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詩織のコスプレ

「くそ、あんな家族知るかってんだ…」



むすっとした顔でベンチに座る颯太は、財布を取りだす。



「ん~……まぁ金はあるか」


「あれ?颯太さん?」



ゲームセンターにでも行こうと考えていた颯太の前に、ショルダーバッグを持った詩織と恵理が現れた。



「おっと、詩織さんと恵理さんか。そう言えば二人とも長町だったな」


「うん、そうだよ~。颯太君は一人?」


「いえ、今日は家族と来ているんですが……今は一人行動中です」


「颯太さん迷子…?」


「んなわけあるか………――――それで、二人とも仲良く買い物か」


「まぁね。詩織と買い物できる機会ってあんまりないから、たまにはね」


「午後からランゲージに入ることだし、お姉ちゃんと出かけてみるのもいいかな~って」



颯太は目の前にいる二人を見比べて『この二人はやっぱり姉妹だな…』と今更のように感じた。



「ん~?お姉さんの顔に何かついているかな?」


「あ、いえ!やっぱり姉妹だから似ているなと」


「えへへ、まぁあたしとお姉ちゃんはお母さん似だからね。そりゃ姉妹だし似ているってものだよ」


「胸の発達では私に軍配が上がるけどね」


「ちょっとお姉ちゃん!?そ、颯太さんも見比べないで!」


「あ、す、すまん!」



胸を張る恵理と声を荒げる詩織を比べてみてしまった颯太は、反射的に顔を下に向けて視界に入れないようにした。



「ふむふむ………颯太君、ぶっちゃけ私と詩織……どっちが好み?」


「はぁ!?な、なんでそんな事聞くんですか!?」


「もうお姉ちゃんやめてよおお!」


「いやね、参考にさ。ポニーテール嫌い?」


「い、いえ、むしろ好きな方ですが」


「そ、颯太さん!?」


「んじゃ、詩織のロングは?」


「す、好きですよ。正統派っていう感じがしますし」


「あ、そ、そうかな…」



頬を赤くして自分の髪を弄り始めた詩織とにやにやしている恵理に颯太は答えておいてなんだが、居心地が悪くなる一方だった。



「そ、それより琥太郎はいないんですか?」


「あ、琥太郎?琥太郎なら颯太さんの隣に座っているけど」


「うお!?」


「先日ぶりだな」



颯太はいつの間にか音もなく座っていた琥太郎に驚いて立ち上がってしまった。

琥太郎の脇には二人の買い物した荷物が置かれており、どうやら彼は荷物持ち要員らしい。



「私も詩織も彼氏いないからさ、荷物持ちがいて助かっているんだよね。文句言わないし、琥太郎は」


「これくらい容易い」


「お前の私服の姿初めてみたな……それと素顔も…」


「イケメンでしょ?ストライ○ーに出てくる飛龍のような」


「分かる人いるの…それ」


「まぁ俺は分かるが………」


「颯太さんはこれからどこ行く予定だったの?」



荷物持ちとして完璧な仕事を果たしている琥太郎に感心している颯太に、次は詩織が尋ねる番だった。



「あぁ、暇だからゲーセンにでも行こうかと思っていたよ。どうせレーナ達は本屋にでも行っているだろうし」


「私達も行こっか!大体買い物終わったしさ!」


「うん、そうしようか。颯太さんUFOキャッチャー得意?」


「それなりに出来るかな。アームの弱さも若干関わって来るが」


「ちょっとあたしでも厳しい場所あってね。挑戦してみて欲しいんだけど」


「了解了解。やってみるとしよう」



4人はゲームセンターに行くこととなった。



「流石日曜日だ。子供の数がダントツで多い」


「颯太君こっちこっち!」


「は、はーい!」



昔はデータカードのアーケードゲームで遊んだっけな、なんて思い出しながら颯太は先に歩いて行った3人を追う。



「し、詩織さんこれは?!」


「これこれ!颯太さんが好きだと思うんだけど、あたしも好きなの!」


「ネクロスファンタジーⅢの主人公エイジのフィギュアじゃないか!」


「これ、前に私と詩織が結構頑張ったゲームだったよね。武器収集が鬼畜過ぎて初めて諦めたゲームだったよ」


「そうそう、あのおかしい武器集めがハマるかハマらないか分かれるゲーム」



ウィンドウの奥にはランゲージバトルで颯太が着ている服によく似た黒い服を着ている黒髪長身の男が、大剣を地面に突き刺しているフィギュアがあった。



「やばい、これは俺も欲しいな。こういうUFOキャッチャーの物は非売品だから困る………まぁ落とす感じなら、余計な事を考えなくても落とせそうだな」


「ランゲージバトルの颯太さんの服もこんな感じだよね。やっぱり似せて作ったの?」


「ん?いや?服は勝手に生み出されたっていうか」


「颯太殿、最初に与えられる服は神器である我らがプレイヤーの思考を読み取り、そして服を生み出すのだ」


「あぁ、そうだったのか……だから俺が一番好きなゲームの主人公が……」


「私も颯太君の服みたいな~。エイジの服結構好きだったし」


「お姉ちゃん服作ろうとしていたよね」


「颯太君なら……似合いそう……――――はッ!?」


「ん?どうかしましたか?」


「よし!お姉ちゃん小道具揃えてくる!琥太郎!カモン!」


「承知した」



UFOキャッチャーから目を離した颯太に目もくれず、恵理は琥太郎を連れてどこかへ行ってしまった。



「な、なんのことだ?」


「お姉ちゃん……エイジの服作るみたい…」


「嘘だろ!?だ、だってあれコートだぞ!?」


「似たような黒いコートをジョキジョキ切っちゃうんじゃないかな……あ、あぁ!引っかからない…」


「本気で俺に着せる気か!?あの人行動力ありすぎだろ!」


「あ、あたしも颯太さんのコスプレみたいかなぁ……」


「おいおい…冗談はやめてくれよ…」


「だ、大丈夫!きっと似合うよ!だってランゲージでも違和感なかったし、それどころか風格すら出てたもん!」



ぐッ!と拳を強く握る詩織に颯太は聴かなかった事にした。



「あ、あたしもね?なんか最初はコスプレなんて嫌いだったんだけど、お姉ちゃんに着せ替えさせられているうちに嫌じゃなくなったんだよね」


「元凶は完全に恵理さんか……」


「もう忍者の服もあるんだよ!琥太郎から真剣に設計を聞くお姉ちゃんの目は真剣だった」


「やる気を注ぐ場所を完全に間違っているな」


「お姉ちゃんは楽しければいい人だから」



UFOキャッチャーに挑戦している颯太の目は虚ろだ。

間違いなく近い未来自分はコスプレデビューすることに絶望した。



「あ、颯太さん。これどうかな」


「大分押し込んだな」



二人が挑戦しているUFOキャッチャーは持ち上げる物ではなく、動かして真下に落とす遊びになっている。


2本の赤と青のカラフルな棒に乗ったフィギュアの箱は大分移動して、今では箱の下の右端が棒の外に出ている。



「このまま下の左端を押して行けば落ちるな。俺もやってみて分かったけど、今日はアームの強さが大分高い。ゴリ押しで行けるはずだ」


「りょーかい!500円!君に決めた!」


「ポケモンじゃないんだからさ…」



颯太の方と言えば、アームの強さを見て箱をひっくり返して落とそうとしていた。

隙間が結構な数あるので、何度もアームの爪に引っ掛かり、あと数回で落とせそうだった。



「やったー!落とせたよ!」


「おお!おめでとう!」



先に落とした詩織が笑顔でエイジのフィギュアを取り出して、颯太に見せてくる。



「大きいな。これ普通に買ったら6000円くらいするぞ」


「だよねだよね!2000円で取れたのは儲けものだよ!」


「ゲーセン側として赤字だろうけど。よし!」


「颯太さんもゲットー!おめでとう!」


「ありがとう。いや~まさかゲーセンにエイジのフィギュアがあるとは思わなかった」



ゴトン!作戦通りに事が進んだことに颯太はにやりと笑う。



「ネクロスファンタジー懐かしいなぁ……武器収集率99%で終わったんだよね」


「隠しダンジョンの場所だろ?あの低確率で出現する隠しエリアの宝箱」


「それそれ!毎回ランダムで隠しエリア変わるし、その中の宝箱から更に低確率の抽選とか……マゾイよ」


「俺も何百回周回したか分からないな。何とか出てくれたけど」


「ホントに!?うわぁ…凄いなぁ……あの確率に心折れる人多いんだけどね」


「兄貴は心が折れてしばらくネクロスファンタジーが出来なかった思い出があるな」


「あたしとお姉ちゃんも心がぽっきり折れちゃった」



ゲームセンターのベンチに座り、颯太は自分と詩織の分のジュースを買ってくる。



「お金出すよ」


「いや、俺の奢りでいいよ」


「颯太さんありがとう」


「あ、あぁ」



詩織の笑顔に颯太は思わず顔を逸らして紙コップに入っているジュースを飲む。



「くしゅん…!」


「ん?風邪か?まぁ朝はまだ冷えるからな~」


「ち、違うと思うわ」



また釣りをしている兄の竜也の傍で、それを見ていた香織は可愛らしくくしゃみをする。



「なんだろう……扱いの差を感じたような……」


「なんだそれ。お前、電波でも受信しているのか?」


「ち、違います!何となくそう思っただけよ!」


「んな…ムキになって言うなよ…」



結構ピンポイントで言い当てた香織に竜也は、これ以上妹の逆鱗に触れないように魚釣りに集中する事にした。



「颯太君!」


「げッ…」


「あ、おかえり。お姉ちゃん」


「完成のビジョンは見えた!後は完成までただ走るだけよ!」


「マジですか……経費の方はいいんですか…」


「金なんて関係ない!ただ私が楽しいから作るだけ!完成したら教えるから、ちょっと携帯貸して」


「ど、どこに手を突っ込んで――――って俺の携帯!」



ズボンのポケットに手を突っ込んだ恵理に一瞬顔を赤くさせる颯太だが、携帯を抜かれた事に驚く。



「ほいほいっと。いや~私と同じ機種で助かった。あれ?颯太君、この香織って子は?」


「お姉ちゃん、それは前に話したランゲージバトルの香織さんだよ。颯太さんのクラス委員長なんだって」


「あぁ、そうだった。メアド交換する仲なの?」


「仲がいいと聞かれれば微妙ですが、まぁ問題なく普通に喋れる仲ではあります」


「問題なくって何さ………まぁとりあえず服完成したらうちに来てね?颯太君のかっこいいポーズとか、詩織とのツーショット撮りまくる!」


「と、撮るんですか!?」


「え?そりゃ撮るでしょ。脳内メモリー何て無理むり。あ、颯太君見るみる?」


「ん?何がですか?」


「え?まさかお姉ちゃん!!」



何故か止めに入った詩織だが、颯太の携帯にメールが受信される。

少し時間がかかる事から添付ファイル付きだろう。



「写真?」


「うん、見てみて」


「や、やっぱり!?だ、だめえええ!颯太さん見ないでええ!」



詩織の悲鳴に近い声よりも先に颯太は添付ファイルを開いてしまった。



「ぐはッ!?」


「詩織のコスプレ写真とパンチラ」


「ううううう!」



颯太も見たことがあるアニメのキャラクターの制服を着た詩織の写真だった。

短いスカートのせいか恥じらいながらも、姉の前だからいいやと言った風にスカートの裾を上げてパンチラを見せる詩織の写真に颯太は鼻血を噴き出す。



「颯太さん貸して!」



詩織は顔を真っ赤にさせながら颯太の携帯を奪い、恐らく今のメールを消しているのだろう。



「どうだった?確かにこれだけインパクトが強かったら脳内保存も余裕だけど、颯太君の出来栄えを見てから判断しようかな」


「わ、忘れて!お願いだから!」


「いや…忘れろって言っても…」


「無理だよね~?詩織可愛いでしょ?この子最近コスプレノリノリでするから、結構無防備なんだよ」


「今度からお姉ちゃんの前でも気を付ける!」


「もうお姉ちゃんの前で着ない、じゃないんだ」


「はっ!?」


「分かった、頑張って忘れ―――ごふっ!」


「うわ、凄い鼻血。パンチラでこれだと、詩織の胸とか無理なんじゃないかな」


「わあああ!あの写真もあるの!?」


「胸……がはッ!!」


「もう颯太さんの鼻血じゃなくて吐血に見えるよ!もうとにかくお姉ちゃんやめて!じゃないとここでお姉ちゃんと刺し違えてでも携帯を壊す!」


「あははは!無理だね~!もう詩織の写真は10個くらいのSDカードと8個のメモリーカードで保存しているから、1個くらい壊されたくらいじゃ痛くもかゆくもないんだよ」


「すげえ……まるで兄弟の共有ゲーム機のセーブデータ上書き読み複数データとは…!」


「颯太さん……例えがよく分からないと思う…」



鼻を抑えながら真面目に感心する颯太と姉に対する怒りが消えた詩織。



「まぁ詩織が可哀想だからパンチラで勘弁してね?代わりに後でお姉ちゃんのも見せてあげるから」


「ほ、ホント―――」


「だからそういう事じゃないってば!もう嫁入り前なんだからもっと身体大事にしようよ!」


「その身体を颯太君に見られちゃったわけですが」


「わ、忘れる!大丈夫!わすれ―――ごぶッ!」


「うわああああああん!!」


「あらら、詩織帰っちゃった。ちょっとやりすぎちゃったかな?」


「まぁやりすぎですよ。しかし、良い物が見れ――――くっ!」


「鼻血どんだけ出るのさ……」


「す、すみません……しかし、同い年の女の子となるとここまで刺激が強いものとは」



思い出しては鼻血を出す颯太に恵理はバッグからティッシュを取り出す。

颯太は恵理に礼を言ってティッシュを鼻に突っ込む。



「詩織はね、中学の1年生から頃苛めにあってたの」


「苛め……ですか」


「成績は良かったし、先生の頑張りもあって普通の公立に入れたけど、中学の頃は本当に不登校で毎日ゲームばっかりしていた。あの子がゲームしている時だけは笑顔になってくれたし、私も一緒になって遊んでいた」


「そんな事が……全然そうは見えませんでしたが…」


「うん、今は高校でも友達が出来たみたいだし、ランゲージで颯太君に出会ってから本当に昔の頃の詩織に戻ってくれた。実はあの子、男の子と遊ぶのは初めてなんだよ?」


「俺と話した時から結構世渡り上手だと思っていましたが」


「まぁそれは表だね。本当は颯太君と会うだけでビクビクしているんだよ。あぁ、怖がっているっていう意味じゃなくて、緊張しているってことね」



全然そうは見えない詩織に颯太は内心で驚いた。

出会った頃から人付き合いがうまそうな女の子だなと思っていたが、まさかこんな事情があるとは思わなかった。



「苛めがあったから、人付き合いとは人一倍慎重にするようになったの。だから、新しい友達っていうのも2人だけだし、前いたギルドでも誰一人としてフレンドにならなかったそうだよ」


「俺とか、後2人とは普通にフレンドになってくれましたけど…」


「何かあったんじゃないの?この人達なら大丈夫って思わせる何かが。さてと、私も帰ったら早速服作り始めないといけなから、今日はここまでだね」


「あ、はい。また今度」


「うん、じゃあね。それと、今の話は秘密ね?」


「もちろんですよ」


「詩織とこれからも仲良くしてくれると嬉しいな。今度香織ちゃんっていう子も呼んでよ。コスプレ似合う子かもしれない」


「あははは……機会があれば呼んでみますよ」


「頼んだよ~。琥太郎、行こうか」


「御意。また後でな、颯太殿」


「おう。また後で会おう」



詩織が置いて行った荷物も琥太郎が持って恵理と一緒にゲームセンターを去っていた。



「ふぅ……詩織さんにそんな事があったのか……」



颯太はジュースを飲み干すとベンチから立ち上がった。



『レーナ、今どこにいるんだ?』


『おもちゃ屋!お父さんね、今お母さんと言い争いしているの』


『なんでだ――――あぁ、あの人前から戦艦のプラモ欲しいとか言っていたな』


『うん!それでね、お父さんのお小遣いが厳しいからお母さんに半分出させようとしているところ!』


『なるほどな。レーナは何か買って貰ったか?』


『うんとね~ネクロスファンタジーの1000ピースパズル!』


『おお、ネクロスファンタジーか。早く完成が見たいものだな。俺も手伝おうか?』


『ダメー!私が作るの!颯太は完成を楽しみにしていてね』


『分かったよ。それじゃ、今からそっちに合流するから、その不毛な争いを昼飯をどうするかで止めておいてくれ』


『了解!』



何となく敬礼をしたように見えたレーナに颯太は苦笑すると、ゲームセンターの袋に入れたエイジのフィギュアを持って歩き出した。

少しだけ詩織ちゃんの過去話が出た話でした。

妹の不登校に何か出来ないものか、そう四苦八苦した恵理が見つけたもの、それがゲームでした。

せめて昔の笑顔を取り戻してほしい。学校なんて行かなくてもいい、ただ笑っていてくれればいい。たったその思いだけで与えたゲームが詩織を大きく変えた。

詩織の中学時代のイジメに終止符を打ったのは、紛れもない詩織自身でした。

恋愛ゲームでイジメから立ち直る主人公を見て心を打たれた詩織は、自分を見つめ直し、最後は校門を堂々と通る彼女の姿がありました。


そんな事を考えていましたが、いつかこれも話にしたいですね。

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