四神セイリュウ決戦 5
一方その頃、無事颯太の足止めによって最下層にまで辿り着いた3人は、シンと対峙していた。
「ちっ……埒が明かないな」
以前に戦った時よりも遥かに力をつけたシンにクレア、レン、晃介の3人は苦戦を強いられており、クレアはつまらなさそうに舌打ちをする。何やら違法なツールを使っているのはわかるのだが、運営の介入がないことを見るにここは運営の目が入らない場所であるのは確実だ。
「ふぅ、どうするかね。あまり時間をかけていられるわけでもないし」
隣で二振りの青いビームソードを握って芝居かかったように参った顔をするレンをクレアは目だけ動かして見る。
「それには同感だが、私はこいつの神器を破壊しなければならない」
「うん、僕もそれには同感だ。だけど、ビャッコの神器使いも気になるわけでしょ?」
「そうだ」
クレアとレンは飛んできた青い炎で出来た巨大な龍を氷の塊で押し潰す、叩き切ってやり過ごす。
「であれば、晃介君だけでもビャッコの神器使いの所へ向かわせようか」
「それが一番の手か」
「彼ならやってくれるはずさ」
「晃介少年!君はユキナの救出に行け!」
「―――ッ!?了解した!」
「おっと、そうはさせませんよ!」
シンが従える体長20mもある赤色と黄色の東洋の龍が彼の声に反応して荒れ狂いはじめ、炎が巻き起こり、稲妻が迸りフィールドは立っていることすら困難な嵐と化す。
「レン、行くぞ」
「いつでも」
「最終戦争ラグナロク!!」
「玩具の兵隊というには余りにも無骨ですが……トイウォーズ!!」
走り出した晃介を援護するためクレアはラグナロクを発動して氷の覇軍を生み、レンも機械で出来た動物や鎧兵を生み出して総勢200は超える微弱な神器兵は主に歯向かう敵を殺すべく、武器を構え、言葉にならない雄叫びを挙げて襲い掛かる。
「ニヴルヘイムとアルカディアス……なんと厄介な神器でしょうか…!」
晃介へ向けて放たれた赤龍の火球は巨大な盾を持った氷の巨人の集団に防がれ、天から稲妻を落とす黄龍の攻撃は電気を生命として動く機械竜王アルカディアスの軍に吸収される。
「ワン!」
「フェンリル…?」
「晃介少年!乗れ!」
「助かる…!」
「行かせませんよ!」
シンの姿が青い龍へ変化すると、セイリュウは大気を焦がす劫火のブレスを吐き出し、晃介を守るべく間に入った巨人や機械兵を一瞬で溶かす。
「リーナ!踏ん張りどころだ!」
『ええ、盾の神器の本領発揮よ。晃介、突っ込みなさい!』
「当たり前だ!フェンリル、頼む!」
「グオオオオ!」
並みの神器ならば触れただけでコアが破壊されてしまいそうな劫火に晃介は臆さず大剣を前に構える。
「アイギスの盾!!!」
ドオオオオオオオン!!!
劫火と光の盾が衝突した。圧倒的な攻撃の前に晃介達の歩は止まる。が、そこへ流星の如く飛来する光の翼竜がセイリュウへ決死の特攻を仕掛けた。
『なにッ?!』
「シャインドラゴン…!?」
赤龍を抑えていたレンがここに来て初めて余裕のあった表情を崩して驚いた。
「これは…」
同じく黄竜を抑えているクレアがAIの行動に驚きを隠せず、シャインドラゴンを見てしまう。
『晃介!今よ!』
「フェンリル今だ!」
「ワン!」
シャインドラゴンの頭突きによって晃介に向けられていたブレスが上向きになり、彼らを阻むものがなくなる。その一瞬の隙を突いたフェンリルは加速し、セイリュウの下を通って奥へ続く狭い通路に入る。
『くッ!!このペット風情が!!』
「グオオオオ……」
自分の思い通りにならなかったことへの怒りをシャインドラゴンへ向けられ、セイリュウは劫火のブレスをシャインドラゴンに放たれる。ブレスの直撃を受けてしまったシャインドラゴンは苦しそうに声を漏らした後、ガラスが砕けるようにポリゴンを散らして消えていった。
「はは、まさか僕の指示なしに飛び出すとは……」
「あのテイムモンスターはレアエネミーか」
晃介の道を作るため2体の龍を抑えていたレンとクレアはお互いに龍をシンの元へ殴り飛ばす。
「うん、だから彼自身が自分の命を投げ捨てるに値する者だと思ったんだろうね」
「この戦いが終わったら骨付き肉をたらふく食わせてやらねばな」
「はぁ……懐が寂しくなるよ」
「お互いレアエネミーには苦労させられているようだな」
『くそくそくそくそ!!!!ペット風情が!!!!』
2人の視界の先には怒り狂うセイリュウがおり、晃介の突破がよほど彼の意に沿ぐわないことだったらしい。
「さて、奴のHPはチートで減らないみたいだけど、クレアさんは何か策はあるかな?」
「別に我々はPVPをしているわけではあるまい?」
「あぁ、それもそうだね。ならHPなんて関係ないか」
「神器コアが壊れるまで攻撃あるのみ、だ」
「いいね、そういうごり押しなところ。実に僕好みだ」
クレアの提案にレンはにやりと笑う。
「久しぶりに本気を出すぞ、ニヴルヘイム」
『はい、貴女が望むままに』
「では、僕らもやろうか」
『任せよ!』
透き通る声でニヴルヘイムが応じ、甲高く高飛車な雰囲気漂う少女の声がレンに答えてクレアとレンは武器を構えてセイリュウへ突撃した。
最下層で激しい戦闘を繰り広げられている最中、その上の層では颯太、詩織も辛い戦いを強いられていた。
「あぁぁああ……あああああ!」
「颯太!しっかり!しっかりして!!」
『ティアは颯太に声にかけている暇があったら早く攻撃して!』
「で、でも!颯太何だかおかしいよ!」
『説明している暇はないから早くしろ!!ワタシも気が長い方じゃないからさ!!』
『今は混沌に従え!颯太殿のためにも我らは少しでもアジダハーカの体力を削るのだ!』
左目から溢れ出すどす黒いオーラを抑えながら苦し気に声を漏らす颯太に詩織は一旦攻撃をやめて駆け寄るが、それをレーナは怒鳴りつける。突然の怒声にびっくりする詩織はそれでも颯太の身を案じて食い下がる。しかし、まさか自分の味方だと思っていた琥太郎にまでそう言われてしまっては、流石の詩織も颯太の介抱を諦めて再び大勢の神器と朱雀、ヴリトラ、アジダハーカへ近くの武器を手に取りながら走り出す。
「颯太……」
『颯太殿は真・暗黒大陸を維持するため無理をしている』
「………」
詩織は泥の神器を倒しながら琥太郎の声に耳を傾ける。
『その理由は分かるだろう?この覚醒能力の効果が切れれば我らはアジダハーカに近づくことすら出来なくなるからな』
「ピエエエエエ!!」
『来るぞ!!朱雀のゴッドバードだ!』
「くっ!」
全身に炎を纏った朱雀は詩織目がけて天空から急降下してきた。朱雀のゴッドバードは彼女が持つ最高火力に近いスキルで、これを受けてしまえば耐久に特化していない琥太郎の神器コアはほぼ確実に壊れてしまう。だが、そのゴッドバードは不発に終わる。
「グギャア!?」
「颯太!」
『走れ!!』
衝突寸前で颯太が放った大量の武器が朱雀を射抜き、朱雀は美しい羽根を散らしながら地面に叩き付けられる。今も詩織の行く手を阻む神器は何もない虚空から突如降り注ぐ神器の雨によって粉砕され、詩織は颯太の援護に笑みが零れる。
「グオオオオ…!!」
「あなたに構っている暇はない!!」
地面から現れたヴリトラの奇襲を躱した詩織は、がら空きの頭へ踵落としを放ち、ヴリトラをスタン状態にさせる。僅か数秒だが、詩織にとって数秒は十分すぎる時間で、スタンが解けた時には詩織は遥か遠くにまで行ってしまっていた。追いかけようと地面に再び潜ろうとしたヴリトラだったが、そこへ様々な武器が降り注いで苦悶の声を上げる。
「い………か…せ……ない…!」
レーナが抑えていた呪詛が頭の中で絶え間なく響き、颯太は気が狂いそうな意識を何とか保たせるが、今はもう武器を吐き出すことくらいしか出来なくなっており、立っていることすらなんとかという状態なのだ。
『颯太、このままだと死んじゃうけど大丈夫?って大丈夫じゃないか』
「………………」
『まぁこの神器は倒さなくちゃいけないけど、ちょっと難しいかもしれないね。まさかここまで神器を取り込んでいるは思わなかったし、勝てる見込みがこのままじゃないかな』
「………この……ままか…………」
『そ、このままじゃね………――――そんなに勝ちたい?』
「…………あぁ…」
『そっか………実はね、このランゲージバトルが終わったら左目返してあげようかと思っていたんだ。でも、もし颯太が勝ちたいって本当に心の底から思うのなら左目なくなる代わりにあいつをぶっ壊してあげる』
「……………わかった……頼む…」
『嬉しいような悲しいような……複雑な気持ちだね。それじゃ少し失礼して―――』
レーナが最後にそう言うと突然ジクジクと酷く痛む左目の感覚が消えた。すっと和らぐ感覚に戸惑いが隠せない颯太はそのまま突然糸が切れた人形のように地面に倒れる。そして訳の分からないまま沈んでいくかのように意識が消えた。
「……………」
颯太の意識が消えたと同時に暗黒大陸の効果が消え、フィールドは元の洞窟へ切り替わる。
「え!?そ、颯太!?」
『く……颯太殿の負担が大きかったか……!詩織!颯太殿を抱えて離脱だ!』
「う、うん!残念だけど、颯太の命には代えられない!」
最後に握った武器をアジダハーカに投げつけて怯ませた詩織は、踵を返すと鎌首を持ち上げて己の牙で噛み砕こうと迫るヴリトラの頭を踏んずけて空高く跳躍する。地上にいる神器はそんな彼女を生気のない瞳で見上げるが、そこへ朱雀がゴッドバードを発動させながら突撃してくる。
「大丈夫……あたしならできる…!」
身体を仰け反らせ、体勢を変えた詩織は苦無を構えて巨大な神鳥の衝撃を受け流す準備に入る。
「ピエーーーー!!」
「ふっ!!」
直前で体勢変えられたことに朱雀は気づいたが、時既に遅く、詩織は絶妙な位置取りで朱雀の攻撃を掻い潜る。
「腕がもげそう…!!!!」
ゴッドバードの風圧でそのまま勢いよく地上に叩き付けられるように着地した詩織は、痛む右腕を抑えながら颯太の元へ駆け寄る。
「颯太!しっかり!」
抱き起こした颯太の左目からは血が流れており、それは止まることを知らない。
「え!?こ、これどういうこと!?」
『覚醒能力の使い過ぎか…!?いずれにせよ早くここから立ち去るのだ!』
「そ、そうだね!」
詩織が背中に背負おうとした時、電源が入ったかのように突然颯太の意識が覚醒する。
「わわ、おっとっと、大丈夫颯太?ここは一旦引こう?」
詩織の声が聞こえていないのか、颯太は詩織の手を跳ね除けて自分で立ち上がると地面に突き刺さったままの大剣を引き抜く。
「え!?そ、そんな状態で戦うなんて無理だよ!!」
「あ………あぁああ…」
「そ、颯太?」
『これは……』
「アアアアアアアア――――――!!!!!!」
だらりと両腕を下げた颯太は、獣のような雄叫びを挙げて神器の大群へ突っ込んでいった。
「颯太!!!!」
『まずい!あれは暴走してしまっている!』
「え!?琥太郎どういうこと!?」
『混沌を取り込みすぎて意識が乗っ取られてしまっている!あのままでは死んでしまうぞ!』
「そんな…!?」
暴走した颯太は鬼神の如き強さで、普段はチャージに時間がかかる紫電砲をまるでハンドガンのような速さでフルチャージを何度も何度も連射し、瞬く間に神器たちを殲滅させていく。
「ピエエエ!!!」
「オオオオオ!!」
そこへ空中から地上から朱雀とヴリトラが颯太を止めるべく、ゴッドバードと紫色の炎に身を包んで回転しながら襲い掛かるスクリューファングを発動させて彼に迫る。颯太は神器を二つに割いて双剣にチェンジする。普段ならばここで終わりなのだが、颯太はさらに手に力をこめ、双剣は普段颯太が両手で握る大剣サイズになり、彼は2体の神器の攻撃を完全に受け止める。
「うっそ……!?」
『なんという強さだ……』
そして大剣の腹で攻撃を受け止めた颯太は、大剣の角度を変えて力場を操作すると、2体の攻撃が僅かに緩んだ隙をついて大剣を2体の頭に叩き付けて地面にめり込ませる。
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
颯太はそこからヴリトラへどす黒い稲妻を纏わせた大剣を1撃…2撃…3撃と連続して一発一発雷撃の一撃に等しい攻撃をヴリトラへ合計15連撃も放ち、ヴリトラの神器コアは粉々に砕け散った。
ヴリトラがいなくなったことで颯太の標的は朱雀へ向かう。命の危機を悟った朱雀は慌てて空へ飛び立つが、颯太の跳躍は朱雀の頭上を飛び越え、そのまま颯太は朱雀の背中に2本の大剣を突き刺す。
「クギャアアアア!!!」
絶叫を挙げて地面に落下した朱雀は激しくもがき、フィールドには美しい羽根が悲しげに舞い散る。
「颯太……………」
『これは……もはや戦いなどではない………虐殺だ…』
もがく朱雀の背中の上で颯太は剣技など関係なしに力任せに何度も何度も剣を振るう。やがて力尽きた朱雀は暴れることをやめても颯太の連撃が終わることはなかった。
「ピエエエ……」
神器コアに限界が来た朱雀もまたヴリトラと同じく力なく横たわり、消えていった。
「グギュグバアアア!!」
そこへアジダハーカのブレスが届き、颯太は大剣をクロスさせてブレスを防ぐ。パラメーターも上がっているのか、先ほどは受けきれなかったアジダハーカのブレスを完全に受けきった颯太はそのまま次の標的をアジダハーカへ向けて走り出す。
ダメージを受けることもお構いなしに突っ込んでくる颯太にアジダハーカは僅かな怯えを見せる。それを感じ取った颯太は好機を見て左手に握る大剣を力任せにぶん投げる。投げられた大剣はアジダハーカの心臓に突き刺さり、アジダハーカは苦し気な声を上げ、痛みに悶える。
「嘘……!?あたしでは全くダメージを与えられなかったアジダハーカの分厚い鱗を一撃で貫いた……!?」
さらに颯太は右腕の大剣を銃に変え、紫電砲の噴射を活かして空を飛び、突き刺した大剣の元まで行って強引に剣を引き抜く。そして稲妻を両手の大剣に纏わせると、ヴリトラに放った15連撃を傷口に正確に間違うことなく叩き込む。
「オオオオオオオオオオ!!」
暴れ始めたアジダハーカであったが、颯太は気にする素振りも見せずに開いた傷口へ飛び込んでアジダハーカの体内へ侵入した。
「飛び込んだの!?」
傷口からはエタノールのような泥が絶え間なくブシュ!グチュ!と気持ちが悪い音と共に噴き出しており、どうやら体内で颯太が暴れまわっているらしい。
「ガアアア!?グオオオオオ!!」
あまりの痛みにアジダハーカは遂に倒れた。そしてザン!!!という斬撃の音と共に中から裸のミレイを引きずり出して颯太が現れる。
「引きずり出した!」
ミレイを引きずりだしたことでアジダハーカは消え、他の神器達も存在を保てず消滅していく。
「ゲホッ!ゲホッ!!く……まさか…ミレイが負けるなんて…」
首を左手で捕まれて持ち上げられているミレイは、苦しそうにしながらも颯太を睨む。だが、対する颯太は無言で右手に大剣を構える。
「いいわ……やりなさい………ミレイを…」
「………」
生気のない瞳で颯太はミレイを地面に叩き付けるとそのまま大剣を両手で握ってミレイの腹に突き刺した。
「がはッ?!」
だが、神器コアが壊れないと見るなり颯太はすぐさま大剣を引き抜いてまた突き刺す。これを颯太は壊れるまで何度も何度も繰り返した。
「………」
『………なんとむごいことだ……』
詩織はあまりの光景に見ていることができず、目を伏せ、耳を塞いで早くこの時間が過ぎることを切に願った。
どうもまた太びです。
今回のお話は颯太君が左目をレーナに捧げて暴走状態に入り、皆をばったばった倒していく話でした。すみません、あまりお時間が取れないので短いですがここまでで。




