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疑惑

『すまん!土日は親父と出かけなきゃいけねえんだ!』



どうやら家族サービス旺盛な父親によって竜也と香織は、ティアの家に行けないようだ。



「俺達だけで行くか」


「うん!電車初めて!」



仕方がないので颯太はレーナと二人で出かけることとなった。



「あら、レーナちゃんもお出かけ?」


「颯太とお出かけしてくるの」


「昼飯は要らない。外で食って来るさ」


「早く帰って来るんだよ」



お決まりのセリフを颯太とレーナに言って母さんは、洗濯物を干しに行った。



「颯太とお出かけって初めてだね~」


「言われてみればそうか」



出会ってまだ日にちがそれほど経っていないとは言え、レーナは颯太と外に出かけられる事が本当に嬉しいようだった。



「レーナは母さんとこっちまで来た事があるのか?」


「ううん?ないよ」


「なら、仙台駅は初めてか。人がたくさんいて驚くぞ」


「もうこんなに多いのに?」


「仙台駅は特別だ。まぁ朝のラッシュは既に終わっているから、そこまで人は多くないと思うが、それでも人は多い」



ピヨピヨ―――とヒヨコの声が流れる交差点を渡りながら颯太とレーナは駅を目指す。



「どうして皆こんなに忙しそうに歩いているの?」


「実際に忙しいんだよ。俺もいつかこうなるのかと思うと、少し嫌になるが」


「颯太もこの人達と一緒になるの?」


「一緒というわけじゃないが、少なくとも時間に追われる毎日なりそうだな。兄貴と父さんはこの人達と同じで、ああいう服を着て毎日俺達のために頑張っているんだよ」


「あぁ、ああいうのスーツって言うんだよね?お父さん帰ってくると椅子に脱ぎ捨てている」


「父さんはラフな格好が好きだからな。もう働いて何十年だというのに、スーツは未だに苦手らしい。兄貴の方はむしろ見事に着こなしているけどさ」


「日曜日お父さんと遊べる?」


「……相談してみようか。あの人うちにいてばっかりだから、たまには家族サービスをしてほしいもんだな。竜也と委員長のお父さんみたいにさ」



階段をウサギのようにピョンピョン跳んで昇るレーナの後を颯太が歩く。



「颯太、今通り過ぎて行ったのなあに?」


「あぁ、あれは新幹線だ。確かレーナ達はネットワークを使ってすぐ調べられるんじゃないのか?」



階段を昇った事によって駅の全貌を見たレーナは走り去って行った新幹線が気になった。



「颯太言ったよね?私に色々の物を見て欲しいって。だから、情報で知るんじゃなくて、自分の目で見て、それから調べてみようって思っているの」


「偉いぞ、レーナ」


「えへへ、颯太に褒められた~」



颯太に撫でられたレーナは花が咲いたように笑った。

天真爛漫な笑顔に思わず颯太もつられて笑ってしまい、自分がレーナに影響されつつあることを知った。



「わぁ、これがステンドグラスっていうの……」


「俺達仙台市民にとっては当たり前っていうか、物珍しいものじゃないが、他の所から来た人は驚くな」


「綺麗だねえ……汚したくなっちゃう」


「だから、そういう目はやめろってば」


「綺麗なもの見ちゃうとついね……やっぱり颯太達人間がやる事は違うなぁ」


「待ち合わせに便利だとしか思っていないのが俺の感想なんだが」



颯太は携帯を取り出して時間を確認する。

現在時刻は10時。



「そろそろだな」


「ソウタさん!ごめん!待った!?」



自分の名前が呼ばれて振り返ると、そこにはランゲージバトルで見たティアの姿があった。

忍者の服を着ていたせいか、改めて女の子らしい姿を見て颯太はドキっとしてしまう。



「あ、いや、俺達も今来たばかりだ」


「そっちがレーナさんか。えっと、改めまして、あたしの名前は凪原詩織って言うの。詩織って呼んでね」


「了解。俺は天風颯太だ。詩織さんって呼ばせて貰うよ」


「颯太、おいしいものの臭いがする」


「ん?あぁ、駅内には結構ご飯を食べる店が多くてな。ご飯の他にもあっちにはパイやらバームクーヘンを売っている店もある。それに電車が出るのは10時20分だ。詩織さんの家に手ぶらで行くわけにもいかないし、何か買って行こう」


「わーい!」


「気にしなくていいのに」


「レーナだけ食べているのも悪いと思っただけだよ。それに買ってあげないとレーナに左目を弄られる」


「それって昨日抉られたっていう…」


「こっちでも肉体共有は適応される。レーナの機嫌が悪いと左目が痛んで辛いんだよな~」


「颯太!これこれ!」


「はいはい。余り買うなよ?晩飯の事も考えてな」



詩織はショーウィンドウに張り付いているレーナの目と颯太の左目を比べてしまった。


レーナの左目には颯太の目が。颯太の左目にはレーナの目が。

颯太は軽く抉られた~などと言っているが、彼がどれだけ異質な事を言っているのか、詩織には理解出来なかった。



電車に揺られること20分。

途中シートに座っているレーナが颯太の膝に座ったり、膝を乗せて外の景色を見たりと颯太が何度レーナを注意したか分からない。

電車はマナーよく乗りましょう。



「えっと、ここがあたしの家」


「普通だね」


「おいおい、俺の家も普通だろ」



普通の2階建ての家を見てレーナがそんな事を言う。



「お邪魔します」


「いらっしゃい!君が颯太くんだね!」


「お姉ちゃん!?部屋で待っていてって言ったのに!」


「お姉ちゃん?あぁ、姉ってこの人の事だったのか」



颯太が家に上がるなり出迎えたのは恵理だった。



「そう、私は詩織の姉の恵理ね。よろしく」


「よろしくお願いします。それでこれ、つまらないものですが」


「あぁ!これはどうも!すぐ切って上に持っていくね。ささ、上がった上がった」



颯太はアップルパイが入った袋を渡すと恵理は目を輝かせて台所へ行ってしまった。



「えと、どうぞ」


「んじゃ、お邪魔します」


「お邪魔しちゃうよ~」



レーナは母さんに靴を揃えなさいと教えられたか、ちゃんと綺麗に並べて家に上がる。



「あたしとお姉ちゃんの部屋は同室だから、お姉ちゃんも話を聞くことになるけど、いいかな」


「あぁ、構わない。同室って事は琥太郎の事も知っているだろうし、何よりブログを発見した人だ。ランゲージバトルを知らないはずがない」


「普通そういうランゲージバトル関連の記事は運営がすぐに削除するんだけど、そのブログを書いた人どうなったの?やっぱり殺されたかな?」



レーナの言葉に颯太と詩織は階段を上がる足を止めてしまった。

止めた、というよりも固まったに近い。



「………それを含めて話し合っていこう。とりあえず詩織さんの部屋に」


「う、うん…」



部屋の中はまさに女の子の部屋だった。

可愛らしい装飾が施された壁や、ベッドにはぬいぐるみ何かも置いてある。

二人でいるせいか、結構広い作りになっており、二人の机はかなりの距離が離れていた。



「あ、あんまりジロジロ見ないでね」


「す、すまん」


「颯太ぁ?」


「ま、待て!不可抗力だ!大体な!女の子部屋に来て緊張しない男がいるのか!?」


「大声で言う事じゃないと思うな」


「それもそうだな…」



部屋の中央に置かれた丸いテーブルの近くに颯太は腰かけて恵理の到着を待った。



「パイ切って来たよ~」


「ありがとうございます」


「わあ!ねえ、食べてもいい?」


「これは詩織さんの家に買って来たもんなんだぞ?それにさっき電車の中で食べたじゃないか」


「いいのいいの!颯太くん大きいの2つ買ってきたみたいだし、1つくらい食べちゃっても気にしないよ」


「なんだかすみません」



少しの間、颯太が買ってきたパイを皆でお茶をしながら食べていると、颯太は話を切りだした。



「詩織さん、それでその紙は」


「そうだね。お姉ちゃん」


「あいよ」



恵理は立ち上がり、鍵がかかった机の引き出しを開けてファイルを取り出した。



「二人はこれを既に?」


「まだ読んでいないよ。なんだか怖くて…」


「颯太さんと一緒なら見れるもん!って詩織が言っていたわ。ちなみに私はもう内容すら覚えていない」


「お、お姉ちゃん!」


「ん?まぁとりあえず見てみましょうか。二人とも知らない、覚えていないですしね」



レーナはパイを食べるのを中断し、あの琥太郎までもが詩織の背後に立って見ている。


颯太は恵理からファイルを受け取ると生唾を飲んで開いた。



「5ページか……では、行きます」



ブログ名は『レビテの日記』というものだった。

ランゲージバトルに参加した男はプレイヤー名レビテでプレイしていたそうだ。

淡々とひと月ごとに新たに追加されていくイベントや、毎月1度だけプレイヤー同士の力を把握するためのバトルアリーナの開催。


どうやらこのレビテというプレイヤーは相当強かったらしく、バトルアリーナでも毎回上位10位以内には食い込むほどの猛者だったらしい。



「今のところは日記だね。あたしもっと血なまぐさいこと書いてあるんだと思っていた」


「私もだね。運営がすぐに対処するほどのものなら、こう必死に何か伝えようとしているもんだと」


「うふふ、もっと先に行けば分かるかもね」


「レーナ?」


「私は気に入らないご主人なんかすぐ殺しちゃったから、後半戦には参加してないけど、これ面白いこと書いてあるよ」


「私も最近出来たばかりの神器故、初参戦だ。何が我らを待っている?」



皆が同じページを見るなか、レーナだけは先にページをめくってしまっている。



「飛ばすか。どこからだ?」


「ここ」



レーナが指差す場所に皆の目が留まる。



ここから先は私がおかしい、疑問に思った点を挙げて行く。

正直これを見る人は数少ないはずだ。すぐ私のブログは消され、もしかしたら私自身に何か起こってしまうかもしれないからだ。



「でもね、颯太。私、前に一度だけ言ったよね?」


「何がだ?」


「運営は私達神器の目を介してあなた達を監視しているって」


『――――ッ!?』



颯太は瞬間的にファイルを閉じてしまった。

レーナの目は笑っていない。どこまでも黒く、深い闇に包まれている。



「レーナ…?」


「もしかしたら運営の手はそこまで来ているかもしれない。徹底的な秘密主義だからね。ねえ、おかしいと思わない?どうしてランゲージバトルが口コミで広がったりしていないのか」


「確かにそれは思った。あたしもこのブログの内容を知った時も、何故誰も知らないんだろうって。あんな現代のオンラインゲームじゃ到底実現できないシステムが何故知られていないんだろうって」


「それは運営が記憶操作しているからだよ」


「記憶操作!?そんなSFみたいな事が出来るのかよ!?」


「推測だけどね。古い神器である私、あとボルケーノなら薄々気が付いているはず」



レーナは閉じられたファイルを手に取る。



「これ、処分していいかな」


たまにドキっとするような発言をするレーナちゃん。

さてさて、今回も2話連続投稿ですよ。次も!サービスサービス!

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