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喧嘩

「詩織さん、俺と電話番号を交換しよう」


「うん、わかった」



もう時刻は17時を過ぎた頃、颯太とレーナは凪原家を後にする直前に彼はそう言った。


お互いただ番号を交換するのではなく、記録にも残りにくい電話による会話で今後連絡を取って行こうという意味から出た颯太の申し出だった。

詩織もそれは分かっており、真面目な表情で颯太とメールアドレスと電話番号を交換した。



「それじゃ、今夜のランゲージバトルで。香織さんと竜也は土日難しいらしいが、二人だけでもやる事はある」


「了解。21時頃ログインするよ」


「それじゃ恵理さんにもゲーム強かったですって言っておいてくれ」



妹も強かったら姉も強かった。

総合的に見れば颯太の勝利数が多いが、それでも恵理のゲームテクニックはなかなかのものだった。

レーナと琥太郎の対決も面白かったもので、5人は大いに盛り上がった。



「楽しかったか?」


「うん!他の家に遊びに行ったのは初めてだったから、ちょっとはしゃぎ過ぎたみたい」



電車に揺られながらレーナは流れる景色を眺める。



「興味本位で聞いてみてもいいか?お前達神器はこちらの世界で人を殺す事は出来るのか?」


「出来るよ?」



レーナは即答した。



「ナノデバイスで色々な物が作れるように刃物だって作れる。元から身体に刃とかついていたり、ボルケーノだったら牙があるでしょ?私だったら混沌流し込むだけで人を殺せるようにね」


「電子精神体じゃなかったのかよ……俺はてっきりホログラムとかそういう映像か何かだと」


「なんで?私ご飯も食べられるよ?触れられるよ?」


「それが分からない……一体どんな仕組みなのか…」


「私はここに存在している。それが一番の証拠なんじゃないの?それがどんな仕組みなのかなんて関係ない。ほんと颯太は分からない事があると無理に理解しようとする癖があるね。それ悪い癖だよ」



レーナとの会話はそこで途切れてしまった。




ギィ――――颯太は机に脚を上げて椅子に深く腰掛けた。

自分の風呂の時間まで暇がある。颯太はそれまでに今日起こった出来事をまとめておこうと決めた。



『レーナは嘘を付かなかった。実際俺と詩織さんは危ない目にあったわけだし、その推測から行くとブログの管理人は……殺されたと見るべきだ』



ネットゲームだから、オンラインゲームだからと言って侮っていた。

レーナ達神器は颯太達プレイヤーの力でもあり、枷でもある。



『俺たちは首輪と鎖を繋がれたままなのか……』



下手な行動は出来ない。



『だが、そこまでして運営が隠しておきたい事となんだ?人を殺してまで知られたくないものとはなんだ?』



自分に聞いたところで答えが返ってくるわけでもないし、颯太は息を吐きだす。



『この問題は大分先送りにされそうだな……』



レーナを救うためにも颯太は何としてでも今年に決まるランゲージバトルの覇者にならなくてはならない。

それまで殺されるような行動を取ってしまっては本末転倒だ。


あの不協和音のような虫の鳴き声を思い出すだけで寒気がする。



『はぁ……………あなたの願いを一つ叶えます……か…』



説明書に書いてあったランゲージバトル覇者の報酬を颯太は何となく思い出した。



「颯太!お風呂はいろ!」


「……………」


「うふ、無視しても無駄だよ」


「いでえええッ!!」



椅子から転げ落ちた颯太の腕をレーナは掴む。



「颯太~洗いっこしようね。私が颯太の身体洗ってあげる」


「か、身体が痺れて動けない!?馬鹿な!お、俺の身体は混沌の力によって状態異常全レジストのはずなのに!」


「ちょっと今日は多めに混沌を流してるから、身体麻痺しちゃってるね。動けないんじゃ仕方ないよね?私が洗うしかないよね?隅々まで」


「ま、待て!なら風呂に入ったら混沌を抜けばいいだろ!?」


「颯太逃げそう。絶対に逃がさないためにも拘束するの。颯太、私から逃げちゃヤダよ?」


「に、逃げないから!今日は本当にレーナに感謝しているんだ!あ、愛してる!ほ、ほらこんな事も叫べちゃうぞ!あははは!」


「わあ!颯太嬉しい!私も愛してる!大好き!」


「ふぅ…」



階段まで引っ張られたところで颯太の身体から痺れが消えて行く。

どうやらレーナは階段も関係なしに颯太を引っ張っていくつもりだったらしい。危うくレーナの無意識で死ぬところだった。



「颯太!私達相思相愛だね!嬉しい!」


「あぁ、そうだね……」



混沌の力を流されて左目が活性化している。

そんな左目を抑えて颯太はレーナと一緒に風呂へ向かうのであった。




「あれれ?颯太さん何だかぐったりしている?」


「まぁ…ちょっとな」



アジトのソファで寝ている颯太は詩織の質問に適当に答える。



「それに比べてレーナさんは機嫌が良いね」


「うん!颯太とお風呂に入ったの!」


「えッ!?そ、颯太さん!?」


「今日はレーナに色々感謝しなくちゃなって思ったら風呂に入ろうって言われた」


「まぁ確かに今日はレーナさんに感謝しないといけない日だよね」


「あとね!今夜一緒に寝るの!」


「い、一緒に!?」


「今日はレーナに色々感謝しなくちゃなって思ってつい口が滑った」


「前半の言葉が全く一緒……」


「さてと、ティアさんも来た事だし、今夜の予定を発表しようか」



颯太は起き上がり、向かいに座った詩織を確認しながらFDのメールを開いて見せる。



「今日の17時に運営が発表したイベントがあった。普通木曜日のはずなんだが、どうもこれは緊急のお知らせようだな」


「あぁ、皆の強さがどれくらいかっていう大会だよね」


「ブログでも書いてあった通り、バトルアリーナだ。これから1時間後にブロック分けが発表される。場所は中央広場だから、とりあえず行ってみよう」



颯太は詩織を連れて中央広場まで足を運んだ。

既にお知らせを見たプレイヤーで広場は賑わっており、二人は巨大な電子掲示板が見える範囲内に適当に座る。



「俺はティアさんとしかPVPをしたことがないが、そっちは?」


「あたしはギルドメンバー全員とやったくらいかな。全部勝ったけど」


「流石だな」


「でも、そのあたしに勝った颯太さんはもっと凄いよね」


「そんな事はない。あの目潰しだって咄嗟に考えたものだ。正直あれがなかったら厳しかった」


「颯太さんは謙遜するんだね。まぁそういうことにしておくよ」


「いや、事実を言っているまでだ―――」


「はいはい」



その詩織と颯太のやり取りを遠目に髭の男たちは見ていた。



「あいつ、妙に馴染んでいますけど」


「おい、あいつとフレンドパスを交換した奴はいるか」


『……………』



髭の男は周りのギルドメンバーを見て言ったが、誰も答えない。



「ボス、あいつ俺達が交換しよう言ってもはぐらかされてそのままなんですよ」


「なにぃ!?」


「あ、笑うとやっぱり可愛いっすね~ティアちゃん」


「くそ!俺密かにティアちゃんのファンだったのに!」


「あの混沌使いめええ!」


「そんな事はどうでもいい!潜入捜査の件が――――」


『そんな事はどうでもいい!?ボス何を言っているんですか!?』


「あ?いや、どうでもよくはないか……我がギルドで貴重な女性を失ったわけだしな」


『違う!我らはアイドルを失ったのだ!』


「へ?あぁ、そういうこと…」



ギロリとメンバー全員に睨まれて髭の男は萎縮する。



「俺、いくらティアちゃんにお金貢いだか分からないっす」


「お前!?俺達は抜け駆け禁止を誓った仲じゃないか!?まさか?!影でこそこそ何をやっているのかと思えば!」


「俺は!ティアちゃんの愛が欲しかったんだ!」


『貴様あああああ!!』



デュエルもなしにただ喧嘩を始めたメンバーに髭の男は狼狽する。



「お、お前ら目立つからやめろってば」


「そう言えばボスはティアちゃんを顎で使ってましたよね」


「え、だって俺ギルドマスターじゃん。部下に命令するのは普通じゃね?」


『大体ボスがティアちゃんに潜入捜査何か依頼するから我らのアイドルはいなくなったのだ!』


「ぐほッ!お、お前ら俺はボスだぞ!」



どさくさに紛れて殴られた髭の男はそろそろ我慢の限界のようだ。



「もう怒ったぞ!お前らかかってこいや!」


『乱闘じゃぼけえええ!』


「なにしているの?」


『ティ、ティアちゃん!?』


「ティ、ティア!?」



今まさに乱闘が始まろうというところで冷ややかな目つきをしたティアが、颯太と一緒に現れた。



「あたしの名前叫んで何をやっているの?アイドルとか聞こえたけどさ」


『こ、これは…』


「あたしもうあなた達のギルドに戻る気ないから。颯太さんに着いて行くことに決めたの」


「お、おい。もう少し言葉選んでやれよ」



詩織の言葉に愕然とする髭のギルドメンバー達を見た颯太は可哀想に見えて来て、つい擁護してしまった。



「こういうのはね、ハッキリ言っておかないと後々面倒になるんだよ」


「だからってなぁ……まぁ俺がそこまで擁護する意味もないか……」



颯太は言いかけて頭をガシガシと掻きながらやめる。



「なぁボス」


「なんだ」


「元はと言えばこの混沌使いが悪いんすよ。見てくださいよ、あのティアちゃんの眼。俺達には見せたことがない親しげな眼を」


「颯太さんいこ?それに今度一緒にデュエルの練習しようよ」


「あぁ、そうだな。対人戦となると動きも変わってくるだろうし、こちらからもよろしく頼む」


「うん!いくらでも付き合ってあげるよ!」



ブチン―――!!


その時髭のギルドメンバー全員の何かが切れる音がした。



『つ、付き合ってあげる…だと…?』


「あ?」



ゆらりと立ちあがった男たちは歩き去って行く颯太とティアに視線を向ける。



「我らのアイドルはあの男にたぶらかされていると見た。ならば――」


『あの男をやっつけてしまえば万事解決!』



一人の男が颯太に襲い掛かった。



「ぐげッ!?」



だが、颯太は振り向きざまに香織譲りのミドルキックを男の大事なところに叩き込んで黙らせる。



「こいよ。いちいち全員にデュエルを売りつけるのも面倒だ。お前ら全員一気に相手してやる」


「ちょっと!颯太さん!」


「レーナ、相手の行動を封じる程度の混沌を流すぞ」


『は~い!』



刃がない大剣を構えた颯太は、総勢30人を迎え討つ。



「お?なんだなんだ?!乱闘か!?」


「あれは混沌使いじゃねえか!」


「いいぞいいぞ!やれやれ!」


「ちょっと皆…」


「ティアよ、ここは颯太殿と混沌に任せるべきだろう」


「琥太郎まで…」



周りのギャラリーがはやし立て、琥太郎までも止めに行こうとしたティアを止める。



「颯太殿の腕を今一度目に焼き付けるべきだ」


「……もう分かったよ」



詩織は肩を落として、颯太の邪魔にならないよう離れた位置に座った。



「死ねやごらぁ!」


「ティアちゃんをたぶらかす男め!」



そんな戯言に耳を貸すつもりなど毛頭もない颯太は消えるように避けて、すれ違いざまに大剣で殴り飛ばす。

切断ではなく、純粋な打撃武器として機能している大剣は男たちを軽々飛ばし、オブジェクトの建物に衝突する。



「レーナ、左目を解放したら俺も混沌の力を使えるか?」


『こっちだと使えるよ。颯太が殴っただけで動けなくなっちゃうかも』


「へえ……レーナ、二人で一気に片を付けるぞ」


「わーい!私も戦える~!」



大剣を投げつけて数人戦闘不能にし、大剣が地面に突き刺さるとレーナが元の姿に戻る。



「うお!?」


「うふ」



突然剣がレーナに戻った事に驚いた男は、数歩後ろに下がるが、レーナはその男を蹴りあげる。



「俺達と素手でやるってのかよ!なめやがって!」


「やっちまえ!」


「おあらぁあああ!」


「当たるかよ。これなら委員長の方がまだまだ速い!」



3人同時に颯太へ武器を振り下ろすが、颯太はもう消えている。

彼らが後ろを振り返った瞬間顔面に拳を叩き込まれ、そして身体を痙攣させる。



「あははははは!弱い弱い!全然神器使いこなせていないんだね!」


「くそ!神器如きに後れを取るな!」


「ティアなんかに目が行っているから弱いんだよ。颯太を見習うといいよ。私一筋だから」



颯太のように疾風のように動くレーナに攻撃は当たらない。



「か、身体が!?」


「あは!動けないでしょ?どうしてやろうかなぁ……このまま目ん玉抉っちゃおうか?私ね、何人も目玉抉って来たから、結構上手に出来るんだよ」


「ひいい!や、やめてくれ!」


「レーナ!」


「う、あ……ちぇ。命拾いしたね」


「ふぅ……ごふっ!」



倒れて動けない男にしゃがんでいたレーナは颯太の怒声にびくりと身体を一瞬震わせる。

そして少し残念そうにしたレーナに男は安堵の息を漏らした瞬間、レーナの足の爪先が顎に当たり、男は意識を手放すことになった。



「お、おい……俺達30人いたはずだよな…?」



髭の男はギルドメンバー全員が苦悶の声を上げて倒れている現状を理解出来なかった。



「あぁ、あとはお前一人だ。覚悟しろ」


「颯太に喧嘩を売るからこうなるんだよ。馬鹿だねえ」


「く、くそ!うおおおおお!」



決死の攻撃も颯太はつまらそうに躱し、腹部へ思いっきり膝蹴りを入れる。



「がはッ!?う、うぅ……くそ野郎が…」



髭の男は颯太とレーナを睨めつけて意識を失った。



『おおおおおお!!』


「あいつ勝ちやがったぞ!」


「すげえ!」


「いい催しだったぜ!混沌使い!」


「ナイスファイトだった!」



リーダーの男が倒れると同時に戦いを見ていたプレイヤーが口々に颯太とレーナの健闘を称えた。

なんだか照れくさくなった颯太は思わず皆の前で頭を下げると、更に拍手が大きくなる。



「流石颯太さんだね。やっぱりこの人達じゃ相手にならないか」


「レーナの力があったからだよ。本当にやり合えば分からない」


「またまた謙遜を。この人達完全に颯太さんの動き追えていなかったし、結果は変わらなかったと思うよ」


「そういう事にしておいてくれ」


「はいはい」



颯太少しだけ笑い、詩織もそれを見て笑顔になる。



「レーナも流石だな。良い動きだった」


「そう?やっぱり颯太の動きを常に見ているからかな?」


「でも、お前どさくさに紛れて何をしようとしていた」


「颯太を襲うよう焚きつけた男がいたから、ちょっとお仕置きしようと思って」


「そういう事はするなって言っているじゃないか。どうして分かってくれない?」


「ご、ごめんなさい……でも、颯太の事を思って」


「もし不快に思ったとしてもそれは俺が自分で落とし前をつける。レーナは何もしなくていいんだ。でも、俺の事を心配してくれてありがとな」


「颯太…!あのね、颯太!私13人も倒したんだよ!褒めて褒めて!」


「残念だな。俺はレーナの残り全てを倒している。褒めるには俺を超えてからだな」


「えー!颯太のいじわる!」


「飴と鞭って奴か。颯太さん、結構やるじゃない」


「ふっ、颯太殿も混沌とうまく付き合えているみたいだな」



怒られてシュンとしたレーナの頭を撫でて颯太は、巨大な電光掲示板まで歩いて行った。

レーナはすぐに機嫌を取り戻し、颯太の腕に抱き付いて話しかけている。



「ティアさん!そろそろ時間だ!もっと前に行ってみよう」


「は~い!行こう、琥太郎」


「うむ」


ここ最近寝不足なのか、結構あくびをすることが多くなってきました。

しかし、寝たい時に寝るのが一番ベッドのありがたみを知るというか、心地いいんですよね。

布団は俺の恋人、と言った友人は今どうしているのか。まぁそこは全然気になりませんが、確かに布団というものは素晴らしいものですよね。時代が変わってもあり続けるもの。便利さは追及され続けていますが、それでも原型を失わないものがあるって本当に素晴らしいことです。

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