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シンのアジト

「潜入には成功したか」


「………うん…」


「しかし、この内装は…」


「……まるでどっかの富豪の屋敷だね」



赤黒い漆が塗られた高級感溢れる壁に大理石の床には赤いカーペッドが敷かれていた。そしてクレア達を照らす天井には大量のシャンデリア。2人が入ってきたのはもちろん入り口で、そこから察するにこのだだっ広い部屋はホールのようだ。



「ようこそ、我がギルドのアジトへ」



手すりに手をかけながら階段から降りてきたのはシンだった。その背後にはクレアも伊澄も知らないショートヘアのピンク髪の少女が控えており、2人はいつでも戦闘が出来る臨戦態勢を取る。



『なんだ……あの背後の少女から感じる嫌な気配は…』



シンの神器はクレアに匹敵するとまでは行かないもののそれでも凶悪な神器の類だ。しかし、後ろの少女だけは全く力量が分からない。得体の知れないプレッシャーがクレアと伊澄を襲い、2人は額に嫌な汗をかく。



「さて、そんな殺気を撒き散らしながら何用かな?」


「とぼけるのも大概にしろ」



クレアは氷の大剣をシンに向ける。



「返して貰うぞ。私の妹分を」



「クレア……正体が分からないあのプレイヤーはわたしに任せて……防衛戦なら得意だから」


「あぁ、任せた」


「グルガアア!!」



クレアの返答を聞いた瞬間伊澄はイオンブースターを噴射させて飛び立つと、シンの背後に立つ少女に強力な体当たりを命中させ、そのままアジトを破壊しながら奥へ連れて行った。



「あまり破壊しないでくれよ。これでも作るのに時間がかかったのだから」


「余裕だな、シンよ。このニヴルヘイムを前にしてその余裕はどこから出てくる?」


「おお、怖い怖い。いえ、余裕だなんてとんでもない。あなたとぶつかり合って余裕を保っていられる神器なんてこのランゲージバトルの世界に2つとありませんよ」


「今の私は俗に言うキレているというやつだ。あまり無駄な問答を繰り返す気はないぞ」


「そうですね。しかし、僕1人で戦っても正直あなたに勝ち目は薄い。そこで少し増援を呼ぶことにしましょう」



そこでシンが指を鳴らすと、2階の扉からわらわらと神器使いが現れ始め、クレアはちらりとプレイヤーの力量を目だけで測る。



『なるほど……それなりの腕を持っているようだな……だが、この感じたことがない気配はやはり……』


「あなたの疑問に満ちたその目。そうです、彼らは皆番外神器使いですよ」


「やはりか。しかし、どうやって集めた?」


「それは秘密です」


「なるほど。ならば、喋らせるまでだ」


「気をつけてください!彼女はランゲージバトル最強に名高い神器使いです!あの剣に触れてはなりませんよ!」



クレアの髪色が金色から全てを凍てつかせるような水色へと変わる。



「君たちは何故か私を接近戦型だと思っているようだが、それは大きな間違いだ」



そして剣を地面に突き刺す。すると、剣はまるで水の中に沈むかのように床へ沈んでいき、次の瞬間屋敷内全てが凍てついて氷の世界と化す。



「ニヴルヘイムは過去から現在までそのスタイルは一度も違えたことがなく、初めからこいつは生粋の遠距離型神器なのだよ!!」



クレアが左右に手を広げ、ぐっと握り拳を作ったその時世界が砕けた。相手からすればそう見えたのだろう。そうその通り。今クレアは空間を凍結させてそれを握りつぶしたのだ。

クレアがその目で捉えた対象全ての時間を止めて時を破壊する絶技。まさに1世代目の頂点に並ぶ神器に相応しい一撃に何も出来ずばたばたと倒れていくギルドメンバー達にシンの表情は、まだ余裕がありつつも動揺は隠せなかった。



「こんなもの猫騙しに等しい攻撃だが、ウォーミングアップは済んだか?シン」


「なるほど、セイリュウが戦闘を拒む理由がよく分かりましたよ……ぐふっ!」



全身が鋭利な刃物で貫かれたような痛みにシンは口から血を吐き出しながらも、回復ポーションを飲んで6割近く減った体力を回復する。



「言っておくが、今の攻撃は覚醒能力でも何でもない。ただのスキルだ。まぁクールタイムは長いがな」


「とんでもない神器ですね」


「ニヴルヘイムは氷を使う神器の中で頂点に位置する。その氷は物を凍てつかせることを超え、やがてそれは空間、時間すら凍てつかせる」



クレアは右手で何もない虚空をぐっと握る。するとクレアに握られた空間がガラスのように割れて弾け飛ぶ。



「さぁ、お話は終わりだ。お前の神器、破壊させて貰うぞ」


「それはちょっと困りますかね!」



クレアの目が青く光るとシンの周囲に巨大な氷塊が現れて押し潰そうと迫ってくる。それをシンは青い青龍刀で一刀両断すると階段を飛び降りてクレアへ突進する。



「はああああ!!」


「グラキイミテーション」


「なに―――ぐっ!」



クレアへ振り下ろされた青龍刀は彼女を切り裂き――――いや、シンが斬ったのは氷。クレアの分身を切り裂いた瞬間分身がはじけ、鋭利に尖った氷の破片はシンの全身へ突き刺さる。



「ほおら、頭上注意だ。ギル・ヨトゥンヘイム!!」



頭上を見上げたシンは反射でその場から飛び退き、その直後にまるで巨人が扱うような大剣の一撃が振り下ろされ、シンは衝撃波だけで壁に激突する。



「くそ…!こんなの反則級じゃないか…」


「もう一つだけ気になることがある」


「なに?」



カツ―――とヒールで氷上に着地したクレアはシンに問いかける。



「いつも貴様とつるんでいたガイエンはどこに行った」


「さぁ、どこに行ったんでしょうね」


「なるほど。それだけで奴の居場所が分かったよ」


「はは―――龍王撃!」



勢いよく突き出された青龍刀が巨大な胴の長い東洋の龍に変化し、クレアを食い千切ろうと襲い掛かる。



「邪魔だ」



だが、ギル・ヨトゥンヘイムを通して巨大化した氷の大剣が龍の頭を貫いて地面に縫い付けるように突き刺さり、龍はクレアに触れることも出来ず消滅していった。



「まさかここまでレベルが違うというのはある意味嬉しい誤算ですね」


「初めに貴様の神器を壊すと言ったが、その前にユキナの居場所を聞きたい」


「僕が言うとでも?ログアウトすれば逃げられるというのに?」


「逃げても構わんぞ。だが、貴様の顔は覚えた。必ずリアルを特定し、会いに行ってやる。あぁ、私に銃や刃物は効かんぞ。何せ私のニヴルヘイムは一体化型の神器だ。現実世界でも同じ力を行使することが出来る」


「なるほど、あなたは聡明な方とお見受けする。確かにあなたから逃げることは不可能でしょうね。ですが、まだ僕にも勝算があるとすれば?」


「なに――――?」



クレアが眉をひそめた瞬間前に伊澄が破壊した壁の奥からボロボロになった彼女が宙に投げ出され、着地も出来ず冷たい氷の床に無残に転がった。



「伊澄!?おい!しっかりしろ!」


「……クレア…あいつ強い…」


「なに!?」


「あなたしぶといのね」



クレアはシンに追求するのを中断して伊澄を抱き起こす。すると初めて聴く声にクレアが頭上を見上げると、そこにはピンク髪の謎めいた少女がふわふわと浮いていた。



「シン、ボロボロだね」


「はは、クレアさんは本当に強いんですよ?」


「なら、仇を討とうか?」


「それはまだ待ってください。さてと、これが僕の勝算って奴です。お分かりいただけましたか?」


「なるほどな。確かにそこのプレイヤーはかなり厄介そうな神器を持っていると見る。伊澄、立てるか?」


「うん……自己修復で4割ほど回復したから大丈夫…」


「その能力、ずるい」


「これこそガンドレアが戦神と言われる由来だからな。だが、流石にこれは分が悪いな」


「撤退を進言する…」



伊澄が撤退を口にするというのは相当なことだ。そのことをクレアは真摯に受け止め、悔しいがここは撤退することを決意した。



「どうしますかクレアさん。まだ続けますか?正直僕はさっさと帰っていただきたいのですが、続けるというのであれば仕方がありません」


「そうだな。続けたいのは山々だが、ここは一度引かせて貰おう」


「それは良かった。僕も何分忙しい身でしてね。帰るというのであれば引き止めたりしません」



にこにこと終始どこか余裕があったシンに解せないクレアだったが、最後にこちらを見下ろす謎の少女を一瞥してから伊澄と共にアジトから撤退した。


はい、また太びです!


今回はちょこっとだけ力を解放したクレアとシンが作り上げた謎のギルドとの一戦でした。

さて、ここまで目立った話が出てこなかった番外神器(別名第8世代神器)ですが、ここに来て本編に関わってきます。今まで出てきた番外神器はリーナとか竜也と戦った岩を操る神器使い程度でしたかね。

え、しょっぱなクレアが出て行くの?もう7章終わりじゃない?っと思っていた方いるかもしれませんが、大丈夫!主人公は颯太くんですから、ご安心ください!

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