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グレイヴとの顔合わせ

「さて、話はこんなところかな」


「ふあぁ…あたし眠くなってきたよ」


『時間も既に22時を回っていることだしな。こんなところだろう』


「では、そろそろ解散と行こうか」


「もうそんな時間だったんですね」


「時間なんてあっという間だな」



『全くだ』と颯太は竜也の言葉に同意し、クレアと目くばせする。



「うむ、では解散しよう。滉介も伊澄も通話での参加ご苦労だった」


『あいよ。んじゃまたあちらの世界で会おう』


『うん………またね、竜也…』


「おう!伊澄ちゃんもまたな」



滉介はさっさと通話を切ったが、伊澄は竜也の返事を待ってから通話を切った。そのやり取りをにやにやしながら見ていた詩織はおもむろに竜也に尋ねた。



「そう言えば竜也さんってさ、伊澄さんのことどう思ってるの?」


「伊澄ちゃんのこと?ん~そうだなぁ……可愛い後輩か?」


「……あちゃぁ……」


「まぁ兄さんはこういう人だから…」



詩織が望んでいなかった答えを聞かされて思わず手を額に当てた。香織も自分の兄の鈍感さには呆れているようであり、頑張っていつもアピールしている伊澄に同情した。



「詩織、颯太。帰るぞ。竜也と香織には世話になった。今夜ここを貸してくれたことに感謝する」


「いや、いいんですよ。無駄に広いだけの家だし、また何かあったら言ってください」


「はい、また来てください」


「んじゃまた明日」


「香織まったねー!」



颯太は竜也と肩を叩きあって別れ、詩織は香織に手を振って先に部屋を出て行ったクレアに続いた。



「颯太くんもまたね」


「あぁ、また明日」



瞼をこすって眠そうにしているレーナに力強く引っ張られて部屋を出ていく颯太に声をかけると、彼は優しく微笑んで手を振ってくれた。



「良かったな、香織」


「え?え!?」


「うむ、颯太殿もあんな顔をするのだな」


「香織、詩織に負けてはいけませんよ!」


「え、え?あ、うん!が、頑張るわ!って兄さんも人のこと言えないのよ?」


「お、俺!?俺にはそんな相手いないだろ」



これには流石にボルケーノもアルテミスも擁護することは出来なかった。





それから数日後、颯太はクレア達を引き連れてある酒場に来ていた。天井の照明は取り替えていないのか、時々点滅を繰り返しており、そのせいもあって店内の雰囲気は暗く、重苦しかった。



「汚い…」


「中央付近の酒場とはえらい違いようだな」


「別に2人とも初めてというわけでもないだろう」


「まぁそうなんだけどさ」



『いらっしゃい』と覇気のない声で店のマスターに話しかけられ、颯太は事前に話は通しておいたことをマスターに告げると、マスターはカウンターを出て店奥のテーブルを退かして木の床を剥がすと地下へ通じる階段が現れた。



「どうぞ」



素っ気ないマスターの態度に気にした様子を見せることなく、颯太は皆を見渡して頷くのを確認するなり階段を下りた。



カツンカツン―――と下へ行けば行くほどとてつもない悪寒が颯太達を襲う。颯太、クレア、伊澄が顔を歪ませるのを見た滉介はそれだけの相手が下にいることを知り、深呼吸して気持ちを整えた。


やがて一番下まで階段を下りれば颯太達を出迎えたのは部屋から光が漏れる扉。颯太はいつ戦闘になってもいいように背中の大剣に手を駆けながらドアノブを捻って扉を開けた。



ガチャリと開かれた扉の先にいたのは、レン、ヒカル、レギュンと見たことがない男がいた。



「やぁ、颯太くん。この前ぶりだね」


「あぁ、そうだな」



レンの後ろに控える幹部は口を開かない。自分と同世代くらいの女の子ともう1人のガラの悪そうな男はともかく、レギュンがクレアの姿を見て罵倒の一つ浴びせないのは変だなと颯太は思った。



「僕らは既に君たちのことを知っているけど、こっちの幹部は知らないよね。レギュンは……いいか、2人とも自己紹介を」


「ボクはヒカル。一時的な同盟だけど、よろしくね」



男性とも女性とも区別しにくいハスキーな声に颯太は首を傾げた。その様子をヒカルは見ていたのか、くすくすとおかしそうに笑った。



「俺はガドーというものだ。よろしく」


「ガドーは口数少ないけど、頼りになるから期待していてね」



颯太はガドーに目を向ける。

巨漢、と言うべき鍛え上げられた肉体を惜しげなく見せつけ、そのまま順に顔を見ると顎の髭が濃く、口はへの字に曲がっていて、彼の左目は眼帯で隠されており、髪型は短い髪を必死に逆立てて何だかそこだけ威厳を感じられなかった。



「あと1人はどうした?」


「あ~彼ねえ……彼はダメだったよ」


「……まぁ予想していたこと…」


「どういうことですか?」


「ボクのギルドにはもう1人幹部いるんだけど、あいつはカレラとユーノの神器を壊したクレアを相当恨んでいてね。さっきまでちょっと揉めていたんだ」


「レン、今回の同盟は本当に信用していいんだろうな?」


「そこは心配しないでくれ。僕の尊厳にかけて同盟相手である君達に危害を加えないことを誓うよ」



颯太は分からずクレアに問いかけると、彼女が答える前に向かい側にいるヒカルが答え、腕を組み、睨みを利かせながらレンに尋ねると彼は真面目な表情で答えた。



「ねえ、君颯太って言ったっけ」


「え、あぁ、そうだけど」


「今日は竜也いないんだね」


「ん?そうだな。俺達4人だけだ」


「そう……それならいいんだ」



どこか負い目のあるような表情を一瞬見せたヒカルに颯太は不思議そうな顔をし、対する伊澄は静かにそして確実にヒカルが竜也に対して害を及ぼす存在だと認識した。



『ガンドレア……彼女は認識阻害能力を持っている……それを相殺して記憶に残るように出来ない?』



伊澄の問いにガンドレアは首を横に振った。これに伊澄は舌打ちをする。ならばと伊澄はアイテムストレージからメモ帳を取り出し、更にヒカルの姿をスクリーンショットで押さえて彼女の特徴をメモに記入していく。普段ならばこんなことはしない。しかし、伊澄は何か直感で悟っていたのだ。この女を野放しにしておけばきっと近い将来竜也だけではなく、颯太達にも強い悪影響を及ぼすと。

だから、自分だけでもいいからこの女をマークしておかなければならない。大好きな竜也のためにも、信頼する友のためにも。

だが、伊澄が取った行動にヒカルは気付いていた。女の勘であの女は自分と同じく竜也を慕う者だと。警戒しなければならないと。



「戦神ガンドレアとその神器使いの伊澄………なるほどね…」



認識阻害能力を持ってしてでも逃げ切る自信がないのはこれが初めてだ。『面白い』とヒカルは笑う。あの女は自分の手で八つ裂きにしなければならないようだ。だが、まだその時ではないと自分の内に湧き上がるどす黒い感情を抑え込む。ヒカルはグレイヴの中で一見まともそうに見えるが、彼女こそグレイヴの中で最も歪でどこまでも歪んだ存在であることは周知の事実である。ヘルヘイムを持つレギュンも彼女に逆らわない理由はここにあり、レンもヒカルの能力こそ買っているのだが、彼自身彼女を制御しきれないところがある。だから常日頃傍に置いているわけで、どこか行くにしても親のようにどこに行くか尋ねなければいけないほど過保護になってしまっている。


ヒカル自身レンのことを煩わしいとは思っておらず、むしろ面倒見のいい兄貴のような存在だと思っている。だからこそ彼の忠告も命令も聞くし、苛立ちから殺そうともしない。


グレイヴにまともな奴なんていない。それはランゲージバトルの参加しているプレイヤーならば知っておいて当然のことであり、グレイヴに所属するギルドメンバー皆も自分のことは異常だと認めている。だが、ヒカルは違う。元から壊れているが故に自分を異常だと思っていない。何故自分がグレイヴにいるのかも深く考えたこともないし、レンに誘われたからたまたま入っただけである。


だからヒカルは自分の所有物、平穏を脅かそうとする者に容赦はしない。たとえそれが肉親だろうとも例外なく壊す。そこで改めてヒカルは伊澄を見た。


いつ、壊してやろうか、という念を込めて。



「あ~あまり良くない雰囲気だね。さて、そんな雰囲気を変えるためにも本題に入ろうか」



伊澄とヒカルの睨み合いに少々まずい空気を感じたレンは颯太に向かい側の席に座るよう指示し、滉介、クレア、伊澄は颯太の後ろに控えるように立つ形になった。



「事前にクレアからメールを貰って君たちが話し合った内容を見せて貰った。僕らの考えとしては異論はないという話し合いに終わり、君たちの作戦に僕らが乗るような形にさせてもらったよ」


「それは助かる」


「まぁその返答だけで終わってしまうから本当のところメールのやり取りだけで済ませようかと思ったんだけど、顔合わせも兼ねて今日は集まったんだ」


「それは俺達も同意する。いざ現場で初顔合わせして連携なんてうまくいかないからな。って言ってもお互い好き勝手暴れる未来しか見えないが」


「同盟を組む、君たちの作戦に乗ると言っても僕らは僕ら達で好きにやらせて貰うところが多いかもしれない。それはまぁあらかじめ仕方がないことだと諦めてくれ。ほら、分かるでしょ?戦いが始まったら頭に血が上って周りが見えなくなる人たちばかりだし」


「頷きたくはないが、そうなんだろうな…」


「ひどいな~レンったら。ボクはそんなんじゃないよ~」


「君が一番不安なんだよね…」


「ふむ……」



クレアは今の不安そうなレンの声にクレアは真にグレイヴのギルドで危険なプレイヤーはヒカルだと理解した。

だが、彼女には認識阻害能力がある。



「………あまり良くないな…」


「クレア、どうかしたのか」


「いや、何でもない」


「そうか」



レンと話し合いを続ける颯太を静かに見守った。


それから颯太とレンによる打ち合わせは30分間続いた。会話の内容としては決まり事やもしその決まり事を破った時の罰則などを決め、どちらにも考えに相違がないか帳尻を合わせ、確実に決めていった。

双方の書記として颯太側は伊澄が、レン側はヒカルが担当した。最後に書記同士書き写しに間違いはないか確認し合い、確認し終えたところで最初で最後になるだろうグレイヴと颯太達の打ち合わせは終わった。



「それじゃあね。次は作戦当日に会おう」


「まったね~」


「あばよ」


「失礼する」



先にグレイブが席を立って酒場の地下を後にし、レン達が去ったことによって神器から放たれる重圧が消えたところで颯太達も酒場を出るのであった。



「ふぅ……」


「お疲れさまだ、颯太」


「はい」


「颯太、大丈夫だった?」


「ティア?どうして」


「私がもしもの時のためにティアを呼んでおいたのだ」



颯太達が酒場から出ると同時に近くの柱からフードを脱いで透明化を解除した詩織が駆け寄ってきた。



「でもクレアさん、多分さっきの3人組がグレイヴのトップと幹部なんだろうけど、あたしに気付いていたみたいですよ」


「そうか。やはりあいつらの目は誤魔化せないか」


「でも、何事もなくて良かったよ。もし颯太の身に何かあったらあたし…」


「分かったから、そんな顔をするなって」



潤んだ瞳で見てくる詩織に颯太は困った表情を見せながら彼女の頭を撫でた。



「では、一度アジトに戻ることにしよう。先ほどの会話の内容を吟味しなければならない」


「そうですね。詩織、竜也達はアジトに?」


「うん。2人とも心配して待ってるから早く帰ろ?」


「んじゃアジトに帰ろう。伊澄さん、一応シンのギルドの連中が襲ってくるかも分からないから警戒を厳にしてくれ」


「了解。でも……いや、何でもない」



恐らくクレアがいるこの状況で襲ってくる奴らがいたらそれはとんだ命知らず、とでも言いかけたのだろうが、警戒を怠って損はないと自己解決したように颯太の目には見えた。

どうもまた太びです。


今回のお話はグレイヴとの顔合わせと本当の脅威と言ったところでしょうか。とにかくこの話ではヒカルはとんでもなくやばい奴、という印象を持たせたいと思って書きました。

でも、それでもヒカルはまだ人間らしさがあるんだよ?本当の意味での狂人ではないんだよ?ということも印象付けたかったので、結構あっさり読めたかな~とかそんな感じに思ってくださると幸いです。


さて、今回日にちが少し空いてしまったこともあり、久しぶりにこのページにやってきたときptが800超えていることに驚きました。これからも頑張って話を書き続けたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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