アップデート情報と深刻な懐問題
それから数日後のランゲージバトルで今月のアップデート内容が記載された。
「今月バトルアリーナないんだ?」
「ふむ、そうみたいだな」
「運営も夏休みってか?」
「それはないだろ……ほら、その代わりのイベントがあるみたいだ」
ギルドのアジトに集まる颯太達はそれぞれのFDに目を落としながら語る。ちなみにユキナと香織はこの場におらず、竜也によればフレンドに誘われて絶賛宝の地図ダンジョンに潜っているそうだ。
颯太達の奮闘により勝利した勢力戦であったが、その報酬内容は諸手を挙げて喜べるものではなかった。
それは勢力戦勝利の報酬であるランダムボックス開封にあり、皆一斉に開けて見たらポーションだとかそんなゴミ同然のようなアイテムしか出ない結果に終わったのだ。
まぁ最初こそは悲しんだものの、クレアの最初から『期待していなかった』という言葉で運営に向けられる理不尽な怒りの矛先を渋々収めた。
しかし、持つべきものはフレンドであり、勢力戦終わりに共に戦ったプレイヤー達とフレンド交換したおかげで颯太達は宝の地図を当てたプレイヤー達から度々呼ばれたりしていたので、これはこれでいいかなと思っている。
「ん?宝探し?」
「トレジャーハント……?特別のフリーマップで行われるみたい…」
「2人1組か。ふふ、これは面白い」
「滉介、それうまいの?」
「少なくとも金は入るみたいだ」
「颯太は出るの?」
「ん~………」
「なんでさー!シーザーの育成費で金欠なんでしょー!出ようよー!」
「あ~……分かったよ。まぁ確かにシーザーのエサ代はバカにならないからな…」
「レアモンスター故に金がかかるのは颯太も一緒か。私もフェンリルに金を吸われてやばいんだ…」
「え?颯太とクレアさんのテイムモンスターってそんなにかかるんですか?あたしなんてすっごい安いですよ」
「ティアのレックスは燃費がいいようだな。私と颯太のシーザーとフェンリルは恐らく5日で10万単位は持っていかれる」
「ええ!?逆に颯太とクレアさんがどうやって金稼いでいるのか知りたい…」
「聞かない方がいいぞ」
「はい?それってどういう――――あぁ…」
笑顔のクレアにそう言われた詩織は颯太に視線を移した瞬間、彼の頭を抱える姿を見て理解した。恐らく凄まじい廃人周回を繰り返しているのだろう。
「香織さんもよくやっているよ。俺とクレアさんと同じくレアモンスターだからな。維持費はかなりかかっているはずだ」
「香織のレベルはどれくらいなんだ?」
「俺と同じくらいだったかな~?」
「んじゃ、98くらいか」
滉介の質問に竜也が答え、滉介は竜也の頭上のHPバーの隣に現れるレベルを見て理解する。
「へえ、香織凄いじゃん。あたしだって昨日95行ったばかりだよ」
「レベル上限がないとは言え、このゲームのレベリングはかなり厳しい。俺とかクレアさんみたいに廃人周回しない限りレベルは上がらないくらいだからな」
「いやいや、颯太とクレアさんは現在の平均レベルの上を軽く行っているから!なんで平均レベルが89に対して110レベルも行っているの!?」
「それはその……」
「あぁ……それはだな…」
「2人とも廃人だから……気にしちゃだめ…」
「伊澄さんも105でしょ!」
「あう……」
口ごもる2人に対してガンドレアと遊んでいる伊澄がそう言うが、伊澄本人もかなりの廃人なため詩織がキッ!と睨むと伊澄は頭を抱えてその場にしゃがむ。
「かー!全く勝てる気がしねえな。俺もまだまだ頑張らないと」
「竜也はそれで十分だと思うぞ。颯太とクレアと張り合う方がおかしい」
「そうだよ。あたし達は自分のペースでやればいいんだよ」
「あぁ、私と颯太はテイムモンスターの維持費というものがあるから半ば強制された状態にある。テイムモンスターの維持費の緩和でもしてくれないと苦しいのだ…」
「もっと金策出来るクエストでもありませんかね?そろそろゲリラクエストのジュエリークラブ狩りも飽きて来ましたよ」
「しかし、それをやめればシーザーは成長もしないし、呼び出すことも出来なくなるぞ?」
「それがジレンマなんですよ……シーザーは頼りになりますからね……出来るだけ出してやりたいんですけど、維持費の関係上維持費をケチるとすぐあいつは捻くれて角で俺を突っつくんですよ」
「フェンリルもあからさまに不機嫌になるぞ。ホント困ったものだな」
「颯太とクレアを見て俺は誓った。絶対にレアモンスターをテイムしないと」
『あぁ、そうした方がいい』
滉介の呟きに颯太とクレアは頷いて同意するのであった。
その後颯太はレーナを連れて牧場に来ていた。
「ほら、シーザー遊んで来い」
「ガウッ!」
自分の魔物を好き勝手遊ばせることが出来るこのモンスターファームでは、プレイヤー同士の交流が活発に行われており、周りのプレイヤー達は楽しそうに談笑しているのだが、颯太の場合目的が違った。
実はこのモンスターファームでモンスターを一定時間遊ばせておくと能力値が僅かに上がることを発見しており、密かにそのことを発見した颯太は誰にも言っていない。
そんな僅か程度……と思うかもしれないが、シーザーの維持費が極めて困難な颯太にとってシーザーの空腹度が減らないモンスターファームは神の領域と化していた。
腹も減らず、シーザーの能力値を底上げすることが出来る。何て素晴らしい場所なのだろう、と颯太は1人で感激している。
「颯太も飽きないね~」
「最初は良かったんだけどなぁ……シーザーが成長する度に維持費が増えていくことに驚いたよ」
牧場のフェンス向こうで楽しそうに走り回るシーザーを2人はフェンスに寄りかかりながら眺める。
「クエスト行った方がいいんじゃない?そのほうがシーザー成長するよ?」
「ここに来るのはあくまで息抜きだ」
「シーザーの能力値を考えているのは息抜きなの?」
「あぁ、息抜きだ。ほら、シーザーも楽しそうだろ?これ見るだけで心が休まると思わないか?」
「まぁそれも分かるけどさ…」
時折レーナに頭を撫でられに来るシーザーを見ながらレーナは苦笑する。
「颯太~」
「なんだ」
他の魔物とじゃれあうシーザーを共に見ながらレーナは颯太の名前を呼ぶ。
「ありがとね」
「はぁ?突然なんだよ」
「何となく言いたかったの」
「何となくって………まぁどういたしまして?」
「うん」
「……まぁお前が何を想ってそう言ったのか大体想像つくけどさ、俺にとってお前を救うことは当然のことだ。尾崎がお前とリーナを救おうとしたようにな」
「………」
「尾崎の意思はちゃんと俺が継いでいる。安心しろ、絶対お前を助けてやるから」
「うん…!」
わしゃわしゃと少し乱暴に髪を撫でる颯太にレーナは目頭に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
颯太には色々なものを貰った。だからいつか彼に恩返しをしたいと少女は切に願う。
もし自分の身体が解放され、自由の身となった暁には彼がしたいことをいっぱいしてあげるんだと少女は心に誓う。
「颯太、絶対私を助けてね」
「当たり前だろ。何言ってんだ」
「えへへ…」
「なんかお前今日変だぞ…?悪いバグでも入ったか?」
「酷い!せっかく自分の気持ちを素直に言っているのにー!」
「あ、あぁそうだったのか…それはすまない……」
困惑した表情を浮かべる颯太を見てレーナはニコニコと笑うのであった。
「私、とっても幸せだな~」
そう晴れやかに呟いて――――
どうもまた太びです。
今回はキャンプに入る前の話となります。8月のバトルアリーナはなく、主に夏休み関連のイベントが目白押しとなっています。
それから竜也の前に現れた謎のプレイヤーヒカルについても書いていけるといいな~と思っております。
さてと、これからかなりリアルが厳しい季節になってくるので、更新が絶対遅れると思います………今も遅れていますしね…―――なので、更新は遅れるもののツイッターや活動報告で生きているアピールをしますのでご理解の方どうぞよろしくお願いします。




