香織の覚醒
初めて前書きを使うような気がします。
活動報告に新しい物語について記載していますので、コメントを頂ければ嬉しいです。
「おはよう」
「お!来たな!」
教室に入った颯太に気付いたのは同じホールを担当する健太だった。両親の反応を見て分かっていたことだが、クラスの皆も同様に昨日あったことなど頭からすっかり抜けているようで、彼に続いて次々と颯太に挨拶をしていく。
「香織さんは?」
「香織さんは厨房で食材の最終確認を厨房の奴らとしているぜ。なんか用でもあるのか?」
「いや、特に」
「ならお前も早く着替えて掃除手伝えって」
「分かっているよ」
香織が来ていることを確認した颯太は、健太に急かされるように隣の教室に移動し、予め持ってきていた服に着替えるのであった。
「ふぅ……昨日に続いて休む暇なんてないな……」
「んなこと喫茶店をやる前から分かっていたことだろ」
「ほらそこ!喋ってないであそこのお客さんからオーダー取ってきて!」
「おっと、歩美に怒られてしまったな。さ、働くとしますかね~」
「だな」
開店と同時にハワイ産のホットケーキを食べてみたいというお客さんでいっぱいになり、それはお昼時に近づくに連れて増え、今では下の階段に続くほどの列をなしていた。
喫茶店というものは、落ち着いた雰囲気でコーヒーやちょっとしたお菓子などの食事を楽しむ場なのだが、今の颯太のクラスの催し物は喫茶店と呼べるものではなかった。それはまるで行列を次々と捌くラーメン店の如く威勢のいい声が常に店内を駆け巡り、厨房もそれに応えて声を荒げる。
「はい!コーヒーとパンケーキセット二つ!4番テーブル持って行って!」
「おう!それと7番テーブルのオーダーはまだか!?」
「それならもうちょいで出来るよ!」
「了解!」
段々とフロアと厨房の連携が取れてきたのか、品物を出してからの受取が早くなり、テーブルの回転率がみるみると上がっていく。
最初は『いらっしゃいませ』と言うことも恥ずかしがっていた子も3年飲食店で働く子のハキハキとした挨拶を聞いて自分もとなり、今ではその表情にはどこかやりがいを見つけたようなすっきりとした顔つきになっていた。
「良い汗を流したって感じ?」
「やりきった感はあるな」
そして13時を回ったところで颯太と健太の休憩がやってきた。2人は隣の控室に移動し、支給されたタオルでごしごしと汗を拭き取る。
「颯太、この後どうするよ」
「ん?ああ、少し香織さんと話があるから」
「そっか。香織さん、平気な顔しているけどよ。あれ、どっかで無理しているからケア頼んだぜ」
「分かっているさ」
先に服を畳んだ健太は颯太の肩に手を置いてから教室を出て行った。
「香織さん」
「あ、颯太くん。お仕事お疲れ様」
「香織さんもお疲れ様」
先に着替えを終えて外で待っていた香織は颯太の姿を見ると笑顔を浮かべて迎えた。だが、颯太にはその笑顔すら無理に笑っているように見えて心が痛む。
「歩美さん達と校内を回る予定とかなかった?大丈夫?」
「ううん。颯太くんの名前出したら2人とも急にニヤニヤして……そんなんじゃないって言っても聞いてくれなくて」
「あはは……あの2人はそういう話が好きだからなぁ……」
ブラブラと校内の模擬店を回りながら何気ない会話を続ける。
「香織さん、昼はもう食った?」
「まだ食べてないわ。というか、食べる暇がなかったかな」
「確かに今日も一段と忙しかったしな」
「皆そんなにハワイ産のホットケーキが好きだったのかしら」
「それもあるけど……多分……」
「多分?」
客層から見て他校の男子生徒が多いことから恐らく香織目当ての人の方が多かった気がする、とは言えなかった。
「と、とりあえず昼がまだなら外の模擬店でたこ焼きとか買って食おうぜ」
「ええ、そうね」
不思議そうな顔をしている香織を連れて颯太は外の模擬店を見に行くのであった。
「ふぅ、やっと座れたね」
「まあ日曜日だしな。ほら、レーナ」
「わーい!」
「アルテミスも」
「ありがとうございます」
立ち入り禁止と書かれたロープを潜って颯太と香織は屋上に来ていた。そこにはレーナとアルテミスがおり、2人とも今の今まで監視をしていたらしい。
レーナは颯太が買ってきたチョコバナナとクレープと焼きそばを受け取ると早速ベンチに座って食べ始める。香織の方はアルテミスにたこ焼きと豚玉を渡していた。
そしてある程度昼食を終えて4人とも飲み物に口をつけているタイミングで颯太は切り出した。
「竜也はどうだった」
「………兄さんの意識は戻らなかった。お医者さんの方も原因が分からないって言ってて……お父様もお母様も泣いてて……」
「香織……私が話しましょう」
昨日のことを思い出して泣き出してしまった香織の肩を抱き、アルテミスは竜也の家で起きたことを話した。
「クレアは私たちの存在のことを香織のご両親に説明しました。最初は信じてくれなかったのですが、私が弓を生成、ボルケーノが人型から竜型に変身し、口から火を吐き出したことで事の重大性を認識してもらいました」
「ご両親はなんて?」
「何も言ってくれませんでした。お父様の方は頷いただけ。お母さまの方は気絶をしてしまい、そのままお部屋でお休みになられました。お父様は何も言わずに竜也に会ってくると言って今朝まだお家に帰って来ませんでした」
「それじゃまだ具体的なことは話し合ってないわけだ」
レーナがイチゴ牛乳をストローでちゅうちゅう吸いながら言う。
「そう、ですね。お母様は一晩経って気持ちの整理がついたのか、私達に話があると言ってきましたから」
「いやはや、これはもう香織ランゲージバトルにログインできなくなるんじゃない?」
「その可能性も否定できませんね」
「竜也が寝たきりになってしまったからな……子を想う親ならば娘をそんな危険なゲームなんてさせたくないってのは分かる」
「ねえ、バハムートはどうしているの?ボルケーノと一体化したんでしょ?」
「バハムートはボルケーノと一緒に病院にいますよ」
「好き勝手にしているわけじゃないのか」
「彼なりに竜也に思うところがあったのか、私に本心は語ってくれませんでしたが、ボルケーノと何か話をしたのかもしれませんね」
「あのバハムートがねえ………」
「竜也の身体に異常はないのか?」
「ボルケーノから聞いた話では身体に異常はなく、本当にただ眠っているだけのようだとしか」
「そうか」
「ボルケーノとバハムートが消滅していないことが竜也の健康状態を示す何よりの証拠だよ。多分、精神がものすご~く疲弊してしまっているだけだから、回復したらそのうち目を覚ますよ」
それがいつになるか分からないけど、とレーナは小声で呟いたのを颯太の耳には届いていた。
「香織さん、今日竜也のお見舞いに行っていい?」
「ええ、もちろんよ。私も文化祭の片付けが終わったら行くつもりだったから」
「後夜祭はどうする?」
「行くわ。皆に変な気を遣わせてしまうのも悪いもの」
「分かった」
アルテミスから受け取ったハンカチで涙を拭き取りながら香織は力強く笑って見せた。
そして文化祭が終わり、片付けに入ったところで2人は竜也のお見舞いに行ってもいいか聞くと。
「当たり前じゃん!!私達に遠慮なんかしてないで行っておいでよ!!」
「颯太も気になるんだろ?お前も行ってこい」
と、香織は女子から。颯太は男子から言われて皆に感謝しつつ教室を出た。もちろん職員室に寄って小町にも許可を頂いた。
「ほんと良い友達を持ったな」
「ええ、皆ありがとう」
「2人の人望あってのものですね」
「颯太なんだから当たり前じゃん」
「いやいや……」
ことリアルにおいて香織の影響力は凄まじい。所詮颯太はそんな彼女の好意を寄せられている相手でしかなく、他の男子もそういう意図を汲み取っているのだろうと思う。
学校前で香織の家の人が車で迎えに来ており、香織の身の回りの世話をしている吉田さんという20代後半の人が運転席に座っていた。
「あ、颯太君も久しぶりね。あたしの車に乗るのって4年ぶりくらいかしら?」
「そうですね。相変わらず車好きなんですか?」
「まあ趣味ってわけじゃないんだけど、金の使い道がなくてね」
吉田さんとは顔なじみの存在だ。中学の頃から香織の出迎えをしており、何千万とする車で学校に来た時の香織の恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている表情は今でも思い出す。
「でさ~聞いたよ。君ら、とんでもないことに頭突っ込んでいるんだってね」
「吉田さんの耳にも入っていましたか」
「まあ~アルテミスちゃんとは話をする仲だしね。人間離れした子だとは思っていたけど、まさかデータとはね……」
「その話はどこまで伝わっているんですか?」
「ん~あたしとメイド長の相沢さんくらいかな。他の使用人は知らないと思うよ」
「そうですか」
「中学校の時の君しか知らないから、この前突然モデルのクレアさんとかファッション界の巨匠の娘である伊澄ちゃんとかが来たときは何事!?って思ってたけど、こんな繋がりだったとはねえ……」
「自分でも不思議な縁だと思っていますよ」
「竜也君が初めてお友達を連れてきたと思えばまさかの颯太君だったりと君の周りは事欠かないねえ」
確かに颯太もそのことについては思うことがあった。何故、同じ学校内でランゲージバトルに関わっている者が2人もいたのか。それも兄妹で。颯太は初めから仕組まれたようにしか思えていなかった。だが、そんな計らいをエニグマンがするようには思えない。
何か、そう―――――――エニグマンとはまた別の勢力が自分たちを支援したような……
「颯太くん!」
「ん、あ!なに?」
「病院着いたよ?」
「おっと!ごめん、考え事してた」
「もう吉田さん、颯太くんが無視するっていじけてたよ」
くすくすと笑う香織から視線を移して吉田さんを見ると頬を膨らませて怒っているようだった。可愛い。
「ご、ごめんなさい」
「颯太君、今度うちに来ておもてなしを受けてくれないと許しませんよ」
「わ、分かりましたから!そんな睨まないでくださいよ」
「分かればよろしい!さ、行きましょうか」
「ここの病院初めて来たな。なんかすげえでかい」
車を降りた颯太が病院を見るなり小学生のような感想を呟く。
「ここの病院はね、うちの財閥が管理している病院の一つなの」
「え!?道草グループの病院なの!?」
「もちろんです。道草財閥はあらゆる事業に挑戦していますからね」
「他にもスポーツジムとかジュニア野球、ジュニアサッカーの支援とか幅広く手掛けているんだよ」
「あ、改めて道草財閥って凄いんだなって思ったよ……」
「いずれ颯太君は婿として来るのですから覚えておいて損はないですよ?」
「え……」
「ちょ!!吉田さん!!!そういうのはやめてって言っているでしょ!!」
「なははは!煮え切らないお嬢様のためにこの吉田が人肌脱いでやっているわけじゃないですか」
「そういうの余計なお世話っていうの!!」
病院に入る前までまるで姉妹のように喧嘩する香織と吉田を見て颯太は微笑み、婿の件に関しては忘却の彼方へ飛ばすのであった。
「兄さん、入りますよ」
「失礼します」
医者と話があると言って吉田とは受付で分かれ、受付を済ませた4人は竜也がいる3階の病室へやってきた。
中に入るとそこにはボルケーノとバハムートがいた。売れないミュージシャンのようなパンクなファッションのバハムートは漫画を読んでおり、こちらを一瞥するとそのまま読書に戻る。
「おお、来たのか。文化祭は終わったのだな?」
「ああ、無事に終わったよ」
持ってきた花を花瓶にさすためアルテミスは香織から花を受け取り、包装を解いて綺麗に花を挿していく。
「兄さん……」
「本当にただ寝ているだけのように見えるな……」
「ええ、本当に……」
香織は竜也の手を両手で優しく包み、兄の安らかな寝顔を見つめる。
「バハムート、あんた何しているの」
「ああ?ただ漫画って奴を読んでいるだけじゃねえか」
「あんた、丸くなったね」
「そういうお前はもう別人だな。オレ様と話すのはいつぶりだ?」
「50年ぶりくらい」
「はは、時間の流れって奴は怖いねえ」
レーナは空いてる椅子に腰かけてスマホを弄りながら隣にいるバハムートに話しかけた。
「どしたの」
「んだよ、藪らから棒に」
「いや、竜也が目を覚まさないからあんたのことだし、勝手に見限るものかと」
「オレ様は今ボルケーノと合体しているようなもんだ。だから、離れるにも離れらねえんだよ」
「いつでも主導権を奪えるくせに?」
レーナの言葉にバハムートは図星なのか露骨に舌打ちをし、ギロリとレーナを睨む。だが、対する彼女と言えばどこ吹く風でスマホを弄っており、どうやら彼の態度に関しては慣れているらしい。
「お前うぜえな」
「お互い様でしょ」
「混沌よ、そこまでにしてやれ。我らは和解したのだ」
「てめえ余計なこと言ってんじゃねえぞ!!あー!胸糞わりいなおい!!」
ボルケーノの言葉を聞いたバハムートは漫画を閉じて乱暴に扉を開けると、そのままどこかへ行ってしまった。
「ボルケーノ、どういうこと?」
「この件に関しては黙秘をする。あいつのためにもな」
「ふ~ん?まあボルケーノがそういうのなら別にいいよ。ワタシは颯太に危害を加えないか探っただけだし」
「おい、明らかにお前がバハムートに油を注いでいっただろ……ボルケーノが止めなかったら喧嘩になっていたんじゃないのか?」
「ならないと思うよ。なんかバハムート丸くなってたし、騒がないのも竜也のことを想って部屋を出ていったわけだしね」
「それにしてもあのバハムートが私たちの仲間になるなんて……竜也は何かドラゴンに好かれる才能でもあるんですか?」
「あると思うよ?」
「かもな。レンがこの前アルカディアスがボルケーノを交えて竜也と話がしたいと言っていたしな。俺もアルカディアスがどんな神器なのか気になってたし、話がしたかったんだけど」
「それはもう叶わないわね……」
4人の視線は眠っている竜也に注がれる。
「これからどうなっちゃうのかな……」
これから、香織の言葉が示すのはもちろんランゲージバトルのことだ。
「竜也がいなくても俺達は先へ進まなくちゃならない。命をかけて戦った竜也のためにも」
「そう、だよね……」
そこで香織は颯太を見据えた。
「あのね、颯太くん。聞いてほしいことがあるの」
「ん?」
「私ね、覚醒能力に目覚めたんだ」
「え!?す、すごいじゃないか!!それじゃうちのギルド全員覚醒したんじゃ?」
「実はシンのアジトに突入する前から覚醒していたんだ……」
「どういうことだ?」
なら、なんであの戦いで使わなかった?とは言わない。だが、今の問いに颯太の意を汲み取った香織は言葉を続ける。
「黒字に染まっていたの」
「黒字?」
「あ~覚醒したけど使えなかったんだね」
「レーナ、知っているのか?」
「知っているも何もワタシも颯太とリンクした時から覚醒能力は使えていたんだけど、意図的に封印していたわけだし」
「なるほど。なら、アルテミスが?」
「いえ、私も何故香織が覚醒能力を使うことが出来ないのかさっぱりでして……」
「え?」
颯太は軽く混乱した。システムの不具合を疑ったが、神器のことに関しては完璧な調整がされているはずだ。
「アルテミス、疑問なんだけど過去に覚醒能力を使ったことは?」
「もちろんあります。私の覚醒能力は『狩猟神』と言い、一定時間風の如き敏捷値と圧倒的な攻撃力を得る自己バフ型の覚醒能力ですから」
「ってことはまだ完全に目覚めていないってやつ?」
「かもしれません……」
「クレアさんと戦った時、本気で死にかけてその淵で目覚めたのだけれど……」
「死にかけた?」
「えっと、私は一度もクレアさんと戦ったことがなかったから稽古をつけて貰う程度の気持ちで言ったら、突然カナリアでPVPを仕掛けてきて……」
「そういうことね……」
「颯太くん、私ね、学校にアジダハーカが攻めてきて皆と一緒に戦った時、悔しかったの」
「………」
「悔しかった……前衛で攻撃を受ける滉介くんや的確に攻撃を叩き込む颯太くんとクレアさん。そして皆に攻撃が行かないように常に気を配りながらサポートをする詩織。後方にいた兄さんと伊澄さんはあんな強靭な触手を物ともせず破壊していた。私と言えば火力もなく触手を破壊することも出来ないから精々軌道を曲げる程度しか出来なくて、自分の無力さが凄い悔しかった」
「香織……それは私の責任です……私にもっと力があれば……」
「ううん、アルテミスは悪くないわ。そして気が付いたら外にいて、中では滉介くんと颯太くんと兄さんがまだ戦っているってクレアさんから聞いた時自分はなんて弱いんだろうって」
「あれは仕方がなかった。俺はレーナの混沌のおかげで耐えられた。滉介はリーナの能力で、竜也はバハムートの狂乱能力で何とかやっている状態だったしな。あのクレアさんですらダウン寸前だったし」
「颯太くんは優しいね……だから、詩織もあなたのことが好きになったんだろうなって今なら分かる。ねえ、颯太くんは知ってるかな?歩美もね、中学校の頃、校庭を走っている颯太くんのことが好きだったんだよ」
「………」
「私と歩美が友達になれたのは颯太くんのおかげなの。同じ男性を好きになった者同士として」
颯太は無言で香織の言葉を受け止める。何故かレーナは病室からいなくなっていた。
「私、心のどこかで颯太くんに甘えていたところがあったみたい。颯太くんならきっと何とかしてくれるだろうと」
香織は立ち上がる。
「颯太くん、あなたにランゲージバトルで決闘を申し込むわ」
「理由を聞いてもいいかな」
「私はもう甘さを捨てる。クレアさんのように自分がランゲージバトルで最強の存在なんだと思えるような強さを手に入れたい。もう、何も失いたくないから」
そして香織はアルテミスに視線を移す。
「アルテミス、今までごめんなさい。あなたは3世代だからと思って格上の相手と戦う時どこか諦めに似た感情を持って戦っていたの。だけどもうそんな感情は捨てるわ。あなたをランゲージバトル最強の神器にする」
「香織……!」
「颯太くん、まずはあなたに勝つ!あなたが常に目標だったから。あなたが私たちの前を歩いていてくれたからここまで来ることが出来た。だから、その感謝の気持ちを込めてあなたに勝ちます」
「分かった。その決闘の申し込みを受けるよ。日程はどうする?」
「1週間後の夜に」
「了解した」
「兄さん、夢の中で私と颯太くんの戦いを見ていてね」
香織はそう言い残してアルテミスと共に病室を後にした。
「あの香織が……強くなったものだ」
「そうだな。あんな香織さんを見たのは初めてだ」
「颯太」
「レーナか」
香織と入れ違うように入って来たレーナは真面目な表情をしていた。
「なんか香織が負けないからとか言ってたんだけど」
「決闘を申し込まれた」
「何故またどうして?」
「甘さを捨てるんだとさ」
「………なるほど、やっと自分がお荷物だと気付いたのね」
「覚醒能力を本当に覚醒させるための覚悟を俺との戦いで見出すつもりなんだろうな」
「颯太、分かっていると思うけど」
「当然負けてやるつもりは微塵もない。12月になれば皆が敵だ。相手が誰であろうと倒すだけ」
「うん、そうこなくちゃね。香織には悪いけど全力で行こう」
「もちろんだ」
レーナと颯太が頷きあったところでボルケーノが『ところで…』と言って口を挟む。
「2人とも香織は行ってしまったが、どうやって学校に戻るつもりだ?後夜祭には参加するつもりなのだろう?」
『あっ……』
2人の声が合わさり、それと同時に先ほど啖呵を切ったばかりの香織から『颯太くんごめんなさい!!』というタイトルがついたお詫びのメールが届くのであった。
12月に挙げてからご無沙汰でしたね……新作の執筆やリアルの事情でなかなか書けない+スランプというスパイラルに陥っていました。。。。




