四神セイリュウ決戦 7
「うわ!?と、飛ばされ――――!」
「ティア!大丈夫か!!」
「た、助かった……ありがとう」
レギュンがブラックホールに飛び込んで数秒後、まるでガスタンクが爆発したような圧倒的な熱風と爆発の衝撃波が颯太と詩織を襲い、颯太は飛ばされそうな詩織の腕を掴んで地に踏ん張る。味方の自分たちですらダメージを受けてしまいそうなくらいの爆発はやがてブラックホールと共に消えていき、その場には静寂に満たされた洞窟だけが広がっている。
「レギュン………」
「レギュンは…?」
『恐らくあの空間と共に消えただろう…』
「そんな………」
「ミレイが最後笑っていたのはこの奥の手を持っていたからなのか…」
『初めから我々を飲み込むつもりだったのだろうな……疲弊した颯太殿とティアなら間違いなく飲み込まれていた…』
「レギュンがいてくれたからあたしたち助かったんだね…」
「こんな別れ方あるかよ…!」
「颯太…」
颯太は悔しさで握った右拳を地面に叩き付ける。
「俺は弱い…!どうしてこんなに弱いんだ…!!くそ!くそ!くそくそ!!」
彼は初めて悔しさによる涙を流した。
「おっと、上にいたアジダハーカの反応が消えたね」
「ミレイがやられましたか…」
「アジダハーカなら颯太に勝てると思っていたのだろうが、あてが外れたな」
システムの力を借りてもなおクレアとレンに勝てないシンの怒りのボルテージが上がっていく。
「おのれ…!おのれおのれおのれ!!」
そして最も信頼していたミレイの敗退によって彼は怒りで我を失う。
「クレアさん」
「なんだ」
シンの怒りに呼応して左右の龍もパワーアップし、荒れ狂い始める。そんな戦いの最中にレンはクレアを呼び、クレアは彼の隣に立つ。
「レギュンが逝ったよ」
「あぁ………知っているさ…」
逆巻く炎のように強大な神器反応を誰よりも早く気付いたクレアはここまで表情を崩すことがなかったが、ここにきて初めて悲しみの表情を浮かべた。
「颯太君の階層でアジダハーカと同時に消滅……相打ちかな」
「あいつと相打ちする相手など私しかいない」
「――――それもそうだね。それじゃよほどの緊急事態が起きたのか」
「それしかないだろう。あいつを倒すのは私だけだ」
「ふふ、壊すのは――――じゃないんだ?」
「もうそんなことどうだっていい」
「変わったね、クレアさん。しかし、一体君を変えたのは誰なのか……少し興味あるんだけど」
「無駄な詮索をするな。レン、行くぞ」
「はいはい」
静かに闘志を滾らせるクレアを見てレンは芝居かかったように肩をすくめながら彼女の後に続いた。
「リーナ、まだか?」
「うるさい!ちょっと静かにしてて!」
「………」
額に汗を滲ませながらシステムの解析をしているリーナは、ちょっと呼びかけただけの晃介へ怒声を浴びせる。
「あーもう!ちょっとガンドレア呼んできなさいよ!」
「無理に決まっているだろ…」
「そんなこと知っているわよ!」
「………」
「クゥゥン…」
何を言っても理不尽な逆切れをされるリーナに晃介は溜息を吐く。そんな晃介の様子にフェンリルは気の毒そうに彼を見上げ、晃介は気にしてないという気持ちを込めてフェンリルの頭を撫でた。
「どれくらいかかるか分かるか?」
「分からない!管理者パスワードにハッキングしているんだけど、これ作ったの誰よ!神器ですらお手上げクラスのファイアウォール作るとか頭おかしいんじゃないの!?」
「お手上げなのか?」
「わたくしじゃなかったらとっくの昔に諦めているって言ってんの!」
「……………」
晃介は無言でFDを取り出してフレンド一覧を開く。そして伊澄宛てにメッセージを飛ばした。
「あんた余計なことしたら承知しないわよ!これはわたくしがやるんですから!」
「でもお前さっきガンドレア呼んで来いって――――」
「言ってない!!!!」
「理不尽だ………でも、一応伊澄にメッセージ飛ばしたからな。お前のわがままで皆の負担が増えることになっては作戦が失敗してしまう。今一度言うが、ユキナの救出が第一の目標であり最低限クリアしなくちゃならない目標なんだぞ。要するに作戦の成功失敗は俺たちにかかっているんだ」
「………わかったわよ。でも、ガンドレアが来る前に解いて見せるんですから!」
そして晃介のメッセージは第一層で防御壁を張っている伊澄の元へ届く。
『ん………晃介からのメッセージ…?珍しい…』
ギルドの中で最も関わる確率が低い晃介がこんなタイミングでメッセージをよこしてきたことに驚いた伊澄は周りに煙幕ミサイルを叩き込んで一度戦線から離脱する。
『ガンドレア、オート戦闘モード…』
『ガルウ!!』
自分の操縦権をガンドレアへ引き継いだことで伊澄はメッセージのウィンドウを開く。そこにはシステムのハッキングをしなければユキナを助けられない、という短くともはっきりと自分にしか出来ない言葉が書かれており、彼女は自分の相棒に礼を言って操縦権を取り戻す。
『竜也…』
「どうした伊澄ちゃん!」
『最下層でどうしてもわたしの力が必要になった……行ってきても大丈夫…?』
「問題ねえよ!行ってこい!」
「伊澄さん!ここは大丈夫だから行ってきて!!」
「君がいなくてもボクが働くから問題ないよ」
若干1名から挑戦的な言葉を受けて一瞬むっと来る伊澄であったが、敵へ分け目も降らずに下層へ飛び込んでいった。その途中タイタンの神器使いとすれ違う。どうやら彼も仕事が終わって竜也たちに加勢してくれるらしい。
『タイタン……』
「下へ行くのか?なら、上は任せよ」
『うん…任せた…』
敵ではあるが、その自信に満ち溢れた言葉を聞いて伊澄自然と彼へ自分の後を任せていた。
伊澄は走る。2層目と続いて3層目。
「伊澄さん…?」
「あれ、どうしてここに…」
『晃介からSOSを受けた……あなたたちこそここで何を項垂れているの…?』
まるで泣いた後のように泣き腫らした颯太と詩織の顔を見て伊澄は不思議に思い、そして気付く。
『レギュン………――――彼女は…彼女はどこ?』
それは颯太と詩織に尋ねたものではなく、自分に問いかけているものだった。すぐさまガンドレアの索敵レーダーを最大までに広げて下にいるクレアや晃介の反応と上にいる竜也達の反応が浮かび上がる。しかし、レギュンだけはいくら探しても見つからなかった。
『そんな………彼女がやられるなんて……』
「レギュンは俺たちを助けるためにアジダハーカが作ったブラックホールに飛び込んだ…」
『………』
ジャリ―――と伊澄は洞窟の床を観察する。そこにはまるで何かに吸い込まれた後のような抉れた岩肌と圧倒的な熱量によって溶けて変形した岩肌があった。
『そう………彼女は……』
「俺にもっと力があれば…!」
『………詳しい話はあとで聞くから2人はここから離脱すること…』
項垂れる颯太を放って伊澄は最下層へ向かった。
『………あなたは操られていなかったのね……―――カレラとユーノと一緒にいたのも2人が暴走してゲームを壊してしまうのを未然に防いでいたのね…』
レギュンはずっと道化を演じていたのだと伊澄はようやくわかった。ウォータナトスが出たランゲージバトルで神器被害の過去データを参照するとそれはもう酷い有り様で、ゲームとして成り立たないほど被害が出た時もあった。それに比べて今年のウォータナトスは過去に比べれば大人しく、非公式の戦闘で被害にあった神器も少なかった。
『レギュン………あなたの想いはちゃんと伝わったよ…』
颯太と同じくゲームを誰よりも愛していた彼女だからこそこの作戦に乗り、ゲームを壊そうとするシンが許せなかったのだろう。
『許さない………シン…あなただけは絶対に破壊する…!』
伊澄はクレアとレンがいるフロアへ飛び込んだ。
『リミッター限定解除……システムハッキング………神器シリアルナンバー1「バハムート」参照……データファイルダウンロード……――――完了…!』
「伊澄!?」
「おっと!」
『奥義!エンペラーカオスブレス!!!!!』
「お前どこから――――そ、その技はまさか!?」
ガンドレアの口が開き、暗黒のオーラが辺りに滲み出す。突然の登場にシンは驚愕し、防御をすることを忘れる。そして一瞬目を奪う輝きが部屋を満たすと、ガンドレアの口から想像を絶する竜王のブレスが空間を裂いて幾重も放たれた。
「な―――――に!?
慌てて左右の龍を盾にするもガンドレアのブレスを受けた龍は一瞬で蒸発し、シンは腕をクロスさせてこれを受けるが、腕は吹き飛び、ブレスは頭を残して胴体を燃やし尽くす。
「――――ッ!!!行くぞ!レン!!私に続け!」
「これはチャンスだね…!!!!まさかバハムートのブレスをここで見ることになるとは!」
竜王の一撃を受けて身体がバラバラになったシンはチートを使って自己再生を始めるが、そこへクレアとレンが空中から襲い掛かる。
「させん!!」
「君の神器、壊させてもらうよ!」
頭をアイスコフィンで閉じ込めて再生を阻止し、レンは一瞬で姿を変えて白銀と黄金に輝く竜へ変化する。そして光の翼から光の粒子が口へ集まりだす。
「ライトニングオメガブレス!!」
体長20mはあるアルカディアスの口から放たれた稲妻のブレスは檻をあっさり破壊して中にいる頭だけになったセイリュウに直撃する。
「ぐああああああああああ―――――!!!!!!!!」
そして更にクレアは伊澄にも見せたことがない大剣の構えを見せる。剣を肩の位置で突き出すように構え、そして走り出す。覚醒したアルカディアスのブレスを受けてなお壊れない耐久性にクレアはダメ押しの一手を放つ。
「ラスト・レクイエム!!!」
スキル発動によるアシストを受けてセイリュウとの距離を一瞬で詰めたクレアは氷風を纏う大剣を目にも止まらぬ速さで15連撃を放つ。次の瞬間伊澄とレンの視界が15分割されたガラスのように砕け散る。
視覚効果だけを受けていた2人の視界は一瞬で元通りになったが、シンだけは元に戻らず15分割されて悲鳴を上げることもなく神器ごと消えていった。




