廻る混沌と聖の破片
「あれ……レーナと似ている…?」
大剣の姿から人間の姿に戻ったリーナは颯太を指差した。いや、厳密に言えば颯太が持つ大剣だろうか。
「あなた誰?なんで私と似ているの?」
レーナも人間の姿に戻り、いつもの人見知りを発動させながら颯太の服の袖を掴む。
「わたくしの名はコスモフラグメント・リーナよ!あなたと対になる存在だった神器!」
「聖の破片か……」
「確かに私もレーナの事はおかしいと思っていた。何故四神のカウンターがレーナなのか。それならば対となる聖が存在するはずだとな」
「どうもうちの神器さんはアンタと戦いたいらしい」
「人気者だな、颯太」
「やめてくださいよ……ただでさえ混沌使いとして人に嫌われているのに、これ以上敵を増やしたくないです」
「ユキナの邪魔するっていうの?」
「ほら、こういう面倒事になるから俺はやめろって言ったんだ…」
「わたくしはあなたを元にして作られた神器なの。でも、わたくしあなたのコピーという事がとても気に入りませんの」
ユキナと滉介の話をガン無視してリーナはレーナに話しかける。
「ふぅん、ただの八つ当たりじゃん。そんな事に私の颯太を巻き込まないでよ」
「うぅ……きー!むかつきますわ!滉介!やりますわよ!」
冷めた目つきをするレーナにリーナは地団駄を踏んで怒りを露わにする。
「ユキナ、後でいいか?絶対勝負してやるから」
「む~……いいよ。この頃お預けばかりかも」
「颯太、あんな奴と勝負しなくてもいいのに」
「こっちにその気はなくてもあっちはやる気だ。逃がしてくれそうにない」
「そっか。面倒だね」
「頼むぞ、レーナ」
レーナは大剣に姿を変えて颯太は構える。
「行くぞ!!」
「はええ……すっげえな」
『感心している場合じゃないでしょうが!』
「おっと!」
背後に一瞬で回り込まれた滉介は剣を後ろに回して攻撃を防ぐ。
『レーナの混沌が効かない?』
「驚くのは分かるが、こっちはコスモだ。混沌の支配は受けない」
「なるほどな」
颯太の表情を読んだ滉介が答え、颯太は距離を取りながら銃を乱射する、
それに合わせて滉介も大剣を銃に変えて颯太が発砲した銃弾を撃ち落としていく。
「変形も可能なんだ」
「あのリーナという神器が自分でコピー言っていたからな」
離れた位置で颯太と滉介の戦いを見ているユキナとクレアが言葉を口にする。
『銃は無理か…』
颯太は銃弾を嵐の中で銃を剣に戻して突撃する。
「あの中を飛んでくるか」
「おおおおお!!」
滉介は一瞬で剣に変形させて颯太の一撃を受ける。
「一発だと思うな!」
「くッ!」
やけに一撃が軽いなと思ったら、颯太は大剣ではなく、細く長い剣。いわゆる太刀に変形させて目にも止まらぬ斬撃を幾重にも繰り出した。
『もう何をやっているのよ!』
『速いんだよ!』
イライラしながら脳内で喋るリーナに答えながら滉介はかすってしまった脇腹を抑えながら後方へ下がる。
「お前さん、気付いているか?自分の速度が落ちている事に」
「気付いているさ。自分の速さはこれでも理解している」
『まぁ…速度が落ちても速い事には変わりないんだけどな…』
リーナの大剣を受ける度に相手へ負荷をかける。
それがリーナの能力だった。
相手が最も主力として使う能力、身体能力全てに対して負荷を少しずつ掛けて行く。
颯太の場合、颯太の命とも言える速さにどんどん制限をかけていき、やがて走れなくなるほど足が重く感じる事となるだろう。
「だから早めに決める」
「なら、こっちもそろそろ真面目にやるか」
「なんだこれは」
颯太が地を踏み砕いて滉介へ突進を仕掛けた瞬間、颯太の周りに三角形やら四角形の薄いパネルが現れ、くるくると回り始める。
『颯太それに触れちゃダメ!!切断される!』
「切断!?」
八方から襲い掛かるパネルを颯太はレーナの声に即座に反応して回避行動に移る。
「おっと、避けられたか」
「……これは…」
颯太が避けた足元にはポッカリと穴が開き、底が見えぬ闇が広がっていた。
絶対に破壊出来ない地形オブジェを破壊するとは、一体どういう事だろうか。
「説明してやる暇はない。さっさと決めるぞ」
「くッ!」
『颯太も見たから分かると思うけど、あれは完全な切断能力だね。とにかく切断する事に長けていて、他の機能も何もないけど、何でも切断できるみたい』
『どうしてレーナは分かったんだ?』
『あれは、元はと言えば私に搭載されるはずの能力だったからかな……でも、私に能力をこれ以上載せちゃうと本当に誰にも止められなくなる神器になっちゃうから、開発段階で中止になった』
『なるほどな』
開発段階、という言葉に若干惹かれた颯太だったが、今は目の前の敵に集中する事にした。
まだスピードに余裕はあるものの、この先滉介の大剣とぶつかり合う度にあのパネルを避けることが難しくなることは既に分かっている。
だからこそ短期決戦に持ち込みたいのだが、なかなか颯太は接近できずにいた。
「ちなみに俺の銃弾にもアンタの速度を落とす効果がある。当たれば一大事だ」
「そんなこと、最初から知っている」
颯太は疾走しながらパネルと雨のように襲い掛かる銃弾の嵐を避けていた。
たまにこちらも銃を使って反撃を試みているが、あのパネルが邪魔をして滉介に攻撃が全く通らない。
「一か八か……賭けてみるか」
『うん、わかった』
まだ何も言っていない颯太にレーナは頷く。
そんな彼女に颯太は少しだけ顔を緩ませてからすぐに気持ちを入れ替える。
「いつまでも逃げてばかりじゃジリ貧だぞ」
「おおお!」
滉介の言葉に耳も貸さず、颯太は降り積もった雪を大剣ですくい上げるように薙いだ。
ゴオオオオオオ――――!!!!
雪が舞い、颯太の姿を一時的に見えなくなる。
「目暗ましか?」
『気を付けなさい。どこから来るか分からないわ』
肌にかかった雪を払いながら滉介は神経をとがらせる。
「………聞こえる」
ほんの僅かだが、右から雪を踏み足音が聞こえる。
「目暗ましで俺の目を誤魔化せるわけないだろう」
滉介はつまらそうにそう吐き捨てて、銃を雪が舞う視界の中構えた。
「じゃあな」
ガゥン――――!!!!
雪原に銃声が響き渡る。
「颯太負けちゃった…?」
「…………」
クレアは難しい顔をしながらじっと戦いを見ていた。
ユキナはオロオロしながらこれからどうすればいいのかを考えていたが、クレアはにやりと笑う。
「な……なんだと…!?」
「ざ~んねん!!あなたが撃ったのは私でした!」
銃が巻き起こした疾風により、粉雪が晴れたその先にいたのは濁った笑みを浮かべる混沌のレーナだった。
「本命は~」
「こっちだあああああ!!」
「くそがッ!」
空中から襲い掛かった颯太は鞭のようにしなる足で滉介の顔を蹴り飛ばす。
だが、その前に僅かに反応する事が出来た滉介は颯太に銃を発砲していた。
銃弾は颯太の腹部を貫いた。灼熱の痛みが颯太を襲うが、彼の動きは止まらない。
「レーナ!」
「うん!」
地上に降り立った颯太は一瞬だけ苦しそうな表情を見せたが、すぐさまレーナを大剣に戻すなり剣を真っ二つに裂き、二振りの剣を生み出す。
「いけええええ!」
地面を滑っている滉介へ対して颯太は双剣を投げつける。
ヒュンヒュンと風を裂きながら飛翔する双剣は、美しい曲線を描きながら高速で滉介に飛来する。
そして投げつけた颯太も痛む身体に鞭を打って駆けだした。
今自分がもてる最大にして全力の速度で颯太は走る。
『しっかりしなさい滉介!!』
「うぐ…ッ!!混沌の侵食は受けないんじゃなかったのか…!」
『ええ、そのはずなのだけれど…どうして微弱ながら麻痺がかかっているのよ!!』
「早く立ち上がらなければ…!」
『滉介!前!!!』
「え…――――ぐはッ!」
身体を起こした滉介の目の前には真っ黒に染まった剣が丁度腹部に突き刺さる瞬間であった。
「終わりだあああ!」
そこへ颯太が雪原を滑りながら滉介の腹部から剣を引き抜き、クルリと滉介の背中を取る位置へ来ると双剣を水平に寝かせて一閃した。
「がは……ッ………―――流石の混沌使いは強いな…」
『覚えておきなさい!今度はわたくし達が勝つのよ!』
そんなリーナの捨て台詞と共に滉介はフィールドを去って行った。
滉介が消えるなり颯太は腹部を抑えて苦しそうに顔を歪ませる。
「颯太!大丈夫!?」
「な、なんなんだこの痛みは………気をしっかり持たなかったら消滅してしまいそうだ…」
「多分私と同じ効果………即死が禁止にされているから大丈夫だけど、恐らく浄化の光だと思う…」
「バッドステータスじゃないのが嫌になるな……まさか精神そのものを狙ってくる神器とは…」
「それを言うのなら私も同じだけどね」
「そうだったな」
颯太はレーナに精一杯の笑顔を見せる。
そこへ今まで戦いを見守っていたクレアとユキナがやってきた。
「なかなかいい戦いだった。また成長したな、颯太」
「最後かっこよかったよ。ユキナ、負けちゃうかと思った」
「何とか勝ちましたが、即死ありのルールなら完全に負けていました」
「厄介な神器が出てきたものだな。だが、あれは何世代目の神器だ?ニヴルヘイムも知らないようだ」
「私も知らない。あんな神器見たこともない」
「ビャッコも知らないって言っているよ?なんだろうね、あの神器」
「ふむ………どうやら今年のランゲージバトルは前例にはない何かが起こっていると見える」
「1世代目2世代目の神器の他に注意すべき対象が見つかりましたね」
颯太は痛みが少し和らいだのか、相変わらず額に脂汗を浮かべているが、何とか立ち上がる。
レーナは心配そうに颯太を見え上げてきたが、颯太はそんな彼女の髪を優しく撫でる。
「また彼女は君の前に現れるだろう。その時に詳しく聞いてみる事にしよう」
「会いたくない、というのが本心ですが、そうはいかないのでしょうね」
「君は相変わらず厄介ごとに巻き込まれる気質を持っているようだな。タロットカードで常に塔ばっかり出るんじゃないのか?」
「不吉な事を言わないでくださいよ」
そこで颯太はユキナを見た。
「ん?あぁ、ユキナとの勝負はまた今度でいいよ。万全の状態の颯太とやらないと満足できそうにないしね」
「すまない」
「謝る事はないよ~。それじゃ、さくっとこの2回戦も勝っちゃおうか」
「言ってくれるな、全く」
「まぁそれくらいの気持ちがなければ先へ進めませんよ」
「ユキナの言う事も一理あるか」
颯太、クレア、ユキナの三人はそんな話をしながら歩き始めた。
話すことが余りないのですが、今回の話の事を語りますと、颯太くんが敗北する話にする予定でした。
ですが、何の手違いか普通に勝ってしまっている颯太くんの話が出来てしまい―――いえ、本当のところは話を書いているうちに後戻りができなくなってしまったんです………。
『おいおい、ここからどうやって負ける話に繋げるんだよ……私は何をやっているんだ』と。
いや~かなり自分を責めていましたが、これもこれでありかなと最終的にはそう思いましたね。
普通ライバル登場に至って、一度は主人公が敗北し、敗北から立ち直ってライバルに勝利。これが普通の流れかと思います。というかこれが王道過ぎてどうすればいいんだレベルです。
ですがまぁ、ランゲージの場合は主人公が元からチートな事と神器の能力、スペック上十分ライバルなんて跳ね除けられる力を持っていることから、こんな話になってしまいました。
ちなみにフラッグファイトはまだ1回目の大会なので、即死やら色々禁止ですが、後半戦に近づくたびにどんどん神器の能力がオープンなモノへと変わる展開にしています。