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決死の逃亡

「兄さん!!」


「竜也さん大丈夫!?」



赤いドラゴンを見た香織と詩織は、真っ先にその場へ駆けつけると、そこには気絶している竜也の姿があった。

巨大なクレーターの中心で倒れている竜也は目覚める気配がなく、香織は兄の肩をゆする。



「ダメ!起きないわ!」


「どういうことなの!?ランゲージバトルってAPSだよね!?」



APSとはアタックポイントシステムの略称であり、HPバーの上に設けられた赤いゲージの事である。

それは神器に秘められた能力を使えば消費するもので、いわゆる他のゲームで言ってしまえばマジックポイントやエネルギーポイントに値するものである。


颯太の武器変形もAPを消費して変形したり、紫電砲を撃ったりするのだが、通常の弾や、剣での斬撃などは通常攻撃として認識されるらしく、APは減らず、逆に回復して行く仕組みになっている。


だが、それ故に詩織には、竜也が気絶しているこの状況が理解出来なかった。

HPバーが真っ黒に染まった時、確かに疑似的な気絶状態に陥る時があるが、外傷もバッドステータスの何もないこの状況で何故竜也が倒れているのか。

考えれば考えるほど詩織は混乱した。



「どうして竜也さんが」


「それよりも今はここを移動しましょう!兄さんのあの技で大分騒いでしまったわ!きっとすぐにでもモンスターが集まってくるはず!」


「そ、そうだね」



漁夫の利をしようとするプレイヤーの事も考えて詩織は香織の提案に頷く。



『琥太郎は分からないの?』


『分からん………1世代、2世代目の神器のことはトップシークレットなのだ…………混沌にでも聞けば分かるのだろうが…』



6世代目の神器である琥太郎は分からないようだった。

神器の情報世界について問いたくなった詩織だが、今は一刻も早く安全な地へ逃げることが優先される。



「私が背負わなくていい?」


「ティアさんは私よりも索敵に優れている。ティアさんにはルートの確保をお願いするわ」


「分かった。先行するね!」



気絶している竜也を背負った香織を見た詩織は駆け出した。



「ゴオオアアアアア!!!」


「なにっ!?」


「ティアさん上よ!」


「うわっ!」



真っ黒に染まる空から落ちてきたのは白銀のドラゴンだった。

ボルケーノもでかかったが、この龍は更にその上を行っている。



「コォオオオ……―――!!!」


「香織!右に飛ん――――」


「バァアアアアッ!!!!!」



降りてくるなり白銀のドラゴンは凍てつく氷のブレスを吐き出した。


その直前に詩織はほとんど直感で右に飛んでいた。

ゲーマーの危機的回避なのか分からないが、詩織は右へ飛んでブレスを何とか躱す事が出来た。



「あうッ!」



着地がうまく行かず腹を地面に強く打ったが、詩織はすぐに立ち上がって香織と竜也の姿を探す。



『走れ!!』


「ッ!?」



琥太郎が叫んだ。

今まで一度も叫んだ事がなかった彼が叫んだ事に詩織は驚いたが、彼女の身体は弾かれたかのように動く。

そして先ほどまで詩織がいた場所にクレアが出して見せた氷の槍よりも鋭利な、氷の槍が次々と地面に突き刺さる。



「香織ッ!」


「私と兄さんは大丈夫!」



ドラゴンが暴れるせいで雪が舞う。

それにより視界が全くと言っていいほど見えなくなり、視認での発見は困難と悟った詩織は香織の名を呼んだ。



「香織は竜也さんを連れて逃げて!あたしはこのドラゴンのヘイトを取る!」


「む、無茶よ!流石のティアさんでも死んでしまうわ!」


「いいから早く行って!!余り心配されると死亡フラグ立つからさ!」


「…………―――ッ!分かったわ!安全な所まで逃げたらメールを送る!」



香織の声が遠ざかって行く事を確認した詩織はコートの中から苦無を取り出す。



「グルルウ…!」


「アンタの相手はこっち!!」



逃げて行った香織の方へ向いたドラゴンの顔目掛けて苦無を投擲した。


カキン――――………。



「あ、あれ?」


『レベル差がありすぎるぞ。刺さるどころか、防御の差で弾かれてしまった』


「ガアアアアア!!!」


「うわああ!?」



誰も攻撃していなかった事からドラゴンの敵対値が詩織に向けられ、怒りの雄叫びを詩織に浴びせる。

その雄叫びだけで詩織は鼓膜が破れそうな痛みから耳を塞ぎ、思わず地面に膝をつく。



「ごふっ!」



そこへドラゴンの巨大な尾が詩織の腹部を捉え、まるでサッカーボールのように飛ばされる。

地面を数回バウンドして雪原を滑る詩織は、滑りながら跳ね起きて態勢を整え、チラリと自分のHPバーを確認した。

ジリジリと止まる気配を見せないHPバーに目を見開いた詩織は慌ててポーションを呑む。



「い、今のどれくらい持っていかれた…?」


『もしポーションを呑まなかったら乱数で死んだな』


「へ、へえ……そうなんだ」



HPバーの減少中にポーションによる回復割り込みが可能なゲームで助かったと、詩織は今更のように思った。



「ウォオオオオオ―――!!!!!!」


「うぅッ!!こ、この声どうにかならないの!?」


『どうにもならん。とりあえず逃げる事を考えるのだ』



詩織は耳を抑えながら走り出す。

それを見たドラゴンは大きな翼を広げて滑空しながら彼女を追いかける。



「全力で走っているのに振りきれない…ッ!」


『恐らくブーストがかかっているのだろう。他のプレイヤーならば、出会ったらまずゲームオーバーだな』


「颯太は大丈夫かな…」


『颯太殿の心配より、まずは自分のこの状況を何とかする方法を考えろ』


「はいはい、そうでしたねッ!」



呆れながら呟く自分のパートナーに詩織は眉間にしわを寄せながら、紫色のお札が付いた苦無を前方の地面目掛けて3本投げ捨てる。

そして雪に深く沈み込んだ苦無は、突如にして地面に紫色の波紋を浮かび上がらせた。



「よっと!」



その苦無を詩織は自分で踏んでしまわないように飛び越え、着地するなり振り返ると同時に赤色の苦無を波紋へ投げつけた。



「ガウ?」


「行って!」



波紋に足を踏み入れたドラゴンの足元から凄まじい爆発が巻き起こった。

そこへ更に黒く厚い雲の隙間から雷撃が迸り、ドラゴンへ紛うことなく降り注いだ。



「うわ……数ドットくらいしか減ってないや…」


『麻痺の効果時間は5秒だ。逃げろ!』


「あ、うん!」



ミリ単位で減っているのかすら怪しい敵のHPバーを見て笑顔を引きつらせる詩織だが、琥太郎の声で我に返り、すぐに逃走を開始した。



「どこまで逃げればいいんだろう……ヘイトは完全にあたしに向いているわけだし、逃げ切れるかどうか怪しいな…」


『戦っても勝ち目がない事くらい分かっているだろう』


「それもそうなんだけど……」


『隠れてみるのはどうだ?』


「一か八かだよね。気付かれる確率が高いと思うけど」


『このまま追いかけっこを続けてもジリ貧なだけだぞ?こちらもポイントを稼がねば上に行けまい』


「………分かった」



詩織は追いかけてくるドラゴンに向き直った。

ザァアア――――とブーツを滑らしながら詩織はコートの中へ手を伸ばす。


取り出したのは真っ黒な手裏剣。



「ふッ!」



1――2――3―――4……9――と、まだまだ投げ続ける。



「グルガァ!!」



鬱陶しげに顔へ飛んでくる手裏剣を顔を背けて躱すドラゴンは、氷のブレスを吐き出した。



「来た―――!畳返しならぬ雪返し!!」



詩織は青く光る右足を分厚い雪が覆う地面に思いっきり叩きつけた。



「ガウッ!?」



ドラゴンの背を軽く越してしまうほどの雪の壁が、氷のブレスとドラゴンの行く手を塞ぐ。

だが、驚いたのも一瞬で、ドラゴンは大きな翼を羽ばたかせて雪の壁を吹き飛ばした。



「グルル……」



いない。

先ほどまで自分が追い駆けていた得物が忽然と消えている。

辺りを見渡すが、得物の気配が全くしない。



「ルウゥウ………」



ドラゴンはしばらく詩織を探していたが、諦めたのか、大きな翼を広げて飛び立っていってしまった。



「ぶはぁッ!」



ドラゴンがいなくなってから数十秒後、詩織は雪の中から顔を出した。

詩織は雪返しをした瞬間、ドラゴンの足元の雪を掘り返してそこに潜りこんでいた。


もっと遠くへ逃げるという選択肢もあったが、先ほどのドラゴンの対応力から遠くへ逃げる選択肢を選ばなくて正解だったと一人でほっとしていた。



「危なかったね~」


『正直見つかる確率の方が高かっただろう。あのドラゴンのINT値が低くて助かったな』


「馬鹿で助かったよ~」



よいしょっと、という掛け声と共に雪から完全に這い出た詩織はコートの雪を払う。



「香織さんと合流しなくちゃね」


『うむ』



自分の姿を見直してくるりと1回転した詩織は、FDを取り出す。



「あ、香織さん?」


『怪我はない!?』


「大丈夫だって~。あたし、逃げ足には自信があるからね」



メールではなく、通話を選んだ詩織は歩きながら香織と連絡を取る。



「それで、今どこにいる?」


『今はGの3の洞窟の中で兄さんが起きるのを待っているわ』


「了解!んじゃ、あたしも今からそこに――――」



ドスン―――――ッ!!!!!


雪が舞う。



「グルルルル…」



詩織の表情が凍り、耳に当てていたFDと共に腕がだらりと下がる。



『まさか戻ってきたというのか!?何故気付かなかったッ!?』


「MAPのマーカーは常に確認していたよ。これでも抜け目なくやっていたから」



凍っていた表情から更にそれは歪みへと変わって行く。



『ティアさん!?どうしたの!?』


「まずいね……畳返しはもう使っちゃったし、同じ手が2度通じる相手だと思えない…」


『このMAPに存在するエネミはー全て高性能だろう。余ったリソースを全てこやつらに回しているに違いない。先ほどの奇襲は確実に通常のエネミーの判断力を超えていた』



FDから聞こえる香織の声に反応する事が出来ない香織は、短く『時間がかかるかもしれない』とだけ言って通話を切った。



『どうやら出方を窺っているようだ。我々の攻撃が変則的だと判断されたのだろう』


「なるほどね……それじゃ―――」



もはや逃げる事は不可能だと考えた詩織は、コートの中から稲妻を纏う忍者刀を取り出す。



「あたしの本気、見せてあげるッ!」



詩織は忍者刀を構えて駆け出した。

すみません、体調を崩してしまい…しばらく更新することができませんでした。

毎回私の作品を読んでくださっている方々には申し訳ございませんでした……。


季節替わりには本当に気を付けたいですね。

皆さん、体調管理しっかりしていますか?wちゃんとしないと私のように辛い目にあいますよぉ……ww

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