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四神セイリュウ決戦 1

それから数日後、颯太の高校は文化祭へ向けて着実に進んでいた。授業も午前で終了し、午後は文化祭の準備になって各々のクラスは買い出しや、小道具の作成に追われていた。

一方颯太のクラスと言えば、喫茶店なので男子があれこれ準備するわけでもなく、ほぼ女子からの買い出しや力仕事を頼まれるだけで、男子全員は暇を持て余すことが多かった。




「暇だな」


「そうなの?」



その男子の1人である颯太は、特に何もやることもなく1人屋上に行ってレーナの隣で手すりに寄りかかっていた。



「颯太のクラスは喫茶店だったっけ。それってどういうの?」


「まぁレストランみたいなものだよ」


「ハンバーグとか出る?」


「いや、それは……軽い食事くらいしか出来ないと思うぞ。サンドイッチとかコーヒーとか」


「なぁんだ」


「………」


「………」



そこで会話が途切れてしまい、颯太は何を話したらいいものか頭を悩ませていると次はレーナ自身から話を振ってきた。



「皆、楽しそう」


「ん、そうだな。年に1度しかない自分たちが開くお祭りだからな。そりゃわくわくもあるさ」


「私ね、もう1人の自分と同化したから今までの記憶を取り戻したけど、こんな楽しそうな人達を見るのは初めて」


「そうか」


「もうかれこれ60年くらい生きているわけだけど、私がいた世界と本当に違う。何だか別世界に来た気分だよ」


「ここ最近の技術発展は著しい限りだからな。レーナが生きていた時代とは全く違うだろう」


「本来の私が生きていた時代は何もなかったよ。そもそも私は山奥の牧場に住んでいたし、近くの街だってレンガの建物ばかりだった」


「んじゃ改めて今の世界を見た感想は?」


「凄い。人間って60年の間にこんな建造物や機械を作り上げてしまうものなんだね。それに皆の表情が生き生きとしている。皆、本当に楽しそう」


「レーナは楽しい?」


「楽しいよ」


「そうか」



短い答えだったが、レーナの言葉からいかに彼女が今幸福を得られているのか、颯太は容易に想像が出来た。



「作戦、明日だっけ」


「あぁ、そうだ」


「私、今も腑に落ちないんだけど、なんでシンはグレイヴと私たちに喧嘩を売ってきたんだろうね」


「そりゃああれだろ?あいつの狙い通りに事が進んだのなら、本来俺達はグレイヴと真っ向からやり合っていた。でも、シンの企みに気が付いたから結果としてあいつは俺達に喧嘩を売る形になってしまった。そういうことだろ?」


「まぁそうなんだけど、私達のギルドはともかくとして、シンのギルドだって現在ランゲージバトルに数多く存在するギルドの中でトップクラスの実力者が揃うPKギルドにわざわざ喧嘩を売るかな。いくらビャッコに負けたからと言ってもさ、たった1度だよ?そんなに気にすることなのかなぁ?」


「それほどシンは自分の実力を過信していたってことだろう。ましてや遥かに自分よりも劣る存在だと認識していたユキナに負けたんだ。あいつのプライドが傷つくのも無理はなかったはずだ」


「男の子ってそういうものなの?颯太も?」


「まぁ…そうだな。負けたら悔しいと思うし、俺も多少なりプライドってもんはある。でも、シンのような過激な行動には移らないさ。そんなことしている暇があったら自分の腕を磨く」


「颯太はある意味そういうとこストイックだよね。負けたことをいつまでも引きずらないでうじうじしないタイプ」


「それはどうだろうな。足をやってしまったことを未だに引きずっているわけだし、時と場合によるって奴だ」


「ゲームに関してはストイック」


「そうだな。1回負けたのなら次は2回勝つだけだ。負けを塗り替える勝利数を重ねる――――これが大事だと俺はいつも思っているよ」


「何だかそういうのいいね」


「そう、かな…」


「うん、私はとてもいいと思うよ」



照れる颯太を見てレーナは微笑んだ。



「こういうのはユキナに聞いた方がいいと思うが、生憎ユキナはいないからレーナに聞くけど、実際セイリュウってどういう神器だったんだ?」


「う~ん……多分颯太が求めるような答えは持ち合わせていないと思うよ?ほら、以前の私は恐れられていたわけだし、四神とやり合った回数だって数回だもん」


「知っていることを教えてくれるだけでいいさ」


「そう?ん~とね、セイリュウと初めてやり合ったのは今から50年も前の話だね」


「そんなに前のことなのか」


「1世代目が猛威を振るっていた時代だから、それくらい遭遇率も高かったんだよ。2人目のご主人は颯太程じゃないけど、それなりに腕が立って私の能力を臆することもなく正しく使っていた人だった。そんなご主人の噂を聞きつけたかつてのセイリュウの神器使いと私たちはPVPをした。結果を言えば私達の圧勝だったんだけど、そこからかな?四神との因縁が始まったのは。セイリュウは今のシンのように自分が龍であること、自分が最強であることを謳う自信家だった」


「それをレーナはあっさり壊してしまったわけか。そのプライドを」


「壊したくて壊したわけじゃないよ?あっちが勝手に喧嘩を吹っかけてきて勝手に負けて、勝手にプライドが壊れたんだよ。まあセイリュウを作る段階で元となった人がよほどプライドの高い人だったんだろうね」


「なるほどな。要するに今のシンと全く同じ性格ってことか」


「私との敗北から彼は壊れてしまった。その後、セイリュウは残りのゲンブ、ビャッコ、スザクと合体して私を破壊するつもりで勝負を挑んできたけど―――ってこの話は前もしたかな?」


「あぁ、四神合体を使ってもレーナには及ばなかったんだろう?」


「うん。四神合体後の敗北―――2度目の敗北は最後に残っていた彼のプライドは粉々に砕けてしまい、それから我武者羅に力を求めるようになった彼を見たビャッコとスザクはセイリュウを軽蔑し、彼から離れていった。でも、そんな彼を気の毒に思ったゲンブだけは彼の元に残った。でも、セイリュウの暴走は止められなかったみたいだね」


「今回の件でゲンブの姿が見えないのがその証拠か。ゲンブは一体どこに…」


「分からないね。スザクがいない以上合体は出来ないだろうし………―――本当にシンの考えが読めない」


「とりあえずレーナが知っている情報はそれくらいか」


「そだね。いくら私が四神のカウンターとして機能しているとは言え、実際に会って話したことなんてないしね。多分話を聞くのならニヴルヘイムかボルケーノらへんがいいと思うよ。まぁでも、私以上の情報を知っているとは思えないけどね~」


「そうなのか?」


「ほら、私のシリアルナンバーの前がボルケーノになっているっていう話を前にしたでしょ?そこで呼ばれなかった戦いの時はボルケーノと色々話していたんだよ。だから、彼が戦いに出た時は土産話をずっと聞いていたし、誰と戦ったのかも聞いた。聞いた限りでボルケーノ自身がセイリュウと対峙したってことはなかった気がするな~」


「ボルケーノも噂程度のことしか知らないってことか」


「私達の機能上忘れるってことはまずありえないから、記憶に間違いはないよ」


「そこは信頼しているさ」


「まぁこんな感じかな。私が知っていることと言えば」


「あぁ、サンキュ」


「そんなこと知ってどうするつもりだったの?」


「あいつの動機が見えればなって思っただけ。そこまで深い意味はないさ」


「ふ~ん?どの道シンに止めを刺すのはクレアだけどね」


「そうだな。俺たちはよく分からん番外世代を倒せばいいんだっけか」


「うん。ガンドレアが手こずるほどだからね、気合いを入れていかないと」


「実質うちのナンバー2が撤退を進言するほどのプレイヤーだからな。最初から本気を出していくぞ」


「もちろんだよ。クレアはともかくとして…私たちに敗北はありえないからね」



クレアの強さは常日頃身に染みている颯太とレーナにとって彼女自身がラスボスであり、どうやら2人とも流石にクレア以上の強さはないと高を括っているようだった。







作戦当日、時刻は22時を回るところだった。颯太達希光の騎士団は指定された裏路地に集合しており、後はグレイヴのギルドを待つだけなのだが……――――



「………」


「………」


「………」


「………」



突入班である颯太、クレア、詩織、滉介の4人はピリピリと空気を張り詰めているので、とても聞けそうな雰囲気ではないと感じ取った竜也は隣にいる妹の香織に耳打ちする。



「グレイヴの奴ら遅いな…」


「そうね……集合時間は22時なのだけれど…」


「大丈夫……既に1世代目2世代目の反応は感じるから…」



突入前と言っても普段と全く変わらない伊澄がそう答えて竜也は一息つく。彼が胸を撫で下ろしたところで裏路地にひんやりとした雰囲気が漂い始めたところで颯太達は顔を上げる。



「時間はぴったりかな」



相変わらずPKギルドをまとめ上げているとは思えない気楽な笑みを浮かべながらレンは幹部を引き連れて現れた。



「そちらはもう揃っているようだね」


「そっちもちゃんと揃っているようだな」



路地裏に不穏な空気が流れる中、颯太とレンは握手を交わす。



「今日はよろしく頼むよ。打ち合わせ通りにやるけど、基本戦闘は好きにやらせてもらうよ」


「あぁ、よろしく頼む。それは構わない。俺達も俺達で好きにやる」


「先に言っておくけど、これは同盟であって君達の仲間になったわけではない。そこのところよろしくね」


「分かっているさ」


「ならよろしい。それじゃ行こうか」



そこで颯太とレンは踵を返してギルドメンバーへ歩み寄る。



「皆、準備はいいか?」


「私の準備は当の昔に出来ている」


「あたしも準備オッケーだよ」


「いつでも行けるぞ」


「うし!いっちょやるか!」


「ついに始まるのね…」


「………行ける…」



それぞれ神器を構えたメンバーが颯太の声にそう応じる。



「よし、行くぞ!!」


『おう!!』



颯太達は自分らが持つテイムモンスターを召喚して建物を超え、空を飛んで目的地を目指す。グレイヴのギルドもまたレギュンが持つボスクラスに匹敵する火炎竜とレンが所有する白く光り輝くシャインドラゴンに乗って颯太達の頭上を越えていく。



「あれは……」


「あれはマグナドラゴンとシャインドラゴンだな。適正レベル100以上の宝の地図ダンジョンに出てくるエネミーだ」



颯太の声にクレアがフェンリルを寄せながら彼と同じ視線を辿りながら答える。



「あんなの初めて見ましたよ」


「レギュンのマグナドラゴンは見たことがあるが、レンのテイムモンスターは初めて見たな」



体長6mはあろう巨大なドラゴンが空を飛んでいく姿は雄々しかった。



「だが、私と颯太のテイムモンスターも負けてはいないぞ。あいつらと張り合えるスペックを有しているからな」


「そうですね。こいつを仲間にするのにどんなに苦労したことか…」


「グルゥ…」


「はははは!全く持ってその通りだ」



不服そうなシーザーの声にクレアは笑う。よく聞くとフェンリルもマグナドラゴンとシャインドラゴンに対抗するように唸り声をあげており、それも合わせてクレアは笑ったのだろう。



「対抗するのも悪くもないが、まずは先にやるべきことがあるだろう?」


「ウォン!」


「シーザーも目的地まで頼んだぞ」


「ガァア!!」



颯太達はシンのアジトへ着実に迫っていた。決戦は近い。

どうもまた太びです。


今回のお話はシンのギルドへ殴り込みに行く前のお話ですね。セイリュウは一体どういう神器だったのか、シンは一体何を企んでいるのか。それはきっと本人しか知らないことでしょう。

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