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文化祭と忍び寄る影

それから数日、颯太達はどこかまとまりがないままランゲージバトルや日常生活を送っていた。ユキナの消失が颯太達にとってあまりにも大きすぎたショックであり、現実世界でも颯太は香織に話しかけられずにいた。



「ちょっとアンタ、話聞いているの?」


「え、あぁ、ごめん。なんだっけ?」



その日の夜、家族と食事を取っている最中、ユキナと落ち込んでいる香織ことで頭がいっぱいだった颯太は、母親から話しかけられていることに気付かなかった。



「お前最近おかしいぞ。どうかしたのか?」


「いや、何でもないんだ。それでどうかした?」


「明日アンタの学校の文化祭でしょ?それでアンタの教室どこなの?」


「2階の調理室だよ。そこで喫茶店をやる」


「へえ、喫茶店か。お前は?」


「俺はウェイトレスだよ。厨房やりたかったんだけどさ」


「颯太のウェイトレス姿は見たことないからちょっと楽しみ」


「そうね。それじゃお弁当はいらないかしら」


「お弁当ないの!?」


「その代わり母さんにいっぱい屋台で買って貰えよ」


「うん!」


「和彦、あんたも社会人なんだから少しは出しなさいよ」


「もちろんだとも」



母さんと和彦とレーナが楽しそうに談笑している間、無言でシチューをスプーンで作っては口に運ぶ父さんは、一瞬颯太の左目を見た。



「………」


「父さん、どうか、した…?」


「………いや、俺の気のせいだろう」


「え………」



嫌な気配を感じ取った颯太は言葉に詰まりそうになりながらも何とか言葉を発すると、父さんはもう一度だけ左目を見てから興味を失ったかのようにシチューをすくった。





ドクン―――――ドクン―――――………深く、深く、どこまでも深い光が届かない深淵の地で何かが眠っていた。。


ドクン――――ドクン――――


それは癒えることがない深い憎しみを抱きながら―――――


次元の狭間に葬り去られようとも自分を殺した相手を決して忘れず、襲い来る呪詛の声に耳を傾けず、ただただ己を殺した相手への憎しみだけを募らせて。



『クフフフ………起きて……起きなさい……シン…』


「ア……アァ……」



闇に落ちた青き聖なる龍は泥の龍を取り込み、今次元を超えて現実世界に悪しき姿を現さんとしていた。






「それじゃ、先に俺は出るよ」


「また後でねー!」



翌日、喫茶店の準備がある颯太はレーナに見送られながら7時に家を出た。



「ん………?」



清々しい秋風が頬を撫でる朝の空気にどこか不穏な気配が漂っていることに颯太は気付く。左目がレーナとダイレクトに繋がるようなってからというもの、人間としての視力を失った代わりに神器の反応や敵意に敏感に反応するようになった。



「なんだ………この感じは…」



肌にねっとりと張り付くような気配と誰かに対する圧倒的な恨み。



「………」



颯太はじっとりと額に滲む汗を感じながら学校へ急いだ。




「お!颯太も来たな!」


「や、遂に今日が来たね」


「おせえぞ!」


「3人とも早いな。もう皆は来ているのか」



学校についた颯太は真っすぐ調理室に向かうといつもの3人が彼を出迎え、教室を見渡すと忙しそうに準備をするクラスメイト達がいた。



「香織さんは………いるか」



颯太が香織の姿を探すと、丁度厨房から出てきた彼女がおり、忙しくともどこか楽しそうにクラスメイトに指示を出す委員長の姿があった。



「委員長がどうかしたか?」


「いや、なんでもない。それより俺と健太は表だからいいが、上条と本田は厨房だろ?打ち合わせとかないのか?」


「あるけど」


「それはもう終わったんだ。特に難しいことはないからね」


「んじゃあとは俺と健太だけか」


「天風くん!健太!」



そこへ香織とは中学からの付き合いの歩美が袋を持って駆け寄ってくる。



「おはよう、歩美さん」


「おう、あゆみっち」


「あぁ、おはよう。2人とも服が届いたから早く早く!」


「お、おう!」


「2人とも後でな!」


「またね」


「またな!」



颯太と健太は歩美に引っ張れるように隣の教室に移動した。



「へえ、流石香織さんだな」


「ははは……うちの人達ったら張り切っちゃって…」


「おお!こういう服一度は着てみたかったんだよな!」



着替え終わった男子達はウェイトレスの衣装に感激しており、口々に香織へ感謝の言葉を口にし、香織は照れた様子を見せる。



「やーやっぱ健太はダメね」


「どういうことだよ!?」


「健太はがっちりしすぎてるからどうも似合っていないというか」


「ひ、ひでえ……表出ろって言ったのお前らじゃねえか!」


「そうなんだけどさ………うん、それに比べて天風くんはぴったりね。これくらいの肉付きがいいというか」


「ん、そうか……」


「うん、颯太くん。とても似合っているよ」


「……あ……うん、ありがとう」


「てめえら!人前でイチャイチャすんじゃねえ!」


「やーねーほんと」


「ち、違うってば!ただ感想言っただけなのにどうしてそうなるの!」



見ていられなくなった健太と呆れる歩美に香織は顔を真っ赤にして反論するのであった。



「はーいみんなー!着替え終わったかな?」


「あ、先生」


「うん!男子も女子もバッチリみたいね!」



そこへ淡い薄黄色のスーツを着た担任の小町が現れ、調理室にいたクラスメイトも入ってくる。



「さてと、今日は皆が主役の文化祭です。1年生の頃も喫茶店をやったんだけど、多分忙しくなると思います」



小町はそこでちらっと香織を見る。



「だけど、忙しいからと言って慌てて行動すると危ないので、くれぐれも冷静に行動してください。私からは以上です。1日だけのお祭りですが、頑張ってくださいね」


『おー!!!』


「あ、颯太くん、健太くん」


「なんですか?先生」


「お、なんすか?」


「多分去年と同じく他校生から香織さん絡まれたりすると思うから、健太くんと一緒に守ってあげてね」


「あ~……確かに去年もそんな感じだったな…」


「毎回懲りねえよなぁ……あゆみっちも今回俺と颯太がウェイトレスにした理由って大体そうなんだろ?」


「女子のうちらが言っても余計なトラブル生むだけだしね。よろしく頼んだよ、2人とも」


「軽く言ってくれるぜ」


「まぁ俺達はそういうことが起きない祈ろう」


「ごめんね、2人にはいつも頼んでばかりで…」


「先生は気にすることないっすよ!先生もやることあるんしょ?」


「朝の会議に間に合わなくなりますよ」


「あぁ!もうこんな時間!歩美さん!香織さん!あとお願いね!」


「あ、分かりました!」


「先生あとでねー!」



小町は腕時計を見ると慌ただしく教室を出て行く。




「みんなー!9時まであと1時間ちょいだから張り切っていくよー!」


『おー!!!』



香織に代わって歩美が声を張り上げるとクラスの皆もそれに応えるのであった。





それから時間は進み天風家。



「やぁ、和彦君」


「クレアさん」


「お、おはようございます…」


「おや?君は?」


「あ、あたしは凪原詩織と言います…」


「まぁあのゲーム繋がりだ」


「なるほど……颯太の兄の天風和彦だ。よろしくね」


「よ、よろしくお願いします」


「それで後ろの男性は…」


「うむ、詩織の神器だ」


「琥太郎と申す。よろしく」


「よろしく頼むよ」



クレアと詩織と琥太郎が来ていた。人見知りを発動させつつ詩織は颯太の兄ということで頑張って挨拶し、琥太郎は詩織の間からぬっと現れて和彦と握手をする。



「あら、クレアさん!おはよう」


「ん、おはよう」


「おはようございます。お義母さま」


「お、おはようございます…!」


「おはようございます」



そして次々と現れる母さんと父さんに詩織はちょっとびっくりする。母さんとは初対面ではないが、こうも強面の父さんが出てくると流石の詩織も驚いてしまう。



「クレアさんは自分の車で行くのかい?」


「あぁ、詩織と琥太郎がいるし、後でもう3人来客があるからな」


「あ、伊澄さんと滉介が来るんですね!」


「そうとも。滉介少年は本来来る予定はなかったそうだが、リーナがうるさかったらしい」


「リーナさんらしいですね」


「それも颯太の友達かい?」


「そうだ。和彦君はリーナを見たことがなかったか?」


「そうだね。どういう子なんだい?」


「レーナの姉さ」


「おお!それは是非お会いしたいものだ」


「だろう?」


「うわ!もうクレア来てた!」



ドタドタと階段を下りてきたレーナは玄関にいるクレアを見るなりそう言い、そのまま洗面台へ行ってしまう。



「すまない、どうも慌ただしくて」


「いや、もう慣れたさ」


「クレアさんってどれくらいの頻度で颯太の家に来るんですか?」


「ふむ………大体3日に1回は来るぞ」


「週2にですか!?」


「和彦君が休みの日にね」


「え?そうなんですか?」


「お義父さまもお酒がいける口ではあるが、どうも和彦君がいないと話が進まないというかね」


「あれでも大分打ち解けてきた方なんだよ?まぁクレアさんが美人だから萎縮しちゃっているんじゃないかな」


「またまた和彦君ったら冗談を」


「ず、随分と仲良しなんだね………なんか大人の人って感じ……でもなんか…」


「実際二人とも成人しているではないか」


「そ、それはそうなんだけど…」



笑い合うクレアと和彦を見ながら詩織は変なところで女の勘が地味に働くのであった。



「では和彦君、あとで颯太の学校で会おう。私は他の3人を迎えに行ってくる」


「分かったよ」



顔見せに来たということでクレア達は颯太の家を後にして駅に向かう。



「夏以来ですね。伊澄さんと滉介と会うのは」


「そうなるな。しかし、以前滉介は来れないと言っていたというのによく今日は来れたものだ」


「案外楽しみにしていたんじゃないですか?」


「ふふ、あいつは変なところで可愛げのない奴だかな」


「全くですよね~。変にキザっぽいと言いますか」



仙台駅に着き、車を止めて駅内に入るとそこには既に伊澄、滉介、リーナ、ガンドレアの姿があった。



「伊澄さーん!」


「あ……久しぶり…詩織…」


「うん!久しぶりだね!あ、滉介も」


「ついで感が半端ないな……クレアも久しぶり」


「あぁ。元気にしていたか?」


「特に変わりはない。出迎え感謝するよ」


「気にするな。では、颯太達の学校に向かうぞ」


「足が疲れたわ。早く車のところまで連れて行って頂戴な」


「まだ全然歩いていないだろ…」



相変わらず何をするにしても上から目線のリーナに滉介は彼女の荷物を持ちながらぼそりと呟く。





「む………どうやらクレア達も来たようだ」


「私も確認できました。なるほど……あれが颯太さんのお父様とお兄様なのですね」



場所は変わって学校の屋上。立ち入り禁止のテープが貼られている屋上の扉を背にボルケーノとアルテミスはいた。2人は早朝から学校に張り込んでおり、朝からずっと今もこうして学校周辺を見張っている。



「確かに似ているな。颯太殿がもう少し痩せて眼鏡をかければああなるのだろうか」


「お父様の方も凛々しいお方ですね。颯太さんが真剣な表情になった時とそっくりです」


「知らぬ間のうちに我々は颯太殿を深く観察してしまっているようだな」


「ふふ、ほんとですね」


「では、アルテミス。一般の人々も入ってくる時間となった。我はこのガタイ故に校内を歩き回るには少々目立ちすぎる。校内の警護、頼んだぞ」


「ふふふ、任されました」



2mを超える男が何度も校内を歩き回っていれば不審者として通報されるかもしれないと昨日竜也に言われ、鈍痛の如く響くボディーブローを受けたボルケーノは若干気を落としながらアルテミスにそう命令し、彼女はくすくすと笑いながら屋上を後にした。



「………何故我はこんなにも大きいのだ…」



その問いに答えるものなどもちろん存在しない。





「いらっしゃいませー!」


「ジャンボたこ焼きですよー!」


「クレープいかがですかー!」


「わー!お祭りってこういうものなんだね!」


「レーナ、あまり離れちゃだめよ!」


「わ、わかっているって」



無事クレア達は和彦たちと合流し、現在は校庭の屋台エリアを見て回っていた。ちなみに詩織、伊澄、滉介、琥太郎、ガンドレアは別行動をしている。



「か、母さん……あの子は一体…」


「あら、そういえばお父さんがリーナちゃんと会うのは初めてだったわね。レーナちゃんのお姉ちゃんなの」


「なに!?」


「父さん、急にカメラを取り出すなよ…」


「ははは、お義父さまも流石にレーナの姉とあっては動かざるを得ないか」


「む、むう……」


「レーナ!リーナ!」


「なに?」


「なによ」


「お義父さま、今ですよ」


「2人ともピース!」


「ピース!」


「ぴ、ピース…」



クレアが2人を呼び、和彦がそう言うと突然のことながらもカメラを構えている父さんにレーナは元気よく、リーナは照れながらも妹の手を握ってピースをする。


カシャ――――!



「と、撮れたぞ」


「よーし!2人とも父さんが好きな食べ物を買ってくれるぞ。なにがいい?」


「ほんと!?なら私はクレープ!チョコとバナナとたっぷりのクリームのやつ!」


「わ、わたくしもクレープがいいわ!イチゴたくさんの!」


「よしよし!だってさ父さん!」


「な!?か、和彦………し、仕方あるまい……分かった。どれ、クレープ屋はどこだ」


「やったー!お父さん大好き!」


「感謝するわ、颯太のお父さん」


「むむぅ…」


「ははははは!ここまで愉快な父さんは久しぶりに見たぞ!クレアさん、今日はお酒が進みそうだ!」


「私もあんなデレデレのお義父さまを見れて嬉しいよ。やはり連れてきて正解だったな」


「私もレーナちゃんとリーナちゃんに手を引っ張られて喜んでいるお父さんが見れて嬉しいもんだよ。なにせうちには女の子はいないからね。あーあ2人ったら……お母さん見てられないからお父さんのところに行ってくるわ」


「不器用なお義父さまに元気っ子のレーナは手が余るようだ」


「今日は更にもう1人追加だからね」



『混んじゃうから早くー!』『そうよ!クレープは鮮度が命なの!早く!』とレーナとリーナに腕を引っ張られてクレープ屋に連れていかれる父さんを見ながら3人は笑う。



「しかし、颯太の学校の学祭は人がいっぱいだな」


「クレアさんのところは違かったのかい?」


「私のところは研究発表くらいしかないつまらない学校だったよ。だから、こうして学祭というものに参加するのはこれが初めてだ」


「そうだったんだ。実は僕も颯太の学校に来るのは初めてなんだ」


「ん、そうなのか?颯太は2年生だろう?なら、去年の学祭は来なかったのか?」


「まぁ来る理由がなかったからね。レーナがいなければ僕も母さんも父さんも颯太の学校の学祭に来なかったさ」



『きゃー!可愛い!お人形さんみたい!もう可愛いからバナナとイチゴオマケするね!』と可愛さを全力でアピールしてオマケをしてもらっているレーナとリーナを眺めながら和彦は語る。



「では、レーナに感謝しなければならないな」


「そうだね。なんだかあの子が来てからうちの家族は変わったよ」


「私も颯太と出会ってから色々変わったさ」


「あ、えっと……そ、そうだね!う、うん!」


「ふふ、なんだそれは。らしくないぞ、和彦君」



美しいブロンドの髪を掻き分けながら流し目で見てくるクレアに和彦は不覚にもドキッとしてしまい、しどろもどろになっているとクレアは普段颯太達には決して見せることはない花が咲くような笑顔を見せるのであった。

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