憎しみの果て
「ホットケーキセットはお二つですね。少々お待ちください」
現在調理室に人盛りが出来ていた。廊下にも行列が出来ており、他校生もいるようだが、それ以上に大人が多かった。これは一体どういうことだろうか。
「またホットケーキセットだ。今度は2つ!なんで皆ホットケーキを頼むんだ…」
厨房に顔を出した颯太の疑問に歩美が答える。
「それはね、香織が今回取り寄せたホットケーキミックス。あれ、ハワイ産のでね。なら、事前に宣伝してみてはどうかなって宣伝したらいっぱい人が…」
「相変わらずのお嬢様だ……」
「ほい、ホットケーキ2つメイプル仕上げっと。コーヒーは~!」
「はいはい!今年は前回よりも忙しいよ!」
「上条倒れるなよ」
「ははは、まだまだ頑張れるさ」
「器用な上条君にはコーヒーを入れて貰っているの。ほら、なんか淹れてる姿それっぽいでしょ?」
「確かにな」
ドリップコーヒーにお湯を通す姿はまるでカフェで働く店員のようで、その姿に颯太は苦笑しながらホットケーキセットを持って行った。
「お待たせしました。こちら、ホットケーキセットでございます。お熱いのでお気を付けて」
「はい、ありがとう」
「良い香りだわ」
誰かの保護者らしき夫婦の会話を聞きながら颯太は一度客の数を見るため廊下に出る。すると、そこには―――
「あ!!颯太だ!!」
「来たぞ」
「颯太……久しぶり……」
「颯太殿、なかなか似合っているな。私もその服を着たいところだ」
「ガウ」
「詩織と伊澄さんは分かっていたが、まさか滉介まで来るとは……―――まず琥太郎サイズの服はないと思うぞ」
「そんな………」
「琥太郎のことは放っておいて……―――お昼前だと混んじゃうと思うから今来てみたんだけど……凄い混んでるね…」
詩織や滉介や伊澄、ガンドレアと琥太郎が現れ、颯太は駆け寄る。
「学祭とは思えないほどの盛況っぷりだな。颯太のところは毎回こうなのか?」
「俺もさっきそのタネを聞いたんだが、香織さんが高級のホットケーキミックスを取り寄せたみたいでさ。なんでもハワイのホットケーキミックスだとか」
「えええ!さ、流石お嬢様はやることが違うね……」
「食べるのは久しぶりかも……」
「あ……伊澄さんもお嬢様だった……」
「俺は小さい頃に1、2回食った程度だ」
「青森のい、田舎育ちの滉介も!?」
「おい、それはどういう意味だ」
「まぁそんな感じで朝っぱから混んでてさ。今来て正解だったな」
「うむ、先ほど詩織が昼に来てみてはどうかと言っていたのだが、この様子では並んでいるだけで昼が過ぎてしまうところだったな」
「今来て正解だった……」
と、久しぶりに会えた喜びを皆で分かち合っているとホールで颯太の呼ぶ声がしたところで慌ててホールに戻る。
「おい颯太…!!あの可愛い女の子2人は誰だよ…!!」
「友達だってば。お前、手を出すなよ」
ホールに戻るなり耳打ちしてくる健太が入り口で順番を待っている詩織と伊澄をちらちら見ながら言ってくるので、颯太は睨みを効かせてオーダーを受けに行く。
「香織さん、詩織たちが来ているよ」
「え!?あ、ほんと!忙しくて気付かなかったわ」
せっせと料理を運んだりオーダーを受けたりと忙しい香織に近づいて呼びかけると、香織は入り口に顔を向ける。すると、香織の視線に気づいた詩織と伊澄が手を振ってくれ、颯太は行って来るよう促す。
「で、でも今忙しいし……」
「そんな忙しさなんて変わらないから行ってきなって。俺もさっきちょっと話してきたし」
「そ、そう?それじゃちょっと行って来る」
香織とって文化祭に他校の友達が遊びに来るというイベントに彼女はとても嬉しそうで、早速入り口で香織は詩織たちときゃっきゃと話を始める。
「なーるほど。香織さんの友達だったわけね」
「まぁな」
「見ない顔だが、他校?」
「あぁ、あの青髪の子は長町の。あの白髪の子は東京。で、あの銀髪は青森」
「待て。最初は良かったが、後ろの2人は東京と青森だって!?お前どうやって知り合ったんだよ……―――あ、もしかしてその例のオンラインゲームってやつか?」
「そうだよ」
「それ俺にも教えてくれよ」
「無理だってば」
「なんでだよおおお!!お前ばっか美少女に囲まれてえええええ!!!」
「うわ!!やめろ!!引っ付くな!!」
「俺も美少女ときゃっきゃうふふしてえよおおお!!」
「お前にはマネージャーとやらがいるだろうが!!」
「それこそ無理だってばああああ!!あいつ容赦なく股間蹴るような奴なんだぞおおお!!」
「んなこと仕事やれっつうの!!香織さんの分まで働かなくちゃならんだろうが!」
泣きついてくる健太を無理やり引きはがしながら颯太は香織がいなくなった穴を埋めるために働き始めるのであった。
そして地獄のようなお昼のラッシュを捌ききった颯太と香織は、竜也とも合流して校庭にやってきていた。
「結局空き時間を見つけられなかったね………詩織達と校内見て歩きたかったんだけど……」
「仕方ないさ。まぁでも、午前頑張った分午後は自由にしていいそうじゃないか。飯食ったら皆と回ろう」
「俺も午後からなら大丈夫だぜ。午前遊べなかった分思いっきり遊ぼう」
「そうね。えっと、颯太くんのお父様とお母様が場所を取ってくれているそうだけど…」
「そのはずだ―――………メールによれば父さん達はこっちにいるらしいが……」
「おーい!!こっちこっち!!」
「お!」
皆颯太、香織、竜也が来るまでお昼を食べずにいてくれたらしく、天風家が持ってきたブルーシートの上で詩織が手を振っていた。
「あ、どうも!藤原竜也って言います。わざわざブルーシートを用意してもらってすみません」
「こんにちは。妹の藤原香織と申します。私達を待っていてくださって本当にありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ。どうも、颯太の父。達郎だ」
「母さん、昼飯作って来なかったよな」
「ええ、だから屋台で色々買ってきたから好きに食べて」
竜也と香織が颯太の父達郎に挨拶をしている脇を通って颯太は、レーナの隣に座る。
「颯太颯太!チョコバナナおいしかったよ!」
「おお、そいつは良かったな。リーナも食ったか?」
「もちろんよ。学生が催すものと聞いてちょっと心配だったけど、とても満足しているわ」
「相変わらずお前は上から目線だな……颯太、豚汁あるぞ」
「あぁ、サンキュ」
「ボルケーノとアルテミスは何してるの?ここにいないね」
「あの2人なら屋上にいるぜ。ボルケーノは図体がでかいから屋上で飯を食っているんだが―――」
「アルテミスが流石に可哀想だからと言って一緒にご飯を食べているのよ」
詩織の疑問に彼女の隣に座ったアルテミスについて香織。詩織の隣に座る琥太郎の隣に腰を下ろす竜也がボルケーノのことについて答える。
「意外とあの2人は仲良し……」
そして竜也の隣にいる伊澄がガンドレアを撫でながら呟く。
「んじゃクレアさんと兄貴はどこだ?」
「クレアさんと和彦ならまだ2人で屋台を巡っているんじゃないかしら」
「母さんそれまじ?」
「朝もちょっと思ったんだけどさ………クレアさんと颯太のお兄さんってもしかして……」
「え、それほんと!?え、嘘?!きゃー!!」
「……あのクレアに春が……?」
「待て、俺は颯太の兄貴を見たことがない。ちょっと誰か説明してくれ」
詩織の発言によって一気に恋バナへ発展し、女子3人はきゃっきゃと盛り上がり始め、和彦を知らない琥太郎と滉介だけが置いて行かれる形となった。
「颯太!クレアさんのこと将来おねえさん!って呼ぶようになるかもしれないね!」
「まだそうと決まったわけじゃないだろ!」
「私はクレアがお姉さんになってもいいかな~。クレアは優しいし」
「ん、まぁそれには同感ね。わたくし達のギルド内で一番年上で面倒見がよくて、一番ギルド内で強くて、物知りで―――って完璧すぎでは?」
「隙がない人だよな。クレアさんがいてピンチになったことってあったか?」
「俺の記憶の中ではないな。勢力戦の時もクレア一人で戦線維持している時なんてざらにあったわけだし」
「ニヴルヘイムが規格外の神器ってのもあるけど、それを使いこなすクレアの技術も凄いね。颯太、これは身内がラスボスなパターンだよ」
「最後には勝たなくちゃならん人ばかりに辛いな」
「私達は颯太くんのことを応援しているよ。まぁもし当たった時は容赦しないつもりだけど」
「あたしだって颯太のことは応援しているけど、やっぱりお情けで勝ってほしくないからね。もちろん全力で行くつもりだよ」
「俺もだぜ!」
「おいおい、俺ばかり目の敵にするなよ。俺以外にも当たるかもしれないだろ?香織さんが竜也と当たったりとかな」
「なんだか兄さんには勝てる気がするわ」
「ちょ!!今の冗談に聞こえないんだけど!?」
楽しそうに会話をする颯太達の様子を母さんと父さんは離れた位置で見ていた。
「こんなにたくさんの友達に囲まれて、本当に良かった……」
「……そうだな…」
「いつの間にかこんなに友達が出来ていて最初は何事かと思ったけど、皆本当にいい子達ばかりで……」
「和彦もようやく結婚してくれそうだしな」
「うふふ、あんな綺麗なお嫁さんを貰ってくるのであれば文句のつけようがないですね」
「ゴルフも出来るしな…」
「腰を痛めても知りませんよ」
「むぅ……」
前に一度だけゴルフをやって腰を痛めたことを思い出した父さんは、苦い表情を浮かべるのであった。
ドクン―――――!!!
「ん?」
「もしクレアさんが結婚するとしたら俺達式に呼ばれるかね?」
「よ、呼んで欲しいなー!!あれ!あれ取りたい!」
「ブーケトス……?」
「伊澄さんそれ!!それ!!ブーケトスやってみたいんだよね!」
「あ、私もちょっとそれ興味あるかも…」
「颯太?どうかしたのかしら?」
「いや、俺の気のせい――――」
ドクン―――!!ドクン――――!!
「―――じゃない!!なんだこの心臓のような音は!!」
まるで心臓の鼓動のような音が聞こえたと同時に颯太達は反射的に立ち上がった。
「なに…?凄い嫌な気配……なんだけど、この気配あたし知っている……―――琥太郎、まさか現実世界で戦わないよね……?
「詩織の読みは当たっているかもしない……」
「竜也!!香織さん!!ボルケーノとアルテミスを呼んで来い!!」
「あ、あぁあ!分かったぜ!!」行くぞ!香織!
「了解したわ!!」
「伊澄さん!ガンドレアの索敵!!」
「了解……!!ガンドレア…!!」
「ガウ!!」
「レーナ……行けるか…?」
「う、うん……やってみる……」
「ちょっと颯太、一体どうしたのよ」
「母さん……」
「颯太、説明しろ」
「父さん……」
鼓動は次第と大きくなり、既に神器を持たない一般の人々にも音が確実に聞こえてしまっている。
周りが混乱の極みになりつつある状況下で颯太は心配そうな声を出す母さんといつもの冷静な父さんの瞳を受ける。
「颯太………もう仕方ないね……」
「あぁ……そうだな……」
くいくい、と袖を引っ張るレーナの言葉を受けて颯太は両親にランゲージバトルのことについて打ち明けることを決めた。
「父さん、母さん。今夜全部話すよ。だから、今は学校から逃げてくれ」
「ちょっと颯太…―――」
「分かった。母さん、行くぞ」
「お父さんまで―――……わかった。颯太だけじゃなく、皆も気を付けなさいよ」
『はい!!!』
「颯太、父さんはここの人達を避難誘導させる。お前は逃げろと言ったが、息子に任せっきりというわけにもいかん」
「父さん……でも、危なくなったらすぐ逃げてくれよ」
「うむ。では、母さん行くぞ」
「はいはい」
「皆さん!!学校の敷地内から出てください!!慌てず!ゆっくり出てください!!」
「学校は危険です!!今すぐ学校から避難してください!!」
出口を指差しながら避難活動を始めた両親を見て颯太も決心をする。
「颯太、あたしもお父さん達に琥太郎のこと言おうかな」
「どうして?」
「なんだか颯太のご両親を見ていたら、そう思ったの。やっぱり親に隠し事があるってなんだか後ろめたい気持ちだからね」
「俺は流石に両親には言えないが、姉ちゃんと祖父母には言おうかなと思ってる」
「……私は全然後ろめたくない…」
「ガンドレアは機械だもんね~いいなぁ……すっごい便利そうだし…」
「ほんとガンドレア便利………あ、皆来るよ……」
「まだ避難が終わっていないが……やるしかないか…!」
伊澄の声が発せられたと同時に突如何もない青空を裂いて、巨大なドロドロのドラゴンが現れた。
『オオオオオオオ………』
「きゃ、きゃあああああああああ!!!!」
誰かの悲鳴はまた新たな悲鳴を生み、恐怖はやがて連鎖して我先にと皆死に物狂いで学校を出ていく人の波となった。
「アジダハーカ……!」
「うっそ!!おかしいと思ってたけど、やっぱりなの!?どうして!?あれはレギュンさんと番人が!!」
「ここに現れたということはそういうことなのだろう」
「クレア!!もう!!いつまで和彦とイチャイチャしてたのさー!!」
「な!?わ、私がい、いいいつ、だだだだ誰と!?イチャ……イチャイチャだって!?」
「うわ、クレアのあんな表情初めて見たぞ……お前の兄貴がどんな人間なのかますます興味出てきた」
白い縦セーターと赤いマフラーとジーパンという出で立ちのクレアが校舎から現れた彼女であったが、いきなりレーナにそんなことを言われてクレアの顔が真っ赤になる。
「将来颯太のおねえさんになるんですよね!」
「ま、まだ私と和彦君はそんな関係では……―――そ、そんなことより!今はアジダハーカのことだ!」
「っと、忘れるところだったな。で、あれはどうする?現在あいつはこっちに現界するのに手間取っているのか顔を出している程度だが…」
初めてのクレア弄りに熱が入りそうになるものの、全員の視線は地上30m付近で穴をあけてこちらを覗いているアジダハーカへ向けられる。
「お、遅くなりました!」
「待たせたな!!」
「まさかまた現れるとはな…」
「完全に破壊しきれなかったようですね…」
そしてそこへボルケーノとアルテミスを連れた竜也と香織が帰ってくる。
『オオオオオオオオオオ!!!!!コ………コン………ト…ン!!!!!』
セイリュウ、シンだったモノはアジダハーカの口を借りて呪詛を吐く。それと同時に空間が振動し、モノクロの波動が学校を呑むかのように円を作る。
「む!?奴め、ここをランゲージバトルの世界に置き換えるつもりだ!」
「……むしろ都合がいい……ガンドレア…獣化!!」
「ガウ!!」
「むしろこのまま現界されたら困るところだったしな。レーナ!」
「うん!」
「戦えるのであればやりようはいくらでもある」
「さぁ、行くわよ。滉介」
「香織、準備はいいですか?」
「ええ!もちろんよ!!ユキナちゃんの敵を取るんだから!!」
「てめえの好きには二度とさせねえ」
「その怒り、力に変えて見せよう」
「またあのヘドロと戦うのかぁ……切断、刺突、破砕全く効かないからちょっと苦手なんだけど、そんなことも言ってられないよね!!」
「詩織、私も二度と相手したくない敵であることに同意する。だが、ここで止めなければ奴の標的が別に移るだけだ」
「そうだな。この状況を打破し、皆を守れるのは我々神器使いのみだ。で、あれば我々が戦うのは必然だったな」
それぞれが武器を手に持ちながらこちらへ現界しようとするアジダハーカを見据える。
「滉介と伊澄さん、クレアさんと詩織は分かっていると思うが、香織さんと竜也は達はアジダハーカと戦うのは初めてのはずだ。そこで忠告だが、絶対にあいつに触れるな。触れたら神器ごと取り込まれるぞ」
「………わかった……回避を優先しながら攻撃するわ」
「了解したぜ」
「颯太どうする。まだ奴はこちらに来るまで時間があるようだが、ここで先制攻撃を仕掛けるのはどうだ?」
「いえ、下手に刺激して避難している人たちに被害が及ぶことだけは絶対に避けなければならないです」
「なるほど。確かにそれだけは避けなければならないな。では、今出来ることをするとしよう」
クレアは前に出ると大剣を地面に突き刺す。
「ニヴルヘイムの使い手クレアが命ずる―――これよりここは我が神域となる―――故に全ての権限は我にあり―――故に我は皇帝特権を行使する―――!」
カッ――――!!!!と一瞬にして空間、大地が凍り付き、颯太達が吐く息も白くなる。だが、息が白くなるだけで凍てつくような寒さは全く感じなく、そこで颯太はアジダハーカを見上げる。すると、アジダハーカの顔がパキパキと徐々に凍り付きはじめ、どうやらこの結界は味方以外の敵に対して氷結継続ダメージを与えるようだ。
「く、クレアさんこんなスキル使えたんですか!?これ一体どういう―――」
「これは『皇帝特権の行使』と言い、一時的に自分の周辺エリアを自分の領域と認定して自身のパラメーター強化と相手に継続ダメージを与える結界型スキルだ。だから、こんなことも出来るようになる」
そこでクレアが左手を水平に振ると雪が降る厚い雲を引き裂いて巨大な氷塊が落下し、避難する人々を守るように壁を作り上げていく。
「パッシブスキルのAP消費軽減に合わせて更にAP消費軽減する便利なスキルなのだよ。まぁこれは過去にニヴルヘイムを使ったプレイヤーのスキルを使わせて貰っただけだが」
「これがただのスキルっていうんだから恐ろしい神器だ……」
「ほんとクレアさんが味方で良かったわね…」
『グオオオオオ!!!』
「流石に今のスキルを見て悠長にしていられないと思ったか!?颯太来るぞ!!」
「滉介!!今回はフルパーティー戦だ!タンクはお前に任せるぞ!」
「あぁ!そういうことなら任せてくれ!やるぞリーナ!!」
『盾の神器の本領発揮ね!!』
泥が落ちるかのように引き裂かれた空間からどろりとアジダハーカが地上に着地する。
『グロロロロロ……―――クオオオオ!グバアアアアアア!!!』
『ブレスよ!!攻撃の範囲演算はわたくしに任せて滉介は突っ込んで!!』
「了解!!」
「滉介さん!狩猟の加護をあなたに!『リジェネスト・アルテミス!』」
「私からも巨人たちの力を授けよう!『アーマー・オブ・ヨトゥンヘイム!』」
「はは!2人ともそんなバフが使えたんだな。すげえ助かる!」
HP自動回復と敏捷値と幸運値が一時的に上昇する香織のバフと防御力と攻撃力を大幅に上昇させるクレアのバフを受けて走り出した滉介はアジダハーカのブレスを受けるため、大剣を盾に変形させる。
「反射じゃだめだ……ならば―――!!」
位置についた滉介は地面を滑りながら穢れを知らぬ純白の天使の翼があしらわれた盾を『ガン!!』と地面に突き立て―――
「『フォートレス・ガーディアンシールド!!』」
滉介が構える盾の眼前に更に巨大な5mほどの透き通る黄金の盾が現れ、アジダハーカのブレスと衝突した。
「滉介が攻撃を受けた!!行くぞ!!詩織!!」
「うん!!―――あたしと颯太が同時に仕掛けるからクレアさんはその次にでかいのどかんと!!」
「では!攻撃のチャージに入ろうか!」
「兄さん!伊澄さん!私たちは身体から伸びる触手の撃破を!!」
「射撃なら任せろ!!」
「精密射撃なら竜也にも負けない……!」
滉介がブレスを受けた瞬間颯太と詩織とクレアが走り出し、香織と竜也と伊澄は滉介に迫る触手を打ち落としにかかる。
「手数を増やすぜ!!『アグレッサー!!』」
「わたしも……『アグレッサー』」
「皆にもこの加護を!『リジェネスト・アルテミス!!』」
攻撃速度上昇とスキルクールタイムが減少するスキル『アグレッサー』を発動した竜也と伊澄は無数の触手を炎のレーザーと灼熱のビームで打ち落としていく。
「詩織!合わせろ!!」
「まっかせて!!敏捷値限界突破!!八咫烏の衣を発動するよ!!」
『承知!!』
香織のバフによって敏捷値がEXに到達した2人は竜也と伊澄の完璧な狙撃によって妨害もなくアジダハーカに一瞬で肉薄し、まずは颯太がすれ違いざまに2つの大剣を斬りつける。
そして間髪入れず稲妻の日本刀を持った詩織が黒い旋風と化し、颯太とすれ違ってアジダハーカの肉体に刀を突き刺したまま高速で抜けていく。
「おお!うおおおおおお!!」
「はぁああああああああ!!!」
強引にUターンした2人は大地を抉りながら何度も何度もアジダハーカを斬りつけ、2人がすれ違う度にアジダハーカの間に風が生まれて、やがてそれは竜巻と化す。
「詩織!!」
「クレアさんに繋げるよ!!」
「雷光撃!!」
「グングニル!!」
二刀流になったことで雷撃が進化し、強力な稲妻を纏った3連撃を放ったあと大剣に纏った雷を暴走させて辺り一帯を吹き飛ばす雷光撃を颯太は真正面から放ち、アジダハーカの背後にいる詩織は大きく後方に跳んで距離を取ると、走り出す。
バチバチと足元から稲妻を迸らせる詩織の足は徐々に速くなり、やがて遠くで見ている香織の視界から詩織の姿は消えた。
まるでジェット音のような音ともに前方へ飛んだ詩織は辺りに衝撃波をまき散らし、砂埃を上げ、大地を抉りながら稲妻の刀を突き出すかのように構え、自身が放つ突進系最強スキルを発動する。
そして詩織が衝突する寸前に颯太の攻撃が終わり、彼がアジダハーカから離れた瞬間音を置き去りにする稲妻が駆け抜けた。
アジダハーカに詩織が纏っていた衝撃波が衝突し、颯太が生んだ衝撃波と彼女が発生させた衝撃波がぶつかり合って凄まじい爆音が生まれ、更に斬られた切り口からその身を焦がす稲妻が迸る。
『クレアさん!!』
2人はそこで初めてクレアを見る。そこにはまるで台風のような氷風を大剣に纏わせたクレアがおり、颯太と詩織の攻撃を受けて怯んでいるアジダハーカへ大剣を向ける。
「滉介少年!!離れたまえ!」
「おっと!!」
ブレスを受けきった滉介は後方に目をやり、慌ててその場から退避するとクレアが走り出した。
「ここまでチャージしたノールン・スマッシャーは初めてだな……!!さぁ!受けよ!!」
アジダハーカの全身を捉えたクレアは大きく振り被って氷結の大剣を振り落とした。
「ノールン!!!スマッシャーーーー!!!!」
体長15mはあるアジダハーカを易々と超える氷の竜巻がアジダハーカを襲い、その肉体を塵尻に吹き飛ばす。
『ガアアアアアアア!?!?!?!?』
それはシンの悲鳴か、それともアジダハーカの悲鳴か。苦痛にもがくアジダハーカは再生すら間に合わない一撃を受けてその身体を消滅させていく。
『ユルサン!!!!ユルサン ゾオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
「なんだと!?」
しかし、ここに来てアジダハーカは攻撃を受けながらも塵尻になった身体をかき集めて強引に再生を始め、クレアの顔に驚愕が浮かぶ。
「クレアさん!!キャンセルだ!!態勢を立て直してもう一度仕掛ける!!」
「りょ、了解!!」
『ノールン・スマッシャー』をキャンセルしたクレアは颯太達がいる後方へ引き下がり、凄まじい速度で再生していくアジダハーカから視線を外せないでいた。




