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フラグ建築士

「私の神器は琥太郎こたろうっていうの」



リビングでティアについて説明を受けていると、彼女の背後に木の葉が舞った。



「琥太郎だ」



長身の忍者はそう言った。

目元はサングラス、口元はマスクと全く表情が読めない。



「あぁ、気にしないで。琥太郎は口数が少ない人だから、全く喋らないの。その分私が頑張るから!」


「いや、別に頑張らなくていい」



拳を握って見せるティアに颯太は即答する。



「ちなみにレベルはいくつだ?」


「あたしは72だよ~」


「たっか!」


「私達よりも20レベル高い…」


「まぁあたしは最初の方に選ばれたからね。恐らくソウタさん達は最近こっちに来たばかりでしょ?レベル差があるのは仕方ないよ」


「戦闘技術も申し分がないと見た。基本どんな立ち回りをする?」


「サポート系かなぁ。忍者だから相手の行動を封じたり、少しの間弱体化させることかな」


「なんだ?颯太と被っているじゃねえか。状態異常ならよ」


「ううん。ソウタさんの場合、レジスト系と出会うと全く通じないでしょ?でも、あたしの忍術ならレジスト系でも通る」


「それは心強いな。ボス戦でも有利に立ち回る事が出来そうだ。ティアさんは前衛行けるか?」


「問題ないよ。私は近距離、中距離専門だからね」



どこからともなく苦無、手裏剣、忍刀を取り出して見せてティアは笑顔を浮かべる。



「前衛は俺だけだったから、これでやっとバランスが取れる」


「あれ?タツヤさんとカオリさんは後衛なの?」


「俺はランチャーでカオリは弓だ。颯太に前を任せっぱなしで心苦しかったんだ」


「そうだね……颯太くん、それで私達よりも傷だらけになるから」


「だから、ティアさんが来てくれて本当に助かっている」


「良かった。これで前衛ばかりって言われたらあたし後衛に回ろうかと思っていたよ」


「よし、皆の立ち位置が確認できたことで、軽くクエストをこなしてみようか。ティアさんの実力も把握しておきたいしな」


『おー!』


「レーナ。琥太郎のところにいないで行くぞ」


「うん、この人全然喋らないね」


「………」



レーナにじっと見られていた琥太郎は、彼女がいなくなるのを確認するとどっとため息を吐きだした。




「すげえな。こりゃ颯太と同じくらいか?」



後衛の仕事が全然回ってこない竜也はもう武器を降ろして、二人の無双っぷりを眺めていた。


ティアと颯太の戦い方は似ている所があった。

まずは速さ。二人とも高速で動き回って敵を翻弄しながら、何度も攻撃を入れて行くスタイル。

ようするに手数だ。一撃に全力を注ぐのではなく、じわじわと追い詰めて行く。



「ソウタさん凄い!あたし感激しちゃった!」


「ティアさんも凄いよ。まさかここまで速いなんて」



敵を倒した颯太にティアが駆け寄ってくる。



「まだ始めて一週間も経ってないんだよね!それなのにあたしと同速―――ううん、それ以上のスピードが出せるなんて!」


「レーナが応えてくれるから何とかな。それに俺は元から速いのが好きでさ」


「颯太くんは中学校の頃全国大会行きのチケットを握った事もあったもんね」


「捨てたけどな」


「ええ!?何で!?」


「少し語弊があったか。靭帯痛めちゃってさ、走れなくなったんだ。まぁそろそろ走るのも飽きて来たし、良い潮時かなって思っていたんだけど」


「そうだったんだ…」


「あの時の先生の落ち込みっぷりはなかったわよね。せっかく我が校から初の全国大会に出場できる選手が消えちゃったからね」


「あれ?香織さん、俺と同じ中学だったっけ?」


「え?!あなた私の事覚えてないの!?私生徒会長してたのよ!?」


「ん?ん~と……………………すまん、興味なかったから…」


「その長考がますます覚えていない感出してて酷いわ!もう覚えておきなさいよ!」


「だからさ、こっちでは当たらないって」


「ちっ!」



回避率が恐ろしい颯太に香織のミドルキックは当たらなかった。

スパロボで言うターン開始と同時に集中がかかるようなチート機体。



「あの、カオリさんとソウタさんはリアフレなので?」


「リアフレ?」


「あ、あぁ!えっと、あっちの世界でもお友達なのって」


「あぁ、カオリとソウタは同じ高校だぜ。俺もあいつらの1個上だし、カオリの兄だ」


「抽選が5万人という中で同じ学校の人が3人も!?凄い確率だなぁ……」


「それは俺達の方が驚いているぜ」



懲りずに蹴りを繰り出す香織を攻撃を掻い潜って、颯太は足を引っ掛けて転ばしたりしている。

後で倍になって復讐される事を理解していないのだろうか。



「やっぱり無差別じゃないのかもしれないね……」



ティアは誰にも聞こえない声でそう呟いた。




「ごめんなさい、今日はお父様が帰って来るから早く落ちないといけないの」


「すまんな、颯太、ティアさん」


「いや、リアルの事情なら仕方がない。それじゃあな」


「まったねー!FD使っていつでも連絡してきてもいいよ!」



夜の9時を回ろうかと言う所で二人はログアウトして行った。



「とりあえず俺のレベリングに付き合ってくれないか?」


「いいよ~!ソウタさん、なんだか廃人の臭いがするし、あたしと似た者同士かもね」


「やっぱりか。どこか親近感沸くなって思ったら」



二人を見送った後、颯太とティアは再び城に戻って来ていた。

現状行ける最高難易度を選ぶわけでもなく、それより少し落としたクエストを選ぶ颯太を見たティアはにやりと笑う。



「それ、一番効率のいいクエストだからね。やっぱりソウタさんも分かるんだ」


「敵の沸き具合、敵の配置、敵の数、入る経験値量。どれを取っても今行ける最高のクエストよりおいしい」


「うんうん。それにその場所あたしが気に入っている場所でもあるから」


「桜が舞っている城だったか。江戸時代っぽいよな」



クエストを受注して出かける準備が出来た二人は、クエスト行きのワープホールに乗った。



「俺はいくつか君に質問したい事がある」


「なぁに?」



敵を倒しながら颯太とティアは言葉を交わす。



「この前授業中暇だったからネットでランゲージバトルについて調べていたんだが、全くその言葉が出てこない。分かるか?」


「それはね、運営側が常にネットを監視しているからって言われているよ」


「ありえない―――ってわけじゃないな。レーナも運営は機械だと言っていたし、機械ならネットワークを把握することも可能か」


「でもね。今年かな。ほんの数分ランゲージバトルについて詳細に書かれたブログがあったらしいよ」


「本当か!?」


「ホントホント。私にはお姉ちゃんがいるんだけど、お姉ちゃんは人のブログ見るのが好きな変わった人でさ、たまたまそのブログを見つけたらしいよ」


「どんな事が書いてあったんだ…?」



ティアは何故か小声になって周りを気にするようにそう言った。



「ん~……内容は覚えていないんだけど、お姉ちゃんはすぐにそのブログの内容を印刷したから、うちにまだ紙が残っているはず」


「それFDで送れないか!?」


「ダメダメ。送ったら運営に揉み消されちゃうよ」


「そんな重大な内容が書いてあったのか…?」


「だったと思う……いつ黒服の人が来てもおかしくないような…」


『何が書いてあったのかな?私も気になる』


「俺も気になるな……」


「ソウタさんは、どこに住んでいるの?」


「俺は宮城の仙台だ」



何が書いてあったのか気になる颯太は、思考しながらティアに返していると突然彼女は颯太の手を取ってぶんぶん上下に振った。



「な、なんだ!?」


「ホント!?私も宮城なの!仙台からちょっと電車に乗らないとダメだけどね」


「ッ!今度会えないか!?その紙を持ってさ!」


「持ち出すのは危険かもしれない…………で、でも…」


「でも?」



急にモジモジしだしたティアに颯太は反応に困った。



「はっ!ソウタさん!あたしと勝負しよう!」


「なんでだよ……何を閃けばそうなるんだ」


「あ、あたしがデュエルで勝ったらブログの内容必死で覚えて来る!ソウタさんが勝ったら、と、ととと特別に!あたしの家に上げてあげる!」


『女の子ってそんなに男の子を家に上げたくないものなの?』


「い、いや俺に聞かれても…」


「しょ、勝負だよ!ソウタさん!」


「分かった。そのブログの内容を確かめるためにも俺も全力で行く」


『なんで?勝っても負けても颯太の得しかないよね?』


「ブログの内容を完璧に覚えるなんて無理な話だ。やはりこういうのは自分の目で確かめて、頭で整理した方がいいに決まっている」


『なるほど。颯太はやましい気持ちで女の子の家に上がるつもりじゃないんだ』


「……………違うぞレーナ?」


『なにその間……』


「痛いから目を弄らないでくれ!」



そんなコントみたいな事をやっていたら、苦無と手裏剣を握ったティアからデュエルの申し込みがやってきた。


ルールはレベル50に固定。

相手のHPが1割を切った所で強制終了。

状態異常無効。

攻撃系スキルの発動不可。



「純粋な腕比べってところか」


「うん。状態異常ありにしたら私すぐに負けちゃうもん」


『あはは!私の混沌は凄いね~』


「全くだ。さて、やろうか!」



クエストフィールドがバトルフィールドに変わる。


桜の木に囲まれたフィールドで二人はお互い睨みあい。

バトル開始の秒数が減って行く事に強敵とのバトルに颯太の心は打ち震える。


そしてカウントダウンがゼロになった瞬間――――二人の姿が掻き消えた。


ガン―――――ガキン!!と得物同士がぶつかり合う音が響く。


投げつけられる手裏剣を颯太は弾き、地面に突き刺さった手裏剣を逆に投げつける。

ティアはそれを避け、颯太の背後に一瞬で回って苦無で斬りつける。



「くッ!」



流石高速同士の相手に掴みは通じない。

今のはわざと受けて苦無ごとティアを捕まえようとしたのだが、ヒット&アウェイの彼女には無理のようだ。


今の攻撃でHPバーが2割弱削れた。

同じ50レベル。レーナは攻守ともに優れているのだが、まさか今の一撃でここまで削れるとは颯太にとって計算外だった。



『完全な紙アタッカーだね。防御は薄そう』


『だな。攻撃にかけているアタッカーだ』



今も素早い動きで颯太を翻弄し続けているティアに颯太は剣を握り直す。



『レーナ、片手剣にしてくれ』


『は~い!』



大剣の刃が黒い霧になって消えて行く。そして霧の中から現れたのは黒紫色に染まる混沌の剣だった。



「速攻で決める!」



颯太の声に呼応して剣から黒い炎が噴き出す。



「おおおお!!」



颯太は地面に円を書くように剣を振るう。次の瞬間竜巻によって打ち上げられたような砂埃が辺りに舞う。



「えっ!?」



これには流石のティアも目を瞑るしかなく、地上に降りてしまった。



「目潰し…!」



颯太を見失ったティアは周りを見渡すが、気配が全然感じ取れない。



「どこにいるの…?」


「ここだよ!」


「ぐッ―――!」



ティアの肩が斬りつけられた。



「このッ!」



だが、ティアの苦無は空を切る。

彼女のHPバーが一気に4割近く減ってしまう。



「状態異常は無効の設定なのにどうして…!」


「現実的な目暗ましは無効化出来ないんだよ!」



黒い炎を纏った剣がティアの腹部に深々と突き刺さった。



「どうしてここまで正確な位置を」



HPバーが腹部に突き刺さった剣の追加ダメージ共に凄まじい勢いで減る。

今更抜いたところでもう自分の負けは確定していた。



「俺の目はな、レーナによって抉り出されてから神器の居場所が分かるんだ」


「え、抉り!?」



ティアから剣を引き抜いた颯太は、痛む左目を抑える。



「治らないの?」


「治らないよ。これはレーナの能力の一つでもある、肉体共有っていうやつだ。混沌の力をプレイヤーに寄付し、混沌の目に映る物が見えるようになる。まぁ俺は一方的に視界を覗かれているわけだが」



デュエルに勝利したファンファーレと共に勝負が決した。



「さて、俺の勝ちだな」


「まさかあんな攻略法であたしに勝つなんて…」


「目の事を知ったのはさっきだよ。どうもレーナは説明をするのを忘れていたらしくてな」


『あははは…ごめんごめん』


「使ったら左目が痛むから、これは余り使いたくないけどさ…」


『だって使ったら混沌の力が流れ込むんだもん。使った分だけ痛くなるから、気を付けてね』


「もっと早く説明してくれよ…」



レーナに呆れて颯太は座り込んでいるティアを見た。



「俺が勝ったわけだが」


「う、うん。わ、分かっているよ。ちゃんとお家に上げるから」


「あ、うん」



顔を真っ赤にして言うティアに何だか颯太も恥ずかしくなる。



「明後日の土曜日でいいかな……えっと、場所は仙台駅で待ち合わせでさ…」


「分かった。時間はそっちで指定してくれ」


「うん……時刻表とにらめっこしながら考える……決まったら、FDで送るから――――も、もう無理!」


「あ!お、おい!ティア!?」



ティアは突然立ち上がると、出口に向けて走って行ってしまった。

デュエルの時に見せた以上の速度を出して。



「ん~……もう少しレベリングに付き合ってほしかったんだが……」


『颯太も鈍感だねえ』


「何がだよ」


『し~らない。颯太に悪い虫が付かないのなら私は別にそれでいいんだよね~。まぁ、付いたらついたで颯太には少しお仕置きしなきゃいけないけど』


「何のことだよ……一体俺の水面下で何が起きている…」



そのままログアウトしたティアによって一人ランゲージに残された颯太は、寂しくレベリングに励むのであった。




「わああああ!」


「ちょっとうるさいんだけど」


「ご、ごめんなさい…」



現実に戻ったティアのこと、凪原なぎはら詩織しおりは自分の現状を理解して混乱していた。


同室の姉の恵理えりはパソコンの手を止めて迷惑そうに妹を見る。



「どうしたの?ランゲージで嫌な事があった?」


「い、嫌な事じゃないんだけど……ちょっとうちに来ることになって…」


「え!?リアル割れしたの!?」


「ち、違うの!あ、あたしから誘ったんだけど…」


「なに!?一目惚れ!?まさかの連れ込み!?」


「ち、違うってば!あの、お姉ちゃんは前にランゲージの事が書かれていたブログを印刷したよね」


「ええ、確かこの引き出しに」



恵理は引き出しからファイルを取り出した。



「あったわ」


「それ…見に来るんだ……そのために家に上げたいんだけど」


「その人かっこいい?ランゲージバトルは確かリアルの顔がそのまま反映されるのよね。どうだった?」


「な、なんでそんなこときくの!?」


「詩織さ、前にギルド入った時は男ばっかりで嫌になる。変な目で見られる。自分より弱い人ばっか。もう男なんて見たくないとか言ってたくせに、なんであんたはそんなにモジモジしているの?」


「えっ!?あれ、なんで!?」


「あんたやっぱり………」


「ち、ちが―――!」


「惚れたね」


「あうう………さっきデュエルやって負けたし、本当に強い人だと思った……でも、惚れているなんて…」


「へえ?あんた負けなしだったじゃない。ゲームも私よりうまいし」


「あっさり負けちゃって、そのあたしを上から見る目が凛々し―――」


「ドM?」


「なんでそうなるの!?私凛々しいって言いかけたよね!?お姉ちゃんの頭は腐っているのかな!?BL的な意味も入っているけどさ!」


「ええ、良い感じに発酵しているわ。それでお姉ちゃんはね、イケメンの男同士の―――」


「ああああああ!分かった!分かったから!あたしその手の話し聞きたくない!」


「詩織はまだお子様ね」


「それを嬉々として語るお姉ちゃんが恥ずかしいって言っているんだけど!?」



ぜえぜえと荒い息を吐く詩織に対し、恵理は『どうして妹は分かってくれないのかな~』なんて全然詩織の叫びに耳を貸そうと思っていない。



「それでいつ来るの?」


「土曜日かな。学校も休みだし、予定も何もないからね」


「ふむ……なら、お姉ちゃんもその男の子と会ってみよう。詩織に相応しい男か」


「なんで!?お姉ちゃん大学のレポート出しに行くって言ったよね!?」


「あぁ、別に月曜日の朝出しに行けばいいよ。ただ朝起きるのが面倒なだけであって」


「適当だなぁもう……変なこと言わないでね?あたし、その人たちのギルドに入ったばかりなんだから」


「あれ?ギルドに入ったの?前のギルドは?」



探れとか色々言われた詩織は、またこの姉に説明するとなると自分の気力が削れそうな気がして、かなり省いて説明することにした。



「もうあのギルド嫌だから抜けちゃった」


「詩織も男探しの旅に出かけたってことね。もうあのギルドには用はないと」


「どうしてそうなるのかなぁ?!」



面倒な姉を持ったことに詩織は後悔した。


鈍感な颯太くんの回でした。


そして新キャラクターティアのこと凪原詩織ちゃん。

忍者ですね、彼女。

魔法まがいの忍術を使ったり、毒塗り苦無とか色々使います。

流石忍者です。おっと謙虚なナイトさんのべヒんモスが――――

これから第2章となっていくわけですが、正直龍者に比べれば章管理がなかなか難しいところではあります。

『あ、話ががらっと変わったな』という区切りをつけていくのが難しいです。

だから、やっぱりそういうところは大きな話をぶち込んでいくしかないんですよねえ。

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