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長い夜

颯太はテントに戻っている最中考えていた。


本当にこれで良かったのだろうか、あんな答えを先延ばしにするようなことをして良かったのだろうか、と。



「………」


「やぁ、颯太。遅かったね」


「……レーナ」



颯太達が借りているキャンプ場へ戻ると、レーナは1人椅子に座ってテーブルの上にあるランタンを見つめていた。



「………」


「そっちのレーナか」


「あぁ、私ならとっくの昔に寝たよ」


「ランタンの火まで点けてどうしたんだ?まさか俺の帰りを待っていたのか?」


「うん、颯太の帰りを待っていたの」


「そうか、すまないな。遅くなって」


「別に謝るようなことじゃないよ」



颯太は椅子から立とうとしないレーナを見て少しだけ話に付き合ってあげるため、自分もまた椅子に座る。



「視界」


「ん?」


「視界、覗かせて貰ったよ」


「……っ!?おい、レーナ」


「悪いとは思っている。でも、颯太の帰りが遅いから気になっちゃってちょっとだけ覗いたの。そしたらすっごく気に食わない場面を見ちゃってさ」


「…………」


「ねえ、颯太」


「……なんだ」



レーナは物憂げな表情を浮かべながら視線だけを向かいに座る颯太に向ける。



「ワタシね、あの2人大嫌い」


「………」


「颯太に色目を使う女は皆嫌い。詩織は最初ただのゲーム友達かと思っていたけど、いつの間にか颯太のこと明らかに違う目で見ているだもん。困っちゃうよね」


「言っておくが、俺は現段階で恋愛をするつもりはない。視界を覗いていたのなら状況を見ていたはずだろう?」


「でも、それは問題の先延ばしだよね?いつかはあの2人のどちらかと付き合うんだよね?それって結局のところ同じじゃない?」


「それは……」


「颯太ってワタシのこと好きだよね?大好きって言ってくれたよね?あれって嘘なの?」


「俺が言ったレーナの好きは家族愛に近い…」


「家族…?家族愛?なにそれ、ワタシは颯太のこと1人の男として好きなのに、ワタシって恋愛対象として見られていなかったの?」


「………」


「颯太、少し場所変えようか。そろそろあの2人も戻って来るみたいだし」


「あ、あぁ……」



颯太は椅子から降りて先を行くレーナの後をランタンの火を消してから追った。



「あら……レーナがいませんわね?」



何となく目が覚めたリーナは隣にレーナがいないことに気付き、目蓋をこすりながら体を起こした。



「………駐車場にいるのかしら。神器の反応が…」



リーナは何だか胸騒ぎがして隣で寝ている滉介を起こさないようにそっと外に出た。





「この時間帯なら誰も来ないでしょ」



レーナの後に続いてやってきた場所は駐車場だった。

切れかけの街灯やジジ―――と虫がぶつかって電流が走る音がよく聞こえる深夜の駐車場は誰もおらず、月の光と街灯が薄っすらと2人の姿を照らした。



「颯太ってさ、ワタシのことどう思っているの?」



振り返ったレーナの顔には笑顔が浮かんでいたが、目は酷く濁りきっていた。それを見た颯太は息を呑んだ。それと同時に本能がここから逃げろと叫ぶ。ここは危険だ、逃げろと。


だが、颯太は逃げるわけには行かなかった。

前も家でこの少女の痛みを受け止めた時もそうだった。逃げてはいけない。逃げたらそこでレーナとの関係が簡単に壊れてしまうと分かっていたから。



「答えてよ。あの2人の時のように先延ばしになんてさせない。今ここで答えて。ね、颯太」


「レーナ」


「なぁに、颯太」


「俺は………お前を」



震えだすのを必死に抑えて颯太は言葉を絞る。



「実の妹のように思っている。だから、恋愛対象として見れない」


「……っ!そ、そう……そうなんだ。ふぅん、なるほどね」



レーナの小さな身体がびくりと震え、そして颯太から顔を背ける。



「なんで?ワタシが幼いから?」


「俺はレーナと一緒に毎日ご飯を食べている時やゲームを一緒にしているうちにその気持ちが大きくなっていた」


「そんなのワタシは求めていない!ワタシが求めるのは颯太のお嫁さんになることだけなの!妹なんて嫌だ!」


「レーナ……」


「ワタシは毎日颯太と一緒にご飯を食べたりゲームをしている時もドキドキしていた!いつか颯太にご飯を作ってあげたいと思っていた!それなのに!それなのに!」



レーナはその場に手を着いて崩れると堪えていた涙が溢れ出し、夜の冷たいアスファルトに流れ落ちた。



「レーナ」


「来るな!!」


「……ッつう!」



レーナに触れようとした瞬間颯太の手の平から血が流れ出した。



「レーナ……!」



レーナの右手には大剣が握られており、どうやらそれで斬られたようだ。あと一歩踏み込んでいたら間違いなく颯太の右腕は切断されていた。



「分かった……颯太のお嫁さんになれないのならその邪魔をするあいつらを殺せばいいんだ」


「レーナ!それだけはダメだ!!」


「別に颯太の意見なんて聞いてないよ」


「あの夜に分かり合えたはずじゃなかったのか!?痛みを与えるだけじゃ何も解決しないって!」


「そんな日もあったね。まぁ颯太の言葉はワタシの頭にガツンって来たから分かるよ。うん、痛みじゃ何も解決しないよね」


「あぁ、そんなことしたって悲しみしか生まれない」


「でもさ、今は別にそんなことどうだっていいの。もう颯太にあんなこと言われてから全部どうでもよくなっちゃった」


「レーナ…」


「もう終わりにしよう。あいつら2人殺してワタシも死ぬ。ランゲージバトルの記憶だからワタシという存在が颯太の頭の中から消えてしまうのは凄く寂しいけど、あなたの大切なものを奪えばもしかしたら残るかもしれないしね。やってみる価値はあるよ」



レーナはゆっくりと立ち上がり、剣を引きずりながら颯太の脇を通り過ぎようとする。しかし、颯太はレーナの前に立ちはだかった。



「…?退いてよ」


「退かない。レーナ、そんなことすれば本当に後戻り出来なくなるぞ」


「は?今更何を言っているの?どうせワタシも死ぬんだから後戻りとか関係ないよ。ほら、早く退いてよ」


「絶対に退かない。行くのなら俺を殺せ」


「ちっ……面倒だなぁ…んじゃ、脚1本貰うよ。植物人間になろうとも生きていればそれでいいしね」


「くっ…!」



剣を振った瞬間颯太は目を瞑った。そして次は痛みが来るのだろうと思っていると、その痛みはいつまでも来なかった。



「………ん?」



颯太は恐る恐る目を開けると、そこには白い大剣を握ってレーナの大剣を防いでいるリーナの姿があった。



「リーナ!?」


「何やら胸騒ぎがすると思えばとんでもない場面に出くわしましたわね…!!」


「なんでこう邪魔が入るのかな!!」


「汚い唾を飛ばさないでくださるかしら!!」



くいっと大剣の覚悟を変えて力の向きを逸らしたリーナは、体勢が崩れたレーナに体当たりをかまし、彼女を遠くまで吹き飛ばした。



「で、颯太。これはどういうことですの?なんだかレーナの性格が違うような気がするのだけれど」


「全部俺が悪いんだ……」


「……何やら事情が深そうですわね。あとで聞かせて貰いますわよ?」


「あぁ、分かった。だから、今はレーナを止めてくれ」


「了解しましたわ。さぁ、来なさいレーナ。見ない間に捻くれたその性格、お姉ちゃんが叩き直してあげる」


「ん?今姉って……」


「あら?わたくしそんなこと言ったかしら?き、気のせいじゃない?」


「いやいや、言ったが今はそれよりも」


「そうね。この子は任せなさい」


「調子に乗るな!!この劣化が!!」



ロケットのように飛んできたレーナの突撃をリーナは受け止め、すぐにレーナの脚を払う。



「ぐっ!この!」


「1つ訂正させていただきますわ」



倒れたレーナはそこから脚をはさみのようにしてリーナの頭を絞め殺しに行こうとするが、リーナは後ろに飛んでそれを躱す。



「わたくしはレーナの劣化じゃありませんわよ」


「ワタシのデータを流用した劣化コピーでしょ」


「あなたがそう思うのなら別にいいですけれど、わたくしは正直あなたより優れていると自負していますの」


「なんだって…?リーナがワタシより優れている…?」


「当たり前じゃない。2世代目なんてわたくしから言わせれば欠陥品もいいとこ。それよりも研究と改良を重ね、そして実装された番外神器であるこのわたくしの方が遥かにレーナを上回っているというのは言うまでもないと思うのだけれど」


「………言わせておけば図に乗って……!!」


「あら、怒ったの?いくら神器になって身体的な衰えがなくなったとは言え、余り怒るのはよろしくなくてよ?」


「リイイイイイナアアアアア!!」


「ふふ、まるで闘牛ね」



リーナは鼻で笑うと地面に突き刺した大剣をくるくる回しながら抜き、そして大剣を裂いて二刀流にすると彼女の身体は掻き消えた。



「消えた!?」


「なにっ!?」


「こっちよ!」



レーナはほぼ反射で背後の空中から双剣を振り下ろすリーナの攻撃に反応し、大剣の腹で受け止めた。そしてリーナは受け止められた反動を利用して1回転しながら地面に着地すると腰を落として地を蹴り、そこからレーナのがら空きになっている腹部へ飛び膝蹴りを放った。



「がふっ!?」


「ふっ!!」



これには堪らず武器を落として左手で腹を抑えるレーナにリーナは空中で回転し、その回転を生かした回し蹴りをレーナの顔面を容赦なく蹴りぬいた。


蹴られたレーナは数回硬いアスファルトをバウンドしてから雑草が生い茂る林の中を滑ってようやく停止した。



「こんなものかしらね」


「レーナ!!」


「自分を殺そうとした神器によく駆け寄れるわね、あなた」



レーナの意識がないことを確認したリーナは武器をポイ捨てして手をぱっぱと払う。その横を颯太は走って通り過ぎ、林の中で気を失っているレーナを抱き起こす。



「で、何があったの?殺意バリバリ出ていたからただ事じゃないと思って武器出しながら来たけど」


「実は………――――」



颯太はレーナを抱いたままリーナにこれまでのことを説明した。リーナは颯太の話をじっと真剣な表情で聞いていた。いつもなら茶化すリーナが何も言わずに。



「――――ということなんだ…」


「そうだったのね。なるほど、確かにこれは余り人には言えない事情ね」


「あぁ……」


「颯太、あなたは一体どこまで知っているの?」


「何をだ?」


「神器のこと」


「……お前たち神器は元を辿れば俺達と変わらない人間だったこと。そして今もどこかの施設で身体は眠っていて意識だけが起きている状況であること」


「大分知っているのね――――」


「―――そしてリーナ。お前はレーナの姉であることも知っている」


「………っ!?」


「お前たちの過去に何があったかはレーナが記憶を取り戻してから知った。尾崎、その男に託されたんだよな。お前たちは」


「………懐かしい名前ね」


「え?お前記憶があるのか?」


「………今思い出したわ」


「それは無理があるぞ…」



あからさまに颯太から顔を逸らして黙るリーナに颯太の目は思わずジト目になる。



「ああもう分かったわよ!ゲロするわよ!」


「ゲロとか言うなよ…」


「わたくし、少し前に記憶の方は戻っていたのよ」


「そうだったのか?」


「ええ、そうね。丁度新幹線で宮城に来て初めてこの子に接触した時かしらね」


「尾崎が言っていたな……記憶が戻ったレーナと接触すれば記憶が戻るって」


「でもそれは覚醒能力やパッシブ能力が全て開示された状態でないと解放されない条件だったのよ。だから、記憶が戻ってからおかしいと思い、今まで黙っていたの。レーナの方も記憶が戻っているのか確証もなかったしね」


「あぁ、確かにな。この事を滉介には?」


「言っていないわよ。あの人はいいの…知らないままで」


「リーナ……やっぱりお前滉介のこと…」


「え?あ、いや違うわよ!べ、別に滉介のことなんて好きじゃないんだから!」


「いや、誰も好きだなんて一言も言っていないんだが…」


「ま、まさかの自爆!?はぁ……わたくしとしたことが…」


「ま、まぁこの話は後々するとして」


「するの!?わたくしに恥をかかせる気!?」


「――――というのは嘘でしないとして」


「ええ、それでいいのよ」



いちいち反応するリーナに颯太は引きつった笑みを浮かべてから表情を戻し、話を続けた。



「で、今の会話から察すると本来のレーナのステータスを獲得できたみたいね」


「あぁ、でもそこで問題が発生して―――」


「分かるわよ、言わなくても。混沌としてのレーナとわたくしの妹のとしてのレーナ。2つの人格が出来てしまったわけね」


「そういうことだ」


「今回の事件は混沌のレーナが引き起こしたもので、わたくしのレーナは何をやっていますの?」


「恐らく寝ている。それか、混沌のレーナが意識を無理やり抑え込んでいるのか」


「前者でしょうね。抑え込まれていたら混沌の意識がなくなった時点で跳ね起きるわよ」


「それもそうだな」


「それであなたはどうしたいの?わたくしの力を使えば混沌の意識を完全に昇天させることが出来ますわよ。というか、人間に戻った時に厄介なことになりたくないから消したいのですけれど」



颯太はリーナの申し出に少しだけ考えて、そして――――



「それだけはやめてくれ」


「どうして?また危険な目に会うかもしれませんのよ?それに混沌を放っておけば詩織と香織も危険な目に会うのよ?」


「どんな性格だろうともレーナはレーナだ。今ここで混沌のレーナを消してしまえばそれこそレーナを救えなくなってしまう」


「どういうこと?」


「どんなに周りから嫌われようとも俺はレーナの味方になるって決めた。そしていつか誰からも慕われるような存在にするって誓ったんだ」


「颯太、余り目的が多いと何も達成出来なくなりますわよ?」


「分かっているさ。でも、これだけは絶対に譲れないんだ」


「…………何を言っても無駄なようですわね」


「すまないな、リーナ」


「ふふ、別にいいのよ。わたくし、そういうの嫌いじゃないですわ」



リーナは眠っているレーナの前髪をやさしく撫でると踵を返した。



「さぁ、あなたも早く戻りなさいな。滉介にはわたくしから言っておくから」


「あぁ、分かった。今夜は助かったよ、リーナ」


「あなたの下で戦うの、なかなか悪くなかったわ。次があればっていうのは変だけれど、もしそんな時があれば次はあなたのために剣を振るってあげるのも悪くないわね」


「はは、もしそんな時があればよろしく頼むよ」


「ええ、よろしくてよ」



リーナは最後に微笑むと駐車場を優雅に去っていった。

おはようございます!(投稿時間が朝の6時半頃)どうもまた太びです!


はい!すっごく眠いです!3時頃から書いていたのですが、いつの間にか6時半頃になっていてうちの犬が部屋の外で飯の時間だと騒いでいる時間帯です!


ということで余り語っていると意識がなくなってしまいそうなので、短いですがこれにてドロンです!

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