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竜也の逆鱗

「こっちか」


『そのようだな』



FDの地図を頼りに詩織、香織と合流を急ぐ竜也は大地の叫びを聞く。



「なんだ?」



そして更にプレイヤーの悲鳴が次々と聞こえてくる。



「魔物はとっくに出ているが、まさかそれはないだろ……」


『とりあえず隠れるのだ。このままでは見つかるぞ』


「りょ、了解」



竜也は近くの岩陰に飛び込み、様子を窺う。


ゴゴゴゴゴゴ……――――!!!!



そして林の中を飛び出して来たのは巨大な蛇だった。

銀色に輝く鱗を持つ大蛇からエネミー反応はない。これは神器だ。



「なんだよあれ…!」


「来るなあああ!」


「くそ!なんだよこいつ!」



竜也はそこで大蛇が追い駆けていた2人のプレイヤーを発見した。

恐怖で塗り潰された表情と共に剣を握り、諦めにも近い特攻を仕掛ける。



巨体に似合わず俊敏に動く大蛇は、二人の攻撃を躱す。

そして――――



「あ…」



バクンッ――――!!!


食った。

プレイヤーを丸呑みにした大蛇はギロリともう一人の得物を睨む。



「お、おい……ハイカル…?」



震える唇で仲間だった友の名を呼ぶ。

死んだわけではないが、何故かそのプレイヤーにはまるで存在そのものを食われたかのように感じたのだ。



「キシャアアア!」



『おい、何をするつもりだ竜也!』


「おおおおおお!!」



竜也は雄叫びを上げながらランチャーを構え、大蛇の頭部を狙った。


火球は大蛇の頭部へ命中すると派手な爆発を起こす。

モロに喰らった大蛇は、これにはたまらずダウンするしかなく、轟音を響かせながら大地へ倒れる。



「おい!何してんだ!さっさと逃げろ!」


「え?あ、あぁ…!す、すまない!」


『竜也、あれは敵だぞ!何を逃がしているのだ!』


「うるせえ!」


『全くお前という男は…』



竜也はゆっくりと体を起こす大蛇と相対するように前へ立つ。


颯太だったら敵の正体を知るためにもさっきのプレイヤーを助けるような真似はしなかっただろう。

だが、竜也は違った。

彼は何故か放っておけなかったのである。目の前でみすみす死んでいくような者達を放っておくことが出来なかったのだ。



『あれ?あのプレイヤー逃がすの?』


「あ?」



大蛇から女の子の声がした。



『なんで?フラッグファイトってバトルロイヤルだよね?なんで得物を逃がすような真似をするの?もしかしてフレンドだった?』


「ちげえよ。他人だ」


『理解出来ないなぁ……まぁいいや。君、ボルケーノの神器使いでしょう?」


「そうだけど。だったらなんだ」


『さっき1世代目の神器とやりあったんだけど、全然手応えなくてさ、君はどうかな?』


「1世代目の神器とやりあった…!?」


『逃げちゃったんだけどね。はぁ…惜しかったな~」



嘘を付いているようには思えない。

先ほどのプレイヤーだって1回戦を勝ち抜いてきた猛者である。そんな彼が逃げ惑うほど強いのだろう。このプレイヤーは。



『だから出て行くのはやめろと言ったのだ……』


「言ってないだろ」


『む、そうだったか。しかし、あの大蛇はなんだ?見たこともないぞ』


『お喋りしてていいのかな?』


「うお!?」



竜也は慌てて後方へ飛んで大蛇の牙を躱す。



『食われたら終わりだぞ』


「んなこと言われなくても分かっている!」


『ほらほら!』


「岩吐けるのかよ!」


『どうやらあれは擬態の神器のようだな。大蛇はただの飾りか』



巨大な岩石を吐きだす大蛇に竜也はランチャーを構えて火球を撃ちだす。


ゴオオオオン――――!!!



バラバラと砕け散る岩石に竜也は安堵の息を漏らす。



『へえ、壊せるんだ』


「これくらい当たり前だ」


『ふぅん?』



その瞬間、バラバラと大蛇が崩れ始めた。



「どういうことだ?」


「擬態使うの飽きて来たし、生身で戦ってあげる」



崩れる岩の中を歩いて来た者は、香織とそう変わらない女の子だった。

ショートカットがとても似合う女の子の両腕には、巨大なガントレッドのようなアームが装着されている。



「あなた、名前は?」


「竜也だ」


「なるほどなるほど。別に覚えなくていいけど、あたしはシャーロットよ。なんだか大蛇でやり合うのは不公平に思えたの」


「それはありがてえな」


「まぁ擬態しなくても、あたしは強いけどね!」



シャーロットは拳を地面に叩きつけた。

竜也は危機感を悟り、横に飛ぶ。


次の瞬間地面から鋭い岩の槍が突き出し、竜也はあと少し回避が遅れていたらと思うと肝を冷やした。



「あれれ?また避けられた。結構不意を突けるんだけどな。この攻撃」


「颯太との特訓成果が生きたぜ…」



颯太と特訓した時に彼は剣を地面に突き刺して遠くにいる竜也を串刺しにする技を編み出していた。

そのことについて尋ねた時、颯太はいつも通りどこかつまらそうにこう答えた。


『あり得ないと思う攻撃が多く存在する時代だ。剣を飛ばしたり、地面から何か出て来たとしても驚くような事か?』と。



「何度颯太にその技を使われたか分からないからな」



竜也は転がりながら立ち上がると火球を撃つ。



「アンタの攻撃も当たらないけどね」



最近の竜也の悩みは弾速だった。

特訓の時の当番が詩織、または颯太が相手となると、まず当たらない。

速い相手には滅法弱く、不意を突かない限りなかなか当てることが難しいのだ。


詩織と颯太に比べればシャーロットは格段に遅いのだが、それでも避けられる。


まぁ当たれば確実にHPバーを一瞬で全部持っていく自信はある。

当たればの話だが。



『当たらんな』


「くそッ!」



竜也のFDがメールの着信を知らせるが、竜也は気付かない。



「よっと!」



竜也を挟むように地面から出現した岩壁を何とか避ける。



「対人戦慣れてないのかな?それじゃあこの先は生き残っていけないよ」


「言われなくても分かっているっつうの…!」



そんなこと竜也が一番分かっていた。

同じ遠距離武器を持つ香織の弓矢は恐ろしく速い。それにホーミング付きという軽いチートに比べ、自分は当たれば強い。これだけなのだ。


詩織は多彩な武器と罠を駆使して颯太と張り合う強さを持っている。


新しく入ったクレアに至っては、颯太も香織も詩織もそして自分も敵わないほど強いのだ。完全にギルド内でのお荷物は自分以外あり得なかった。


1回戦前、颯太に慰めの言葉をかけて貰ったが、竜也は無理やり笑う事しか出来なかった。

自分の不甲斐なさが腹立たしい。皆と同じ特訓をしながら何故自分だけ成長出来ていないのか。



「プロミネンスレーザー!」


「無駄無駄」



収束した炎のレーザーも厚い壁に防がれてしまった。



『これはまずいな……』



ボルケーノが脳内で呟く。

収束したレーザーは速度と貫通力を上昇させる代わりに攻撃力が格段に下がる技である。

だが、それでも貫通力は折り紙つきであり、貫けない壁などなかったのだが、それが防がれてしまった。

ボルケーノはその状況を踏まえたうえで『まずい』と言ったのである。



『竜也、撤退を進言する』


『逃げろっていうのかよ!?敵を目の前にしてさ!』


『仕方がないのだ。こやつは我らよりも強い。このまま戦ったとしても負けるのが目に見えているのだぞ』



竜也は岩石を躱しながら脳内でボルケーノと会話を続ける。



『だからって、それじゃさっきの奴らと一緒じゃないか!んな、あいつらと一緒に背中見せて逃げろっていうのかよ!』


『では、どうするのだ』


『それは……』



口ごもる竜也は反撃の火球を撃ちだす。しかし、やっぱりこれも避けられてしまう。



「おおおお!」


「威勢はいいけど、当たらないんじゃ意味ないよね」


『竜也よ、最初の目的を思い出せ。二人と合流するのが先ではなかったのか?黙っていたが、先ほどお前のFDに香織からのメールが来ていたぞ』


「あなた、宝の持ち腐れだと思わない?」


「分かっているさ……」


「ん?なに?」


「俺がボルケーノの神器使いっていうのがおかしい事くらい分かっている」


『む?竜也貴様....』



脳内で不敵に笑うボルケーノの声は竜也に届かない。



「んでもな!ボルケーノの神器使いになっちまったもんは仕方ねえだろうが!あとよ!こっちはさっきから当たらなくてイライラしてんだよ!それで逃げろだって!?ありえねえよ!その選択だけはマジでありえねえよ!!!」


「え?な、なに?怒っているの?」


「あぁ!最高にキレてんだよ!」



竜也の怒りに反応した龍の大砲は姿を変える。

長銃へと姿を変えた銃は、雪が降り積もり地面に突き刺さるなり、地面の雪は熱で蒸発して溶けて行く。



「え?こ、これは?」


『竜也、それがお前が求めた力なのだな』


「え、何の話?」


『我の能力解放の鍵となるのは己の理性を飛ばすほどの感情。それは龍の逆鱗に触れた時のように、我を見失うほどの荒ぶる感情こそが我の力の根源なり』


「大砲が銃になった…?でも、それであたしに勝てるとは思えないけどね」


「試してみるか?」



竜也は地面から銃を引き抜くなりシャーロットへ向けて撃った。



「なによ、壁さえあれば防げるじゃない」


「おいおい、どういう事だよ……これなら、プロミネンスレーザーの方が威力あったぞ」



壁に当たって散ってしまった火球に竜也は眉を寄せる。



『違うぞ竜也。よく壁を見てみるがいい』



どこか楽しげに語るボルケーノにそう言われた竜也は、今命中した壁を睨むように見る。

すると、壁全体がほのかに赤く染まっているではないか。



「あれは?」


『蓄積だ。なかなか弾が当たらない事に怒りを覚えたお前は、相手にダメージを蓄積させ、一瞬で勝負に蹴りを付ける力を手に入れた』


「なるほどね……」



イライラの限界を超えたとき怒りが爆発するように、蓄積させて一瞬で倒す力を竜也は手に入れたようだ。



『3回だ。3回相手の身体に弾を撃ち込め。そうすればお前の勝ちだ』


「分かった!」



竜也は駆け出した。

走りながら弾丸を撃ち込みに行く竜也にシャーロットは防戦一方になる。



『一度蓄積させた壁ならば、あの壁を破壊するイメージを描いながら弾を撃て』



また邪魔くさい壁に銃弾を弾かれた事に竜也のイライラがまたやってくる。

そこでボルケーノの声を聴いた竜也は、銃弾に想いを込めて放つ。



「きゃっ!」



あの強固な壁があっさりと壊れてしまった。



「か、壁が壊れた!?」


「まずは一発貰うぜ」


「うっ!」



ビスッ――――!!


壁が壊れた反動で尻餅をついたシャーロットの膝に火球が命中した。

火球が当たった膝には炎を吐く龍のシルエットが浮かび上がる。



「なにこれ…」


「もう1発!」


「しまったッ!」



膝に浮かび上がった龍の紋様に怯えたシャーロットの肩に更に弾が命中する。



「これじゃ防戦一方じゃない…!」



壁を生み出しては破壊され、シャーロットは全く攻撃に移れないでいた。



「ちっ!守りに入られると面倒だな」


『ならば一点集中を狙うのもありだろう』


「どうすればいい?」


『2つの銃を合わせてみろ』



竜也はボルケーノに言われた通り、2つの銃を合わせると瞬く間に銃は炎に包まれ、炎が消えるとそこにはライフルモデルの銃が竜也の手に握られていた。



『連射は出来ないが、ランチャーの時に比べて格段に貫通性能が上がっている』


「へへ、ライフルか。懐かしいぜ」



竜也は地に伏せた。

狙いを定め、呼吸を整える。



「あれ……攻撃が止んだ?まさか!逃げて―――」



焦ったシャーロットは壁を解いてしまった。

だが、その先には光る真紅の銃を構えた竜也がいた。



「まず!か、壁を!」



シャーロットは5層にも連なる今まで出した事もない程の岩の壁を作り出した。



「お前の位置を捉えたぜ……―――――――くッ!貫けええええ!!!」



ライフルとは思えない程の衝撃と熱風と共に撃ちだされた弾丸は、炎を纏い壁に食いついた。

1、2、3―――まだまだ貫通する。



「ま、まずい…!!」


「いっけええええ!」


4、5―――そしてシャーロットの胸を貫く。



「がはッ!?」


『さぁ〆だぞ、竜也。龍の逆鱗に触れたその罪、どれだけ罪深い事か教えてやれ』


「あぁ」



竜也は次にやるべきことを分かっていた。

これがボルケーノによってもたらされた術なのか分からないが、竜也は龍砲を握る。

そして彼は叫んだ。



「炎龍逆鱗!!!」


「オオオオオオオオオオオオオ!!!!」


「な、なにあれ!?」



20mはあるだろう巨大な胴の長い炎の龍が雄叫びを上げながら、シャーロットを噛み砕くべく大きな牙を開けて襲い掛かった。



ドッゴオオオオオオオオオオオオン―――――!!!!!



隕石が落ちたような衝撃が辺りを襲った。

雪は一瞬で溶け、その下にある地面すらも溶かす炎熱。



「はは……こいつはすげえや…」


『驚くのも無理はあるまい。だが、我の力はまだこんなものではないぞ。精進するのだ、竜也よ』


「あぁ、俺頑張るよ」



衝撃が収まり、竜也の周辺は噴火口にいるかのように熱を放っていた。

ぐつぐつと地面はマグマと化し、その中で竜也は乾いた笑みを浮かべる。




「い、今のはもしかして竜也さん!?」


「かもしれないわ!急ごう!」



なかなか返信が来ない詩織と香織は竜也を探していた。

そして雪山に突如して現れた炎の龍を見た二人は、先を急ぐのであった。

ξ(✿ >◡❛)ξ▄︻▇▇〓〓ティロ・フィナーレ 


さてさて、今回は竜也の強化回でした。

龍と言えば逆鱗ですよね。伝承では龍の体に一つだけ逆さに生えたうろこがあるようです。

そこに触れてしまうと、龍は怒り狂い、ありとあらゆる人や物を破壊するようです。

神にも喧嘩を売ったと言われるリヴァイアサンにも逆鱗があったのですかね。

リヴァイアサンと同じく神様に生み出されたベヒーモスは、当初食べ物として創られたのですが、私が勝手に想像した内容によれば、結局手に負えなくなったのではないか?そう思ってしまいました。

リヴァイアサンは雌雄存在していたそうですが、片方は殺されたと聞きます。それもやっぱり急成長するリヴァイアサンを恐れたからではないでしょうか。

まぁ最後はベヒーモスとリヴァイアサンが殺し合うという流れになるのですが、どっちとも神の手には負えなくなったから殺し合わせたんじゃないのかな~何てくだらない事を思っていました。


あれ、私逆鱗について話していたのに……あ、中身について全然触れてないや…。

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