHPバーを見るのはやめた。これだけ頑張って全く減っていなかったときの悲しさと言ったらありゃしない。
「うぐッ!」
ドラゴンが散弾のように吐き出した氷の礫が背中に当たった。
倒れそうになるが、何とか足を地面に突き刺すように態勢を保ち、すぐにポーションを使用する。
もちろん飲んでいる間も相手は倒れながらも攻撃はしてくる。
だから詩織は立ち止まらない。
「はっ!はっ!」
『大丈夫か?』
心配そうに声をかけてくるパートナーの声に詩織は唾を呑むと同時にやる動作で頷く。
「あたしは!まだやれる!」
颯太のように神速で相手に近づいて斬りつける。
「発火ッ!!!」
声も枯れるように、それは絶叫へと変わる。
「オオオンッ!」
「起きるなッ!!」
「ゴオッ!?」
前足が地面を踏みしめた瞬間前足が爆発して、またドラゴンは顎を地面に激しく強打する。
「おおおッ!!」
雄叫びを挙げながら詩織は何度もドラゴンの身体を斬りつける。
相手の攻撃がかすろうとも、自分のHPバーが減ろうとも、詩織は動き続けた。
『ポーションが残り少ないぞ』
「分かってるッ!」
詩織はコートの中から花火玉のような大きな爆弾を取り出した。
「そのままだよ!」
再び身体を起こしたドラゴンの翼が爆発してまたスタン状態へ陥る。
それを見た詩織は印を組んで指先に、マッチの火くらいの火を起こし、爆弾の導火線へ火を点けた。
「これでどうかな!!」
それを肩に担いで詩織は両手でドラゴンへ投げつけた。
APゲージ全てを使った奥義。
爆弾はドラゴンに当たると、盛大な爆発をもたらした。
青や赤や緑色の綺麗な火を散らし、それは本当に花火のようだった。
「グオオオ!!」
火薬が破裂するたびにドラゴンは爆発で怯む。
そこで詩織は走りながら初めて相手のHPバーを見た。
「………」
残り数ドット。
花火の爆発でも持っていけるか怪しいと悟った詩織はギュッと地を踏んで、ドラゴンへと駆け出した。
普通の苦無やら手裏剣を何度も投擲してAPゲージを回復させると、詩織は稲妻の忍者刀を取り出した。
「行くよ!琥太郎!」
『最後まで気を抜くな』
「うん!」
「ゴバアアアアッ!!!」
爆発が止んで、立ち上がったドラゴンは氷のブレスを吐きだすが、詩織は空高く飛んで躱した。
だが、それは読まれていた。
ドラゴンはどこかにやりと笑うと、尾を槍のように突きだして詩織の身体を貫いて見せる。
「グルウ」
「琥太郎の言うとおりだったね」
詩織の声はドラゴンの顔の真下から聞こえた。
「最後まで気を抜かないってこと!」
「ガアアアアアアア―――!!!」
忍者刀はドラゴンの首元を引き裂いた。
弱点である首元を斬られたドラゴンは、もはや真っ黒にしか見えないHPバーの最後の数ドットを失って巨大な身体を爆散させた。
「終わった…はぁ……疲れた」
そこで詩織は初めて歩みを止めた。
忍者刀は手から落ちて雪に刺さると、召喚限界時間となって青い粒子をまき散らしながら消えていく。
「もう疲れたよ~」
雪が降り積もる地面に仰向けになって倒れた詩織は目を閉じた。
「あ………嘘でしょ…」
『嘘ではない』
かすかに聞こえてくる足音。
これは相当速い。先ほどのドラゴンが目じゃない程に。
「あたし……もうリタイヤでいいかな……」
『逃げ切れんな。恐らくウルフタイプの魔物だ』
「でも、香織のために少しは削っておく……」
『初めての大会なのだ。そこまで本気になることもあるまい。それに50レベル差をひっくり返したのだ。颯太殿も褒めてくれるだろう』
「な、なんでそこで颯太の名前が出てくるの!」
『満更でもあるまい?』
「そ、そうだけど……―――全く、琥太郎も良い性格しているよね」
『やる気を出させただけだが、不快だったか?』
「そうじゃないよ」
詩織は息を吐きだしながら立ち上がると残り数十秒でやってくる敵を迎え撃つ。
「別にあたしは颯太とお友達でいれればいいっていうか」
何やら言い訳を始めた詩織に琥太郎は心の中で笑う。
『颯太殿は世間で言う鈍感、という奴らしいからな』
「そう!それ!ホント鈍感だよね~」
『今度はもう少しアプローチをかけてみるのはどうだ?』
「え?あ、あたしが?」
『詩織意外に誰がいるというのだ…』
「え、え~……ど、どうしようかな………ぶ、無難にお食事にでも誘ってみる?」
『それは自分で決めるものだ』
「えー!?琥太郎が提案したくせに誘い方は丸投げするの!?」
『ほら、無駄口叩いていないでそろそろ来るぞ』
「もう!ホントそういうところはいい加減だよね!」
詩織は現れたキングスノーウルフに立ち向かっていった。
『ごめんね!あたし負けちゃった!』
場所は移り変わり、香織は目が覚めない兄と一緒に洞窟で身を潜めていた。
詩織の負けた、という連絡を受けて香織の表情はより一層暗雲が立ち込める。
「どうしよう……兄さんは目を覚まさないし、こっちだってポイントを稼がなくちゃいけないのに…」
『どうやらティアさんは魔物と戦ったようですね。あのドラゴンは倒したようですが』
「うん、ホント凄いわ。クレアさんだって本気で避けるべきだって言っていたのに」
『私達も負けていられませんね』
「そうだけど、まずは兄さんをどうにかしないと行けないわ」
この状況に香織は深い溜め息をついた。
なんか久しぶりにバトル編を書いたような気がしますw
あ、いえ、ちょくちょく書いていましたが、まさか1話まるまる全部を埋めるほどのバトルは久しぶりという意味ですね。
純粋的な戦闘技術の順をいうならば、1位がクレア。2位が颯太。3位が詩織。4位が竜也。5位が香織となっています。
逆鱗を習得する前でしたら、香織が4位でしたが、逆鱗習得により4位に竜也が来ることになりました。
正直颯太と詩織の戦闘技術はどっこいどっこいのような気がしますが、攻守選ばない颯太の技術から若干詩織より上かなっていう私の考えです。
一番攻撃力の高い順は、1位竜也。2位クレア。3位詩織。4位颯太。5位香織です。
一番防御力の高い順は、1位竜也。2位颯太。3位クレア。4位香織。5位詩織です。
一番命中力の高い順は、1位香織。2位竜也。3位クレア。4位颯太。5位詩織です。
一番速力が高い順は、1位颯太。2位詩織。3位クレア。4位香織。5位竜也です。
まぁこんな感じでざらっとあげましたが、クレア安定過ぎないか………と思いました。
まぁ1世代目の神器使いですし、これくらいいいかなと。
チートが多い小説ですし。