フラッグファイト
そして発表された電光掲示板のルール説明を颯太達は見る事となった。
「確認して行こう」
アジトに戻った颯太と詩織はリビングに急遽設けられた電光板を使い、今回のバトルアリーナのルールを確認する。
「まず当たり前だが、皆今回のバトルアリーナが初めての参加となる」
颯太は電光板の前に立ち、詩織は颯太が書いた事を板書していく。
何故メモをするかというと、この場にいない竜也と香織のためだ。
「俺と詩織さんはてっきりトーナメント式の勝ち抜きゲーかと思ったんだが、違ったな」
「そうだね。まさかのフラッグファイトだと思わなかったよ」
「まず参加は自由のレベル50固定。そして6月20日までに参加者を募り、そこから改めてブロック分けが始まる」
「今は6月の4日か。あと16日までにあの電光掲示板前にいるNPCに話しかけて参加の受付をするんだよね」
「よし、書いて行こう」
颯太達が初参戦する気でいるバトルアリーナは2人1組のタッグアリーナというものだった。
フィールドは分からないが、そこで数多くのプレイヤー達と旗取り合戦という名のフラッグファイトをする事になったのだ。
相手プレイヤーのHPをゼロにし、神器固有の紋様。これがフラッグに当たるわけで、これを取られたら失格となる。
別に相手の身体から抜き取るわけではなく、そのプレイヤーに止めを刺した者に点数が加算されていくわけだ。
そして点数が一番多かった上位30名が次の試合に移る事が出来るようになる。
「30名とあるが、俺はかなり少ないと思う」
「あたしもそう思う。いくらブロック分けすると言っても5万人もいるんだから、相当大規模でやるはず。その中で30名ってなかなか厳しいよ」
「大会ルールには即死攻撃の禁止、不正行為の禁止。これらに値する場合は厳しく処罰する。なんて言われたが、正直麻痺さえ使えれば俺は問題ない」
「べっつにそんなことしなくても私と颯太は強いのにね~」
「あたしと颯太さんは状態異常の申し子だもんね。麻痺なら得意中の得意だよ」
「ま、そういうことだ。フラッグバトル開始時刻は20時から0時となっている。多分一日で決着はつかないな」
「これ一試合分だと思うよ?大規模でやるんだから、これくらい普通」
「ふむ、なかなか現実に響きそうな戦いであるな」
「だから運営側は最初から時間指定をしてきたんだよ。それに参加自由って書いてあるし」
「でも、初めての大会の空気は覚えた方がいいと思うんだよね。後から慣れてないって言ってもどうしようもないしさ」
「そうだ。とりあえず今の内容を竜也と香織さんに送っておこう」
「あたしは香織さんに送るね」
「んじゃ、俺は竜也に」
颯太と詩織はFDを操作して二人にイベント情報の詳細を送った。
「あ、返事来たよ。早いね、香織さん」
「香織さんは早いんだよ」
「明日の午後からずっとこっちに来れるって」
「あぁ、竜也も来るそうだ」
香織に遅れる形で颯太のFDにも竜也からの返信が帰ってくる。
「さて、二人にメールも送ったし、対人戦の練習をしたいな」
「あたしとやろうか」
「お願いする」
「じゃじゃーん!今度は目潰しも喰らわないようにサングラスを用意してみました~」
琥太郎と同じような黒いサングラスを出して見せる詩織に颯太は苦笑いをする。
「二度同じ手が通じる相手だと思っていないよ」
「ふふ、それはどうだろうね~?もうここから心理戦が始まっているかもだし、信じる信じないはあたしの勝手だよ」
「どこでやろうか。流石にここらへんは町中過ぎて人目がつく。出来ればこっそり練習が出来る場所がいいんだが」
「えっと、城のクエストカウンターの隣にPV推奨マップってあるんだけど、知らない?」
「見てなかっただけかもな…」
「颯太はレベルの事だけ考えると周りな~んも見えなくなっちゃうもんね~」
「貴重な時間を無駄にしたくないだけだ。んじゃ、とりあえず城に行くか」
「あいあいさー!」
桜のステージが好きだと言った詩織の言葉より、前回戦ったような江戸時代風景を模して造られたステージへ二人はやってきた。
ここはPVP推奨ステージというわけだが、設定を弄れば特殊なアルゴリズムのモンスターも生み出せるトレーニング仕様にもなっていた。
「剣ばかりじゃなくて銃にも慣れなくちゃな」
颯太は大剣を銃に変えて、設定を弄ってる詩織の下まで歩いて行く。
「何をしているんだ?」
「これ1000人組手とかあるみたいだよ。面白そう」
「人型のモンスター1000体………一応経験値入るみたいだな」
「やってみよ?あたしやってみたい」
「まぁ多数との敵も想定しなくちゃいけないからな。ありって言えばありか」
「んじゃやってみよー!」
詩織が元気に1000人組手を選択すると、カウントダウンが始まる。
『銃で行くの?接近されたら辛くない?』
「接近されてもいくらでもやりようはあるさ」
『3…2…1…――スタート』
亜人種やら人間大の龍族やら色々わんさか空から落ちてくる。
「ふッ!」
颯太は現れたばかりで空中にいる敵を的確に撃ち抜いて行く。
「よっと!」
詩織は空中を舞うように飛びながら、扱いの難しい鎖鎌を投げつけて地上のモンスターを掃討する。
「レーナ!」
『もう一丁だね。分かった』
颯太の左手に新たな色違いの銃が生まれる。
「一掃する!」
ジュエリークラブの時に見せた混沌の紫電砲が今度は2つの銃によって行われる。
銃口に紫色の魔法陣が現れ、そこへ紫電が集まりだす。
『名前つけないの?竜也みたくさ』
「そうだな、紫電砲ってのはどうだ?」
『そのまんまだね』
「分かればいいんだよ!」
颯太は銃を空へ構えた。
「今度は拡散するぞ。名付けて拡散紫電砲ってか?」
『また見たまんまの…』
撃ちだされた紫電砲は空高く舞い上がると、そこから急に向きを変えて地上にいるモンスターたちに降り注いだ。
「あたしには当てないように設定しているんだ。颯太さん優しいね」
「フラッグファイトでは容赦しないぞ」
「そうだね」
詩織を避けて降り注ぐ紫電の雨にモンスター達は現れては消滅を繰り返す。
『銃こそ手数のはずなのに、大剣より火力があるね』
「手数っていうのは火力を落とす代わりに速さを得るって事だよ。この銃モードは攻撃寄りの変形だ」
『やっぱり颯太は私を使うのうまいね。前にいたご主人も銃を使っていたけど、下手だった』
紫電の雨が止み、颯太は後退しながらマガジンを捨てて新しく生み出されたマガジンが宙を舞う。
「オオオオオ!!」
「そっちのマガジンはオトリだ」
ガチン――――!
2丁の銃底と銃底を合わせてマガジンを装填した颯太は、まだ宙を舞っているマガジンに狙いを定めて撃ち抜いた。
ボオオオオオン――――!!!
まるでニトロが爆発したかのような熱風と衝撃波が颯太と詩織を襲う。
『爆薬仕込みマガジンでした~』
颯太に襲い掛かろうとした牛のような亜人種も木端微塵に吹き飛び、また新しいモンスターが出現する。
「颯太さんやること派手だね~。あたし驚いちゃった」
苦無を無数に投擲しながら詩織は颯太の隣に舞い降りる。
「アニメとかだとドラム缶撃ち抜いたりするだろ?あれやってみたかったんだよな」
「でも、実際にやってみたら出来なかったって言われてなかった?」
「え!?マジで!?」
「うん、ホントホント」
『ほら!二人とも次来るよ!』
颯太の驚いた顔をクスクス笑っている詩織は黒いマントを生み出して、その場から闇に溶けるように消えて行く。
雪崩のように迫る敵の真上に現れた詩織はそのまま飛び込む。
そして肉が斬れる音や血が飛び散り、さながら竜巻のように暴れまわる。
「流石だな、ティアさんは」
『速いね~。颯太と戦った時よりも速いんじゃ?』
「能ある鷹は何とやら」
『なにそれ?』
銃を撃ちながら颯太は少し遠くで暴れまわる詩織に苦笑する。
縦横無尽に駆け巡りながら、一発も被弾することなく敵を一撃で仕留める。
「雷龍!」
詩織は右手に稲妻を纏わせて地面に叩きつける。
まるで龍のように電流は地を這って周りのモンスターの身体を突き抜けた。
「おまけだよ!」
詩織は空高く飛び上がり、踵を上げる。すると氷の息吹が靴を包み込み、詩織はそのまま踵を地面に叩きつけた。
バキィィイイイイイイ――――!!!
花が咲くように地面から氷の刃が突き出る。
氷の刃に身体を貫かれたモンスターは消滅して行き、詩織は踵を地面から離すと氷は一瞬で消える。
「終わりじゃないよ」
未だに冷気を纏う氷の靴を何もない虚空へと振るう。
それは氷の衝撃波だった。
広範囲に及ぶ氷の刃はモンスター達の身体をいとも簡単に切断し、明らかに他のモンスターとは違う中ボスのような敵もまとめてHPバーを一瞬で持っていく。
「どう?あたしもやるでしょ」
「凄いな。これ使えば俺に勝てたんじゃないのか?」
「いや~変わらなかったと思うよ。颯太さんがこの技を使わせてくれるとは思わないし」
軽やかに颯太の隣に戻った詩織は、褒めて欲しいと言った顔で聞いてくる。
「ガルウ!」
颯太と詩織は左右に飛んでオオカミ男の斧を躱す。
「話し中だ!」
颯太は飛びながら今攻撃してきたオオカミ男の頭を打ち抜く。
クリティカルヒット独特のエフェクトと共にモンスターは消える。
「颯太さん、そろそろ一気に片づけちゃおうか」
「了解だ!ちゃんとついてこいよ!」
「うん!」
颯太はその言葉に大剣に変形させながら答え、詩織は両手に苦無を持つ。
「斬り込むぞ!」
二人は敵の大群に突っ込んだ。
「颯太くんとティアさんは今日も一緒か…」
「お?なんだ?気になるのか?」
久しぶりに海外から帰って来た父親の家族サービスで、一泊二日のキャンプに来ていた香織はメールを見て眉を寄せる。
「べ、別にそういうわけじゃないのだけれど、何だか落ち着かなくて」
「まぁ確かに新しいギルドメンバーを颯太だけに任せるのもなぁ」
「そういう意味じゃない……」
目の前に広がる巨大な湖で釣りをする竜也の隣で香織がため息をつく。
「親父は滅多に帰ってこないからな~。いつぶりだっけ?」
「2年ぶり。はぁ…こんな事をするために帰って来たのなら帰って来なくていいのに」
「親父が聞いたら泣くぞそれ」
「兄さんだってランゲージバトル早くやりたいでしょ?」
「まぁな。それにもう颯太にレベル抜かされちまったしなぁ……あいつの足手まといだけにはなりたくねえんだ」
「私も……颯太くんの足手まといだけにはなりたくないわ」
「新しく入ったティアさんもいきなり70超えだったし、ちょっと焦っているんだよ」
「頑張るしかないわね……」
「だな。あああ!もう!香織とそんな話してたら早く家に帰りたくなっちまったじゃねえか!」
「それにイベント内容も見たところ、尻尾取りゲームみたいなものだったわね。対人戦も慣れておかないと…」
「今月末か………颯太とティアさんに接近戦仕掛けてくる相手の対処方法を生み出すためにも相手になってもらうか」
「私もね」
「レベル上げ、対人戦、フラッグファイトの対策。やることだらけで早く帰りたいぜ」
「それに7月は夏休み前の中間試験よ?兄さん大丈夫なの?」
「俺は大丈夫だっつうの!」
「あ!兄さん引いているわ!」
「うお!?」
相変わらず自分の成績を心配してくる妹にうんざりしている時に、釣竿が激しくしなる。
「今晩の飯にしてやる!」
「ここはニジマスとイワナが釣れるそうね。川魚なんて久しぶり」
「ボルケーノも連れてきたかったな……」
「仕方ないわ。でも、家政婦さん達がボルケーノを受け入れてくれて一安心ね」
「だな!」
「ニジマスね。結構大きいわ」
「やべ、針飲んじまったようだな……」
「はい」
「おう、ありがとよ」
針外しを香織から受け取りつつ、竜也はふと思い出した。
「香織はアルテミス連れて来たんだろ?ここからでもログインできるじゃねえか」
「あ、そうね。今日の夜早く寝ると言って部屋に籠るのもありかしら」
「ちっ……俺も魔物系じゃなかったら人目を気にせず出来るのに…」
「魔物系は多い方なのにね。よく3人も人型を引いたと思っているわ」
竜也の魚釣りを見ていた香織はベンチを片づけ始めた。
「お?どこ行くんだ?」
「そろそろ晩御飯よ。早く食べてランゲージにいくわ」
「ずりいぞお前!」
「魔物型を選んだのは兄さんでしょう?」
「くそぅ……」
「颯太くんにメール送らなきゃ。今晩入れるって」
「颯太が見ていないところだとキャラ変わるよな」
「なっ!?」
「自覚ないのかよ。ほら、行こうぜ。大分釣ったし、焼くのも時間がかかるしな」
クーラーボックスを持ちながら竜也は香織を追い越して行く。
「鈍感そうに見えて案外見ているのね」
そんな兄の背中を見ながら香織はそっと呟いた。
夏があっという間に過ぎたような気温が続きますね。
一人暮らししている家から今は実家に帰ってきているわけですが、何せ9月上旬まではまだ暑いかな~?なんて思っていたのです。
しかし、朝方冷えるもので、ホントこの調子だと風邪を引いてしまいそうで怖いです。
皆さん!体調管理はしっかりしましょうね!ヨーグルトぱないっすよ!ホントヨーグルトは偉大ですから!




