到着
「あ、颯太。もうどこ行ってたの?」
「竜也達と釣り道具屋に行っていたんだ」
「へへ、まぁ男の楽しみよ」
「一方的に連れて行かれただけだ」
竜也達と一緒に戻ってきた颯太の下へメモ用紙を手にカートを押す詩織が歩み寄ってきた。
「じゃ、俺は一度香織のところに行ってくるぜ。また後でな」
「では、我も。滉介も後で会おう」
「了解だ」
「あぁ、またな」
「ん?クレア達はどうしたんだ?何故1人で買い物をしている」
「えっとね、ただ料理するのもつまらないってクレアさんが言ってさ、明日の朝ご飯ちょっと料理対決することになったんだ」
『え…?』
詩織の言葉に颯太と滉介の顔が一瞬で曇る。
「で、もちろん食べるのは颯太達ね」
「なぁ…颯太少しいいか…?」
「あぁ、俺も話したいことがある…」
「ん?どったの?」
「あはは、ちょっと詩織待っててな」
滉介は颯太の肩に手を回してきょとんとする詩織から少し離れて物陰へやってくる。
「あいつは料理が出来るのか…?」
「……家での家事はほとんど琥太郎がしているらしい…」
「颯太……」
「滉介……」
『覚悟しよう…』
2人は明後日の方向を向いてどこか悟った目をするのであった。
「何話していたの?」
「いや、ちょっとな」
覚悟を決めた2人が戻ってくると、詩織はさっきと同じ場所で2人を待っていた。
「あぁ、そんな気にするようなことではない」
「あぁ…そう?で、何食べたい?」
『え?』
「いや、え?じゃなくて何食べたいって」
「なぁ、そのメモ用紙は何なんだ?」
「あ~これね?これ、実は格ゲーのコマンドをメモったメモ用紙なんだ~。あれれ?もしかして材料をメモった奴だと思った?残念、違うんだな~」
「……詩織…そこまでして俺に勝ちたかったのか…」
「当たり前だよ~。あたしだって颯太と出会う前までは負けなしのゲーマーだったし、颯太に負けてこれでも結構プライド傷ついたんだよ?」
「あぁ…それはすまんかったな…」
「へえ、颯太とはちょくちょくオンライン対戦をしていたからこいつの強さは分かるが、詩織もやるのか」
「へへん。女だからって舐めないほうがいいよ」
「今夜詩織とやる予定だから一緒にやろうぜ。滉介も持ってる奴だからさ」
「あぁ、参加させて貰おう」
「うん、やろうやろう!」
にこにこと笑う詩織はそう言うと、コマンドが書かれたメモ用紙をしまった。そして颯太の手を取った。
「んじゃ、何食べたい?」
『………あぁ…』
「ほらほら、答えて」
「颯太……」
「……詩織って料理できるのか…?」
「え?出来るよ?」
『なに!?』
「なにその反応!?酷くない!?あたしだって料理出来るよ!?」
「あ~いや、すまん。颯太から家事は全て琥太郎がしていると聞いてな」
「た、確かに家事は全部琥太郎がしているけど……で、でも!琥太郎が来る前はた、たま~に!お母さんの代わりにご飯作っていたりしていたんだよ!」
「詩織、ちなみに何年前の話だ?」
「え?え、えっと………10年前です…」
『…………』
「詩織……カレーにしようか…」
「はい……頑張らせていただきます…」
「頼むぞ……」
何とも言えない雰囲気を漂わす中で颯太は詩織にそう提案するのであった。
「ね、颯太。料理対決することになったんだよ!」
「あぁ……」
「滉介、このわたくしがあなたに料理を作ってさしあげるわ。感謝しなさい」
「……そうだな…」
「なぁんだ~?シケた面しやがって」
昼食も食べ終わり、竜也の車に嬉々として乗り込むレーナとリーナに打って変わって颯太と滉介の表情は曇りきっていた。
「竜也には分からないだろうな…」
「あぁ……―――――詩織の強張った顔を見れば颯太殿と滉介殿の心情を察せる。それに混沌は何でも神器ネットワークを使用しないらしい」
「……それは危険ではないのか…?もちろん颯太殿の身を案じてのことだが…」
「…………リーナもまた混沌と張り合って神器ネットワークを使わないそうだ…」
「……滉介殿も気の毒な…」
そして最後に乗り込んだ琥太郎とボルケーノは2人の男の身を素直に案じた。
「うーし!ついたぞ!」
「やっほー!!」
「あ、おい!レーナ!」
「待ちなさい!レーナ!」
「わ、ワタシなんだけど私じゃないのー!!!」
その後昼食を取り、そこから30分ほどで目的のキャンプ地についた竜也の車が駐車場に停止するなりレーナとリーナは車から飛び出した。
「ボルケーノ!今からクレアさんとチェックインしてくっから、荷物出しておいてくれ!」
「あぁ、了解した。琥太郎も頼む」
「手伝おう」
「あぁ、俺はどうすれば」
「リーナめ、どこに行きやがった…」
「颯太と滉介は自分の神器を探しに行け。この程度に荷物、我と琥太郎で十分だ」
「悪い!あとでテント張り頑張るから!滉介!」
「あぁ!全く世話の焼ける神器だ!」
「あ、颯太くん!?ど、どこ行くの!?」
「滉介も!?」
「レーナがどっか行った!」
「リーナもだ!」
「後で合流するから先に手続き済ませててくれ!」
勢いよく走っていく2人を目で追う香織と詩織は唖然としていて、アルテミスと伊澄に至っては呆れていた。
「兄さん、どういうこと?颯太くんと滉介さんが走って行ったけど…」
「ん?なんかレーナちゃんとリーナちゃんが走って行っちゃってな。それ追っかけて行った」
「はぁ、颯太も滉介も大変だね」
「颯太も滉介もこの状況を楽しんでいる。元々2人とも暗い性格故にレーナとリーナの存在は彼らに大きな影響を及ぼしている」
「どういうこと……?」
先を歩くクレアが端末携帯を片手に何か調べ物をしながら言葉を口にし、そして伊澄がいつもの眠たそうな瞳をクレアに向けながら尋ねる。
「そのまんまの意味さ。レーナとリーナは性格が明るく、颯太と滉介にとって良い刺激になっているのだよ。香織、君は昔の颯太を知っている。それを今の颯太と比べてみてどうだ?」
「中学校の頃よりも見違えるように明るくなりました」
「ま、そういうことだ。滉介本人も自覚がないだけで、リーナに振り回される日常を自然と受け入れている」
クレアはそこで携帯をポケットに入れて青空を見上げる。
「しかし、それが1年だけの付き合いだと考えると悲しいものだな」
『………』
「我々は戦いが終わったその瞬間にランゲージバトルに関する記憶を失い、何の変わり映えもしない日常へ帰っていく」
「……皆との記憶も消えちゃうのかな…」
「詩織……」
「……我々が出会ったきっかけはランゲージバトルによるものだ。そのランゲージバトル自体の記憶が消えることになれば記憶に矛盾点が生じることになるな」
「そんな……あたし…皆と友達になれたのに…」
「……それは嫌…」
「……させねえよ…!」
「兄さん?」
「ぜってえさせねえ…!」
「そうだな。私もこのまま易々と運営の手にかかるつもりは毛ほどもない」
「それにアルテミスともお別れしたくないもの!何か方法はあるはずよね!?」
「その事態を避けるべく私と颯太は今動いている」
「例の教えることができない奴ですか?まぁ颯太にも尋ねたら辛そうな顔したから深くは尋ねませんけどね」
「俺も1回それで颯太と喧嘩してしまったからな。俺は黙ってあいつが言うのを待つぜ」
「……クレアが言えないのならそれが正しいと判断する」
「私も待つわ。颯太くんが話してくれるその時まで」
「中途半端に巻き込んで本当にすまないと思っている」
「クレアさんが謝る必要はないっすよ。俺達は仲間なんすから!」
「颯太とクレアさんの気持ち、しっかりあたしに届いているから、心配しないでください!」
「ちゃんと伝わっているよ……クレアの気持ち…」
「クレアさんと颯太くんが助けを求めた時のために私は腕を磨きます!もう足手まといになりたくないから!」
「ふふ………本当にこのギルドの結束力は素晴らしいな…」
皆の声を受けたクレアはサングラスをかけ直して先へ歩いていった。
どうもまた太びです!
お久しぶりですかね。本当に全然時間が取れなくて死にそうな思いをしているまた太びです………えっと、去年はそうでもなかったのですが、今年は忙しく、執筆に使える時間も睡眠時間を削ってのことでして、なかなか辛い状況です。
8月ちょっとすぎればまともな時間が作れるようになると思いますので、それまで更新速度が本当に遅れることをこの場でお詫びします。




