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四神セイリュウ決戦 3

そして場所は変わり、現在颯太、クレア、晃介、レンの4人は最奥を目指して螺旋に連なる階段を下りていた。竜也達の防壁がいつ崩れるかも分からないこの状況下で颯太は内心焦りを覚えており、そんな様子の彼をクレアは心配そうに見つめていた。



「颯太、少し肩の力を抜け」


「あ……はい」


「大丈夫だ、君が思っている以上に我々は強い。きっと全てうまくいくさ」


「そうだよ。恐らく入口のことを気にしているのだろうけど、ヒカルがいればまず問題はないさ」


「竜也も香織も強い。颯太はまずは自分がなすことをやれ」


「あぁ、分かっているさ」


「広場が見えたよ」



3人に鼓舞されて颯太は前を向く。4人は階段を下り終えて通路を走り、広場へ足を踏み入れた。まるで宇宙にでもいるかのような星々が煌めく暗黒のフィールドに戸惑いながらも4人は広場の中央に立つプレイヤーを認識する。



「随分と騒々しいのね」


「颯太、打ち合わせ通りに頼んだぞ」


「任せたよ」


「頼んだぞ」


「あぁ、こいつは俺が倒す」



シーザーから降りた颯太は大剣を抜き、銃モードへ変形させると容赦なく紫電砲を放った。



「物騒な人…」



ミレイは眉間にしわを寄せる。すると地面からドロドロの黒い液体が沸き上がり、彼女を覆って球体と化す。



「行ってくれ!!」


「颯太!その泥だけには気を付けろ!」


「了解だ!」



颯太の紫電砲を真正面から受けて防御の態勢を取っている隙にクレア達は最奥を目指すためミレイの脇を抜けていく。



「…………」


「アンタの相手は俺だ」


「貴方が混沌…?」


「そうだが?」


「そう、なら貴方に勝てば貴方の神器の能力が手に入るのね」


「お前、まさか…!?」


『あいつの体内から複数の神器反応あるよ!気を付けて!』


「そういうことか……」


「ふふふ……」



球体の状態を解除したミレイは不敵な笑みを浮かべながら液体をぐねぐねと変形させると液体は細長い触手となり、触手は一斉に飛び出して颯太に襲い掛かってきた。

颯太とシーザーは左右に散るように飛んでそれを躱す。そしてシーザーは分身を生み出して颯太より先にスキルを発動して仕掛けに出る。



「シーザー!援護しろ!」


「グルゥ!!」



しつこく颯太を追いかけ回す触手を切り裂いたシーザーは、迅雷を発動したことにより瞬間的に加速した颯太に合わせるように左右に並ぶとミレイを翻弄するべく互いに散って疾風の如くミレイを攻め立てる。



「鬱陶しい…」



再び球体に閉じこもったミレイは球体から槍のように触手を突き出すが、シーザーは最初から分かっていたかのように1体もその攻撃に当たらず飛び退く。そしてそこへ球体状態から攻撃に移ったことにより防御が薄くなったミレイへ颯太の大剣が液体を切り裂く。



「これはどう?」



切り裂いてそのままミレイへ刃が迫った瞬間彼女は笑う。颯太は背中に悪寒が走った直感に従ってスキルを強引にキャンセルして大剣を地面に突き刺して衝撃に備える。

次の瞬間灼熱の本流が颯太の身を包んだ。大剣を盾にしているとはいえ、この威力はとても耐えられそうにないことを知った颯太は、シーザーの分身に体当たりして貰ってその場から転がるように逃げる。



「すまない、助かったシーザー」



起き上がる颯太の隣に立つシーザーは不甲斐ない主を笑い飛ばすように鼻息を吐く。



「へえ、貴方のテイムモンスターは他の子とちょっと違うみたいね」


「レーナ、今のは?」


『………ありえない…そんな、嘘……でも、今の炎は…』


「レーナ…?」


『颯太、私の記憶に間違いがなければあの炎は……―――スザクの炎だよ…』


「なんだって!?」


「ふふふふふ、そうよ!この炎は四神朱雀のもの」


「何故……スザクは今回の戦いに参加していないはずだ」


「もちろん参加していないよ」


「それじゃあどうして!?」


「貴方は疑問に思ったことはないの?何故このアジトがカナリア街はずれに位置し、ダンジョン化しているのか」


「確かに思ったが、分からなかった。こっちとしてはユキナの救出で頭がいっぱいだったからな」


「それじゃこうすれば分かるかしら」



宇宙のような空間が突如として淡く青く光る洞窟へ切り替わる。



「これがここの本来の風景。貴方も見覚えがあるでしょう?」


「ここは……神器保管所に似ている……な…」


「ええ、そうよ。ここの奥に行けばやがて神器保管所に辿り着くわ」


「………ならお前はスザクの神器を…」


「食ったわ。シンの目的は眠っている1世代目の神器に接触してそれを戦力に加えることにあった。それでどうにか出来ないかとあれこれやっていたら、うちの団員に空間操作出来る子がいてね、その子の能力をちょっとアレンジして使ってみたら繋がっちゃったの。結構あっさり言ったけど、運営の目から逃れながらやる作業は大変だったのよ。作業を始めたのが………ランゲージバトル初めの頃だから……―――5ヶ月くらいね」


「………なるほどな……言いことも聞きたいこともたくさんあるが、この際四神とレーナの因縁とか全て捨て置く」



颯太の大剣に黒い稲妻が迸る。



「お前、何体の神器を食った」


「覚えてない」


「そうか…」


「なに?怒ったの?」


「あぁ、これでお前は絶対倒さなくちゃいけなくなった」


「そう、なら頑張ってミレイを倒すことね。まぁ勝てれば、の話だけれど」



そう言ってミレイは炎が煌めく翼を大きく広げるのであった。






「幹部の連中はこれで終わりか」



ハンマーを肩に担いだガドーは近くで煙草を吸っているレギュンに話をかける。



「…………」


「ここ数日元気がないように見えるが、何かあったか?」


「いや、なんもねえよ」


「……ふむ………まぁよい。ところでお前はこれからどうする」


「てめえは?」


「俺は上に戻ろう。先ほど倒した幹部がまた戻ってきては流石のヒカルも戦線を維持できまい」


「あたいはあたいで好きにやるさ」



煙草を足元に捨てて靴で踏み潰して火を消したレギュンは、気怠そうに下へ続く洞窟へ歩いて行った。



「………」


『ねえ、レギュンちゃん。この前話したクレアちゃんの言葉が気になってるの?』


「ちっ…うるせえな」



螺旋階段を下りながら突然話しかけてきたヘルヘイムに舌打ちする。


時間は5日前に遡る。カレラ・ユーノがいなくなってからか、どこか抜けてしまったレギュンは1人中央広場で昼寝していた。その隣にはメラメラと燃える火が描かれた赤いチャイナドレスを身にまとい、茶髪の髪をツインテールにした少女―――ヘルヘイムが目を閉じながら機嫌が良さそうに鼻歌を歌っていた時のことだった。



「レギュン」


「あぁ…?」



人の眠りを妨げたことによる怒りを露わにしながらレギュンが目を開けると、そこにはクレアがいた。



「なんだよ、今は眠いんだ。殺し合いなら後にしてくれ」


「いや、今日はそういう気分ではない」


「はぁ?」


「今日はとても気持ちがいい風が吹いているな」


「てめえ………」



そう言ってクレアはレギュンの隣に腰を下ろした。それに対してレギュンは隠そうともしない嫌悪感を露わにしているが、クレアはその様子をどこ吹く風のように無視する。



「ごきげんよう、クレアちゃん」


「あぁ、こんにちは。ヘルヘイム」


「んで、何の用だよ」


「レギュン、私たちはヘルヘイムとニヴルヘイムを操る神器使いなわけだが、最近私は思うのだ。過去のしがらみに捕らわれ過ぎていないか?と」


「………」


「え~?クレアちゃん急にどうしたの?」


「ふふ、そんな難しい話ではない。良ければヘルヘイムも聞いていてくれないか?」


「ん?まぁいいけど」


「私の神器ニヴルヘイムはヘルヘイムに並みならぬ怒りと憎しみを持っている」


「まぁ色々過去にあったからね~。何をやったのかは具体的に覚えていないけれど」



本当に何をやったのか覚えていない様子のヘルヘイムにニヴルヘイムは静かな怒りを滾らせ、広場の噴水が凍り付く。その出来事に近くで談笑していたプレイヤー達が驚き、ヘルヘイムはやれやれと言った風に口から風船を膨らませるが如く炎の息吹を吐いて噴水の氷を溶かす。



「こらこらニヴルヘイム。今日はそういうのはなしと言っただろうに」


「ニヴルヘイムは頭が固すぎるのよ。一体あたしが何をしたっていうの?」


「そう、今日はそれが聞きたくて来た」


「へ?」


「ニヴルヘイムはかつての大戦争で親しい友人をヘルヘイムに破壊されたそうだが、何か知っているか?」


「大戦争?なにそれ」


「なに…?」


「あぁ……クレア。先に言っておくが、ヘルヘイムは壊れてしまってんだよ」


「どういうことだ?」


「こいつはな、過去の記憶が思い出せねえほどに神器コアがイカれちまってんだ。なんで自分が神器としているのかも、このランゲージバトルが一体どういうことなのかも一切分からない状態でここにいる」


「なんだと……」


『それは本当ですか』



怒気を孕んでいるように見える氷の文字が地面に浮かび上がり、それにヘルヘイムはこくりと頷く。



『そんな…』


「だから言っただろう……ヘルヘイムの様子がおかしいとな」


「ほう、それはどういうことだい?」


「レギュンとはランゲージバトルが始まった頃から小競り合いを続けてきたが、ヘルヘイムは何故自分がニヴルヘイムに怨まれているのか、何故自分はニヴルヘイムと闘わなければならないのか理解が出来ていないように見えていた」


「まぁ何となくは覚えているらしいぜ。ニヴルヘイムとは闘わなければならないってな」


「実際私のフレンドの神器もお前のヘルヘイムに壊されたのだから、戦う理由はあったのだが、既にいない友人の敵を討つにしても本人は覚えていないだろうし、何よりも最近神器に対して色々思うところがあってな」


「あぁ、うちのリーダーから話は聞いている。神器が一体どういうものなのか、運営の狙いが何なのかもな」


「知っていたのか」


「まぁあたいには関係ない話だ。ほら、お前のとこの……そう、颯太ってやつ」


「颯太がどうしたのだ?」


「あいつがやろうとしていることに賛成しているみたいだ。運営をぶち殺すにはカオスとコスモスが手を取り合うしかねえからな」


「レギュン、お前たちは一体どこまで知っているんだ…?」


「さぁ、あたいは聞いただけだからな。うちのリーダーの真意を知っているやつなんて誰もいねえよ」


「……なるほど、レーナとリーナがカギになるのか……」


「まぁんな話なんてどうでもいい。で、お前はどうしたいんだ?」


「あぁ、そうだったな。要はもう過去のくだらないいざこざを水に流そうということだ」



考えに耽ろうとしたクレアにレギュンは呼びかけると、彼女はあっとした顔をして話を元に戻す。



「別にいいぜ」


「……提案した本人が言うのも何なのだが………随分あっさりしているな…」


「繰り返しになるが、あたいには関係ない話なんだよ。もしヘルヘイムがどうしてニヴルヘイムをぶっ殺したい言うなら協力してやらんこともないが、当の本人が覚えていないんじゃ戦う気も失せるってもんよ」


「そうか……しかし、ヘルヘイム。お前はそれでいいのか?」


「いいも何もなんであたしはニヴルヘイムに怨まれているか分からないしね。いいんじゃない?」



煽るように聞こえる言葉に一瞬氷風が吹く。が、あまりクレアを困らせたくないのか、それは本当に一瞬で広場のプレイヤー達も今の風に疑問を感じたくらいだった。



「では、今から公式の場以外での戦闘はやめにしよう。まぁ公式で会ったときはもちろん全力で行かせて貰うが」


「当たり前だボケ。あたいと互角にやりあえるのはお前くらいだからな」


「ふふ、それもそうだな。同じく私の全力を受け止めてくれるのはレギュンくらいしかいないからな」


「仲直りできてよかったね」


「当事者のてめえが言うな」


「え、えええ!?」


「ヘルヘイム、君はどこまで覚えているんだ?」


「ん?えっと……レギュンと契約を結んだ時くらい?」


「なんと……」


「ほんとにこいつは何も知らねえんだ。あたいも身体が満足に動かせれば色々連れて歩けるんだが…」



ぼそりと呟いたレギュンの言葉にクレアが興味を示す。



「なんかね、レギュンは足が麻痺して動かせないんだって」


「てめえ余計なこと言うんじゃねえよ」


「あいたっ!?」



勝手に喋ってしまったヘルヘイムの可愛らしいお尻を蹴り飛ばしたレギュンは身を起こす。



「レギュン、その願いはきっと叶う」


「…………そうだな。まぁ期待せずに待っててやるよ。ほら、いつまで寝てんだ」


「れ、レギュンが蹴ったんじゃないかー!」



レギュンはそう言い残すとヘルヘイムを連れて広場を後にした。

どうも、また太びです。

今回は颯太VSミレイ戦とレギュンに関するお話しでした。長年酷使され続けたヘルヘイムは神器に欠損が生じて過去の記憶が思い出せなくなってしまった。それに対するニヴルヘイムは一体誰に怒りをぶつければいいのか分からず苦悩する、みたいな感じです。そしてクレアの最後の言葉を受け止めたレギュンは……

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