滉介とリーナ 仙台へ来る
それから数日後――――
「ようこそ、仙台へ」
「長旅というわけでもないけど、案外新幹線ってつまらないのね」
「出迎えサンキュ。竜也、しばらく厄介になる。ほら、リーナも頭を下げろ」
「厄介になるわ。お世話のほう、よろしくね」
「お、おう…」
無事仙台へやってきた滉介は皆の出迎えに礼を言い、どこか偉そうなリーナは自分の髪を払いながら竜也にそう言った。
「改めて自己紹介をさせてもらう。俺の名は大島 滉介だ。夏休みの間だが、皆よろしくな」
「よろしく。俺は天風 颯太だ」
「道草 香織よ」
「道草 竜也だ」
「神崎……伊澄…」
「凪原 詩織です!」
「クレア・フィールストンだ。よろしく」
自分の名を名乗った滉介に続いて颯太達は彼と握手しながら自分らも名乗っていく。
「ユキナは残念だったが、これで全員揃ったな」
「なんだかランゲージバトルとリアルじゃあんまり変わらないね」
詩織が皆を見渡しながらそう言うと皆も頷いてくすくすと笑う。
「どうやら現実とゲームの境目がなくなってきているようだ。これも技術の進歩故に、という奴か」
「まぁランゲージバトル自体まだ世にも広く知られていないオーパーツみたいな技術ですけどね」
「なんで運営は公表しないんだろうね?これ絶対儲けると思うんだけど」
「それは……」
「まぁまぁ!そんな現実世界でもランゲージバトルの話はやめようぜ!それよりも皆今日暇なんだろ?」
「うん、特に今日は用事はないよ」
駅のエスカレーターに乗っている最中に詩織のごく自然な質問を投げられた颯太は、思わず口ごもってしまった。しかし、そこですかさず颯太の前にいた竜也がフォローし、詩織の気は竜也に向けられる。
「すまないが、私はこれから少し仕事があってね。表にマネージャーを待たせているんだ」
「あらら、それは仕方ないっすね。お仕事頑張ってください」
「あぁ、竜也達と思いっきり遊べるキャンプの日を楽しみにしているよ」
先にエスカレーターから降りたクレアは最後に颯太達へウィンクをすると手を挙げて駅を出て行った。
「他は大丈夫か?」
「俺は問題ない」
「私も大丈夫よ」
「俺も問題はないが、荷物がな」
「あぁ、それは一度俺の家に置いてこよう。それじゃ、遊ぶの午後からでいいか?」
「了解だ。13時頃この駅に集合でいいか?」
「おう、いいぜ」
「分かったわ」
「りょ~か~い。ね、あたし颯太の家に行っていい?自分の家に帰るわけにも行かないしさ」
「あぁ、いいぞ」
「あ……」
「ほら、お前も言えよ」
「兄さん…」
声を出そうとして言い淀んだ香織を見かねた竜也は妹の背を叩く。
「そ、颯太くん。お邪魔じゃなければ私も行っていいかな?」
「ん?あぁ、別に構わないよ」
「やった……」
「良かったな、香織」
「なら、わたくしも行こうかしら。颯太、あなたのお母さん今日家にいるのでしょう?」
「今日はいるぞ。レーナも家で友達と遊んでいる」
「と、友達?レーナに?それって神器じゃないわよね?」
「現実世界の友達だ。リーナも会ってみるといい」
「ふ、ふ~ん?レーナに友達ねえ…」
「お前もボッチなんだから友達の1つや2つ作ってこい。荷物は俺が全部運んでやるから」
「当たり前よ。むしろレーナからその子を奪ってやるわ!」
「んな対抗心燃やすなよ………―――颯太、俺は行けないが、お前のお母さんによろしくな」
「あぁ、ちゃんとリーナの面倒は見るさ」
滉介はリーナから押し付けられた荷物を受け取り、鞄から青森のお土産を取り出して颯太に渡す。
「気にしなくていいのに。すまないな」
「いいんだ。これ、全員あるからさ。クレアに渡しそびれたが……」
「ならわたしが預かっておく……クレアのお家に住んでるから…」
「そうだったな。んじゃ、これ渡しておくぞ」
「うん……おいしそうなリンゴパイ…」
「おお、うまそうだな。家に帰ったら早速食うぜ」
「え?私の分もあるの?兄さんと一緒でいいのに…」
「アルテミスとあわせて2人分だ。竜也もボルケーノと分けて食えよ」
「おう、分かってるって」
「そういえばアルテミスとボルケーノの姿が見えないが、どこへ行ったのだ?」
「ボルケーノとアルテミスは家で働いているぜ。あの2人すっかり使用人気分なんだよ」
琥太郎はいつも香織と竜也の後ろに控える2人の姿が見えないことに気付き、竜也は呆れながら琥太郎の疑問に答える。
「なるほど。神器はどこへ行っても雑用なのだな」
「ぎく……」
「詩織?どうした?」
「あ、いや……」
「でもね、あの2人は楽しそうに仕事をしているんだよ。ボルケーノは力が仕事が好きみたいで、丸太運びとか家具の持ち運びの仕事とか好きなんだって」
「まぁボルケーノは見た目通りの男だからな。2mもある使用人か……恐ろしい…」
「あいつはドラゴンだからな。そりゃあ力持ちさ」
颯太達はそんな会話をしながら駐車場をへやってくると、竜也は自分の車の鍵を取り出して車のロックを解除した。
「うし、それじゃ13時な。香織、そのリンゴパイこっちに寄越せ」
「あ、よろしくね兄さん」
「伊澄ちゃんも乗ってけよ。どうせ暇なんだろうし、うちに来いって」
「もちろんそのつもり…」
「また後でな。リーナ、失礼のないようにしろよ」
「分かっているわよ。ほら、さっさと車出しなさいな」
「自分が乗るわけじゃないんだけどなぁ…」
伊澄と滉介が乗ったのを見た竜也はそう愚痴りながら緩やかに車を発進させた。
「ただいま」
「あ、颯太おかえ―――おぶはッ!?」
「全く何をしているの――――え!?だ、誰!?そ、そっくりさん!?」
「邪魔するわよ」
「お邪魔します!」
「お邪魔しま~す…」
「お邪魔する」
「ええ!?おねえちゃ―――あ、いやいやリーナが何故!?」
颯太は4人を自分の家に招待すると、リビングから飛び出してきたレーナがリーナの姿を見て盛大にこける。
そして千草は転びはしないもののずっこけそうになり、リーナの顔とレーナの顔を見比べて驚く。
「朝話していただろう?滉介とリーナがこっちに来るって」
「わ、忘れていた……」
「あらあら、随分とお友達連れて来たのね。あら?颯太、もしかしてそちらの子がリーナちゃん?」
「あぁ、そうだ。レーナの姉だ」
「え?姉?」
『話を合わせてくれ…!じゃないとややこしいことになる…!』
『そ、それもそうね……分かったわ』
「ええ、レーナの姉のリーナよ。妹が世話になっているそうね。感謝するわ」
「随分とふてぶてしいね………」
「言うな……あいつは全く自覚していないから…」
「まぁリーナさんだし…」
「まぁまぁ可愛らしいこと。もっとお顔を見せてちょうだいな」
「うにゅ…」
余裕をかましていたリーナの下へ母さんが近づいてしゃがみ、リーナと視線が合うとリーナは顔を赤らめて顔を逸らしてしまった。
「やっぱり似ているな……」
「見れば見るほど似ているよね。レーナさんとリーナさん。本当に姉妹だったりして」
「そうだといいな」
「うわあああ!もうダメ!見るの禁止よ!あ、あのね!わたくしはお腹空いてるの!何かないのかしら!?」
顔をじろじろ見られたリーナは我慢の限界に達したのか、顔を真っ赤にしながら颯太の背中に隠れて叫ぶ。
「そうね。そろそろお昼だものね。人が多いし、素麺にでもしましょうかね」
「あ、私も手伝います」
「あたしも手伝います!」
「いいのよ、あなた達はお客さんなんだから、ゆっくりしていなさい」
「そうも行きません。何かやらせてください」
「皿出しでもいいのでやらせてください。少しでもお母さんのお役に立ちたいんです」
「そう?悪いわね。それじゃ、お願いしようかしら」
『はい!』
そう言って母さんは詩織と香織を連れて行き、玄関に残ったのは荒い息を吐くリーナと姉を前にして緊張しているレーナと颯太にこの状況をどうすればいい、という視線を投げてくる千草と無言で目を瞑る琥太郎の4人が残った。
「颯太殿、ここは一度リビングへ行くべきだ」
「そ、そうだな…」
琥太郎の声を受けて颯太は自分の腰をぎっちり掴んで離さないリーナを引きずりながら颯太は4人をリビングへ連れて行った。
「こう並んで見ると圧巻の一言だな」
「……レーナの姉って言ったけど、髪……銀髪なのね…」
姉にベタベタするレーナとそれを鬱陶しそうにするリーナを見ている颯太と千草は冷静に分析していた。
2人とも西洋人形のように美しく、2人の瞳はルビーのように輝いている。
「はぁ……私も姉が欲しかったわ」
「千草ちゃんは一人っ子だもんな。憧れちゃうか」
「だって、姉か妹がいれば賑やかそうじゃない?」
「まぁ俺も兄貴がいるからな。飽きないという意味では合っているか」
颯太は何気なく端末型携帯を取り出してじゃれあう2人を写真に収める。もちろん無音なので2人はバレない。
「へっへっへ……あとで父さんにこれを見せて何か買ってもらおう」
「うわ……それ犯罪よ…」
「家族だから問題ない」
「そういう問題なの…?私、こういう大人になりたくないわ…」
レーナとリーナの写真を見てにやにやする颯太に何か危険な雰囲気を感じて千草は、すすっと少しだけ後ずさりする。
「前に颯太から話は聞いていたけど、本当にそっくりなのね」
「リーナさんですか?ホントですよね。髪を金髪にしたらもうどっちがレーナさんか分からないですよね~」
「お姉ちゃんですもんね……ふふ、微笑ましいです」
きゅうりとハムを切る詩織と生姜を摩り下ろす香織は素麺を茹でる母さんの視線の先にいるリーナとレーナを見て呟く。
「詩織さんはお姉ちゃんがいるそうね。昔はあんな感じだった?」
「どうですかねえ……アルバムを見るとお姉ちゃんべったりなんですけど、あたしにはべったりしていた記憶が全くなくて…」
「香織さんは?」
「私はいつも兄さんの後をついて回るような毎日でしたね。でも、毎日がとても楽しかったことは覚えています」
「うちの場合はね、颯太も和彦も2人で何かして遊ぶことなんてなかったのよ」
「え?颯太くんってお兄さんのこと凄い尊敬していますよね?それなのに遊んでいなかったなんて…」
「和彦は運動が大の苦手で、颯太は運動が大好きで全くそりが合わなかったのよ。夕方になれば泥だらけで帰ってくる颯太に対して和彦は図書館から借りてきた本を持って帰ってきたわ」
「見事にそりが合ってませんね……」
「でも、そこからね。颯太が和彦を変に尊敬し始めたのは」
「というと?」
「本の虫のようにずっと本を読み続けられる和彦を羨ましいと思ったのよ。それを知った和彦は常に颯太の模範であろうとした。運動では弟に適わないけど、他の分野でなら兄で居続けられると思ったのかしらね。そしてそれを見た颯太は和彦を尊敬し、自慢の兄だと言って小学校の作文に和彦のことを書いたくらいだったわ」
「凄い尊敬っぷりですね……颯太、そんなに和彦さんのこと尊敬しているんだ…」
「でも、和彦さんも大変だったでしょうね……だって、常に模範であろうとしたんですよね?相当努力されたはず…」
「そうね。でも、苦にならなかったと思うわ。だって、作文を書いて貰うほど尊敬してくれているのだから、和彦本人もそれが兄として役割だと思っていたのかしらね」
母さんは茹で上がった素麺が入った鍋を持ち、流しに置いた網ザルにお湯ごと素麺を流す。
「さ~てと、詩織さんも香織さんも出来た?」
「はい!ハムもきゅうりもオッケーです!」
「私の方も終わりました」
「うん、上出来上出来」
さらっと素麺を水に通して大きな皿に盛り付けた母さんは2人にそう尋ねる。
「素麺できたよ」
「ほらほら、じゃれあうのもそこまで~!」
そしてハムときゅうりと摩り下ろされた生姜が乗った皿を持つ香織と詩織がリビングに行き、母さんがたんまりと皿に盛られた素麺を持ってきた。
「母さん、どこにこんな量の素麺が…」
「隣の佐藤さんから貰ったのよ。うちでは食いきれないって」
「あぁ、なるほど……」
「手伝ってくれた詩織さんと香織さんに礼を言って食べるのよ」
「ありがとな、詩織、香織さん」
「全然礼なんていらないよ~。あたしはきゅうりとハム切っただけだし」
「私も皿出しと生姜摩っただけだしね」
「それでもだ。俺なんかまさしく何もしてないからな」
颯太達は割り箸を割り『いただきます』と合掌した。
「颯太、この生姜は入れるの?」
「千草ちゃんはやめておけ。辛くて食えなくなるぞ」
「なら入れるわ」
「お、おい…俺の話を聞いていたか?」
「ハムと~きゅうりを~大量に~!」
「あ、ちょっとレーナ!わたくしの分がなくなるじゃない!」
「賑やかだね」
「食事が賑やかなのはとってもいいことだよ」
「詩織の家は母上も父上も夜遅くまで仕事だからな。こういうのは新鮮か」
「そうだね。あんまりこういうことはないから、楽しいかも」
「足りなかったらまだ茹でるから、言ってね」
「まだあんのかよ……どんだけ貰ったんだ…」
「そりゃもう大量に貰ったのよ。何でも佐藤さんの親戚に素麺を作る方がいるそうで」
「それだったら大量に貰うわな……まぁ、俺は素麺嫌いじゃないからいくらでも食うけど」
「私も素麺好きー!」
「はぁ……喉越しがいいわ……いくらでもいけそう…」
「ちゃんと噛んで食えよ」
「颯太、お父さんみたいなこと言うんだね」
「自覚してるから言わないでくれ…」
「ふふ、颯太くん完全に保護者目線だもんね」
どんどん食べる千草にそう忠告する颯太の姿がおかしく見えた詩織と香織はくすくすと笑い、颯太は素麺に箸を伸ばしながら肩を落とすのであった。
どうもまた太びです!
今回のお話は滉介とリーナが仙台へやってくるお話でした。これでユキナを除くギルドメンバーが全員宮城の仙台へ集結したことになりました。
多分次からキャンプ編に入っていくと思いますが、あくまで予定ですから(この文句を使ったのは何度目か)もしかしたら間に何かもう1話程度挟むかもしれません。
では、短いですがこの辺でドロン!
 




