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答え

その頃の香織たちと言えば………――――



「………」


「ど、どうしたの…?詩織」


「………」


「ん?どうした、詩織」


「………」


「どうかしましたか?詩織さん」


「でかい…」



銭湯の湯船に使っているところだった。


詩織は視線を動かして3人の胸を順々に見て行き、最後に自分のを見てから目を伏せる。



『クレアさんは大人の女性だから仕方ない……アルテミスは神器で作られた存在だから別に気にしないけど…』



ぶくぶくと顔の半分まで湯船に浸かって目線だけを香織に向ける。



『なんで香織はあんなに大きいの…?服を着ている時は余り分からなかったけど、どうしてあそこまで大きくなるの…!?』


「な、なんか詩織の視線が肌に突き刺さる感じがする…」


「はっはっは、まぁそういう悩みもあるだろう」


「く、クレアさん!」



詩織の悩みを一発で見抜いたクレアは豪快に笑い、詩織の隣に行くと少し乱暴に頭を撫でる。



「どうしてそんなに大きくなるんですか…」


「ん、牛乳を飲んだからかな?」


「そんな嘘をついてもあたしは騙されませんよ」



そしてボソっと『牛乳は毎日飲んでいるし…』と漏らす詩織。



「ふむ……まぁこればっかしは遺伝によるものが大きいからな。努力次第では変わることも稀にあるが、その大半は――――」


「わーわーわー!!聞きたくないですからー!!」


「おっと、これは失礼」


「もう一体何なんですか……」


「なに、女の魅力は胸で決まるわけではないということを言いに来ただけだよ」


「あ………」


「ま、そういうことだ」


「………クレアさんはどこまで知っているんですか…?」


「どこまで?あぁ、そういうことか」



クレアは隣で俯いている詩織に一度だけ目をやってからすぐに湯船ではしゃぐレーナとリーナに目をやる。



「大体の事情は知っているつもりだ。詩織の気持ちも香織の気持ちもな」


「………こんなあたしが颯太と香織の間に割って入ってもいいんですかね…」


「………いいんじゃないか?入って行っても」


「え…?」


「なら、颯太のことを諦めるか?親友のためだと自分に言い聞かせて諦め切れるか?」


「それは……」


「諦め切れないだろう?なら、自分の気持ちに素直になるといい」


「でも、香織との関係が…」


「危うくなるかもな。厳しい言い方になるが、それで君と香織との関係が終わるようであればそこまでの関係だったということになる」


「………」


「焚きつけるつもりはないが、君はこのまま颯太と香織が結ばれて納得が行くのか?」


「………納得は出来ませんよ…」


「もう答えは出ているのではないのか?」


「…………クレアさんがもしあたしと同じ立場だったらどうしますか…?」


「私か?そうだな、私なら全力で颯太を奪いに行くだろう。生憎私は負けず嫌いでな。人と勝負する時は必ず全力で勝ちに行く。相手に同情などしてやらない。たとえ相手が親友だとしてもな」



クレアはそう言って立ち上がり先に風呂場を出て行った。



「………あたしは…」


「クレアさんと何話していたの?」


「………っ!?」



クレアが言った言葉を頭の中で考えていた詩織の隣に香織がやってくると、慌てて詩織は思考を中断していつもの表情を作る。



「あ、えっと、ちょっと相談ごとをね…」


「クレアさん大人だもんね。私もね、クレアさんには色々お世話になっているの」


「そ、そうなんだ…」



そこで詩織は最後にクレアが残した言葉を思い出した。



『相手に同情などしてやらない。たとえ相手が親友だとしてもな』


「………」


「詩織?どうしたの?」


「……あのさ、香織。皆が寝た頃に少し2人で話がしたいんだけど、いいかな」


「ここじゃダメな話?」


「うん、ここじゃダメなんだ」


「…………分かった」



どこか覚悟を決めたような表情をする詩織に何かを感じ取った香織は今まで緩んでいた顔を引き締めて彼女の言葉に力強く頷いた。






「はっはっは!こいつでも喰らえ!ドロー4だ!」


「竜也殿、残念だがそれは喰らわぬ!私もドロー4!」


「はぁあ!?え、俺8枚も引かないといけないの!?」


「あっぶねえ……颯太の後で良かった…」


「ふははは!UNOは初めてやったが、トランプとまた違ってこれも楽しいな!」



女子組がちらほらと風呂から上がって来ている最中颯太達男子組はUNOをしていた。



「楽しそうだな。私もあとで混ぜてくれ」


「ええ、いいですよ!なら、後でトーナメント式でやりましょうよ!」


「そいつはいいな。どれ、男子達が風呂に行っている間にくじ引きでも作っておこうかな」



そこへ濡れた髪を乾かすためドライヤーを持ったクレアが現れ、テーブルに洗ったマグカップを置いていった。



「どうせやるなら景品とか欲しいな。竜也、何かないのか?」


「ん~そうだな……」


「近くのコンビニでお菓子とか買ってきてそれを景品にするのはどうだ?」


「おお!滉介にしてはなかなか良い案だな!」


「おい、俺にしてはってなんだ!」


「まぁまぁそこは置いといて早速買いに行こうぜ!」


「この勝負はどうする?我が1抜けしそうなのだが……」


「んなもん後でいくらでも出来るだろ!それより女子が帰ってくる前に買いに行こうぜ!」


「う、うむ……納得は行かないが、仕方あるまいな…」


「私は留守番をしていよう」


「お、そうか。ボルケーノはどうするよ?」


「我も着いていこう。我は竜也の神器だからな」


「何もないと思うけど、用心に越したことはないな」


「そういうことだ。では、琥太郎。留守番は任せたぞ」


「あぁ、気をつけて行って来るといい」



颯太達は懐中電灯を持つなり暗闇の中を走って行ってしまった。



「あれ?琥太郎、颯太達は?」



そしてそこへ丁度風呂から上がってきたばかりの詩織が現れ、1人UNOのカードと睨めっこする琥太郎に尋ねた。



「颯太達殿なら今しがたコンビニへ行った」


「何のために?」


「これからUNOの大会を開こうと思ってな。その景品としてお菓子を買ってくることになったのだ」


「はぁ、UNO…やるの?あたしも?」


「あぁ、お前だけではない。全員強制参加だ」


「皆やるんだ……――――あたし、UNOとか久しぶりだなぁ……ルール大丈夫かな」


「ふっふっふ…なら今から私とルール確認を含めて少しやるか?」


「え、琥太郎ってそんなキャラだっけ…」


「私の興味を引くものは今までフライパンだけだと思っていたが、どうやらこのUNOという遊びもまた私の琴線に触れるものがあったらしい」


「あぁ……そうなんだ…」


「早くUNOがやりたい…」


「最近の琥太郎ってなんだか生き生きとしているよね…」



UNOのカードを華麗にシャッフルする自分の神器に詩織の表情は引きつっていた。






それから男子達も風呂から上がり、そして開かれたUNO大会も最後は1位アルテミス、2位クレア、3位琥太郎、4位レーナという形で無事に終わり、あまり騒いで周りの迷惑になるわけにも行かないため少し早いが終身時間となった。



「竜也」


「お?どうした」


「颯太ぁ……もう寝よう…」


「あぁ、ちょっと待ってな」



歯磨きも済ませ、これから寝ようとしている時に颯太はあることに気付いて自分のテントに戻ろうとしている竜也を呼び止めた。



「アオイソメ余ってしまったんだが、どうすればいい?」


「あれ?余った奴は海に捨てて来なかったのか?」


「あぁ………捨てるものなのか。捨てるの忘れていた…」


「マジか。ん~どうっすかねえ……このまま取っておいても死んでしまうだけだしなぁ」


「海も近いし、捨てて来るか?」


「それがいいな。1人で大丈夫か?」


「あぁ、それくらい1人で問題ないって」


「颯太?」


「レーナ、先にテントに戻っていてくれ。俺はちょっとこのアオイソメを海に捨ててくる」


「ん~………分かった。早く戻って来てね?」


「もちろんだ」



颯太はアオイソメとバーミキュライトが入ったパックと懐中電灯を持って海岸を目指した。





「お前らって元は海にいたんだよな……」



そして颯太は海岸の波打ち際まで来るなりパックの中身を砂にぶちまけた。すると、アオイソメはすぐに砂に潜ろうと動き始め、颯太は何となくその姿を観察していた。



「………」



しかし、砂が少し硬いのかなかなか潜れずにいたアオイソメはやがて流れてきた波にさらわれ、その姿を再び確認することは出来なくなってしまった。



「……戻るか…」



一体自分は何でアオイソメなんかを観察していたのか真面目に考えようとしてその思考を振り切り、レーナが待つテントへ踵を返したところで人の気配を感じた。



「……ん?あれ?詩織と香織さん?」



暗闇に慣れた目を凝らして見るとそこには見知った人物がいた。颯太が近づくと、足音に気付いた詩織と香織が驚いた表情を見せ、颯太は何故そんな反応をするのか疑問に思い、眉間にしわを寄せる。



「あ、あれ?そ、颯太なんでここに?」


「え?颯太くん?」


「いや、俺は昼間使い切れなかったアオイソメを捨てに来てさ。それで今から帰るところなんだが、2人は何をしているんだ?」


「あ、えっと……」


「………」



口ごもる2人に颯太は無言になるとその場の空気を感じて自分がここにいては行けないことが何となく分かった。



「お邪魔だったかな……ごめん、俺戻るな。2人も出来るだけ早く戻れよ」


「あ、待って!」


「待って颯太くん!」


「え、え?」



2人に呼び止められた颯太は驚きながらも振り返る。



「あのね、颯太くん……今私達颯太くんのことについて話していたの」


「え?お、俺?」



その言葉で颯太は全てを理解した。



「あのさ、もしあたしと香織が颯太のこと好きだって言ったらどうする?」


「………」



暗闇で彼の表情は2人に見えないだろうが、その表情はどんどん苦いものへと変わっていく。



「こ、困っちゃうよね……やっぱり…ごめんね、颯太くん」


「香織さんが謝る必要はないさ。うん、嬉しいよ。こんな俺のどこが良いのか分からないけど、2人に好意を寄せられていることは本当に嬉しい」



颯太はそこで一度言葉を区切る。



「でも、今は2人に答えを出すことは出来ない…」


『え?』


「俺は今ランゲージバトルの秘密と戦っている。だから、それが終わるまで答えることは出来ないんだ……」


「………」


「ねえ、颯太。それはやっぱりあたし達には言えないの?」


「……言えば詩織と香織さんの命が危ないんだ」



バチン――――!!



「ひゃっ!?し、詩織!?」


「………ッ!?」



颯太は一瞬何をされたのか理解出来なかった。そして頬に集まる熱とひりひりと痛む頬に手を当てたことでやっと自分が詩織に殴られたのだと状況を理解した。



「もう……!そんな言葉聞き飽きたよ!!」


「し、詩織……!」


「あのさ!あの日皆で香織の家に集まって話した会議は何だったの!?皆で力を合わせて困難に立ち向かうためのじゃなかったの!?」


「………」


「ねえ、あたしは颯太と一緒に歩きたいだけなのに……どうして置いていくの…」


「………ごめん、詩織…」


「謝らないでよ!!納得の行く説明をしてよ!!」


「………」


「詩織………颯太くん、私強くなったよ?ここ最近ずっとフレンドの皆とダンジョンやクエストを歩き回って颯太くんの足手まといにならないくらいには成長したんだよ。それでも……まだ……君の隣には立てないのかな…」


「………」



颯太は目の前で俯いて静かに涙を流す詩織と悲しげな表情を見せる香織を直視できなかった。

教えればどうなるかは目に見えている。以前に自分は倭というプレイヤーが殺されかけた場面を見ている。エニグマンは本気だ。やろうと思えばいつでも彼の指示一つで神器が放たれ、そして殺される。今の自分も彼の気まぐれによって生かされている身に過ぎない。


そんな状況下でこの2人を巻き込んでいいのだろうか?


颯太は苦悩した。今目の前にいる2人に真実を聞けば死ぬと言っても聞く耳を持たないだろう。では、どうする?彼に助言をくれる女性は今この場にいない。この問題は自分で切り抜けるしかない。


どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?オマエハドウシタイ?



「………」



颯太は顔を上げた。



なら、いっそのこと――――――――嫌われた方が何倍もマシだ。



「教えることは出来ない。俺は2人を死なせたくない」


「………どうして…どうしてなの…?」


「…颯太くん…」


「何度殴られようとも俺は教えない。2人が死ぬことに比べたらこんな痛み、屁でもない」



颯太はまっすぐ前を向き、詩織と向き合った。



「詩織、香織さん。俺はランゲージバトルの秘密を暴かなきゃいけない。誰かに指示されたわけじゃない。これは俺がやらなくちゃならないことなんだ」


「何のためにそんな危険ことをするの…?」


「レーナのため―――いや、神器皆のためだ」


「え、どういうこと…?」


「これ以上は言ったら2人の身が危ない。でも、全てが終わったとき、まだ俺を好きでいてくれるのなら、2人の前で答えを必ず出すよ」


「………颯太」



詩織は服の袖で涙をぬぐうと、右手に拳を作って軽く颯太の胸に拳を突き出した。



「今はそれで勘弁してあげる。全部終わった時あたしを選ばなかったら……包丁とか取り出すかも」


「穏やかじゃないな……お前、そんなキャラだっけ」


「元は根暗だからね。明るいキャラは飾りだよ」


「……そうか、刺されないようにしなくちゃな」


「颯太くん……」


「香織さん、俺はずっと前から香織さんの気持ちに気付いていた。でも、それを気付いていない不利をして先延ばしにしていたことは本当に申し訳ないと思っている。今もこうして理由をつけて答えを先延ばしにしてしまったしな…」


「ううん、気にしていないよ。で、答えは出せないんだっけ」


「あぁ……2人の気持ちを踏みにじるようで本当に最低なことをしていると思っているけど…」


「でも、アピールはいいよね?颯太くんが私を選んでくれるように頑張るから」


「いつも通りってことだね。奥手な香織にどこまで出来るか知らないけどさ」


「そんなことないわよ。私だってやる時はやるもの」


「そう?全然そうには見えないけどね~」



2人仲良く談笑しあう様子を見て颯太はどっと疲れが肩に圧し掛かってくる感覚を感じた。



「2人とも本当にありがとう……こんな俺を好きになってくれて」


「え~?どうしたの急に。なんだか戦地に行く兵士みたいだよ」


「はは……」



あながち嘘ではないことに颯太は乾いた笑みを浮かべる。



「颯太くん、絶対負けないでね。そして聞かせて、あなたの答えを」


「あぁ、絶対負けないさ」


「よし、もう戻っていいよ。颯太も疲れているでしょ?」


「あ、あぁ……すまないな。それじゃ一足先に戻っているよ。おやすみ、詩織、香織さん」


「うん、おやすみ。颯太」


「おやすみなさい、颯太くん」



颯太は懐中電灯の明かりを点けると2人に背を向けて自分達のテントへと戻って行った。

どうもまた太びです!


もうすぐ8月も終わりですが、最近寒いですね。えっと、8月ってこんなに寒い季節でしたっけ?ってくらい寒くてもう一枚上に着ないと風邪を引いてしまいそうです。

皆さんは風邪とか大丈夫ですか?私は8月上旬に風邪を引いてダウンしていましたw

温度差の激しい日が続きますから、ちゃんと体温調整はしっかりしましょうね!

おっと、また太び選手の頭にブーメランが大量に突き刺さっているぞー!!

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