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引っ越し

香織、竜也の二人がログアウトしてからという三人はアジトのリビングでくつろいでいた。



「颯太、ティアの2人は同じ宮城県だったか」



神妙な顔をしてクレアはそう話を切りだした。



「ええ、まぁ香織も竜也も宮城県の同じ高校です」


「あたしはちょっと3人と離れているけどね」


「私は東京だが、今度会って話したい事がある」


「香織と竜也はいいんですか?」


「少し心苦しいが、2人は外れて貰おう」



香織と竜也を外すという言葉に颯太と詩織は重い表情になる。



「いつ頃がいいか、2人で話し合って決めてくれ。私はいつでもいい」


「分かりました。FDで連絡しますね」


「明日頃には決まると思いますよ」


「うむ、それではな。私もそろそろ落ちるとする」


「お疲れさまでした」


「お疲れさまです!」



クレアが去ったアジト内に重々しい空気が流れる。



「んじゃ、今日はここまでにしよう。それじゃ」


「うん、またね」



少しの間思考していた颯太はレーナを連れてログアウトしていき、やがて詩織も琥太郎と共にランゲージバトルの世界を去って行った。



「ギギギ?」


「ギギギギギィ」



颯太達が去ったすぐ後に『それ』は現れた。

アジトを散策する『それ』はしばらくうろうろと歩き回っていたが、やがて地下の扉へ通じる階段を発見した。



「ギギギ!」


「ギギギィ!」



降りて行こうとした瞬間『それ』の足が凍りついた。



「ギギギイ!?」


「ギギギギ!?」


「貴様ら、パラセクトソルジャーだな?」


「ギギ!?」



アジトの入り口に立っていたのはログアウトしたはずのクレアだった。

颯太達には見せたことがない本気の殺気を放ち、ハイヒールを鳴らしながら足が凍りついて動けないパラセクトソルジャーに近づく。



「私が出会った個体か分からないが、よくもリアルで私を襲ってくれたな」


「ギギ!?」



クレアは大剣を背中から抜いて一閃した。



「ギギギギィ!?」


「ん?貴様の額の傷……あぁ、そうか。貴様の方だったか、私を襲ったのは。1世代目2世代目の神器が特殊な事くらいは4世代目の馬鹿な貴様でも分かるだろう?そして何より私の神器は一心同体の神器だ。運営の目を掻い潜る事も出来るし、貴様の額につけた傷同様に現実世界でも氷の剣を生み出す事が出来る」


「ギギィ!?」


「馬鹿な貴様でも恐怖は理解出来るか。さて、運営。恐らく貴様らが出てきたという事はこの地下にあるものは相当見られちゃ困るものらしいな。それを自ら証明している事に何故気付かない!」


「ギギギィィイイイ!?」



パラセクトソルジャーを倒したクレアは地下へ続く階段にしゃがみ込む。



「用心に越したことはないか……」



クレアは階段に大剣を突き刺す。すると大剣はみるみる階段の入り口を氷で塞いでいき、そして階段を完全に塞いでしまった。



「よし。では、今度こそ私も落ちよう」



クレアは一つ息を吐き出してからログアウトした。



ヴヴヴヴ―――!



「………」


『颯太!今日も気持ちのいい朝だな!東京は23度だが、そちらはどうだ?寝坊せず、しっかり学校へ行って勉学に励むのだぞ!』


「………クレアさん、もう11時ですよ」



メールを見ながら颯太はげんなりとした表情で誰に言うまでもなく独り言を呟く。



「颯太くん、さっきからFD弄っているけど何しているの?」


「クレアさんだよ。あの人さっきからずっとメールを寄越してきてな」


「あぁ……なるほど…」



日直の颯太は黒板消しを持ちながら、隣で一緒になって黒板の字を消してくれている香織に答える。



『おっと、私とした事が……もう昼になるではないか。部屋を暗くしていたから時計が見えなかったのだ』


「FDにも時計ついているじゃないですか…」


「またクレアさん?ホント颯太くん気に入れられたのね」


「香織さん達にとっては有名人だろうけど、俺とか竜也にとってはただの美人さんにしか見えないからな~」


「香織~!言われてきたの持って来たよ!」


「あ!ありがとう!颯太くん、ちょっと来て」


「おや?天風くんも見るのかい?」


「よく分からないが、香織さんに呼ばれただけだ」


「天風くんと話すのも久しぶりね~。私の名前覚えている?」


「そりゃ中学も一緒だったし、覚えているよ。歩美さんだろ?」


「わ、わたしは?」


「千代さん、だよな。香織さんと一緒にいるから覚えている」


「3人とも何をやっているの?先生が来る前に早く見ましょうよ」



ボーイッシュな歩美と内気性格の千代との会話を終えて颯太は、香織の席に開かれている雑誌を覗き込んだ。



「あ、これが読モの頃のクレアさんか……」


「私に感謝してね!クレアさんのファンだったんだから!」


「クレアさんのファッションセンス凄いよね。わたしには無理だよ」


「へえ、流石モデルだな。見事な着こなしっぷりだ」


「でも、突然クレアさんが載っている雑誌持って来いってどういうこと?」


「え、えっとそれは……た、たまに見たくなるファッションよね!クレアさんのは!」


「え?まぁそうだね。クレアさんのファッションは色褪せないっていうか」



ヴヴヴヴ――――!



「またか…」


『何だか颯太が私の事を探っているような気がしてな』


「エスパーかよ!」


「ど、どうしたの天風くん…?」


「い、いや何でもない…」


「またクレアさんね…」



千代が少し怖がってしまったのを見て颯太はしまったという顔をする。



「クレアさんってさ、ロシア人らしいけど、日本語ペラペラだよね」


「国籍こっちに置いているそうだしね」


「まぁ確かに日本語ペラペラだったが、少し喋り方が男臭かったような…」


「だった?」


「過去形…?」


「あぁ、何でもない!」



颯太は逃げるようにFDを操作してクレアへメールを送った。



『私の喋り方か?これは知人の影響だな。知人から日本語を教わっていたらいつの間にか私もこんな喋り方になってしまったよ』


「知人の影響なのか」



ヴヴヴヴヴヴ―――!!!


颯太はメールかと思い、FDを操作しようと思った瞬間それは通話だった。



「え!?は、はい!」


『メールをするのが面倒になったのだ』


「は、はぁ……あの、なんだか車のエンジン音がしますが」


『ん?あぁ、今引っ越しをしている最中でな、荷物は宅配業者に頼んだから、私は先に颯太のいる宮城に車を飛ばしているわけだ』


「運転中に危ないですよ……それよりも引っ越しって本気ですか…」


『あぁ、本気だとも。それよりも私の喋り方が気になったと言っていたが、変だろうか?』


「いや、変ではありませんが、香織さんの友人から雑誌を見せて貰っていたんです。それで日本語がうまいなという話になりまして」


『私のか。ふむ、ファッションというのは季節のように服も彩りを変えるのだが、その友人は何故古い私の雑誌など持っているのだ』


「ファンらしいですよ」


『ほう、それは嬉しいな。サインをしたくなるよ』


「それ友人に言ったら喜びますよ」


『ふふ、サインは流石に難しいが……代わりと言っては何だが、少し電話を代わってくれないか?』


「え……?はい、分かりました」



颯太はFDを耳から離して、クレアの話しで盛り上がっている3人の中に入る。



「歩美さん、少しいいかな」


「え?なになに?」


「電話で話したいって相手がさ」


「わ、私!?な、なんで?私、天風くんの知り合い何て誰も知らないんだけど」


「まぁいいからさ」


「え……わ、分かった……お、お電話変わりました!」


『こんにちは、クレアという者だが、分かるかな?』


「え……ほ、本物!?」


『あぁ、本物だとも。ちなみに颯太が何故私の携帯番号を知っているとか、その他もろもろは彼に聞かないでくれ。これでも私は世間体を気にするのでな』


「は、はい!もちろんですとも!」


『ふふ、君は恐らく香織の友達だろう?』


「え?あぁ、はい。香織の友達です」


『私が載っている雑誌を持っていると聞いたが、どれくらい持っているんだ?』


「え~と、クレアさんがデビューしてから1年後の雑誌なら全部」


『おお、凄いな』


「クレアさんは少しお休みをいただくと言っていましたが、どれくらいお休みになられるのですか?」


『今年いっぱいだろうね。4年間有休も取らずに走り続けたのだ。たまには長い休みも取りたくなるさ』


「私、クレアさんが復帰するの楽しみにしていますから!」


『あぁ、その時は雑誌に君宛てのメッセージを書く事にする。期待して待っていてくれ』


「はい!」


『サインは流石に難しいから颯太に無理を言って君に代わって貰った。私のファンでいてくれてありがとう。名前は?』


「あ、歩美です!」


『歩美か。分かった。歩美、これからも颯太と香織の良き友でいてくれ。それじゃ、また』


「はい!お話で来て嬉しかったです!」


『あぁ、私もだ。颯太に代わって貰えるかな』


「天風くん!ありがとう!めっちゃ興奮した!」


「喜んでもらえて何よりだ」



鼻息を荒くした歩美がFDを颯太に返した。



「クレアさんとお話ししたの?」


「うん!すっごい!ホント凄かったんだから!」


「ええ!?いいなぁ!わたしもお話したかったな」


「なら今日から千代もクレアさんのファンになるといい!」


「うん!わたし、今日からクレアさんのファンになる!」


「千代も現金な子ね。でも、クレアさんもなかなかファンサービスが良い方なのね」



颯太は歩美が2人にクレアと何を話したのか興奮した状態で語っている様子を見ながら、クレアと会話をしていた。



「東京から宮城まで何時間かかるんですか?」


『ふむ、ざっと3時間だろうか。私の車が少し特殊なのもあるが、交通状態もかなり良い。スムーズに着きそうだよ』


「そうですか。お気をつけて来てくださいね」


『分かっているさ。こうして颯太と話しているのは高速道路がつまらないから、という事からなのだが、颯太は分かるかな?この気持ちが』


「来年になれば分かるかもしれませんね」


『颯太は17歳だったか。あと1年すれば自動車の免許を取れるようになるのだな』


「我が家の駐車場がかなり厳しいですが、とりあえず免許だけは取っておきますよ」


『颯太、君の家の周辺に少し大きめのアパートがある事を知らないか?』


「え?知っていますよ。あの2階建ての誰も借りようとしない貸家ですよね?」


『そこに引っ越す』


「えええええ!?」


「そ、颯太くん?」


「なになに!まだクレアさんと話しているの!?」


「え、天風くんとクレアさんって一体どういう―――もごもご!」


「しーッ!それは他言無用だし、詮索しちゃいけない約束なのだ」


「ぷはー!そ、そうなんだ」


『ま、そう言う事だ。引っ越し祝いのパスタでも持ってきてくれ。さて、そろそろ時間だろう?』


「え?あぁ、もう次の授業が始まりますね」


『では、また掛けるとしよう』


「はい」



颯太はご機嫌なクレアと打って変わって沈んだ表情をしていた。



「どうしたの?天風くん」


「な、何でもない」



歩美の声にも虚ろに返して颯太はノロノロと自分の席に戻って行った。



「ほ、ほんとに引っ越し祝いのパスタ持ってきたけど、この家に引っ越しして来たの…?」


「マジかよ……」


「い、行くぞ」



颯太は自分の家から100mも離れていない1軒の貸家に来ていた。

香織は急遽家に用意させた北海道産の小麦を使ったパスタセットを持ってきたのだが、半笑気味だった。


颯太はチャイムを鳴らし、生唾を呑み込む。



「颯太!よく来たな!」


「うぼッ!?」


「うわ、ホントにあのクレアさんだ…」


「すげえ……」


「おお!よく来たな!香織、竜也!」


「あ、クレアさん、引っ越し祝いです」


「おっと、本当にパスタを持ってくるとは、なかなかやるじゃないか」



抱きしめていた颯太を解放してクレアは引っ越し祝いのパスタセットを受け取った。



「中はまだ片付いていないが、見て行くかい?」


「そうだろうと思って、ボルケーノも連れて来たぜ!」


「私もアルテミスを連れてきました。お手伝いしますよ」


「レーナもいるよー!」


「お前は逆に散らかすなよ…」


「感謝する。それじゃ、さっさと片付けてパスタ料理を振舞おうじゃないか」


「ありがとうございます。うし!皆やるぞ!」


『おー!』



颯太達は結託して荷物片付けに取り組んだ。



「こんばんは~!琥太郎も連れて来たよ」


「私も来たよ!」


「助太刀しよう」


「あれ!?恵理さんも!?」



途中で事前に連絡していた詩織と琥太郎が来たが、まさか姉の恵理も来るとは思わなかった。



「まさか読モのクレアさんと会えるとはね。ランゲージバトルは人材豊かと見える」



新たに3人加わった事によって、作業は一気に進んだ。

思い冷蔵庫やタンスなどの重い物はボルケーノ、琥太郎、颯太、竜也が運び、小物や食器の収納は詩織、香織、クレアが担当し、床掃除はレーナとアルテミスが行った。



「終わり!終わったよ颯太―!」


「あぁ、レーナもお疲れさま」


「パスタ出来たわよ。皆座って~!」


「わーい!」


「レーナ、その前に手を洗おう」


「そうだった。お手洗い~」



すっかり夜になった時間帯、クレアのパスタが全員に振舞われた。



「う~ん!おいしいね!」


「そうね。本当においしい」


「そう言って貰えて嬉しいよ」


「く~!やっぱ動いて腹が減った時に食べる飯はうまいぜ!」


「そうだな」



大盛況のパスタにクレアは終始笑顔を絶やさなかった。



「皆、本当にありがとう。恵理さんと詩織は私が車で送って行く。颯太達も気を付けて帰るのだぞ」


「はい。ご馳走様でした」


「レーナ、いつでも遊びに来ていいんだぞ。私はいつでもいるからな」


「うん!ゲーム持って遊びに行く!」


「颯太、香織ちゃん!竜也さんもまたね~!」



恵理と詩織に颯太達は手を振って見送った。



「それじゃ、颯太くんもまたね」


「あぁ、明日のランゲージバトルの2回戦も頑張ろう」


「おうよ。気合入れて行こうぜ」



ドタバタの1日だった。

まさかクレアが引っ越してくるとは思わなかったが、それでもより連携が取りやすくなったのは良い事だ。



「友達の引っ越しを手伝っていたんだってな」


「兄貴か」


「パスタ食べてきた~!」


「おいしかったか?」


「うん!クレアのパスタおいしかった!」



レーナの頭を撫でていた和彦の手が止まる。



「クレア……?まさかクレア・フィールストンか?」


「あ、あぁ………ランゲージバトルで会ってさ」


「なるほどな………しかし、彼女は東京に住んでいたはずだが、何故急に仙台に…」


「……それは…」


「颯太ね、クレアに気に入られたの。私としては混沌流し込むか悩むんだけど、流すのはやめにしたからとっても機嫌が悪いの。でも、クレアの料理おいしかったし、いつでも遊びに来ていいって言ったからプラマイゼロにしてあげた!」


「気に入られた…?引っ越すほどか…?」


「いや、レーナもういいから―――」


「会った瞬間抱きしめられていたのは流石に怒ったかなぁ…」


「ぷはははははは!!まさかお前があの読者モデルのクレアに惚れられるとは驚きだ!」


「な、何も笑う事はないじゃないか!」



久しぶりに見た和彦の笑い声に父さんも何事だと顔をこちらに向けていた。



「父さん、聞いてくれよ。颯太が美人さんに惚れられたんだぞ」


「なに!?根暗の颯太がか!?」


「おい、自分の息子を根暗言うのやめろよ」


「あらホントなの!?私も見たことあるわよ。とっても美人さんよね」


「おお、母さんも知っていたか。おい颯太、今度クレアさんを家に連れてきて来い。なかなか面白い事になりそうだ」



腹を抱えて笑う兄、信じられない物でも見るように奇異の目を向ける酷い父親、父親同様に酷い目を向ける母親を見て颯太は『絶対に連れてこない』と心の中で固く誓ったのであった。

投稿時間がまさかの午前7時40分頃という朝方。

正直ちょ~眠いのですが、何とか書き上げたかったのでアップしました。

これから私はね、ねむ……眠りま……すzzzzzzzzzzzz

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