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香織らしさ

「香織、気を引き締めていきましょう」


「そうね……――――あの、クレアさん」


「どうした?」


「…………今お時間はありますか?」


「まだ寝るには早いからな。時間はあるさ」


「よろしければ私とPVPをしてくれませんか!」



絞り出すように叫んだ香織の言葉を聞いたクレアは、一瞬彼女らしくない心底驚いた顔をしてから表情を戻すと、今まで本を読んでいた本をしまって彼女はソファから腰を浮かす。



「やるのは一向に構わないが、一つ私から質問だ」


「はい?」


「香織は私とPVをしたことがあったか?」


「いえ、私の記憶が正しければ一度も…」


「ふむ………確かに私も記憶にないな。では、先ほど私の実力を疑った点を含めて今一度私の力を味わっておくといい」


「はい?え!?ちょっ!?」


「ふッ!」



ザンッ!と突然手ぶらの状態だったクレアの右手に氷の大剣が生まれ、そのまま香織目がけて振り下ろしてきた。香織の幸運値が高かったのか、それとも直感なのか、目で捉えることが出来ない一振りの斬撃を紙一重で交わした彼女は、そのまま転がるようにアジトから外へ出て弓を構える。



「く、クレアさんここ市街地ですよ!?稽古ならクエストフィールドで!」


「いや、その必要はない。私と香織が今からやるのは限りなく殺し合いに近い遊びだ。HPバーがなくなったら終わりなどつまらないだろう?それに数日後は市街地戦を想定したユキナ奪還作戦が始まる。いい機会だ。カナリアで戦うというのはどういうものなのか知っておけ」



ゆらりとアジトの入り口から姿を現したクレアは、弓の照準をこちらに向ける香織を見て笑みを浮かべる。



『香織!ファレルを呼んで空へ!』


「う、うん!」


「フェンリル!」



ストレージから宝玉を取り出したのを見たクレアは、同じくフェンリルを呼び出す宝玉を先に握りつぶし、フェンリルを召喚すると今しがた召喚されたばかりのグリフォンのファレルの首へ食らいついた。



「ピエ!?」


「ファレル!!」


「そのまま相手してやれ。さぁ、香織。どう攻める」



ファレルはフェンリルを引きはがすと、そのまま逃げるように中央広場へ駆けていき、フェンリルもまた氷風を纏いながらファレルの後を追って行った。



「クレアさんに普通の矢は通じない……なら!」



香織は建物の壁を蹴って上に登りながら周囲にクレアと似た緑色の鏡を6つ生み出す。



「まずは!」



屋根へ上がるとそこから青白い稲妻をまとった矢を放つ。それと同時に香織の周辺をくるくる回っていた鏡が矢よりも速くクレアの周りに待機し、そこへ稲妻の矢が届く。クレアはそれを何もなかったかのように大剣で叩き切る。



「まだまだ!」



更に香織は立て続けに1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つの矢を放つ。クレアはこの矢が自分を狙っていないことに気付くと周辺の鏡に目をやる。そして次の瞬間矢が届くと鏡は受け皿のように矢の角度を変え、6方向から稲妻の矢が同時に襲い掛かった。



「なるほど」



だが、クレアは香織と同じ氷の反射鏡を作り出して更に稲妻の矢を香織へ反射させた。



「――――ッ!?」



背筋が凍るとはまさにこのことかと香織はこの時理解した。それと同時に全身の力を振り絞って自分が放った時よりも速い稲妻の矢を避ける。その拍子に態勢を大きく崩してしまい、香織はその場に倒れる。



「では、次は私の番だな」


「くッ!」



自分は壁を蹴ってようやく登れた建物をクレアは、一つのジャンプで飛び越え、そのまま空中から剣を振り下ろしてきた。

香織は倒れたまま右へ転がって避け、その勢いを利用して立ち上がる。が、それを読んでいたクレアは空中での振り下ろしを強引にキャンセルし、大剣を横薙ぎにしてきた。



「ぐううう!!」



アルテミスに負荷がかかってしまうが、ここは彼女の耐久値を信じて弓を盾代わりにしてこれを防ぐ。だが、クレアと香織では筋力値、レベルも違うため完全に防ぐことは出来ず、ガードのまま削りを入れられて香織は痛みに喘ぐ。



「あッ!」


「せいッ!」


「きゃああ!」



不意に力を緩めたクレアは香織が踏ん張り棒にしている右足を払って一瞬浮かせると、その場でくるっと回って野球のように大剣で香織をふっ飛ばした。



「ぐ……ううぅう……」


『香織!しっかりなさい!追撃が来ますよ!』



建物の壁に激突した香織は、そのままずるずると地上に落ち、アルテミスの言葉を受けて何とか立ち上がる。



「ギル・ヨトゥンヘイム」


「まずい…ッ!」



その場から飛びのいた瞬間巨人の一撃が放たれた。大地を両断する一撃を何とか躱した香織は、貫通能力の高いグレイテスアローを放ち、まだ痛みから解放されていないのか、揺れる視界を戻すために時間を稼ぐ。

流石のクレアも貫通能力が高い矢を打たれては反射鏡で防ぐことが出来ず、戦闘開始してから初めて防御の姿勢をとった。



「なるほど、適当に撃ったかと思えばアルテミスは自動で矢の軌道を修正するんだったな。それも急所に」



颯太や詩織が何度も繰り返し練習した矢の見切りをあっさり成功させたクレアは、今の攻撃を分析するように語りながら香織の出方を見る。

お気づきかと思うが、クレアは手加減をしている。本来のクレアであれば初っ端から氷塊を落としたり、ラグナロクを発動させたりとスキルを惜しまない戦法を取るが、今の彼女はまだ反射鏡とギル・ヨトゥンヘイムしか使用しておらず、あくまで香織の戦闘能力を見ているに過ぎない。



「さぁ立て香織。君の力はこんなものではないはずだ。レギュンと互角に戦ったというのは嘘なのか?」


「う……くぅうう!」



あれはレギュンが自分のことを格下だと侮っていたからこそ成立した状況であり、レギュンと一度矛を交えた自分だからこそ分かる。クレアは強い、と。言葉にすれば簡単だが、彼女の力の秘密は神器の汎用性にある。


香織の神器であるアルテミスは狩猟の神。弓やトラップ解除など狩猟に関するスキルしか編み出せないが、ニヴルヘイムは氷。氷というのは元を辿れば水であり、液体は変幻自在にその色を変える。そして液体が形取ったものを氷という質量に変換してこの世に生み出す。つまり、基本何でも出来てしまうのだ。


レギュンのように炎のドラゴンならぬ氷のドラゴンを生み出すことも、氷の機関銃を生み出すことも彼女の力次第でいくらでも生み出せてしまう。そう、何でも生み出せるからこそ彼女の力の底が見えない。

まだ何かを隠し持っていると勘ぐってしまい、下手に攻めきれず防戦一方になり、そしていつも間にか押されて負けている。味方で良かったと心底思って笑ってしまいそうになるが、香織は朦朧とする意識の中立ち上がりながら思う。颯太はいつもこんなとんでもないプレイヤーを相手にしているのかと。



「それでこそだ。次はどう攻める?」


『香織、意識パラメーターが正常に戻ります。大丈夫、あなたの矢は天を穿つ必殺の矢。貫けぬものなどないでしょう』


「すぅ……はぁ……――――ありがとう、アルテミス」


「おや…?」



アルテミスの激励を受けて香織は一度思考をクリアにして深呼吸する。一体自分は何を焦っていたのだろうと。香織は今まで自分のことを強いとは思ったことがないし、希光の騎士団の中では最弱だと自負している。何を今更強敵と相対して焦っているのか、香織は先ほどの自分を振り返ってそれを鼻で笑い飛ばす。


大丈夫、まだ弓は握れる。震えも収まった。ならあとは前を向くだけだ。



「アルテミス!行くよ!」


『はい!』


「そうだ、その目だ。冷静じゃない香織なんて君らしくない」



クレアは空気が変わった香織を見て口元から笑みが零れる。そして大剣で周りに漂う氷風を切り裂き、飛び出した。

香織は颯太、詩織のように直前まで相手の攻撃の軌道を観察し、最小限の動きで躱して反撃の矢を放つ。その反応にクレアは少しだけ目を見開いてから大剣で矢を防ぐ。それを待っていたとばかりに香織の右手に黄色い光が宿る。


シューティングアロー―――3秒間通常の矢を無限に放つスキル。


シューティングアローを発動した香織はその場に片膝をついて矢を連射した。放たれた光の矢はクレアの大剣の一点だけに集中し、この攻撃にクレアは初めて怪訝な表情を見せた。

シューティングアローの効果時間に達する瞬間、香織は絶妙なタイミングでスキルキャンセルするための前転を行い、そこからダメ押しの貫通性能が高いグレイテスアローを抜き放った。



「なにッ!?」



直撃したグレイテスアローは何とクレアの大剣を木っ端微塵に打ち砕き、キラキラと散っていく。驚愕の表情を浮かべたクレアを尻目に香織は一気に接近し、緑の炎が宿った右足の回し蹴りをクレアの顔めがけて放つ。だが、クレアの驚きは一瞬で、同じくクレアもまた氷風を纏った右足の回し蹴りを放ち、両者の脚が交差すると辺りに衝撃が走って建物が揺れる。


攻撃が失敗すると見るなり香織の対応は早く、そこから更に2、3回と上段下段とクレアを後方に追い詰めながら見事な足さばきを魅せるが、クレアは空中に氷の槍を生み出して一旦仕切り直しを狙い、香織は悔しげに一度後方へ飛び退く。香織が飛び退いた瞬間に先ほどまで彼女がいた場所に鋭利な氷の槍が地面に突き刺さる。


この時クレアの顔から表情が消えた。



「……ッ!」



香織が後方へ下がった瞬間クレアは自身の周りに氷の剣を4本生み出し、更に香織の頭上に巨大な氷の槍を8本生み出す。これに香織は危機感を悟り、降り注ぐ氷の槍を疾走しながら躱し、突進してくるクレアを近づけまいと矢を放つ。しかし、クレアに矢は通じず接近を許してしまう。



「さぁ、舞踏会だ」



香織の眼前に迫ったクレアは空中の氷の剣を2本両手で掴むと、更に先ほどより小さく、より鋭くなった氷の槍を無数に浮かべながら襲い掛かった。

クレアが剣を振る度に待機していた氷の槍が一緒に襲いかかり、香織は全てを避けなければならず、頭をフルに回転させてクレアの攻撃のほんの僅かな安全地帯を的確に選んで躱していく。



「ほら、そこだ」


「しまった!」



わざと作られた隙間を選んでしまった香織の周辺に氷の槍が突き刺さり、それは氷の檻と化す。そしてクレアは颯太に一度も見せたことがないスキルを発動させた。



「さぁ、いくぞ」



『ブリザード』そう静かに声を発した瞬間香織を激しい氷風が包み込む。



そして香織は見た。今まで見てきた中で一番美しい透き通る青い長い刀を。



「とっておきだ。これは颯太にも秘密だぞ?」



氷の鞘を捨てて太刀を抜いたクレアは駆け出し、やがて姿は掻き消え、次に目を開けた時には既に香織が閉じ込められているブリザードの眼前にまで迫っていた。



「ふッ―――――ブリザードファイナー!!!!」



刀の煌きと共に放たれた一閃はブリザードを切り裂き、中にいる香織に斬撃ダメージを与えると共に切り裂かれたブリザードは突然荒れ狂い、香織を天高く打ち上げて消え去った。



「あうッ!!」



地面に激しく叩きつけられた香織は、痛みに悶えて立ち上がることすら出来なかった。それをクレアは勝負あったと見てどこか満足げに太刀を消滅させる。



「はぁ……はぁ…はぁ………あ、ありがとうございました…」


「礼はいい。私も得るものがあったからな」


「………」


「香織、ステータス欄を見てみろ」


「………?」



アルテミスが急いで身体のダメージコントロールをしている中、香織はクレアに言われた通り自分のステータスを開く。すると神器情報に見慣れない文字が並んでおり、その文字は淡く緑色に光っていた。



「あ……あぁ…!こ、これは…!」


「おめでとう、香織。君の神器、アルテミスは覚醒能力に目覚めたようだ」

どうもまた太びです。


この度は長らく更新が空いてしまい、申し訳ございませんでした。理由としてはパソコンが壊れてしまい、パソコンがしばらく使えない状況が続いていました。スマホで話を作るか悩んだのですが、流石にチマチマやってられないなと思っておとなしくパソコンが帰ってくるのを待つことにしました。


えと、無事パソコンのデータも復旧出来ましたのでこれから頑張ってカキカキしていこうと思います。

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